表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の試験場  作者:
5/6

なんて事の無い依頼

―――聖都リレ

大陸の中央に存在する巨大な湖、マハトマの中心に築かれた白亜の都市。

かつてはエルフの王都として沈黙を保っていた都市は現在、シャング皇によって統治され様々な種族が住まう大陸一の都市として栄えている。


この都市のオススメは地下パブ『騒乱』である。

大通りから外れた路地裏にひっそりと存在する入り口から地下へ降りると、店の看板が来訪者を迎えてくれる(中略)女性より女性らしい店主が腕を振るう豪快かつ繊細な料理はどの種族の舌も満足させるだろう。

そしてこの店は夜間になると昼間とは全く違う様子に変貌する―――


(旅のガイドブック:聖都の歩き方)






夜でも活気のある大通りとは違い、路地裏は恐ろしいほどの沈黙に包まれている。

時折姿を見せるのは何処か戦慣れした風貌の人物ばかりであり、皆揃って同じ場所へと吸い込まれるように消えてゆく。


ほどなくして、二人の男が路地裏に姿を現した。


一人はローブを纏った赤茶の髪の陰欝そうなヒューマン。そしてもう一人は身軽な服装に幅が広く長さが短い剣二本を腰に提げた、黄色の髪の爽やかな印象のエルフ。

ヒューマンの方は背中を丸めながら気だるげに先導し、時たま歩みの遅いエルフを振り返る。

やがて二人も先に消えた者達と同じ場所へと進んで行く。

階段を降りた先、光と渦巻く風の描かれた小さな看板が付けられただけの扉を押し開けた。


「おう、らっしゃい」


入ってきた二人に気付き、カウンターの向こうに居た片目の男が声をかける。


「今晩は、マスター」


ヒューマンの男がぼそぼそとした小声で返事をし、エルフの方はにっこり笑って会釈する。


ギルド《羽虫の集い》


それが騒乱という店のもう一つの顔。

昼間はギルドマスターの友人がパブをやり、夜はギルドの面々が店に集い情報収集や依頼の受注を行う。

昼間でも依頼の受注は行っているし夜もパブは開いているのだが、何となく自然と区切りが出来ていた。

ギルドマスターが夜にしか顔を出さないせいもあるのだろう。


右目に縦一文字の切り傷を持った壮年の男、ギルドマスターのラグ=L=シーインはかつてこの国の皇直属騎士団の団長を勤めたほどの腕前の獣人だ。

それ故彼に憧れ多くの冒険者がギルドに所属を希望し集い、今や《羽虫の集い》はこの世界一の巨大ギルドとなっている。


ヒューマンの男、アレキシアはカウンター席に座ると酒を注文し、勢い良く煽った。

エルフの男アシュトンはアレキシアの行動に申し訳なさそうに眉を下げ、早々に依頼書が貼られた壁へ向かう。


「何だ、喧嘩か?」


ラグの言葉をアレキシアは鼻で笑い、サービスで出されたフルーツをフォークで突く。


「前の依頼、アシュトンがヘマして俺の杖(相棒)壊した」


その言葉に「だからご立腹か」と納得したように頷きラグは肩を竦めた。


「わざとじゃないんだろ?許してやれよ」


「俺の杖は高いんだ…」


杖が無くとも魔法は使えるが、杖の補正があると無いとでは精度も威力も変わってくる。何より魔法使いにとって杖はステータスだ。

不機嫌そうにコップのふちを噛みはじめたアレキシアに苦笑しながらコップを取り上げ、ラグは新しい酒を注いでやった。


申し訳なさそうな顔をしたまま依頼書を片手にアシュトンが戻ってくる。


「これで、良いですか、ね?」


おどおどと依頼書を差し出されたアレキシアは、紙を受け取り内容を確認するとラグにすぐ手渡した。


「お、何だ?

…地下水道の調査?」




――――――――――


依頼:地下水道の調査

依頼者:サニー清掃社


地下水道で最近、夕方近くになると生き物の鳴き声を聞いたり動く影を見たが、肝心の生き物の姿が見えないと報告が上がっている。

確認しに行っても生き物の姿は見えず、時たま這いずるような音がするため掃除人が怖がって地下水道に行きたがらない。

何がいるのか確認し、出来る事なら退治してもらいたいとの事。


――――――――――




「ふーん、まあアシュトンの武器なら地下水道でも振れるしちょうど良いんじゃね?」


そうラグは頷きながら依頼書に特殊な受領印を押し依頼を受理した。


「うい、受理完了したから明日の夕方にでも水門入り口に行ってくれや」


「了解」

「分かりました」


アレキシアは返された依頼書を懐に入れながら、アシュトンは小刻みに首を縦に振りながら了承の言葉を返した。

やり取りが終了したのと同時に別の者が依頼書片手にラグに話しかけ、アレキシアとアシュトンの二人も他のギルドメンバーに話し掛けられ軽口を返す。



それはあまりにも些細な物で、誰にも気付かれず見逃されていた。


彼ら二人が受けた依頼書の下に貼られていた新聞、その隅に書かれた小さな記事に。







『住民謎の失踪 まさか神隠し?』


近頃住民が謎の失踪を遂げているのをご存知だろうか?

消えた住民は皆、失踪する理由が無く、この状況に騎士団も首をかしげている。

地下水道の水門近くで行方知れずになっているという情報が多く寄せられており、今後さらなる調査を進めていきたいと思う。

(担当記者:ユリシス・キリアン)








*******人物紹介*******


名前:アレキシア・カルロス・ライマー

種族:ヒューマン

年齢:24才

身長:172cm

職業:魔法使い


赤茶色の髪に茶色の瞳、猫背気味で何時も目の下に薄く隈が出来ている。

喋り方がぼそぼそとしているため陰欝そうな印象を与えるが、話す内容は辛辣だったりポジティブ。

アシュトンとコンビを組んでいる。

エルフ並に魔力が高い。




名前:アシュトン=ハーネヴァー

種族:エルフ

年齢:113才

身長:184cm

職業:双剣士


黄色の髪にエメラルドグリーンの瞳、爽やかな好青年の印象を与える。

明るくハキハキとした喋り方だが話す内容がネガティブだったりする。

引っ込み思案なためアレキシアに引っ張られてようやく行動する事が多い。

エルフだが魔力が少ないため、剣の道を志した。




名前:ラグ=L=シーイン

種族:獣人(狼)

年齢:42才

身長:189cm

職業:『騒乱』の主人兼《羽虫の集い》のギルドマスター


黄緑色の髪に青い瞳、右目蓋の上に縦一文字の傷痕がある壮年の男。人型時は首の左側に炎の形の痣。

シャング皇直属騎士団“牙”の元団長であったが、任務で右目のを負傷し辞職。

パブ『騒乱』を友人と共同で開くと、その話を聞いて昔の知り合いや若い冒険者が集まり気付いたら大型ギルドになっていた。


ギルド名の由来はパブに集まるメンバーに対しラグが「羽虫みたいに集まんな」と言ったことから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ