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何か  作者: 茶夢
第一章
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始まりの町3

 第九話〈始まりの町3〉


 目の前にいるマーリエという女騎士の顔を見て、康介こうすけは、どうしたものかと思っていた。


『いや、まぁ、信じられないのは分かるけど、その駄々っ子を見るような顔はやめて欲しいな……』


 気持ちは分かる。

 康介だって自分がさんざん悩んで来た問題を、町でいきなり話しかけられた子供に「僕ならすぐに解決出来るよ!偉いだろうエヘン!」と言われたら、「おお凄い素晴らしい!」と思うより、「ああこの子は、残念な子供なんだなぁ」と思うことだろう。

 康介はキチンと礼儀をわきまえた言葉を使って話しかけたのだが、マーリエの頭の中では、そのような台詞に変換されている事は、目をみれば分かった。

 これも、この世界の住民からは若く見られる外見のせいだろうとは理解している康介だが、心の中で愚痴も言いたくなると言うものだ。


 訳のわからない事を言う子供にも笑顔を向けるマーリエは、おそらく性根が善良で優しいのだろう。


「そうね……あなたがこの町を心配する気持ちは分かるわ。でも、大丈夫よ。私が絶対に退治す……」


「いや、信用出来ないね」


「………っ!?」


 いきなり態度が変わった康介に、女騎士は宥める言葉を止め、傍にいた少年は一瞬にして怒気を膨らませた。


「いったい僕をいくつだと思っているんだ。もう17巡歳だよ。自分の先入観で必要な情報を得る機会を失うなんて、領主代理としてはお粗末過ぎる。失格だ」


 わざと傲岸不遜な口調で吐き捨てるように言った康介は、態度は平静そのものだったが、内心ヒヤヒヤしていた。

 傍の少年の怒気が殺気に変わってきたからだ。

 直感で危険だとなったら、すぐに土下座をする用意はあるし、万が一戦闘になっても、身体能力も技能で底上げされているので大抵の相手の攻撃なら避けられるはずだ。

 しかし、自分達が選んだ技能が、この世界にいる人間も使える可能性がある以上、たまたま相手が長谷一哉はせくらかずや並の速度の持ち主だったりする場合もある。

 その時は、康介は何も反応出来ないまま終わるだろう。


『う、「ハッタリポーカーフェイス」の技能を取ってて良かった。取ってなかったら、絶対震えが来てたなぁ……』


 仲間の中で、交渉役を引き受けるはずだった康介が、「いつでも冷静沈着に見える(見えるだけ)」と言う技能を選んでいたことに、内心感謝していると。


「……なるほど……テーバの殺気をぶつけられても、その落ち着き様。見誤ったようですね。失礼しました」


 謝罪を口にしたマーリエが、今までの子供に対する慈しみに満ちた表情ではなく、触れたものを切り落とすような鋭利な視線を康介に向けてきた。


「すると……本当に魔獣の居場所が分かるのですね?」


「嘘は言ってません。今すぐにでも見つけ出せます」


 康介も真面目に返す。


「ホントなら良いネ。嘘ついタラ、後でヒドイ目にあうヨー」


 マーリエの傍にいるテーバと呼ばれていた少年が、康介に向かい、自分の首筋をピタピタと叩きながらニヤッと笑って言った。


「テーバ、そのような真似はおよしなさいと言っているでしょう。確か、コースケと言いましたね。分かりました。あなたを信じましょう。すぐに騎士団を召集して、全員で向かいます……ただ一言だけ言っておきます。もし嘘だとしたら、騎士団全員から恨まれる訳ですからね。首はなくならないまでも、後悔することになりますよ」


 そう言って、正直に言うならこれが最後ラスト機会チャンスとばかりに康介の反応を待つマーリエに、康介は頷いて見せた。


「心配はご無用です。『冒険者』の名にかけて。敵を見つけ出して見せましょう」


「『冒険者』?……いえ、分かりました。では、このまま向かうとします。着いておいでなさい」


「冒険者」という聞き慣れない言葉に、一瞬眉根を寄せたマーリエだったが、すぐに些末な事と切り捨てたらしく、即座に康介に着いてくるように促してきた。


『取り敢えず、第一関門突破か』


 康介は、メランカの家の窓からこっそりこちらを伺っているであろう麻世まよに向かって、さりげなく左手を上げ合図すると、そのまま二人に着いて歩き出した。


 ◇----------◇----------◇----------◇


「こんな所に、洞窟があったなんてな……確かに匂うぜ、魔獣くせぇ」


 山頂から少し下った場所、森に覆い隠された斜面にポッカリと口を開けた洞窟。

 その入り口を覗き込んだ毛むくじゃらの大男が、鼻をヒクヒクさせながら唸った。


「あれだけ聞き込みして存在が分からなかったということは、町の者も誰も知らなかったんだろうね。この入り口は、昔の崖崩れでふさがっていたってとこかな」


 そう言うと、少女漫画に出て来そうなくらいキラキラしい騎士が、周囲を調べていた手を休め、康介に笑いかけて来た。


「どうやら、中から吹き飛ばして出て来てるっぽいねぇ。と言うことは、少なくともそれ相応の力を持った『何か』と言うことで……この場合は、間違いなく翼蛇だろうね。お手柄だよ、君」


 デサントランツのジルティス騎士団と名乗る筋肉騎士集団に囲まれた康介は、当然と言った顔をして見せているが、ようやく信用してもらえ安堵していた。

 翼蛇を直に見るまでは、信用されないのでは、と思い始めていたところだったからだ。


「ガシュバとテリナスがそう言うなら……ここで間違いないということだな」


 康介の後ろ、マーリエと並んだ青年騎士が、ようやく康介への敵意をおさめ、どこの塩沢さんですかな、やたらと良い声で呟いた。

 信用していない意味でも騎士団的にも、その代表が納得したことで、周囲の康介に対する警戒心や敵意と言ったものが軒並み薄れる。


「コースケ、疑って悪いことをいたしました。貴方に謝罪を」


 間違いだと分かるや直ちに、謝罪をしてくるマーリエという女騎士は、やっぱり性格が良いな、と康介は思う。


「いえ、気にしないで下さい。自分が幼く見えるというのも、いきなり信用しろと言っても難しいのも、分かっていますので」


 康介は、少々、情けなく思いながらマーリエに返した。もっともその内心の動きは、ハッタリポーカーフェイスのスキルで、表には出ないのだが。


「ならば、感謝を。お陰で助かりました」


 マーリエが、微笑んで礼を述べてきた。


「……はい。では、さっさと見つけ出して終わらせましょう」


 一瞬、笑顔に見惚れた康介は、少しの間をおいて頷き、洞窟に顔を向けた。


「いやいや。お前はここで終わりだよ。これからは、俺達に任せておけ」


 美少女の笑顔でやる気になった康介に水を差したのは、先ほど洞窟を覗き込んでいた、毛むくじゃらの大男ガシュバだった。


「いや、中がどうなっているか分からないのに、案内役を返しちゃうのはどうかなぁ?」


 それに対して、キラキラしい騎士テリナスが反対の意見を述べる。


「中は相当危険だぞ……訓練も受けてない町民を巻き込むのはなぁ」


 うーん、と腕を組んで唸るガシュバに向かって康介は、


「いや、僕は町民じゃないですよ。『冒険者』です」


「『冒険者』?聞いたことがないなぁ。どんなものなのかな」


 テリナスが、目を輝かせて尋ねてきた。


「説明は長くなりますから、後でさせて貰います。今はただ、『自分の身は自分で守れる』とだけ」


「ほう……言うじゃないか。分かった。案内役を頼もう。ガシュバもいいな」


「はぁ、分かりました」


 康介の後ろから、青年騎士が毛筋ほどの笑いを含んだ声で告げると、ガシュバも仕方無しといった感じで頷いた。


「よし、行くぞ。各人、警戒はおこたるな。テリナス、灯りを頼む」


「了解です。【我は願う!星光よあれ】」


 テリナスが、魔法で灯りを灯す。同時に、何人かの騎士が、松明に火を付け始めた。


 ◇----------◇----------◇----------◇


 メランカの家に残された麻世は、窓から外を覗いて溜息をついた。


『コウさん……大丈夫でしょうか』


 能力を強化されている康介は、けして弱いわけではない。特に予知と言っても良いほどの危険察知能力を持つ康介は、大抵の危険については、避けることが出来ると思っても良いだろう。


 しかし、今回は騎士団が出張るほどの魔獣が相手なのだ。現代で例えれば、警察レベルではなく、軍隊レベルの事態だと言うことだ。


『いくらコウさんの危険察知能力が凄いと言っても、逃げられないような攻撃をされたら……』


 頭の良い麻世は、康介の能力の限界もしっかり理解していた。例えば、爆弾が落とされるとしよう。それが、数メートルの範囲を巻き込む程度であれば逃げることが可能でも、数十キロの範囲全てを吹き飛ばすようなものともなれば、直前に閃いたくらいでは、逃げることは不可能なのだ。

 あるいは、それよりももっと単純に、康介が物理的に対応できない速度の攻撃は避けられない。分かっていても避けられないということになる。


『……今なら、まだ間に合います……ね』

 康介が消えて行った方向を見つめた麻世は、強い光を目に宿して頷いた。

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