表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/63

風の通り道


朝は遅れて明るくなった。


雲は薄いまま流れ、光は均一に町へ落ちている。

晴れでも曇りでもない、境目のような空だった。


騎士は長屋の外に立っていた。


理由は自分でも分からない。


だが――祓い損ねた気配だけは、身体が覚えていた。


昨日、少年が戻ったあとからだ。


何かが終わったはずなのに、終わっていない気配があった。


風が違う。


弱いわけではない。

止んでいるわけでもない。


だが、流れ方が不自然だった。


彼は空き地へ向かった。


坂を上る途中、足を止める。


風が抜けない。


山から吹き下ろすはずの空気が、途中でほどけている。


まるで進む先を失っているようだった。


空き地が見える。


中央に、彼女が立っていた。


動いていない。


剣に手をかけかけて、騎士は止まる。


戦う気配がない。

敵もいない。


それでも空気は張りつめていた。


彼は気づく。


――影だ。


だが、今まで知っている影とは違う。


濃くない。

重くもない。


ただ、流れが滞っている。


彼女は目を閉じていた。


何もしていない。


祈りも、術も、構えもない。


ただ立っている。


風が、彼女の手前で逸れる。


騎士は息を止めた。


影は通常、人を閉じ込める。


だが今、閉じ込められているのは空気そのものだった。


時間がゆっくりになる。


草がわずかに揺れる。


そして――


細い風が通った。


ほんの一筋。


閉じていた場所を見つけたように。


次の瞬間、空気がほどけた。


鳥の声が戻る。

遠くの車輪の音。

町の朝が流れ込む。


彼女は目を開けた。


何事もなかったように。


騎士だけが動けなかった。


理解が追いつかない。


斬っていない。

断っていない。


なのに、影が退いている。


彼は初めて思った。


自分たちがしてきたことは――


本当に、唯一の方法だったのか。


彼女がこちらに気づき、軽く首を傾げた。


「……どうしたの?」


いつも通りの声。


騎士は答えられなかった。


ただ一つだけ、確かだった。


風は、彼女を避けなかった。


むしろ――


彼女のそばを通ろうとしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ