寝てたよね?
朝の光は静かだった。
草の先に露が残り、風がそれを揺らしている。
火は灰になっていた。
騎士はすでに目を覚ましていた。
いや――目が覚めてしまった。
眠っていたことを思い出した瞬間から、落ち着かない。
見張りのまま眠るなど、本来あり得ない。
周囲を確認する。
異常なし。
影の気配なし。
それでも胸の奥が妙にざわついていた。
背後で衣擦れの音。
「……んー」
彼女が起き上がる。
伸びをして、空を見上げる。
「いい天気」
騎士は何も言わない。
彼女がこちらを見る。
数秒、じっと観察して。
にやっと笑った。
「……寝てたよね?」
「寝ていない」
即答。
「目を閉じていただけだ」
「いや完全に寝てた」
間を置かず返す。
騎士が眉を寄せる。
「断言するな」
彼女は笑いながら荷をまとめ始める。
「しかもさ」
少し声の調子が変わる。
「いびき、かいてた」
騎士の動きが止まった。
「……かいていない」
「かいてたって」
さらっと言う。
「小さいけど。ぐーって」
彼は完全に黙る。
反論を探している顔。
彼女は続ける。
「あとね」
少しだけ真面目な声になる。
「途中、呼吸止まったみたいになって」
騎士が顔を上げる。
「止まった?」
「うん。静かすぎて」
手振りで間を示す。
「結構長くてさ、ちょっとドキドキした」
軽く言ったが、本当に心配した響きが混じっていた。
風が通り抜ける。
騎士は視線を逸らす。
そんなふうに眠っていた自覚はない。
彼女は肩をすくめる。
「でも、そのあと普通に寝息戻ったから安心した」
少し笑う。
「死んだかと思ったよ、騎士」
「死なん」
即答だった。
だが声は少し低い。
彼女はくすっと笑う。
「よかった」
それだけ言う。
責めない。
からかわない。
ただ事実として置く。
沈黙。
騎士は小さく息を吐いた。
「……警戒が足りなかった」
ぽつりと言う。
彼女は首を振る。
「違うよ」
振り返らず答える。
「安心してたんだよ」
風が草を揺らす。
騎士は否定しなかった。
できなかった。
二人は荷を背負い、歩き出す。
朝の風が背中を押す。
昨日より、少しだけ近い距離で。




