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騎士の戦い
騎士は踏み込んだ。
剣が風を裂く。
一閃。
影は真っ二つに割れる。
だが次の瞬間。
分かれた影が増える。
地面から、壁から、人影から。
同じ形が次々と立ち上がる。
「……増えている」
騎士の眉がわずかに動く。
再び斬る。
鋭い軌跡。
空気が震える。
しかし。
斬られた場所から声が溢れた。
泣き声。
呼び声。
笑い声。
止まった時間が弾ける。
騎士の動きが速くなる。
斬る。
断つ。
払う。
だが影は消えない。
むしろ濃くなる。
呼吸が荒くなる。
彼の視界の端に、別の景色が混ざる。
古い部屋。
揺れないカーテン。
小さな背中。
「……違う」
剣を振るう。
だが目の前の影が、その姿に重なる。
動かない誰か。
呼んでも立ち上がらなかった誰か。
心臓が強く打つ。
――遅かった。
記憶が現在へ侵入する。
剣がわずかに震えた。
影が迫る。
彼はさらに踏み込む。
「同じにはさせない!」
叫びに近い声だった。
だが斬撃は空を切る。
影は崩れない。
ただ増え続ける。
その中心で。
彼女が膝をついた。




