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処女作です、ぜひ読んでください。
岩手県と宮城県の境にある大きな大学病院。そこで働く、噂好きのナースらの話題は専一つに埋め尽くされていた。
「ねぇ、特別患者の話聞いた?」
「聞いた聞いた!処女受胎とかなんとかってやつでしょ?」
「それそれ!院長から緘口令でるらしいよ」
「やっぱりそうなんだ。噂だと有力議員の隠し子だとかなんとか!」
「えぇ⁉だれだろ」
好き好きに口を開くナース達であったが、誰一人として処女受胎についてを信じている者はいなかった。
それはそうだろう。当の本人ですら信じられなかったのだから。
この大学病院にある特別病棟。症状が特別な患者が入る病棟というより、権力者や多大な金を所有する患者のために用意された、機密性の高い「特別扱いするための病棟」。
そんな一室に、いたって普通の家庭の出である彼女は入院していた。
「伊在衣さん、体調は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
主治医である大ベテランの医者に笑顔で返答する伊在衣新。そのお腹はぽっこりと膨らんでおり、出産間近であることが伺えた。
「性交せず妊娠したのは世界的に見ても初めての例です」
「………はい」
新は彼氏を作ったことすらないのにも関わらず、妊娠が発覚した。突然のことであった。
始め、病院側は世迷言と考え、聞く耳を持たなかったが、検査の結果、未経験であることが分かり大きな問題となった。
この件はすぐに広まり、日本だけでなく海外も巻き込むこととなった。そこで、権威のある医者や科学者を日本に連れ、精密な検査や調査をするはずだったのだが、突如白紙となり、この話題を持ち出す医療関係者がどんどん減っていった。
主治医は他所の病院の友人に、それとなく尋ねたものの、そんなことは知らないと笑いながら言っていた。
このことに、主治医は強い違和感を感じていたが、深い闇の香りを察し、極めて平常に対応していた。本来は産科の医師が対応するにも関わらず、専攻を問わずチームで当たっていることが、そもおかしいことではあるのだが。
「極めて特異な事態ではありますが、妊娠の経過としては順調です。本日中にも陣痛があるかと思います」
「分かりました。母と父が来るのですが、予定通り立ち会えそうですか?」
「そのことなのですが、不足の事態に備え、設備が整ったオペ室で出産をすることになりました。ですので、ガラス越しになってしまいますが、宜しいでしょうか?」
「はい、父と母に連絡しておきます」
新の両親は良き理解者であった。
本来ではあり得ない妊娠に驚愕し、共に苦悩していたが、本人の意思を尊重し、なにが起こるか分からない妊娠に全面的な協力をしていた。
何が産まれてくるか分からない中、日々付き添い、サポートしていく過程で、ヒトとして成長していく孫に愛情を持ち、現在は誰よりも出産を待ち望んでいた。
そんな姿を見ていた主治医は、出産になんとしても立ち会ってもらいたいと強く感じていた。故に、特別な対応をすることを心に決めていたのだ。
「それでは失礼します。なにかあったらすぐに呼んでください」
「ありがとうございます」
個室から主治医が立ち去る。
それから間もなく、新に陣痛が起こった。
──────
「うーうー!」
酷く痛む中、必死に子どもを産もうと力む新。
そんな我が子の姿を見ていた伊在衣頼子は気が気でなかった。
「宗隆さん、大丈夫かしら……!」
「……」
寡黙な中年男性───伊在衣宗隆は頼子の手を強く握りしめ、食い入るように見つめる。
オペ室の医者たちは落ち着いており、出産は順調であった。
「頭見えてきましたよー‼」
「⁉うわぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁ嗚呼あああああああああああああああああああああ‼」
赤ん坊が取り出されようとするその刹那、尋常じゃ無いほど新が悶える。
その声は、喘鳴ではなく絶叫であり、明かな異常事態であった。
「どうしました⁉」
順調そのものだったにも関わらずの突如の異変に、だが医者は平常を保ち、冷静に新に状態を尋ねる。
「あぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ‼」
しかし医師の声が聞こえていないようで、新は目を見開き叫び続ける。
医師たちは急いで子どもを出さないとまずいと考え、慎重かつ迅速に子どもを取り出す。
速やかに、丁寧に、一切のミスなく赤ん坊が降りてくる。
「あああぁぁあ…………────────」
赤ん坊を出し切る前に声が止まる。
それに合わせて、無機質に鳴り響いていた、バイタルを示す電子音のリズムが消える。
赤ん坊は取り出された。
「ひっ…………」
頼子の口から音がわずかに漏れる。
蝶よ花よと育ててきた大事な我が娘は死んでいた。
我が娘が大切にしていた、赤ん坊が殺した。
「ば、化け物」
頼子はあまりの事態に耐えることが出来ず、意識を失う。
重心が悪かったのだろうか、重力のなすがまま、彼女の後頭部が床に激しくぶつかる。
「⁉大丈夫か‼」
宗隆は慌てて頼子に駆け寄る。頼子の後頭部からは血が流れており、軽傷でないことは明らかだった。
「誰か、誰かっ」
宗隆が声を挙げるが、医者やナースは誰一人動かない。
赤ん坊から目が離せない。
根拠はない。明らかに科学的ではない。異常で、衝撃的で、ありえない。しかし、ここに居た者すべてが同じ確信に満ちていた。
「あの子が、殺したのか…………?」
宗隆はつい口に出していた。
赤ん坊が母体からでた瞬間、新は苦しんでいた。それはまるで、これから生まれてくる命の強大さに我が身が押しつぶされているようであった。
普通ならあり得ない。しかし、あまりの赤ん坊の神々しさに誰もがそう思った───そう確信した。
「おぎゃぁ、おぎゃぁ、おぎゃぁ」
赤ん坊が産声を上げる。いたって普通の、赤ん坊の産声であった。
止まっていた医者たちは、この声に急かされるように動き始める。
「だ、大丈夫ですか⁉」
頼子に気が付いたナースが手当てを始め、声をあげながら医者を呼ぶ。
「よ、頼子を頼む」
この間も、宗隆の目は赤ん坊に吸い寄せられていた。
宗隆は無意識のうちに嗤っていた。その顔は悪魔のようだった。
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