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青炎紀  作者: 二十二郎
〈2〉破魔之役:金剛の従者
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13 西ノ魔宮

翌日、出発前の朝餉を食べてすぐに、アールン、メウナ、イーセンの三人はナーレンダムを出発し、南東にあるヘローラムの街の廃墟の西の郊外にあるという件の”魔宮”に向かった。


むわっとした夏の大気の中をひたすらに東へ進んでいくと、はるか先に巨大な地割れが見えてきた。


「あの割れ目の下が、”ネイ=ウーグファヤル(西ノ魔宮)”の入口。」


イーセンが、地割れの方を指してそう言った。


「今回の依頼は、あの中に入って”魔除けの宝具”なるものを回収すること。」

「魔宮の中は、複数の部屋が地下通路で連結している構造らしいよ。”先達”が第三の部屋までは到達済みだけど、その部屋に巣食ってる魔物に敗走しちゃって、それ以降は未知のままなの。」と、メウナが初見のアールン向けに補足した。


「へえ…でも、目当ての宝具は存在が分かってるってことは、未知の領域に踏み込まずとも獲得可能ってことか?」

「多分…でも、そんなものがあるなんて話、聞いたことないけど。」

「そうなのか…?」

「そういうのも含めて、探せってことなんじゃねえの?」

「ま、そんな所だろうね。皆、準備万端?」

「俺はいつでも大丈夫だぜ!」


メウナの呼びかけに、イーセンはぐっと手を握って威勢よく答えた。


「俺も、万端だ。」


そう言って、アールンは真新しい片手剣を抜き、その場で軽く素振りをした。

これはナーレンダムにて、メウナの口利きで買った代物なので、もう彼女には足を向けて寝れない彼であった。


「それ、ぴったりみたいだね。よかったよ。個人的には”聖剣”も見てみたかったけど。」

「それは…勘弁してくれ。」

「”聖剣”?」


事情を知らないイーセンに、彼は懐から青黒い剣の柄を出して事のあらましを説明した。


「すっげえ…!体の霊気を吸い取って刃にする剣か…。」

「実のところ、ただの使いにくい剣だけどな。戦闘中にいちいち体が火照ってビクつくんだぞ。」

「いや、それでも羨ましい。よし!!俺もこの魔宮で何かでっかいお宝見つけるぞ!!」

「あんまり先走っちゃ駄目だよ~。じゃ、行こうか!」


そして、三人は魔宮の入口のある地割れの底に下りて行った。






魔宮の「入口」とは、地割れの側面に顔を出した外壁の崩落部分であった。

垂れ下がったツタをかき分けて薄暗い内部に侵入したアールンは、ちゃぷんという音と共に足元にひんやりとした水気を感じた。


「おわっ…水浸しなのか。」

「滑らないように気を付けないとね。」

「ふむ…。」


彼は辺りを見回したが、入口近くこそ外光によって多少の視界が確保されてはいるものの、少し進めば忽ちに闇に包まれて何も見えなくなってしまっている。


(これ、一応持ってきといて良かったな。)


アールンは”ハリージェ”の中から小さな霊気懐中灯を取り出し、起動。

辺りを照らしてみると、この場所は天井が高く、入口から向かって右方向に奥行きを持った空間であることが分かった。


「わ、それ便利だね。」

「こういう暗い場所の探索ならな。でも、あんまりやると魔物を引き寄せそうだから、注意しないと…待て、何だこの音?」


そこで、彼は今までにないパシャッ…パシャッパシャッという、まるで水たまりを渡る馬の立てる足音のような音に気付き、咄嗟に剣を抜いた。


この場所に、野生馬が居るというのは想像しにくい。となれば馬、少なくとも”蹄”を持つ魔物か。

馬型の魔物というと、まず思い当たるのは”ディアネタック(人面馬)”だ。

しかし、人面馬は足回りに限ればきちんとした「馬」なので、その足音も馬のそれによく似ている。だが、この蹄音はそれにしては不規則すぎるのだ。


メウナ達も息を殺して周囲を警戒していると、やがて霊気灯の照らす方から異様な姿の小さな魔物がぴょんぴょんと跳ねて現れた。


それは、上が膝関節ほど、下はくるぶしまでしかない「人の足」であり、底部だけが馬の蹄となっているような見た目であった。頂部には牙の生えた顔があり、人面馬を彷彿とさせるような不気味な笑みを浮かべていた。


『ギョオオオオオオオッ!!!!!』


魔物はアールン達を捕捉すると、飛び掛かるのではなくその場で叫び声を上げた。

その目的は、明らかであった。


「マズい、仲間を呼ばれる!!!これ頼んだッ!!」


アールンは近場にいたイーセンに懐中灯を投げ、叫ぶ”足”に肉薄。しかし、”足”もその動きにはしっかりと意識していたようで、彼が飛び掛かる寸前、前方に高く跳ねた。


「お見通しだ…!」


アールンは足を踏ん張り急停止して剣を立て、上に突き上げた。”足”はそれに刺し貫かれて苦悶の声を上げ、その死骸は音を立てて水たまりに落下した。


「はっ…はっ…こいつ何なんだ…?」

「人面馬ならぬ…”ディアネーフ(人面足)”とか?」

「単体ならそこまでの脅威じゃなさそうだけど、数が居たら面倒臭そ――。」


そこで、霊気灯で周囲を照らし出していたイーセンの言葉が途切れた。

彼が照らす方には、無数の”人面足”が立っていた。




「走れ走れ走れーッ!!!」

「クッ…!!」


人面足の包囲を強行突破し、跳ね飛びながら追い来るそれらに各自剣を振るって対処しながら、三人は這う這うの体で第一の大部屋に滑り込んだ。


アールンは部屋に入るとすぐに反転して部屋の入り口である引き戸の大扉を閉じ切り、外の魔物たちを出来る限り締め出した。

僅かに漏れ入ってきた人面足を斬り伏せた後、三人はドンドンと叩かれる大扉を尻目にその場にへたり込んだ。


「はあっ…はあっ…。」

「うう…痛って…。」

「イーセン大丈夫?怪我してない?」


メウナが心配そうにイーセンへ声を掛ける。

少年は左肩を抑え、荒い息を発していた。


「ちょっとな…。不甲斐ねえ…。」

「はいこれ、ちょっと汚くなっちゃったけど。」

「うっす…うう…。」


メウナに渡された若干黒ずんだ麻の包帯を、これでもかと患部に巻き付け止血し、少年は立ち上がった。

その様子に頷きつつ、アールンは周囲を見回した。


「それで、ここが幾つかある”部屋”のうちの一つってことか?」

「そうだね。既に制圧済みの”第一の部屋”だと思う。」

「なら、探し物の時間だな。」


そう言って、アールンは”左手”から二本の霊気灯を出した。


「これ、予備の霊気灯。役立ててくれ。」

「え、いいの?でも霊気残量とか大丈夫なの?」

「替えの蓄霊器も()()()に結構あるから、遠慮せず使っていいぞ。」

「ひええ…相変わらず、とんでもない性能だね。」


三人は霊気灯で闇に包まれた部屋の床や壁を照らし出しながら、内部を調べて回った。


「おお?何だこれ。」


アールンが探索していた部屋の一角には、数多の小さな石棺が散乱していた。

その一つの蓋を慎重に開けてみると、その中には無数の”円盤”が入っていた。円盤は土製であるようで、表面には複雑な凹凸の紋様が刻み込まれていた。


「これが例の”宝具”か…?」


確かに、魔除けのお守りと言われても納得はできる。尤もこんなもので魔物を退散させられるとも思えないが。

彼は円盤を三枚持ち出し、メウナとイーセンに見せに行った。


「それ、どこにあったの?」

「向こうに散らかってた箱の中だ。」

「そっか…ちょっとこっち来てくれない?」


二人に連れられて行った先には、複数のレバーやボタン、そして中心に細長い穴が備わった”操作盤”があった。


「この穴、その円盤がピッタリ入りそうじゃない?」

「確かに。」


物は試し、どうせ向こうに「予備」は腐るほどあるのだ。アールンが穴に円盤を落としてみると、ブォンという音と共に傍のボタンの一つが赤く光った。


「こいつを押せってことか…?」


警戒しつつゆっくりそれを押すと、壁裏から地響きや歯車か何かが回るガラガラという音、その他様々な駆動音が鳴り響いたのち、暫しの静寂を挟んで、このような幼女を思わせる高い声色の音声が響き渡った。


『魔導基盤を確認しました!第二工房にお進みください!』


「喋ったァ!?」と、イーセンが思わず叫んだ。

「しかも、ちゃんとしたサンダ語…!」


メウナも別視点から驚きの声を上げた。

見かけはどちらも同じような古の遺跡らしいのに、”護国の剣”の置所で流れていた謎の言語とは違い、ここの音声ははっきりとわかる現代サンダ語であるのだ。


「第二工房に進め…次の部屋ってことか?ちなみにもう一枚入れてみたら…。」

『魔導基盤を確認しました!待機:2。第二工房にお進みください!』


「もうここで出来ることはなさそうか。」

「そうっぽいね。先に進もうか。」




”第一の部屋”の奥にあった、入口と同様の大きな引き戸を開けると、その先には欄干のない石造りの一本橋が続いていた。

下は見えない。足を踏み外せば一巻の終わりだろう。


「うわっ…。」


前を歩いていたイーセンがふと自身の霊気灯を右の方に向けると、暗闇の中に幾つもの棘の付いた球体がぼうっと現れた。

棘球の上部には、そこから天井まで繋がっている鎖が弛んでいるのが薄っすらと見えた。


「あれ、まさかこっちに飛んできたりしないだろうな…。」

「え?」

「ほら、振り子みたいに、上に鎖あるだろ…。」

「ちょっと、変なこと言うんじゃねえよ…!」


アールンの抱いた不吉な考えに、イーセンは肩を震わせた。

しかし、罠かと思われた棘球の群れは、三人が橋を渡り切るまでついぞ動くことはなく、彼らは少し拍子抜けした気持ちのままに、”第二工房”へと入っていった。




第二工房で発見された筒状の土器を円環状の挿入口に入れると、再び先の底抜けに明るい音声が流れた。


『殻筒を確認しました!第三工房へお進みください!注意:完成予定数1。余剰魔導円盤1。』


「余剰…なるほど、さっき二つ入れたから、ここでも二つ入れないと駄目って事か。」

「何か普通の工場みてえだな…。」

「ここまでは先達の到達範囲内だから、次の”第三工房”に、おそらくとんでもない強さの魔物が居る…はず。」

「よし、注意して進むぞ。」





第二工房の先は、数多の分岐を持つ迷路のような地下通路であった。


もしかすると、”第三工房”まで行かずとも、この区域で件の”宝具”が見つかるかもしれないと踏んでいたアールン達三人であったが、体感時間にして一時ほど暗闇の中を彷徨ってみても目立った成果は挙げられず、発見といえばエーダの地下施設でも見つかった「紋様付きの石箱」位であった。


「薄々分かってはいたけど、やっぱり”宝具”って…。」

「うん。多分今作ってる”あれ”だよね…。」


メウナも頷き、気落ちしたように言った。


「ということは…やっぱりここを踏破しねえと駄目なのかよォー!!!」


アールンは頭を抱えた。

半ばヤケクソになって安請け合いしてしまったことを、彼は今更になって若干後悔し始めた。


「というか、そんなものを御所望の”依頼人”ってまあまあ怪しくないか!?何で地下魔宮の未踏破区域にあるお宝の存在知ってんだよ。」

「言われてみれば…。でも、今は取り敢えず進むしかないよ。」



暗闇の先に、白く塗られた大扉が浮かび上がった。

扉の入り口には、先にここにいた者が残したであろう黒ずんだ血痕が残っていて、扉の先の脅威を雄弁に語っていた。


扉の前の地面には、どういうわけか薄っすらと砂が積もっていた。


「よし…この先だな。戦闘用意。」

「言われなくても…!」

「私も、いつでも行けるよ。」


イーセンとメウナの返答を確認したのち、アールンは引き戸の取っ手に力を込めて、少し引いた。


「…!」


中を覗いてみると、そこには腰ほどまでの高さの「砂山」があった。

その山の頂上にある火口のような窪みの中で、一匹の犬がいびきをかいていた。


「ワンちゃん…?」


メウナもアールンの下から部屋の中を覗き込み、小声でつぶやいた。


「いや、よく見てみろ。あいつの体から赤い光線が伸びてるだろ。」

「本当だ。天井に向かって…。」


彼は、あのような”魔物”を知っていた。嘗てヤイダ要塞にてソーラやヴェラード率いる部隊が交戦したという、”守将”である。


「恐らく、あいつを倒さないとこの先には進めない。例の”先達”は、何か奴に関する情報は持って帰ってないのか?」

「う~ん、あるにはあると思うけど、誰もあまり語りたがらなかったらしい。ただ一つ口を揃えて言ってたってのが、『背中に気をつけろ。』だって。」


イーセンが首をかしげながら、小声でそう言った。


「そうか…仕方ない。俺があいつの注意を引くから、あんたらは行動を把握しつつ遊撃を頼む。」

「…分かった。でも無理はしないでね。」


三人は頷きあい、足を忍ばせて部屋の中に入っていった。扉はいつでも退避できるように開けっ放しにしておく。


砂山の上の”犬”にあと一歩のところまで近づいたとき、突然部屋の壁面燭台に、ひとりでに火がともりだし、部屋の中は橙色の光に包まれた。


「…?」と、犬が赤く光る眼を眠たそうに押し広げ、体を起こした。

「ッ!」


こいつはヤバい。アールンは直感に従って剣を構え、寝起きの”犬”に突撃した。

しかし、その刃が犬の元までたどり着くことはなかった。


「ぐわっ!?」

「アールン!!!」


目の前の砂が突然ぐわっと持ち上がり、彼の行く手を塞いだ。その場に尻餅をついた彼の頭上で、砂壁は四方八方に枝分かれして伸び、忽ち砂の渦を形成した。


「ゴホッ、ゴホッ。」


目鼻口に砂塵が舞い込んだために、三人は涙目になって咽こむ。極度に悪化した視界の中で、アールンは背後で引き戸が閉まるゴリゴリという音がしたことに気が付いた。


(退路を塞がれた…!)


しかし、次なる一手を考える間もなく砂嵐は晴れ、その先には、砂に包まれてもとの何十倍もの大きさとなった”魔犬”が悠然と姿を現した。


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