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青炎紀  作者: 二十二郎
〈2〉破魔之役:金剛の従者
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7 聖剣の置所

砂埃を振り落としながら開ききった金属扉の先には、長く暗い隧道(トンネル)が続いていた。


「じゃあ、付いてきて。」


それをしかと見届けた後、少年はアールン達に向き直ってそう言い、入口に向かって歩き出した。


少年に続いてアールン、ソーラ、メウナが順に門をくぐったが、その後ろから着いてこようとしたアルアータは、突然その場に出現した青白と赤の混ざったような靄の壁に阻まれ、額を強打してもんどりうって倒れてしまった。


「アルアータッ!?ッお前!!」


見れば、少年が開いた右手を靄の壁に向けている。この壁の出現はこいつの仕業か。


「あ、君は来ないでね。」

「なッ何故ですか!?クッ!!」


アルアータは即座に”貫通”を発動させ、靄の壁を破ろうと刃を振るった。しかし、靄の壁は彼女の青白い光の斬撃を受けても依然として健在であった。


「この壁は、君のそれじゃ破れないよ。大丈夫、この中にいる限りこの人たちの安全は保証されてるから、一旦落ち着こうか。」


背格好はアルアータとそこまで変わらないのに、少年の言葉にはどこか年配者の諭すような威厳があった。そもそも、彼が普通の人間である可能性の方が低いだろうが。


「しょうがない。あんたはそこで後背を守っててくれ。」

「…分かりました。」


しぶしぶといった風にアルアータが引き下がると、門は再び音を立てて閉じ始めた。

内側では複数の金属の閂が張り出してきて複雑に絡み合い、錆びた金属の門扉を固く閉ざした。これでは外から開けられないわけだ。


「!?」


突然、彼らは白い光に照らされた。

カッカッカッカと、隧道の天井近くに設置された照明が手前から順に灯っていく。

その様子は、まるで道案内をしているかのようだった。


「この光は…霊気灯?こんなに沢山…。」

「ここ、本当に建国の昔からあった場所なのか…?」


ソーラの呟きに、アールンは純粋な疑問を呈した。サンダ建国は、もう600年以上昔の話だ。霊力技術が発展したのもここ百年の間なのに、この”神殿”の設備は明らかに時代を先取りしすぎている気がした。


3人の前に居た少年はぱっと振り返った。


「君たちは、ここでこれから”護国の剣”以外にもいろいろな物を見聞きすると思うけど、それらのことは決して口外しないでほしいな。記録も禁止ね。いいかい?」

「…分かりました。」とソーラ。

「分かった。」とアールン。

「りょ…了解。」とメウナ。


「それから、僕のことは”ノルン”って呼んでくれればいいよ。」


金の髪の少年、ノルンはそう言って、隧道を歩き出した。





『This is Unified Terran Regeneration Committee. This facility is level 6 top-secret installation. All personnel and visitors are bound by nondisclosure obligation regarding all matters related to “Project Salvation Stone”. Any violation will be subjected to extrajudicial termination. Repeat, this is Unified…』


「うるせェーーー!!!」


繰り返される呪文のような謎の言語の音声に、アールンは辟易して思わず虚空に叫び、その声は隧道中にこだました。


「さっきから、何を言ってるんでしょうね。」

「んー、外部には喋るなよって意味だよ。」


ソーラの疑問の呟きに、前を歩いていたノルンがちらりと振り返りつつ答えた。


「ホントかよ…。」

「嘘は言わないよ~。」



隧道を暫く進んでいくと、空間は少し広がり、錆びた鉄板を並べて壁としたような、仮設と思しき関所のようなものが現れた。


「関所」の前には、ずんぐりむっくりの巨大な何かが鎮座していた。

その下部には金属板を沢山連ねたような布状の何かが巻かれた複数の車輪が付き、上部からは一対の砲門らしきものが、双角のように左右から前方に向かって突き出していた。


「これは…戦闘艇!?」ソーラはそれを見て、驚きに叫んだ。

「いや…砲門っぽいのは二つあるし、足元も結構違う。何だこれ…。」

「始祖様の時代にあったものなのかな…。動きそう?」

「いや…この寂れ具合じゃ、無理だろうな。ラディン辺りに見せたら腰を抜かしそうだ。」


「気は済んだかい?まだまだ道は長いよ。」


ノルンは変わらず微笑みながら、彼らが暫定的に”戦車”―下部の車輪に因る―と呼ぶことにしたそれを観察するアールン達3人を眺めつつ、そう声をかけた。


関所の先には、再び頑丈そうな隔壁扉があった。


「ふんふん。」


ノルンが鼻歌交じりに巨大な扉脇の操作盤をいじると、入口で聞いたような警報音と共に扉が開き、その先は展望台のような狭い方形の足場であった。


全員が入り終わると、ガシャーンという音と共に背後で黄色い鉄柵が勢いよく閉まった。


「おいおい、大丈夫なんだよな…。って、わっ!?」

「ぎゃっ!!」


アールンが言い終わらぬ内に、足場がズシンと揺れ、斜め下方向に下降を始めた。


「これは…斜行昇降機!?」


思わず尻もちをついた彼とメウナをよそに、賢明にも近場の手すりに掴まっていたソーラは足場の下を覗き込んで、驚愕の声を上げた。


「何だって?あんた知ってるのか?」

「似たようなものが、ハニスカの鉱山で使われていると聞いたことが。しかし、あれは地上の露天掘り鉱山の話であって、こんな地下深くに造られているものは…。」

「一体何なんだ、ここ…。」


下降する昇降機の地べたに座り、アールンは顎に手を当てて考え込んだ。


「ここ…ひょっとすると、始祖様の時代よりももっと昔の遺跡なんじゃないかな。」

「更に、昔?」


メウナは頷いて、昇降機に付いた照明が発する橙色の光を反射して淡く輝く、大小さまざまの管が這い回る隧道の壁を見まわした。


「そう、その…突拍子もない話だけど、古代の超文明の遺跡とか。聖剣も、その人たちの産物なんじゃないかな…って。」

「成程…おい、どうなんだ。あんた何か知らないのか?」


この場で最もこの場所を知っていそうなノルンに話を向けてみたが、金髪の少年は首を傾げて「さあ、どうだろうね?」と話をはぐらかすばかりであった。


しかしその仮説は、昇降機が隧道を抜けた時、彼らの中で確信に近いものに変化した。

そこは、巨大な地下空間であった。

隧道の壁と同じような材質の巨大な柱に支えられた空間の各所には、赤や白、青の無機質な光が灯り、その中心には遥か上方から吊り下げられた巨大な照明に照らされる、”祭壇”のような場所があった。


空気はひんやりとしている。


「さあ、あの上にあるのが”護国の剣”だよ。」


最下部まで降り切った昇降機から出て、彼らはノルンに連れられて祭壇の上まで上った。


そこには”剣”の形の金型のような窪みを囲むように、四つの小さな楕円形の窪みが四方に象られていた。

剣の金型の”柄”に当たる部分には、”剣の柄”だけが嵌っていた。


「これが、”護国の剣”…?柄しかないが。」


それを覗き込み、アールンは訝しげに言った。


「ふーむ、百聞は一見に如かず、か。ねえ、その腕のモノを、ここに嵌めてみて?」


ノルンはソーラの右手首を指さし、次いで剣の金型の刃先から向かって左隣の小さな窪みを指さしてそう言った。


「…”紅玉の霊石”をですか?」

「うん、それを、ここに。」

「分かりました…。」


ソーラは腕輪から赤く輝く霊石を外し、ノルンに指定された窪みにそっと嵌めた。


その窪みの下には、”SSR-KOTHAL” という文字列が記されていた。


それを確認するや、ノルンは剣の金型の一角を撫で、そこに紫色に淡く光る操作盤を出現させた。


またも鼻歌を歌いながらそれを暫しいじると、ビーッという音に続いて祭壇がこんな”声”を発した。


『Warning:Essential item isn’t inserted. Missing:”SSL-ANAT”』


「ふん。」


それを意にも介さないようにノルンが操作盤のボタンの一つを押すと、紅玉の霊石が光に包まれた。


「何だ…?」


息をのんで見守るアールン達三人の視線の先で、霊石を包んだ光は鋳型に溶鉄が流れ込むかの如く”金型”に流れ込み、金型を半分ほど満たした。


しかし、光はそこで微細な振動を発した後、パーンと破裂、霧散してしまった。


「ちょっ、どうなってんだよ…。」

「失敗した…?」


メウナの言葉に、ノルンは鋭いね、と頷いた。


「じゃ、君…その”柄”を”鋳型”から取ってくれるかい?」


アールンは言われるままに、青黒い色の柄をノルンが”鋳型”と呼んだ金型の中から取り出した。


刃も峰もない、柄だけの剣というのは、なんとも不思議な感じがした。


「それが伝説に謳われる”護国の剣”だよ。でも、見ての通り肝心の部分がない。それを作るためには、その”紅玉”に加えて”金剛の霊石”が必要になってくるんだけど…。」


ノルンの言葉に、三人ははっと目を見開いた。


「どうやら、君たちはまだそれを手に入れてはいないようだね。」

「…それは、これから探そうと思ってたんだ。」


弁明するようにそう返すアールンに、ノルンは苦笑しつつ宥めるように手を振った。


「責めてる訳じゃないさ。しかしだからこそ、君たちには一刻も早く霊石を探し出し、ここに持ってきてほしい。分かったね?」


ノルンの言葉に、3人は頷いた。


「それで…僕はこの柄に宿ってる精霊みたいなものなんだ。君がこれを帯同してくれさえすれば、僕も君たちに着いて行って霊石探しを手伝ってあげられるんだけど、どう?」

「…自分で着いて来れないのか?」

「僕はこの場所の中は自由に動き回れるけど、基本的にはこの剣の近くからは離れられないんだ。それに、剣自体を移動させようとしても…痛て!…って感じで、そもそも僕はこれに触れないんだよ。」


ノルンがアールンの手の中にある”柄”に触れた途端、柄はバチッという音と共にその指を”拒絶”した。


「あ~、大体わかった。ちなみに、この剣は外の人間に見せていい物なのか?」

「まあ、それはいいよ。そこまで隠し通すのは大変だろうから。」

「了解。」





坂道を登っていく昇降機の縁でアールンがぼんやりと眼下を眺めていると、後ろからソーラが声を掛けてきた。


「ちょっと気落ちしてます?」

「そりゃそうだ…。」


伝説の聖剣があるなんて言われて、心躍らぬ男は居ないだろう。


「まさか”柄だけ”だなんてなぁ…。」


お預けを食らった気分だ。

そう言いながら、彼は懐に仕舞った”護国の剣”の柄をコツンと小突いた。


「しかし、霊石の力で剣を鋳るなんて…この場所を造った人も、凄いこと考えますよね。」

「そうだな…。」


眼下には、遥か下へと続く長い長い斜めの坑道が続いていた。


この景色を、始祖や、それに続く何人かの王たちも見たのだろう。

霊力技術が発展している現代のアールンが見ても驚異的な光景なのに、古の人々はこれをどのような気持ちで眺めたのだろうか。


この場所は、おそらくサンダ王国ではない何者かによって作られた施設だ。そして、”聖剣”なるものもその者たちからの「借り物」に過ぎない。

ひょっとすると、それこそが、何百年にも渡ってこの地が秘匿されてきた理由そのものなのかもしれない。


これを築いた人々は、今どこにいるのだろうか。

もし仮に、そのような人々が今も生きていて、この国に攻めてきたら、果たして自分達は国を守り切れるのだろうか。


薄ら寒い思いに浸るアールンを、ノルンは少し離れた所から静かに見つめていた。


【一部訳語】

UTRC=Unified Terran Regeneration Committee:統一テラン再生委員会

Project Salvation Stone:「救世石」計画

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