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青炎紀  作者: 二十二郎
〈2〉破魔之役:金剛の従者
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6 ネユーカの秘所

今日二度目の更新でございます。


それからは目立った襲撃はなく、二日が過ぎていよいよ”秘所”奪還の戦いの当日となった。


先行する”大翼”の斥候たちからの報告を聞きつつ、アールン、ソーラ、アルアータ、メウナ、レイサやオルイ達ネユーカの1000弱の軍勢が、霧に包まれた針葉樹の森を進んでいく。


「”秘所”まで、あとどのぐらいだ?」とクルキャスに跨るアールンがレイサに。

「峠をもう一つ越えたところさ。峠の頂上からは秘所のある盆地がよく見渡せるから、ひとまずそこに陣を敷くよ。」

「分かった。」


この辺りは、地形に明るいネユーカ達の判断に従うのが定石だろう。


一時(いっとき)ほど上り坂を進んだところで視界が開け、眼下には白と緑の入り混じったすり鉢状の地形が現れた。


「あそこ、見えるかい?」


レイサの指さす方向には、森に半ば埋まるような形で大きな洞窟が見え、その両脇には崩れた物見櫓の廃墟が見えた。


「昔はあそこも結構人が集まる集落だったんだが、今は御覧の通りさ。」

「…霧が多いな。晴れるまで待つか。」

「いいや、その必要には及びませぬよ。」


そう言いながらオルイが持ってきたのは、片端の尖っている、ゴテゴテした円筒形の物体であった。尖っていない方の端には縦の溝が等間隔に入り、胴体には羽のような形といくつかのボタンがある。


「それは…まさか、霊力兵器ですか?」


それを見て、ソーラが真っ先に口を開いた。


「んにゃ、こいつは霊気じゃのう別の力で動く機械のようじゃ。」

「「「別の力…!?」」」


オルイの言葉に、メウナを除く三人のサンダ人組は驚愕の声を上げた。

そんなもの、しかもそれで動く機械など、前代未聞だ。


「絹布とかを擦った後に頭に近づけると、髪の毛が立ち上がることってあるよね?それと同じような力で動いてる機械が、この辺りではよく見つかるんだって!不思議だよね~。」

「へえ…でも霊気もなしに、そんな力だけで機械が動くのか?」

「それがですなぁ、意外とやりおるのよ。」


そして、山羊角の老人は円筒の尖った方の先を盆地に向けて小岩に立てかけ、胴体部分のボタンを押した。


その瞬間、甲高い噴射音と共に溝の入った方の端部から白色の気体が噴き出し、物体は宙を舞った。


「うおっ!?」とアールン。

「きゃっ!?」とソーラが叫んだ。アルアータは一言も発さなかったが、目を見開いてびくりとしていた。


盆地の上に飛んで行った物体は空中で暫し静止した。ほとんど豆粒にしか見えないので詳しい状況は分からないが、どうやら小さな円盤状の何かを胴体から複数出して姿勢を保っているようだった。あれが霊気浮遊機関の役目を果たしているのだろうか。


暫くすると、物体が浮かんでいる場所の直下を中心として、円が広がるように霧が晴れていった。


「天候を操っている…!?」と、ソーラが目を凝らしながら驚きの声を上げた。

「流石に天気は変えられぬよ。あくまでこうして霧を晴らしたりするような、ちょっとした変化を起こすための道具のようじゃ。」


異常を感じとり、森から鳥たちが騒ぎながら次々に飛び立っていった。


「ここから先は魔物共がウヨウヨ居るからね。注意しな。」

「おう。」

「分かりました。」




ひょうという音とともに、一本の矢が飛んできた。

咄嗟に目を見開いて”超集中”を発動し、アールンは矢を剣で叩き落とした。


(ああ、向こうにも。危ねえ。)


見ると、ネルトレイフに騎乗するソーラの方にも複数の矢が迫っていた。彼女の反射神経ならば側面から迫るいくらかは防げそうだが、死角から飛んでくるものは厳しいだろう。

クルキャスから降り、手近な木の枝を拾って空中でゆっくりと飛ぶ矢に投げつける。


実世界における超高速で投げ出された枝は矢に激突し、爆散しつつもそれを打ち落とした。


(よし、手ごたえ十分!!)


同様にして、彼女の背後から迫る二つの矢を打ち落とすと、”超集中”はそのままに彼は弓持ちの魔物が隠れている場所に急行し、反撃の術のない魔物の首を次々に刎ね飛ばしていった。


(いや…強いな、これ。最初から使えればいいんだが。)


能力発動の条件である”集中”、これが曲者である。

”超集中”に至れるほどの集中状態となるには、一般に戦闘の継続などを通して興奮状態となる…要するに、()()()()()()()必要があるのだ。


先んじて能力を発動し、戦の開始早々に敵軍を虐殺するなどということは、出来ないということはなさそうだが、ほぼ無理に近い。


”超集中”が解除され、周囲のあらゆるものの動きが加速する。


「あっアールンさん!いつの間に…。」

「おう、ったく数が多いな。埒が明かねえ。」


今、”秘所”に通じる森の各所ではネユーカ達と、ヴォーダール(山羊)キアノード(長腕)、長爪猿面の魔物の混成軍とによる戦いが行われていた。


戦いはネユーカ達が優勢に進めていた。空を飛べる”大翼”や機動性の高い”馬身”や”長爪”、図体の大きい”長躯”など、強力な特性を持つ者たちが数多くいるのだから、その成り行きも必然である。


むしろ、この構成でも勝てない相手がこの先に待ち構えていると思うと、頭が痛くなってくるというものだ。


葉間に、青白い閃光がちらついた。アルアータの剣撃であろう。彼女もまた、刃に霊気を込めて強化する”貫通”型の憑き人であるらしい。


「進むぞ。こっちの戦力が残ってるうちに、目的地まで辿り着きたい。」

「了解です!!」


アールンはクルキャスに再び跨り、ソーラや護衛の”馬身の”ネユーカ達とともに木々の間を駆けた。


「うおおおおおお!!!!」

「愚かしい傀儡どもめ!!目にもの見せてくれるわ!!」


重装騎馬の馬鎧をそっくり被ったような恰好の半人半馬は、短槍を振り回しながら立ちふさがる敵を跳ね飛ばし、薙ぎ倒し進んでいく。空では”大翼”が行く手を示すように飛びまわっていた。


そして、”秘所”に繋がる洞窟入口手前の広場に辿り着いた。


「んん…?」


しかし、そこには何も居なかった。


「待ち伏せでもしているんでしょうか…。」

「ッ待て!!!」


先に進もうとしたソーラを制止し、アールンは”地面”を見た。

そこには、巨大な何かの”影”が、まるで水面の下に潜む大魚のように身をくねらせていた。


「これは…!」


すると、ソーラは右手を掲げ何かを念じ始めた。

随分と複雑な「造形」を行っているようで、彼女は右腕の霊石に左手を触れながら顔を顰め、首筋に汗ばみつつ目を瞑っていた。


そして、周囲の森の喧騒や金音が聞こえてくる程静まり返った広場の中に、唐突に桃色の光の”釣り糸”が垂れ、同時に近くの空中には巨大な”銛”が浮かび上がった。


「おお…。」


糸の先には、食いつくかは分からないが光で作られた”疑似餌”があり、彼女はそれをゆっくりと地面につけ、2,3度トントンと打った。


すると、それまでは広場を”回遊”していた影が疑似餌の方へ寄っていき、地面からはぬるっと大きな”顎”が姿を現し、餌を一口に飲み込んだ。


「っ!!」


ソーラはそのタイミングを見計らって右腕を上に払い、糸を上げた。

すると、引きずり出されてきたのは目が赤色に光る巨大な魚の魔物だった。


(こいつ…ワーレトン()みたいだな。)


ワンデミードでは馴染みの深いそれに似た魔物に、ソーラはすかさず光の銛をに突き刺して動きを止め、ダメ押しと言わんばかりに二組の杭付き鎖を”鮭”の前後に出現させて完全に動きを封じた。


「今です!!私が動きを抑えているうちに!!!」

「了解!!行くぞお前らァ!!!」

『おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』


力なく縛られている魔物に、アールンやアルアータ、ネユーカ達が殺到し、その長大な体躯に次々と傷をつけていった。


特に、アルアータの”貫通”による攻撃は効いたようで、魔物は体中から血を流し、腹から赤黒い物体をはみ出させ、やがて動かなくなった。


勝鬨が上がる中、空からレイサ達”大翼”の部隊が舞い降りてきた。


「いやはや…参ったね。まさかこれほどあっさり倒しちまうなんてさ。」

「あのワーレトン()が、例の”手ごわい魔物”か?」

「鮭か、いい名前だ。もう二度と見たくないがね。あいつが地中に引きこもって、あの凶悪な口しか出してこないもんだから、こっちも苦労してたのさ。」


その怨念の籠った口調に、アールンは息をのんだ。


「それにしても、凄かったですね!!あの釣り糸と銛であの怪物を釣り上げちまうなんて…。」


そこで、レイサの後ろに居た”大翼”の若者が声を上げた。

初対面だったためにソーラが不思議そうな目を向けると、若者はああ、と頭を掻いて羽を若干立てつつ言った。


「すみません、いきなり…僕、”茶色銀縁風切羽の大翼の”エトアンと申します!!」


ネユーカの若者、具体的には50に満たぬ者は、往々にしてやけに長い名前を持つ。

レイサが言うには、個性を出したいのだそう。


「ありがとうございます。そちらも、空からの先導助かりました。」


ソーラが丁重に返すと、エトアンはわずかに頬を紅潮させて再び頭を掻いた。

その頭を、レイサがこつんと叩いた。


「何鼻の下伸ばしてんだい。それじゃあ、魔物も退いていったことだし、秘所の中に入るとするかね。」

「おう…。」


いまだ姿を見せないアラートのことは気にかかるが、ひとまずは先に進むのが良いだろう。

彼らは崩れた櫓の間を抜け、すでにネユーカ達に制圧された”秘所”の洞窟を進んでいった。


洞窟の幅や天井の高さは、体の大きい”馬身”なども入れる大きさであった。流石に”長躯”は厳しかったので、入り口で待機しつつ、髪の毛を一束切って代理の”山羊角”や””犬耳”に渡していた。

それも、何か意味があるのだろうか。


「あれは…出口でしょうか。」


ソーラが指さした先には、開け放たれた石の門扉があった。その向こうはうっすらと光に当てられ、苔むした灰色の地面が光っていた。


「いや…あれは…。」

「この先が”秘所”だが、まだ制圧が終わってないからね。気をつけな。」


外開きの門から中をのぞくと、中は天井から光のさす大空洞であった。

空間にはエーダの神殿に出現した”花”のような見た目の物体が散乱し、その中心には一体の魔物がいた。


(なんつー見た目だよ…。)


魔物は首から上が無い馬のような見た目であり、背中からは大槍を持つ一対の人の腕が逆向きに生えていた。


体表は赤黒くぶよぶよしていて、馬の胸にあたる部分には口角の上がった人の顔があった。


「あれ…”ディアネタック(人面馬)”だよ…!」と、メウナが小声で言った。

「あんなのが居んのか…。どうしたものかな。」

「私が撃ちましょうか。鳥銃で。」

「いけるか?悪いな、あんたに頼りっぱなしで。」


ソーラは頷き、左手の”ハリージェ”から細長い銃を取り出した。

そして、銃口をおぞましい異形の馬に向け、最大出力で発砲した。


しかし、魔物はドォンという発砲音に気づいたらしく、ギリギリのところで直撃は回避。

わき腹の傷から血を流すが、それでも門扉の裏のアールン達を捕捉して突撃を開始した。


(まずっ…って、遅く…。)


鼓動が強くなり、人面馬の足の運びが徐々に遅くなっていく。


アールンは少し笑い、幸運に感謝した。

ごく稀に、こうして何もせずとも”超集中”を発動できるときがある。結局は自らの集中の瞬間的な高まりにより、発動の閾値を超えているのだろう。


(何はともあれ、好機!!)


人面馬の何倍もの速さでアールンは鈍速で動く魔物に肉薄し、その赤黒い躯体に幾つもの傷を刻み付けていった。


とどめと言わんばかりに人面に剣を突きこんで抉るように回すと、そこから血の泡が溢れ出し、魔物はついに足を止めてつんのめった。


「オラァ!!!!」


最後に魔物の崩れた前面を殴りつけたとき、”超集中”が切れて世界が加速し、彼は爆散した魔物の血肉を一身に浴びて真っ赤に染まった。


「お~い、怪我は無いか~?」


あられもない姿で手を振り振り入口に戻るアールンを見て、ソーラやアルアータは呆れ顔、それ以外の面々は恐れ慄き思わず一歩後ずさった。


「あんた、いつもそんな戦い方するのかい?」

「ほほ、ご、剛毅な奴じゃなぁ。」


「いつも思うんですけど、アールンさんの戦い方って”雑”ですよね。」

「なんだよ、悪いか?勝てればなんでもいいだろ。」

「はぁ…。聖剣の置所に行く前に、服と体洗いましょうね。」

「へいへい。」





「…あれが、”産花(ウブハナ)”なのか?」


運び込まれた木桶の水で上着を洗い終わった後、アールンは服をはたいて乾かしながら、近くに転がっている様々な石板の付いた”花”を指さし、傍にいたオルイにそう尋ねた。


「うむ。あれに夫婦の体の一部…大抵は羽や毛髪じゃが、それを投入すると花の中で子供が形成されるのだよ。」

「なんだそれ、その…失礼かもしれないが、簡単すぎないか?」


アールンは耳を疑った。子供が親を亡くす原因では、父親が戦災や災害、事故死が多いのに対し、母親で真っ先に上がるのが”出産時の死亡”である。

人間の出産とは、それだけ母体にかかる負荷の甚だしい営みなのであるのに、この仕組みでは…。


「その代わり時間もかかるし、”失敗”も沢山あるがね。」

「失敗…。」


「一人の赤ちゃんが生まれるまでに、この”産花”では約10年の歳月を要すのじゃ。そのうえ、それを経て花を開いてみれば障害、奇形、死産であったこともままある…ということよ。」

「それは…。」

「我々は長命じゃから、それでもやり直す気も起きるのじゃが、高々60数年の命のサンダ人に、それは荷が重かろうて。」

「なるほど…。」

「そもそも、そんなに簡単に数を増やせたら、今頃わしらは人界を席巻しておるわ。」

「そう…だよな。」


結局は、親が危ないか子が危ないかの二択ということか。

サンダでの”産花”の導入も検討し始めていたアールンは、そこでその思考を破棄した。





「それで、これが最奥への入り口なのか?」


”秘所”の正面奥には、それまでの自然の洞窟とは明らかに異質な、錆びついた金属製の大扉があった。

黒ずんだ重厚な扉の枠は、石のようだがそれとも異なる材質で作られていた。


「”選ばれし者”にのみ開かれる…らしいが、そもそもそれって誰なんだ?」

「私でいけますかね。」

「ああ、確かに霊石の従者なら、可能性ありそうだな。」


アールンとソーラはそう言いながら、アルアータやメウナ、レイサやオルイ、”長けき馬身の”エラールなどを引き連れて扉の前に歩いて行った。


「いやはや…近づいてみると、でっかいな…。」

「神殿の門扉より大きいですよ、これ。」

「ああ…ん、あれは何だ?」


そこで、彼は扉に貼ってある一枚の張り紙のようなものに気が付いた。




WARNING:

This is Top-secret facility.

Unauthorized entry is PROHIBITED.


      UTRC




「何だこれ…文章?」

「どう読むんですかね…。」


そこには、見たことのない文字で、珍しい()()()の文章が書かれていた。

アールン、ソーラ、メウナがそれを覗き込んで解読を試みたが、なんの成果も得られなかった。


「それはじゃなあ。」

「エラールさん分かるの?」


メウナの言葉に、半人半馬の長老は首を横に振った。


「儂にもわからん。儂らももう長いことここを使っとるが、それを読めた者は誰一人居らんかったのだ。」

「ええ…?でも、これ、この扉の開け方とか書いてあるんじゃねえか?」




「それはただの注意書きだよ。」




そこで、視界の外から全く聞きなれない声が飛んできた。


顔を上げてその方を見ると、そこには目算で15,6ぐらいの少年が、扉の枠に寄りかかって立っていた。

その癖毛は白みがかった金色に輝き、襟と袖口がきちんと形作られた薄手の白い上着の上から格子模様の袖なしの上着のようなものを纏っているという、珍妙な恰好であった。


「あんた、誰?」

「ふーむ、君はいいとして…お、君がコスくんので、君がバアくんのか。」


アールンの問いに少年は答えず、軽い足取りで彼らの方に近寄り、何言かをぶつぶつ言いながらアールン、ソーラ、そしてメウナの顔を順に覗き込んでいった。


「アナちゃんの人は居ないようだね。ちょっと時期尚早な気もするけど、まあいっか。」

「ちょっとちょっと何なんだ。誰だコスくんとか、バアくんって。俺たちに関係があんのか?」


わずかに苛立ちを含んだアールンの問いをまたも無視し、少年は踊るように扉の真正面に移動して右手を掲げ、指を鳴らした。


刹那、轟音が響き、ブーッ、ブーッという警報のような音が洞窟内に響き始めた。


「何だ!?」


扉の前の3人やアルアータは驚愕して思わず後ずさったが、ネユーカの面々、特にオルイやエラールは見慣れているようで、微動だにせず扉を見つめていた。


そして、重厚そうな錆びた金属扉が、ゴロゴロという音を立てて徐々に開き始めた。



どうやら、ここはただの神殿ではなさそうです。

果たしてこの場所、そしてこの少年の正体とは…?

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