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青炎紀  作者: 二十二郎
〈1〉破魔之役:紅玉の従者
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4 不協和な旅立ち

「は?」


鬨の声の元、ちょうどヘイローダ中央軍の戦陣の方をみると、そこには白い光に煌めく鎧を纏った重装騎兵の一団がいた。


援軍が現れたのだろうか?

いや、多分違う。


戦況報告の早馬は、どんなに早く出たとしてもまだ全行程の半分も過ぎていないだろう。

ペルオシーにはまだ開戦の報すら伝わっていないのではないか。


ならば、こんなに早く援軍を寄越すことなど不可能に近い。

彼は一瞬戸惑ったが、その疑問に対する答えはすぐに分かった。

騎馬隊の先頭に居た騎士が、兜を取った。


その中から、遠くからでもはっきりと分かる漆黒の髪が現れる。


(まさか...!)


総大将の少女、名をソーラといったか。それが長剣を掲げて何かを叫んだ途端、背後の騎士たちが一斉に鬨の声を上げ、騎馬軍団は悠然と突撃を開始した。


(何考えてんだ!?)


時を同じくして、戦場の各所で戦っていた魔物たちも多くが目の前の戦いをあっけなく放棄し、「大将首」の方へ集中し始めた。


「敵が大将様の方に!!!」

「お守りしろ!!!」


その危機を見て、味方の兵士たちも我先に騎馬軍団の方へ走り始める。


(これは、不味いな...。)


戦線の均衡は破られた。

このままでは騎馬軍団を中心にきれいなお団子になり、行き着く先は間違いなく包囲だ。

しかし、なんの命令権もないアールンにはそれを止めるべくもない。


(流れに身を任せるより他ないな。)

「俺達も行くぞ。多分包囲されるが、外側になるよりは内側に居たほうがまだマシだ。」

「「...分かった!!」」「そうだな。」


アールンは近くのコアル、クレール、カートにそう声を掛けた。

3人も同意し、彼らは死地へと歩み始めた。



案の定、騎馬軍団に引っ張られた前線の兵たちは、彼ら共々戦場の中ほど、ちょうど緒戦の砲撃の着弾地点付近で包囲されてしまった。


足元は水と血の溜まった着弾の痕と魔物の死体とでぐちゃぐちゃになっていて、足場はたいへん悪い。

そこは、地獄の考え得る限り最悪の戦場だった。


「まずい、ここにももう敵が!!」

「よそ見すんなコアル!!!危ねえぞ!!!」


敵味方の入り乱れる密度は大変なことになっており、アールンやカートもほぼ身動きが取れない状況になっていた。


「クソッたれ...あんなところであいつが出しゃばってこなけりゃ...。」


アールンは必死に剣と槍を振るいながらそう吐き捨てる。

あいつというのは、勿論あの大将の娘のことだ。


そのとき、彼は偶然、遠く白い霧の向こうに異様なほど巨大な影を見た。


その影は、おもむろにその腕を回すかのように動いた。


そして、彼の近辺で戦っていたコアルたちの居た場所が突然爆発した。



その音と土煙に驚いて暴れるクルキャスを必死になだめ、アールンは何が起きたのかを確認しようとした。

土煙が徐々に晴れ、見えてきたのは巨大な岩だった。


周囲の兵は突然の出来事に恐慌をきたしている。


あの影が投擲したのだろうか。

いや、そんなことより――


「コアル!!!クレール!!!!大丈夫か!?」


アールンは馬から降りてそこへ駆け寄った。


「アー、ルン...。」


弱々しく名前を呼ぶコアルの声が聞こえてきた。

見ると、少年は下半身を岩に押し潰され、血を流しながら岩の下に伏している。


「痛い...。痛いよ...。」

「嘘だろ...。おい、しっかりしろ!今これをどけてやる!!!」


そう懸命に声を掛け続けながら、彼は必死に大岩を押し、なんとか少し移動させることができた。

しかし、岩の裏にはさらなる惨状が広がっていた。


「そんな、クレール...。」


岩がほぼ直撃していたのだろう。クレールは、そのほぼ全身が岩の衝撃に耐えきれず「破裂」し、体中から血が吹き出し腹部からは”中身”が見え隠れしていた。

クレールの息は既に絶えていた。ほぼ即死だろう。


「アー、ルン。」


コアルが彼の服を掴む。


「助けて...。」


しかし、コアルもそこで力尽きた。


「...。」


信じられなかった。

いままで彼らはよく頑張ってきた。それが、終わりのときはかくも一瞬で、儚いものなのか。


痛かっただろう。


苦しかっただろう。


2人の青年たちの死の瞬間を想像するだけで、自然と涙が溢れた。


「大丈夫か!?アールン!!」


暫く離れていたカートが、アールンの安否を確認しに来た。

いまだ健在な坊主頭を見て、アールンが少し安堵したのも束の間。

今度は、その胸を飛んできた槍が刺し貫いた。


「ガハッ...!?」


カートは呻き、地面に落ちる。


「は...!?」


槍の飛んできた方を見ると、そこでは混乱の真っ只中で一匹の長腕の魔物がしたり顔のように顔を歪ませていた。


「...。」


もう許さない。


彼は魔物の方をキッと睨み、走る。

周囲の景色、時間の進みが段々と遅くなっていくような気がする。

これが走馬灯というものだろうか。


それでもいい。かくなる上は、こいつを殺し、刺し違えて俺も彼らと共に...。


しかし、彼が死ぬことはなかった。


時間の遅くなった世界の中で、僅かしか動かない魔物の首を、彼は容赦なく刎ねた。

魔物の体から吹き出る血の一滴一滴がはっきりと見える。

力を失って倒れんとする魔物の体の動きも減速し、もはやほぼ動いていないかのように見えた。


「何だ、これ...。」

眉間が湿るが、流れ落ちる汗は低速であった。

人知を超えたこの感覚に、アールンは混乱した。


(いや、そんなことより...!)


彼は横たわるカートの元へ走った。

途中、前のめりで走るあまりぬかるみに足を滑らせ、前方に向かって派手に転ぶが、泥だらけになりながらも必死に前に進んだ。

坊主頭の青年は槍が刺さったまま、横向きになって倒れていたが、幸いにしてまだ息はあるようだった。


「しっかりしろ目を閉じるな!!!」


胸に刺さった魔物の木の槍には、彼が使っていたものと同じようなものならば返しの類は付いていないはずだ。懐から止血用の布を取り出し、意を決してひと思いに素早く槍を引き抜く。


「グアア!!フッ、フッ!」

「口を開くんじゃねえ、傷が開くぞ!!!もう少しの辛抱だからな...!」


痛みを必死に堪えるカートを励ましながら、アールンは止血用の布で腹と背の傷口を必死に抑えて止血する。

しかし血は一向に止まらない。


(まずい、こんなに出血したら...!)


絶望的な状況であることはカートも理解しているようで、青年はアールンの腕を震えながら掴んで


「もう、いいんだ...。」と言った。

「喋んなっつってんだろ!!!」


カートは首を横に振り、震える手で背中の弓を掴んでアールンに差し出す。


「これよお、大枚払わされたのに、ここで終わりってな、勿体ねえだろ?俺ァもう無理だからさ、アールンに、やるよ。」

「ふざっけんなお前の金で買ったんだろ!!!生きて、生きてお前が使い続けるんだよ!!!」


しかし、その声掛けに対する返答はなかった。

血に染まって赤黒くなった麻布を片手で握りしめ、空いた手で”巻狩の弓”、形見の品を取り、背中に背負って彼は辺りを見回した。


どうしてこうなってしまったのだろう。


何を間違えたのだろう。


よくも思い上がったものだ。

コアルたちを生きてガーテローに帰してやると心のなかで決意し、あまつさえ保護者のように心配したくせに、デインの前でカートと共に生還してやると豪語したくせに。


蓋を開けてみれば離れているどころか、近くに居てさえひとりも守れなかったではないか。

呆然としている主のことを気遣ってか、クルキャスが近寄ってくる。


「あー、クソ。」


もう何もかもどうでも良い。

そう思いながらクルキャスに跨ると、戦場の惨状が地上に居たときよりもありありと分かった。

もはや陣形も何も無く、誰もが自分が生き残るために最後の力を振り絞って戦いながら徐々に後退していた。


「大負けじゃねえか。」


思えば、おかしくなりだしたのはあの馬鹿な総大将がわざわざ出張ってきて、敵中に突っ込んでいってからだ。


あれのせいで、せっかく安定していた戦線はぐちゃぐちゃになり、大包囲の憂き目にあってしまった。

あれがなければ、今頃は敵に諦めさせて撤退に追い込むぐらいは出来ていたのではないか。

ふと、彼は視界の端に4体ほどの長腕の魔物に囲まれているルムオロクエンダ(側護軍)の騎士を一騎見つけた。


特に考えもなく彼はそちらに駆け、向かって右手側の魔物を轢き飛ばし、馬を反転させて残りの魔物に剣を振るい、2体の魔物の首は宙に舞った。

アールンは極めて平坦な口調で騎士に話しかけた。


「おい、逃げるぞ。」


すると、騎士の顔まで覆う兜の中からくぐもった、しかし少し高めの声で「私に言っているのですか。」という言葉が返ってきた。


「他に誰がいるんだよ。あんたは正規軍の騎士様だろうがな、今更忠誠だの何だの言うのはナシだ。さもねえとあの馬鹿大将様の道連れになっちまうぞ。」


その言葉に、騎士は動揺したのかピクリと動いたが、すぐに居住まいを正して返した。


「結構です。撤退なら自分で出来ます。貴方が逃げたいならどうぞお好きに。」

「へえ、できるねえ。それで、どこに?」


アールンは周囲を見回す。


周りはいつの間にか、魔物の群れに取り囲まれていた。

こちらは重装と軽装の違いはあれど両方とも騎馬なので彼らも迂闊には近づいてこないが、もはや逃げ場はなくなっているといっても過言ではない。


「俺が突破口をブチ抜く。助太刀してくれたら嬉しいが、着いてくるだけでもいい。助かりたかったら着いてこい。」


前方、比較的包囲の薄い一角を睨みながらそう言うと、騎士も渋々といったように頷いた。




そこからは、記憶が殆ない。


あまたのヴォーダール(山羊)や長腕の魔物を剣で切り裂き、奪った槍で薙ぎ払い、打ち付け、がむしゃらに前進した。

途中、先に霧の向こうに見えた巨大な魔物の姿を見たような気もするが、その容姿や数を頭に記憶するリソースさえも、敵の攻撃を躱し、槍や剣を振り回すために費やした。


そして敵の集団を抜け、追手を振り切り...。


目覚めた時、アールンは草を敷き詰めた粗末なベッドの上にいた。


(...ここは、どこだ。)


体を起こそうとすると、体中が酷く痛んだが、特に足に鋭い痛みが走った。

見ると、左大腿に派手な傷が出来ていた。


(カートのとおんなじだな。)


坊主頭の気さくな青年のことを思い出した途端、彼は鼻をすすった。

頭を上げ、重い眼で周囲を見回す。


彼の寝ていた場所の周囲は高草に囲まれていた。地面が湿っているのを見るに、湿地帯か何かだろうか。

辺りは既に夕暮れで、薄靄が西日に照らされて薄黄色に煌めいていた。


ふと、とっ...とっ...サーッサーッという足音と草をかきわける音とがした

音の聞こえてくる方をぼうっと見ていると、そこから見知った馬の顔が現れた。


「お前は生きてたんだな。」


離れていたが、主人が目覚めたのを感じ取って戻ってきたのだろうか。

栗毛の馬の目にはこころなしか安堵の色があるように感じた。


「あの騎士は、どうなったんだろうな。」


思えば、草を敷き詰めた寝台も、あの人が用意してくれたのだろうか。

辺りには、幾つか深い足跡があった。重い鎧のまま歩き回ったのだろう。

すると、クルキャスは(こっち。)とでも言うように首を振り、歩き出した。


「...?ああ、そっちにいるのかい?」


彼は痛む体を押して震えながら立ち上がり、夕霧の中を一歩一歩歩き出した。

特に左足で地を踏みしめる度に、太腿の傷がひどく痛む。


(膝の傷が思ったよりも深いな、筋までいかれたか。)


無傷な方の右足に体重をかけつつ、片手でクルキャスの鞍に掴まりながらよろよろと進んでいくと、確かにそこに「騎士」が居た。


しかし、その正体は彼の予想だにしないものだった。


「は...?」


視線の先、既に地に接しつつある暮れの太陽を背に、大将の、いや嘗て大将であった少女は虚ろな目でアールンを見やり、ゆっくりと口を開いた。


「...目覚めましたか。」




「何で...?」


呆然としつつその問いを絞り出したアールンに、鎧を脱いだのか鎖帷子姿になっている少女ははあ、と呆れたような溜息をついて答える。


「何故って、貴方がここまで連れてきたんでしょう?」

「まさか、あの騎士が...。」

「ええ。その通り。まさに『馬鹿大将様』その人ですよ。」


皮肉と自嘲の入り混じった口調でそう言葉を発する少女を見て、アールンの中には突然ふつふつと怒りが沸き起こってきた。


「...ふざけるなよ。」


拳を握りしめ、震える声を発する。

少女は虚ろな目でこちらを見る。


「お前のせいで何人死んだと...。」


その言葉に、少女は怪訝に問い返す。


「私のせい...?」

「ああそうだ。あんたが戦場に出しゃばってこなけりゃな、こんな酷いことにはならなかったんだよ。あの無闇な突撃と包囲のせいで、何人も犠牲者が出たんだぞ!!!」


彼の脳裏に、友の顔が浮かんでは消える。


「...。」

「そのくせお前は正規軍のいち騎士に扮してた。大将首であることを隠し、戦場から安全に逃れられるようにな。ああ確かに騙されたさ。クソ。」


少女はただ黙してアールンの言葉を聞いている。

その超然とした態度は、彼の神経を更に逆撫でした。


「おい、聞いてんのかよ。」

「ええ。」

「じゃあなんとか言えよ。」

「...たとえ私がそれに対して何か言ったとしても、それはあなたにとっては無責任な同情か責任逃れの釈明にしか聞こえないでしょう。そんなものではあなたは満足しないんじゃないですか?」

「満足、だと?」


彼は座っている少女に近づき、その鎖帷子の襟首を掴んでぐいっと引き寄せる。

少女は突然の凶行に初めて動揺の色を見せた。


「満足か。今からこの場でお前をブチ犯して、その苛つくほどに整った顔を恥辱と苦痛に歪ませてやれば、少しは満足するだろうな。」


その言葉に、少女の表情は驚きから軽蔑へと変化した。


「...ハルマランが認めた者ということで少しばかり期待していましたが、失望しました。まったくかくも野卑猥雑な者だとは。...良いでしょう。敗軍の将として、辱めを受けることかもしれぬことは覚悟の上。この体を汚したいのならば好きにすれば良い。しかし、そんなことで私の心まで奪わせはしません。」


そして、少女は目を瞑った。

彼女の言葉の威勢はいいが、やはりその肩は震えていた。


アールンも、先程は怒りに任せてあんなことを言ったものの、別に本当にこの場で色欲に走りたい気持ちなど毛頭ない。

それに、幾ら鼻持ちならない相手とはいえ、自分が明らかに年下の少女に対し力で恐怖を与え服従を強いているというこの状況は、彼の好むものではなかった。


お互い引くに引けず、しばし膠着状態の沈黙が続く。


アールンははぁと溜息をつき、少女の首根っこを掴む手を放した。


「...もういい。」

「...。」


少女は少し距離を取り、自らの身体を守るように腕を前で組みながら彼に警戒の視線を向けた。


「そんな事したって、この状況がどうにかなるわけでもねえ。おいお前、俺達が今いちばんやるべきことは何だ。」

「...?それは、すぐにでもチロン峠、チロン関に帰還して――。」

「ほんと馬鹿だな。」

「なっ、また馬鹿と...!」

「馬鹿げたこと言ってるのに馬鹿だと言って何が悪いんだよ。」


少女の抗議を一蹴し、アールンは説明をはじめる。


「まず今、チロン峠の戦場には魔物がうじゃうじゃいるだろう。当然だ、勝者は奴らなんだからな。関所も包囲されてるかも。それに、俺らみたいな敗残兵、落ち武者を捜索するために”狩り”が行われてるだろうから、近づくだけでもかなり危険だ。つまり、あの辺には暫く近づかないほうが良い。」

「ならば、あなたはどこに行けば良いと思うんですか?」

「分からん。」

「ええ...?」


投げやりなアールンの返答に、少女は困惑したようにそう言った。


「でも、唯一言えるのは、ここに居たらまずいってことだ。馬蹄の痕を追って、ここにもその内追っ手がやってくるだろう。俺はすぐにでもここを離れ、ほとぼりが冷めるまで南か、あるいは東の方に隠れるつもりだ。お前もどっかに身を隠したほうがいい。」


そして、クルキャスの方へ歩いていって馬具や荷物を調整しながら、こう付け足した。


「今のはあくまで忠告だ。もしどうしてもチロンへ帰らなきゃならないってんなら、止めはしないぞ。」


その後、轡と手綱の締め具合を確かめていると、背後から厳しい声が飛んできた。


「南か東って、そこに何があるか、あなたは知っているんですか?」

「まだ人が残ってる街が幾つかあるんだろ。その辺適当に当たれば良い。」

「では、その街はどこに?」

「...。」

「避けるべき魔物の拠点の場所は?山や谷、川、街道や橋の配置は?」

「...どうにかなるだろ。多分。」


振り返って肩をすくめ、バツが悪そうにそう言うアールンに、少女は呆れたように息をつく。


「なんにも知らないじゃないですか。そんなことでよくもまあそんな偉そうなこと言ってくれますね。」

「うっ...。ワンデミードの外なんて生きてて来るとは思わなかったんだよ。」


すると、少女は呆れた顔のままこう提案してきた。


「...分かりました。私も同行しましょう。」

「え?」

ヘイローダ(抵抗衆)では半島外への進出も見据え、このエーダ半島一帯の地理調査もある程度進めているんです。どこに街があるか、基本的な知識は私も頭には一通り入れています。」

「いや、だが...。」

「なにも知らずに飛び込んで、可哀想な迷子になってしまうよりは、案内役が居たほうが良いのでは?」

「チッ...。」


馬鹿にするような口調で言う少女に、アールンは苛立ちを隠そうともせず舌打ちする。

しかし、少女の言う通りだ。彼はこの地について、あまりにも知らなさすぎる。

このまま奥深くまで分け入れば、忽ちに遭難し故郷に帰るどころではなくなってしまうだろう。


「わーかったよ、アールンだ。よろしくな。案内役さん。この旅が長くならないことを、切に切に願ってるぜ。」


降参したようにそう言うアールンに、少女は作り笑いを顔に貼り付けて答える。


「あら、奇遇ですね、同感です。私はこの度あなたの『シャオローウィ(子守)』を仰せつかった、オロールシンタンイン(鎮北小将軍)、ワールディ=ベルハールが娘。ソーラです。よろしくお願いしますね?」

「子守って...。クソ、まあいい。足引っ張るんじゃねえぞ。」


二人はそれぞれの馬を引き、夕暮れの青紫色の空の下を歩き出した。




このときの二人が知れば、きっと困惑し、狼狽し、後悔しさえするだろう。


その門出が、彼らの望みに反し、世々に伝わる長い長い彼らの物語の、ほんの始まりに過ぎなかったことを。


ここまで読んできて頂いて挨拶するのもなんですが、初めまして、二十二郎です。

にそじろうと読みます。

小説初心者の身ではありますが、これからも日々の合間にゆっくりと執筆していきますので、どうぞ気長にお待ちいただければ幸いです。

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