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青炎紀  作者: 二十二郎
〈1〉破魔之役:紅玉の従者
43/53

41 エーダの秘密

「改めて、今まであんたには吐いたとんでもない言葉の数々、すまなかった。」


アールンはソーラから離れ、頭を下げた。

それに対し、彼女は静かに首を横に振った。


「謝るのなら、その相手は私だけでは無いはずです。」と、彼女は後方の自軍の方を見た。

「それは...。」


その通りだ。平和のためとは言え、冬の寒さの中自らに従う兵たちを意図的に飢えさせたのもまた、自分なのだから。


「...でも。」


そこで、彼女は再びアールンの方に向き直った。


「何も兵士たち一人ひとりに謝れなんて言いません。過ちは改めるのが一番大事ですから。次を繰り返さぬように、もう少し、私達に心を開いて下さいますか?」


そう話すソーラの瞳は、澄み切っていた。

ふと、笑いが込み上げてきた。今まで何度もこの目と相対してきた筈なのに、自分は今までこの中に黒き野心なるものを見ていたのか、と。


「...どうしました?」

「ふう、いや、そう...だよな。じゃあ、陣に戻ってこれからの事を考えるとするか。向こうさんも、今頃大騒ぎだろうからな。」


そう言って、彼はクルキャスに乗りつつ遠方のヘイローダの軍陣を振り返った。


「そうだ、それともう一つだけ、謝らせてくれ。」

「何です?」

「...前にエーダで言ったこと、ほら...友達だから助けたってやつ。」

「...ああ、で...それが何か?」

「いや...よくよく考えてみたら、訳分かんないこと言ってたよな。すまんかった。」


すると、ソーラはふっと顔を綻ばせた。


「何だ、そんな事ですか。ああもう、身構えて損した......別にいいですよ。嬉しかったですし。」

「そうか...?」

「ええ。だから覚えてたんじゃないですか。」





2人が仮設橋を渡って陣地に入ると、各所から歓呼の声が沸き起こった。


「タロント・ハー・ターフトール(王子殿下万歳)!!」

「タロント・ハー・ルメーディ(従者様万歳)!!」

「タロント・ハー・ターフエシャウ(王子妃殿下万歳)!!」

「従者様はお妃様じゃねえよ。」

「ええ!?でも、何かいい感じだったの見えたけど...。」


万歳の声に隠れて好き放題言っている連中もいたので、アールンは苦笑交じりにこう声を掛けた。


「おいおい、そりゃあ...ちと気が早過ぎるんじゃないか?」


すると、途端にその場の皆、迎えに出てきたアルアータやヴェラード、ディエル、コートなども含めた皆がしんとした。


「えっと...俺何か言ったかな...。」


気まずい静寂に首を竦めたアールンがそう言うと、アルアータがおずおずと進み出てきて答えた。


「殿下...失礼ながら、その...纏っていらっしゃる雰囲気が。」

「...ああ!」


思えば、意識的に高圧的になっていたハニスカでは勿論のこと、タナオードでも王子として軍を率いる立場になってからは、公衆の面前でここまでラフに振る舞ったことは無かったはずだ。皆が困惑するのも頷ける。


ソーラに正気に戻されたことの反動で、言動までがさつな庶民のものに戻ってしまっていたようだ。


「...まあ、これが”庶民上がり”の俺の自然体なんだ。権威の欠片もないと思うけど。」


彼の言葉に、高官たちや兵士たちは各々顔を見合わせた。


「威張り腐ってるよりは良いよな。」

「まあ...そっちのほうが親近感湧くし。」

「王子様がそっちが良いってんなら、俺たちにそれを邪魔立てする権利なんてありませんよ。」


周りの兵士たちは口々にそう言うのに、アールンは若干拍子抜けした気持ちになり、ぼーっと彼らの方を見ていた。

これでは、王子たらんと一人で肩肘張ってた自分が馬鹿みたいではないか。


黒と深緑の軍装を身にまとったコートが進み出てきた。


「どうやら、今まで我々は殿下に気を張らせてしまっていたようですね。申し訳ありませんでした。」

「いや、いいんだ。こっちが勝手にやってたことだし。でも、こんならしくない君主でも、あんたらは着いてきてくれるか?」


アールンはコートだけでなくその場の皆を見回して、そう呼びかけた。

それに対し、まずコートとアルアータが黙って片膝をつく最敬礼の姿勢をとった。ヴェラードや周りに集まっていた兵たちもそれに続き、最終的にアールンの周囲の何百もの者達が、膝を折って彼を囲んでいた。


「言葉遣いなど、殿下の聖なる血と並ならぬ徳に比べれば些細なこと。我ら一同、今一度殿下に忠誠を。」


アールンは息を呑んで周囲に拝伏する者達を見回し、最後に後方のソーラの方を見た。


彼女も微笑んだまま、静かに頷いた。





サンダ軍は、タナオードの資源力を活かして五機に拡充された”戦闘艇”を最前線に立て、戦列を組んで河原をじわじわと進軍していった。


ヘイローダが運用する北方産の火砲を警戒してのことであったが、幸いにして砲撃は一発もなく、彼らは無事にヘイローダの軍陣の至近距離まで接近した。


「あれは...やはり、警戒して正解でしたね。」


アールンの隣で、ソーラはヘイローダ陣地の先頭に鎮座する赤褐色に光る複数の巨大な筒を指差した。


「あれが火砲か?」

「はい。」


アールンは、チロン峠で魔軍の先陣を粉砕した爆発を思い出し、小さく息を呑んだ。

あれをモロに喰らえば、歩兵や騎兵は言うまでもなく、戦闘艇などの強靭な地上兵器も只では済むまい。


2人がアルアータと護衛の重騎兵団を伴って戦列の前まで移動すると、向こうの陣地から低いどよめきが起こり、その中央部からは、白髪交じりの武人が随伴の”ルムオロクエンダ(側護軍)”歩兵たちと共に出てきた。


「ソーラ様...!!ご無事で...!!」

「ハルマラン...先の戦では申し訳ありませんでした。貴方の言に従っておけばと、何度後悔したことか。」

「いえ...爺はソーラ様の無事を知れただけで満足にございます...!」


老武人、確か名をカイロー=ハルマランと言ったか。彼は次に隣のアールンを見て、意外そうに目を見開いた。


「おや...若人殿も生き残っておったのか。もしや、そなたがソーラ様を今まで守っておったのか?」

「いや...守ったというよりも、守られてた事のほうが多いですが...。」


アールンは無意識に敬語となって、頭を掻きながら曖昧な返事をした。

それを見て、ソーラは笑って後ろを振り返った。


「彼...アールンさんは、実はエルドーレン朝の後胤だったんです。私達の軍の総大将もこの人なんですよ。で...私も今はアールンさんに仕える”紅玉の従者”なんです。」


そう言って、彼女は右手で淡く光る紋章を掲げた。


老将は突然の情報の濁流に呑まれ、暫し呆然としつつ頭の整理をしていた。


「アールン!?...そう...いやはや...驚きの連続で、この老骨には少し堪えますな。しかし...確かにそなた、いや殿下は、初めてお会いした時から只者ではないとは感じられましたが、まさか、それほどの御方だとは...。そして、ソーラ様は伝説に名高い”紅玉の従者”...。」

「私達も、初めて聞いたときは驚きました。」

「一応、昔の言動に遡ってどうこう言うつもりは毛頭ないから、安心してくれ。さ、皆を待たせていることだし、そちらの陣地に入れてくれるか?」

「勿論でございます!皆の者!!!柵を片づけよォ!!」





ヘイローダの本陣に落ち着くと、連れていた霊信部隊を通し、アールンは陣に留まっていたコートに本陣を引き払い合流するよう伝えた。


「霊力機械ですか...なんとも懐かしいですな。」

「霊気産業が生きているハニスカは、既に私達の勢力下にあるんです。一帯の平定の暁にはハンラーグ(配霊)も復旧できる筈ですよ。」


そう喋るソーラの顔を、カイローは少し不思議そうに覗き込んだ。


「あの...何か付いてますか?」

「いや、何...この数月で、随分角が取れたようですな。」

「そう...ですか?」

「ええ、まあ―。」


老武人はそう言って、長距離霊信機をいじる通信兵に混じって作業を見守るアールンの方を眺めた。


「爺は嬉しく思いますぞ。」




伝声器に叫ぶ形式の通信が終了し、程なくして陣に残っていたコートや、飛行部隊の指揮を取っていたヴェラードなどもヘイローダ本陣に集合し、彼らは改めて今後の動きを話し合った。


「エーダの状況は?ヘイローダが街に入ったときはどうだった?」

「街自体は平穏そのものでした。しかし、タナオード・ハニスカ二市が結託し、この街を略奪しにやってくるという言説が流布されているようで、市民たちは我々を救い主のように見ていましたな。」

「成る程...では、取り敢えず街に入るに当たっては、全軍に略奪を固く戒めよう。どうせ、あのフージェンの悪足掻きだが、自分から証明しちまうような愚はできれば避けたいからな。」

「御意。」と、コートとディエルが同時に言った。


アールンは再びカイローに向き直る。


「ヘイローダの遠征軍の大将は...あんたってことで良いのか?」

「いえ、私めは先に亡くなったラインタ殿の部将として、このカイラン川に派遣されてきた者なのです。軍の大半はここに居り、今は現下の最上位として私めが仕切っておりますが、本来の総大将はそのラインタ殿だったのです。」

「ああ、あのドロイに変身しちまった人か...。」


人間が魔物に変身するのを見たのは、タナオードのサールド以来であった。しかし、あの時とは少々性質が違うのか、ドロイは死して尚その形状を保って河原に臥している。


「後詰は?街に残った戦力は居ないのか。」

トナーケン(予備部隊)と、戦闘員が若干名居りますが、抵抗してきたとしてもさしたる脅威ではありませぬ。」


”トナーケン”という言葉の響きに、アールンは僅かに俯いた。


「如何しましたか。」と、カイローが心配げに聞いてきた。

「ん、ああ。すまん。少しチロンの事を思い出してたんだ。一緒に来てた仲間が予備部隊配属だったんだが、前線に駆り出されちまって...そのまま、な。」


その言葉に、カイローはしまったといった顔をし、ソーラも顔を背け、事情を知らぬそれ以外の面々も彼らの神妙な空気に押され、ただ黙っていた。


「すまんすまん、今する話じゃないよな。じゃあ...ヘイローダの指揮は、当分あんたにお願いしたい。」

「分かりました。」


カイローはそう言って、手を平たく立てて胸に当てるサンダ式の敬礼をした。




刈り入れは疾うの昔に終わり、かりばねの並ぶ田圃の中の街道を、ヘイローダ主力を吸収して総勢5万ほどに膨れ上がった軍隊が、縦列でエーダ市街地に向けて進軍する。


空では偵察浮艇が飛び回り、背後には巨大な輸送浮艇が一機浮かんでいた。

既にタナオードとハニスカの者達はその光景にも慣れたものだが、ヘイローダの兵士達は対照的に、見慣れぬ空の乗り物を物珍しげに見上げていた。


嘗てこの街道を通った時はソーラと2人であったのが、よくもまあここまで集まったものだと、アールンは隔世の感を感じつつクルキャスに乗っていた。


エーダの東門、嘗てレーミー一家と別れた場所であるその門は、固く閉じられていた。


「火砲は時間が掛かる。戦闘艇を出そう。」

「はっ。」


すぐに、街道の側の田地の上をフワフワと戦闘艇が進んでいき、東門の斜め前方向から青白く太い光線を一発発射した。


轟音と空振とともに、東門が土煙を上げる。

次弾を発射すると、白亜の東門に嵌っていた木の門扉が音を立てて後方に吹っ飛び、街を東西に貫く表通りへの道が開けた。


「では、慎重に、だが速やかに市街地を制圧するぞ。くれぐれも略奪はしないように、いいな!?」


アールンが声を張り上げると、兵士たちも「応!」と答え、小さな横幅の戦列を組んで市街地に突入していった。




エーダの街中は閑散としていた。


その中で、彼らは嘗てソーラを"紅玉の従者"に推挙した"│アトーヤーディ《挙使》"のサイルと再会し、かの老人の口から市民達の多くが戦禍を避けて街から避難したことを知った。


市街地の民家や商店、工房への略奪は禁じていたアールンだったが、一箇所だけ略奪を許可し家捜しを命じた場所もあった。


それが、街の中央に位置するアドルイェール商会の商館―フージェンの本拠地と目される場所であった。


兵士たちからすれば、略奪物資や金品は大事な臨時収入である。

本来は戦と略奪とは一心同体であり、寧ろアールンにとっては半ばダメ元で出していた市街地に対する略奪の禁に、兵士たちの多くが従ってくれていることの方が信じられなかった。


禁令を破って嗜好品店に侵入した一部の兵士は、すぐに他の兵士たちに捕らえられてアールンのもとに引っ立てられてきた。彼は禁令破りを捕らえた者達に褒賞を出しつつ、捕らえられた兵士には叱責を行うだけで済ませ、「入りたいなら商館に行け。」と言って解放した。


「それで...これが見つかったと。」

「へ、へえ。もう何もねえなって、腹いせに壁をぶっ叩いたら...こんな空間が。」


件の解放した兵士が指す先には、木の内壁に空いた大穴の向こうに地下へと続く隠し階段があった。

階下からは、ほのかに臭気が漂ってくる。


「何だってこんなとこに...いや、これ扉か。」


足元の目立たぬ位置に、小さな窪みがあった。そこを引いてみると、扉はぎいいという鳥肌ものの音を立ててゆっくり開いた。


「どうします?」


ソーラの問いに、アールンは息を呑んで答えた。


「よし、入ってみよう。」

「何でそうなるんですか。絶対危ないですって。」

「だからこそ、知っておきたいんだ。おい、あんた、こりゃあ大手柄だ。帰ってきたら褒賞出してやる。」


そう言って、彼は石の階段を下に降りていった。


「ちょ、ちょっと、ああもう、仕方ないですね...!」


正気に戻った途端これだから、と、ソーラも呆れながら中に入っていった。



アールンは暫く行ったところで、(そう言えば灯り忘れたな。)と思い出し、道を戻ろうとした。

しかし、振り返った彼の顔は白い光に照らされた。


「はい。全くもう、灯りすら持ってなかったんですね。」

「...すまん。でも、それここで使って大丈夫なやつか?」


地下などの閉鎖空間で迂闊に炎を焚けば、死の危険すらある。


「ええ。霊気灯ですから。」

「へえ...そんなもの有ったんだな。」

「浮艇の探照灯(サーチライト)に使うおっきな物が主流ですけど、これはその小型版らしいです。」


霊気灯は、ソーラとその後を慌てて追ってきたアルアータも持っていた。

悪臭のするひんやりした空気の満ちる石の廊下を、彼らは慎重に進んでいった。


暫くすると、廊下の脇に鉄扉が現れた。


「これは...中には何が...って、暑っ!?」


アールンが扉を開くと、なかのむわっとした空気が外に迸った。


「これは...地熱でしょうか。何故このような場所に...?」


入口近くの部屋の床を触り、アルアータがそう呟いた。


「ちょっと待て、部屋の奥に何か無いか。」

「...え?」


ソーラの手の霊気灯でそれほど広くない地下室の奥を照らしてみると、そこには精巧な彫刻らしき模様の入った石箱がたくさん並べられていた。


石箱の中央には細長い硝子の窓が空いていて、中の様子が分かるようになっていた。


「中は...空みたいですね。しかし、この模様...どこかで...。」


ソーラは箱の表面、目立つ位置に縦に入った模様―点と線が複雑に組み合わさった、何かの文字らしき文様に注目した。


「...これに似てるか?」

「わ!ちょっと!」


アールンは、唐突にソーラの右手を掴んで、その甲の紋章を霊気灯で照らし出した。


「確かに...形はよく見ると違いますが、共通する法則を見いだせなくもないですな。」と、アルアータもそれを覗き込んで言う。

「あと、もう一つ、こっちのが似てると思うんだが...。」


そう言って、彼は懐から王子印璽を出した。底面には、エルドーレン家の”ネライフェ(家章)”が彫り込まれている。


それと、ソーラの右手、そして石箱に彫られている文様を見比べ、ソーラとアルアータはほぼ同時に息を呑んだ。


「でも...ここ明らかに怪しい場所ですよ。」

「そんな所に、従者の紋章や高貴な家の持つ家章とおなじ意匠の文様の入った物品が...。」

「まあ、昔ここが代官の邸宅だったんなら、その時に置いていかれた物なのかもな。一概に魔物由来とも言えなさそうだし。」

「今は、それ以上のことは分かりませんね。先に進んでみますか?」

「そうしよう。」


部屋を出て、彼らは更に奥へと進んでいった。


不意に殺気を感じ、彼は腰の長剣を素早く抜いて闇に突き刺した。


「ギャッ!?」


苦悶の声がしたほうを照らしてみると、そこには手が一本しかない猿のような”何か”の死骸があった。体格は小ぶりだが、凶悪な牙や爪を持っている。


「何だよこいつ...。」

「分かりませぬ。未知の魔物か、或いは()()()()()()...?」

「なり損ないだって?」

「はい。この辺りの湿気や、先の部屋の床の異様な温かさ。日の届かない地下室は、元来低温保存に長ける施設のはず。にも関わらず、あの部屋はその長所を打ち消しています。高い温度が必要な保存物とは...。」

「生き物...あるいは、魔物の幼体?」


ソーラの言葉に、アルアータは頷いた。


「いよいよ謎が深まってきたな...。とにかく、更に先に―。」

「いえ、ここで戻るべきかと。これ以上は危険すぎます。」

「...分かった。でも、最後にこの部屋だけ見てみても良いか?」


そこには、先ほどと同じような鉄扉があった。


扉の上方に小さくついた鉄格子の窓からは、炎の橙色の光が漏れていた。


「この扉...鍵の回し手がこっち側についてるな。中に何か閉じ込めてるのか?」


ツマミを回すと、扉はガチャンという音を立てて解錠した。鉄扉は立て付けが悪いのか、押しても中々開かなかった。


「何だこれ...。」


そこは、地下と思えないほどの巨大な空間であった。滑らかな石壁には所々に先の文様が書かれ、中央で巨大な”炉”が轟々と炎を上げていた。


「あ、誰か来ますよ...。って、うえっ。」


ソーラが指差した先では、腰巻姿の男が薪を持って炉に歩いてきていた。

しかし、ソーラはその姿を見て吐き気を催した。

男の肉体は小さく痩せ細っているが、それを”補完”するかのごとく、赤黒く気味の悪い見た目の「筋肉」が、体の至るところに付着していた。


筋肉は男が動くたびに、大きく膨張したり収縮したりしていて、それはもはや人と呼べる見た目では無かった。


不意に、男は持っていた大量の薪を地面に落とし、その虚ろな目をアールン達に向けた。


「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!」


そして、男は身の毛もよだつ絶叫とともに、体を萎びさせ、黒くなって地面に倒れた。


「あれは...!」と、アールンとソーラ。

「ご存知なのですか。」

「...前に、俺達が撃退した魔の力を使う暗殺者が、同じような死に方をしてた。」

「では、やはりここはその手の施設なのですね。」

「そうだな。...今の叫び声で変なのが寄ってくるかもしれん。撤退しよう。」




息せき切って地上に脱出した後、アールンは改めて霊気灯を装備した大部隊を地下空間に突入させた。


調査が終了した後、彼らは幾度かの魔物―その大半は未知の魔物であった―との接敵、また幾度かの「労働者」との接触、そして幾つもの「温室」の存在を報告した。

「労働者」達は、しかし兵士達がその姿を視認するとすぐに、アールン達が見たのと全く同様に黒く萎んで死んでしまったので、詳しい話を聞き出すことは出来なかった。


死亡した「労働者」達の内、辛うじて人相が分かる何体かは地上に運び出され、身元の検証が行われた。


彼らの大半は、エーダやその周辺である日忽然と消えたチンピラや野盗の構成員であった。


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