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青炎紀  作者: 二十二郎
〈1〉破魔之役:紅玉の従者
36/54

34 掃討

「これは...魔の紋様でしょうか?」


木台の上の2つの首級を見ながら、ソーラはヤートルに尋ねた。彼女の目はそれぞれの頬に存在する独特な意匠の紋章に注がれていた。


「うん。戦った時、この紋様が赤く光ってたのを見たんだ。君の右手とは違って不吉な感じがしたけど。」

「成る程...やはり、魔との繋がりが...。」

「それが分かっただけだけどね。今のアールンは、多分それだけじゃ説得できないよね。」


ソーラは頷いた、その顔にはやはり無念の色が浮かんでいた。


「...はい。でも、事実確認だけでも収穫です。ありがとう。」

「じゃあ...短剣新調するためのお金くれる?」

「はいはい。幾らですか?」


抜け目ないヤートルの要求に若干苦笑しながら、ソーラは生首を見下ろしてそう言った。






最近は何かと悪天候が多かったが、その日は久々の晴れの日であった。


抜けるような晴天と眩しい冬の日差しの下、アールンは険しい面持ちで眼下の戦陣を見下ろしていた。


幾多の幟旗がはためき、彼のいる陣地西部の高い台地の麓からは、幾重にも馬防柵の列が東に伸び、その合間合間を兵士達が動き回っている。

野戦陣は時間が経ってゆくにつれてその耐久性を増していった。常に軍団兵と募兵の群れが協働して柵を固定する縄を縛り、空堀を掘っていく。


上空では、偵察用の小型浮艇や資材運搬用の大型輸送浮艇が、四足の下部から青白い光を吐きながら飛び回っていた。


そして、それらが対する北方には、低い陽に照らされて灰色に光るセラン(台郭)の群れがあった。

ヤイダ要塞は、嘗て”前哨基地”に行くまでの奴隷馬車の中から見たものよりも、かなり大きく見えた。

その時よりも近づいているのだから当たり前であるが。

掃除が全くなされていない薄汚れた台郭の不気味さが、異物感が、近づいてみると一層よく感じられた。


「ここにいらっしゃいましたか。」


背後から、ディエルの声がした。


「何だ。」

「いえ...全軍、約3万7千。着到致しまして御座います。」

「結構。では、各軍団兵は哨戒任務のみを継続の上待機し、募兵は引き続き陣地構築に当たらせよ。」

「ははっ。」


遠方の指揮官にも霊信機を通じて命令が伝達され、軍陣の各所で合図の笛が吹かれた。


アールンは身を翻し、近くに控えていたアルアータを伴って本陣の天幕に入っていった。

広く薄暗い王子専用の天幕には誰もおらず、二人きりになった所でアルアータが意を決したように口を開いた。


「...殿下。」


その声に、アールンは冷たい目で振り返った。


「殿下は、タナオードとの戦争を望まれておられるのですか。」

「...前に言ったではないか。これは講和のための戦だ。」

「しかし、これは挑発行為とも...!」


そう言ったアルアータの肩を、アールンは唐突にがしっと両手で掴み、力任せに彼女の身体を天幕の中央、大黒柱に押し付けた。


「なッ...!?」


突然の出来事に少女は思わず怯んでアールンを一瞬睨むが、彼は肩を掴む手の力を緩めつつ、アルアータの身体を挟んで柱に寄り掛かりながらその耳元でこう囁いた。


「そんな顔しないでくれ。俺にはもうあんたしか居ないんだ。」


至近距離から離れると、アルアータの少し紅潮した顔が目に入ってきた。


これで、この者は大丈夫か。

アールンは笑顔を顔に貼り付けて、言葉を継いだ。


「あんたに頼みたいことがある。重要なことなんだが...。」





戦陣の最前線に、随伴兵と一個百人隊の戦列に守られた”戦闘艇”が姿を現した。


ヴァ・ドー(撃て)。」と、アールンは右手をヤイダ要塞へ向けた。


青白い光条、轟音、暫くして弱い空振。

ヤイダ要塞の灰色の台郭の城壁の足元の一角から、土煙が上がっていた。




―サンダ暦620年、タル=タルシンス(大寒ノ上)(12月)の18日。ヤイダ要塞の戦い、開戦。


「続けよ。」


戦闘艇は、先程攻撃した地点の近くに三度砲撃を加え、城壁はゴゴゴという音を立てて崩壊を始めた。


それを確認すると、戦闘艇は照準を修正し、今度は要塞の南城門部分に向けて射撃を始め、その部分を崩落させた。

これで、城内の敵は簡単には出てこられなくなる。


「”ケルーケン(飛行部隊)”を出せ。地上の諸軍も前進せよ。」


城門の封鎖を確認すると、アールンは再び命じた。


「了解!『飛行部隊、出撃せよ!!』」


それを受け、通信兵が小型霊信機に叫んだ。




馬に乗った伝令が、並んだ長槍の目立つ戦列の間を駆け巡る。


前進(セーーーーーチ)!!!!前進(セーーーーーチ)!!!!」


伝令の叫び声にも似た合図を受け、諸軍団の戦列の最後尾にいる楽隊が軍笛や軍鼓、トレイファラン(革紐で肩に掛けて使うサンダの竪琴)を奏で始めた。

楽隊は行進のリズムを戦列全体に共有し、それを受けて左右2つの戦列の中間に立つ隊長が部隊を先導する。


ドー(撃て)!、アー(突き破れ)!!」

『ドー!、アー!!』

グラータ(轢き潰せ)!、ツェレ(征伐せよ)!!」

『グラータ!、ツェレ!!』

タロント(万歳)!、サンダ!!」

『タロント!、サンダ!!』

「ヴォウ!、ハッ!!、ヴォウ!、ハッ!!」

『ヴォウ!、ハッ!!、ヴォウ!、ハッ!!』


隊長の掛け声に合わせ、先頭に霊気銃兵の二列、その後方に長槍兵の列を並べ、それらの後ろには槍→銃の順にもう一組の片側合計六列、左右合計十二列、約130人の混成歩兵戦列が歌いながら悠然と進んでいった。


地上の部隊数は50個。兵の総数にして約7千人。

ヤイダに集結した全戦闘要員の約半数が荒野を進む、その頭上に数多の輸送浮艇の影が差した。


浮艇の群れは地上の戦列を追い越し、要塞の台郭の屋上部に強行着陸し、後背の広い出口を開放して内部に詰まっていた大量の銃兵達を次々に吐き出しはじめた。


「行け行け行け!!!」

「掃除の時間だ!!!魔物どもを根絶やしにしてやれ!!!」


銃兵の後からは、輸送艇内に備えつけられていた長槍を取った槍兵も順次戦線に現れ、ここでも銃と槍の混成方陣を形成していった。


「グギャア!?」

「グオオオオ!!」


突然の強襲に対し、城の上部に居た魔物達は必死に武器を取って抵抗を試みるが、それも空しく次々に霊気弾や槍の穂先に貫かれていった。


「その調子だぞお前らァ!!」


乱戦の中で、ヴェラードは周囲の兵士達をそう鼓舞した。

彼はこの強襲部隊、”ケルーケン(飛行部隊)”の隊長に抜擢されていた。

作戦の成否を左右する大役であるが、その一方でマイエン麾下で反乱に加担したこともあり、彼にとってこの場は禊の場でもあるように思われたのだった。


「隊長!敵の増援です!!」

「怯むな!!追い返せ!!!」


階下に繋がる階段から魔物の援軍が現れ、戦場は混沌の度合いを増していった。


しかし、この場にいるのは元精鋭の第一軍団構成兵が多く、立ち向かう敵が多少増えたところでどうということはない者達だ。

反乱事件を経て解体された第1軍団であるが、それを機に編成されたサンダ的な浮艇専門兵科軍団である”ケルーケン《飛行部隊》”にその多くがそのまま移動となったことで、第六軍団のような離散は免れたのだった。


そして、ヴェラードは実質的に第一軍団の後継者となったというわけだが、今の彼を悩ませているのはその重圧ではない。


(あの人、大丈夫か...?)


戦場の一角に、桃色の光の壁が現れた。





ソーラは敵味方入り乱れる中を、細身の長剣を振るって積極的に前に出て、時に光の壁を展開して強襲部隊の兵達を守りつつセラン(台郭)の上の敵を着実に掃討していった。


ヴォーダール(山羊)の突き出してきた粗削りの木槍を叩き斬り、それによって生まれた僅かな隙を付いて喉元を一突きにし、すぐに剣を引き抜くと死亡の確認もそこそこに次の標的に向かっていく。


(前線で戦う姿を見せれば、あるいは...!)


素早く舞うように戦場を駆け巡る彼女の頭にあったのは、その一点のみであった。


「何らかの、誠意って言うと聞こえは悪いけど...君は一人じゃないよーって示せれば、なにか変わるんじゃないかな...。多分、それが出来るのは君しか居ないよ。今のところね。」


ヤートルの別れ際の助言は、ソーラの耳にずっとこびりつき、彼女はそれを示す機会をずっと伺っていた。

そして、それは今かもしれない。勝手に前線に出たことは、恐らく彼はいい顔はしないだろう。しかし、それでも彼の心の壁を崩すための契機ぐらいにはなるかもしれないのだ。


(貴方達は、私の禊の(にえ)。)


ソーラは目の前に立ち塞がる魔物たちを冷徹な目で睨み、剣を中段に構えて走り出した。





「殿下!!従者様が!!!」


アルアータが息せき切ってする報告を、アールンは無表情に聞いていた。


「...まあいい。通信班を通じて現地の将に伝えろ。くれぐれも死なないよう見張っておけ、とな。」


アールンは一息ついて、戦場に目を戻した。


「出てきたな...。」


目線の先、ヤイダ要塞の東面から、魔物の軍勢が土煙を上げながら地上部隊に迫ってきた。

当然ながら、要塞の出入口は南側だけにあるのではない。

大軍が通れるような大きい入口は、関所としての機能が主であるヤイダ要塞では南北の二門ある。無事な方から、遠回りして出てきたのだろう。


(もとより平地戦は織り込み済みだ。むしろ、こっちが要塞に侵入する前に間に合って良かった。)


崩れた城壁を登り始めてから襲われては一溜まりもない。下手すれば、上からくる城内の魔物と挟み撃ちに遭う可能性だってある。


(さあ、力を見せてみろ。)


50個に分かれた7千の戦列は、迫りくる敵を認識すると各隊長の号令一下に敵に向かい、戦列同士の距離を縮めて一つの大きな壁となった。

各戦列の後方三列は若干後退しつつ長槍部隊を最後方に下げ、2つ目の戦列を構築した。


「槍!!構え!!!!」


魔物が迫ってくると、前側三列の最後方の長槍兵が、槍の石突を地面についた状態で固定し、そのまま穂先を低くして構えた。

長さにして半ラールと5ラム(4,5メートル)以上もある長槍を揃えて構えたならば、そうしているだけで突撃してきた不注意な敵が勝手に串刺しになる。少なくとも、彼らの訓練ではそう言われていた。


武術に通じていない者の多いハニスカでは、このように戦闘の初心者でも取り敢えず敵と渡り合えるような集団戦術が多用されているのだった。


しかし、槍はあくまで戦列を守る盾である。


「前列!構え!!引き付け......ドー(撃て)!!!!」


各隊長が叫び、戦列の”剣”にあたる前二列の何百もの霊気銃兵の得物が、同時に青白い光条を吹いた。

逃れるすべのない霊気弾の槍衾は、陽光に照らされていた昼間の平原を青白い光で塗り替え、魔軍の最前線は瞬く間に刈り取られた。


その様子は、アールンの居る本陣にまでよく見えるものであった。


(初撃は十分か...。)


「前列、伏せ!後列、構え!!撃て!!!」


霊気銃の装弾数は五発ほど。それらを前列が撃ち終わると、20秒ほどの無防備な弾倉交換の時間が挟まる。その隙をカバーするため、銃列は前後に分かれて交互に絶え間なく射撃を行っていくのだ。


「グギャアア!?」

「グォ、グォ!!!!」


しかし、魔軍もやられてばかりではない。


タルホルン(大盾)、来ます!!!」

「クソッ...やはり来たか...!狼狽えるな!!!!長槍兵、後退!銃兵両列、斉射用意!!!第二戦列!抜けてくる魔物に注意しろ!!!」


土煙の向こうから、若干歪な長方形の大盾の群れが現れた。

強靭な防御力を持つ魔物である”タルホルン(大盾)”には、生半可な槍や霊気弾の攻撃は効果がない。

その大盾を破るためには、敢えて近距離まで引き付けてから最大火力を叩き込むしかない。


しかし、それはタルホルン()()も寄せ付けてしまう諸刃の剣である。


槍衾が後退したところで、タルホルンの盾の間からヴォーダール(山羊)達が飛び出し、槍衾を越えんと跳び上がり、戦列に肉薄してきた。


「うわあああ!!!」

「く、来るなぁ!!!!」


槍兵達は恐怖にかられて槍を上方に向け、飛んできた魔物を刺し貫こうとしてしまうが、今度は浮き上がった穂先の下をくぐり抜け、低姿勢で走り込んできた魔物達が銃兵達に襲いかかる。


「ひいい!!!グアッ!?」

「ぎゃあああ!!!!!」

「おいっ槍上げんじゃねえッ!ガハッ!!」


銃兵達も霊気銃を乱射して最後の抵抗を試みるが、もとより近距離の白兵戦には向かぬ武器である。戦列の兵士達は次々に喉を裂かれ、腹を剣で貫かれ、戦場は瞬く間に阿鼻叫喚の惨状を見せた。


「...ふむ...やはり押されているな。偵察浮艇を出せ。戦列を援護させよ。」


本陣からその様子を見ていたアールンは、声色一つ変えずそう命じた。


アールンの命令で、尾羽の長い小鳥のような見た目の5機の小型偵察用浮艇が発進する。

この浮艇には側面に高出力の霊気機銃の銃座が存在し、魔物の攻撃の届かぬ高度から一方的に殲滅できる、ハニスカ軍団の虎の子であった。


彼らはその期待を裏切ることはなく、地獄の様相を呈する戦場に飛来するや、居並ぶタルホルン(大盾)含む一帯の魔物に機銃掃射を加えていき、その戦力を確実に削いでいった。


「空中援護だ!!!」

「お前ら、立て直せ!!!進撃だ!!!」


心強い味方の到来に、地上の戦列の戦意も幾分か回復したのか、彼らは立ち上がって霊気銃の交代斉射を再開した。





その頃、ヤイダ要塞内部の通路でも、強襲部隊と魔物との間で激しい白兵戦が行われていた。

その先頭に立つソーラの顔にも、徐々に疲労の色が浮かんできていた。


「おい!!従者様は後ろ下がったほうが...!」

「まだ行けます!!」


飛んできた槍を光の壁で防ぎつつ、彼女は背後のヴェラードの声にそう叫び返した。


その後、側に倒れている味方兵の死体が抱えている霊気銃を拝借し、見様見真似で乱射する。光弾は狭い通路内で隠れる場所の無い哀れな魔物達に次々命中し、魔物達は力なく倒れていった。


霊気弾の装填数は5発ほどと聞いていたが、彼女の撃つ時は何故か霊気弾倉の減りが遅く、彼女は一つの弾倉につき10〜15発ほどの弾を放つことが出来た。


仕組みはわからないが、今はそれを考えている暇はない。


弾倉を使い切ると、彼女は再装填すること無くその場に銃を捨て置き、再び剣を抜いて残敵の掃討に移った。


斬り、躱し、斬り、防ぎ、斬る。そして通路内に動きのある敵が居なくなると、彼女は手近な敵の死骸に剣を突き立て、空いた右腕で額の汗を拭った。


(あんな無理することねえだろうに...。)


ソーラの鬼神のような戦いぶりを目の当たりにしたヴェラードは、心のなかで心配そうに独り言ちた。


その時、通信兵が彼のもとに駆け寄ってきた。


「殿下からの命令です。くれぐれも、従者様を...死なせぬように、と。」

「了解。あのぶんじゃ、死にそうにはないがなぁ。まあ、一応見守っておくとするか。...っとと。」


ヴェラードが伝令と話している間にも、ソーラは剣を引き抜いて再び何処かへ行こうとしたので、彼も慌ててその後を追っていった。




「ヴォオオオ、ウオオオオオオオオオオオオ!!!!」


要塞内部の薄暗い大広間の中で、三叉の頭を持つ巨大な蛇のような魔物が雄叫びを上げた。


「ッ、あれは!?」

「知らん!!未知の魔物だ!!!」


それに相対するソーラとヴェラード達は、突然の強敵の出現に思わず目を見開いて後ずさりつつ、各々剣や槍、銃を構えた。


「!」


ソーラは魔物の背中のある一点から天井に向かって掠れつつ伸びる赤い光線を発見した。


「あの光...きっと、この魔物は要塞の中枢です!」

「分かった!聞いたかお前ら!!こいつの首を取りゃあ功一等だ!!3つあるから3人までいけるなァ!早いもの勝ちだぞォ!!」

「オオオオオオ!!」


ヴェラードの鼓舞に、兵士達は奮い立った。


三つ首の大蛇はその巨体に見合わぬ俊敏さで体を捻り、尻尾で薙ぎ払ってきた。


「くう...!」


ソーラは光壁を展開するが、尻尾の圧力は桁違いであり、桃色の壁はあっという間に亀裂が入り、破壊されてしまった。


それでも尻尾の勢いは止まらず、その後ろに居たソーラはじめハニスカ軍は、鉄の鞭ような硬い尻尾に打ち据えられ、散り散りにふっとばされてしまった。


血を吐きながら壁に激突する中で、それでもソーラは諦めなかった。

落下中に壁を足蹴にして蛇に飛びかかり、3つの首の生えている腹付近にしがみついて背中に這い上がり、首の一つの根元に剣を突き立てた。


しかし、その剣先はガキィンという音を立てて弾かれてしまった。


「硬...!?きゃっ!?」


蛇は身体をのたうち、ソーラは跳ね飛ばされて再び石の壁面に激突してしまった。

壁に亀裂が入り、呻いた彼女の口に塵が入る。


「まだだ...!」


それでも、彼女は剣を支えにして立ち上がった。脚は笑いだし、視界は霞んでいる。


「おい、お前ら何ボーっとしてんだ!!撃て!撃て!」


回復したヴェラードと兵士達が、次々に霊気銃を発砲する。


「ま、待って...!」


ソーラは掠れ声で注意を促そうとするが、彼らの耳には届かない。そして、彼らの攻撃もまた、蛇の硬い鱗を突き破ることはなかった。


蛇はうんざりしたような顔をして、頭の一つを兵達に向けてもたげ、その一人に噛みついて高々と咥え上げた。


「ぎゃああああ、離せ!離せェ!!!」


悲痛な叫びを上げる兵士を、ソーラとヴェラード達は呆然と見つめていた。


恐慌状態の兵士を咥えたまま蛇はその頭を思いっきり左右に振り、兵士の身体はその遠心力に負けて腰を境に真っ二つにちぎれ、下半身は明後日の方向に飛んでいった。


蛇が「残り」をペッと口から吐き出したとき、ソーラの中で何かが弾けた。


再び震える脚を押して走り出した彼女は、余力をほぼ総動員して右手に力を込め、ある「形」を頭の中に構築した。


刹那、彼女の直ぐ横から長大な”光の鎖”が現れた。

右手で生み出す光の物体は、その形が複雑になればなるほど形成が難しく、代償も大きい。

鎖のような物体を生み出せたのは、殆ど奇跡と言って良いのだ。


「ぐうっ...!」


耳元から金槌で打たれたような激しい頭痛に耐えながら、彼女は巨大な鎖を蛇の頭に巻き付かせた。


「おお...!」


ヴェラード達は、その現実離れした聖なる光景に感嘆の声を漏らした。

しかし、それを操っている当の本人に目を向けると、その歓喜はすぐに心配に取って代わられた。


ソーラは歯を食いしばりながら、光の鎖で蛇の首達を纏めて締め上げていた。


「切れろッ...!!」


薄れかかった視界の中で、彼女は鎖の金具一個一個が鋭い刃になるというような、””想像””をした。

普通なら想像もつかないような突飛なもので、具体的なイメージなどは何も無かったが、それでも右手の能力はそれに応えてくれた。


光の鎖は平たく変化し、その先端は鋭さを増していった。


その鎖の刃は蛇の束ねられた三ッ首を締め上げ、徐々に硬い鱗にめり込んでいく。

そして、光の刃が内側の柔らかい肉に辿り着き、蛇の巨大な首たちを斬り落とした時、彼女の意識は、張り詰めた縄が音を立てて千切れるようにバチンと途切れ、視界は暗転した。





ヤイダ要塞は陥落した。


アールンは軍兵の歓呼の中に応えつつ入城するとすぐに、要塞内の魔物の死体を運び出させ、東の城外に城壁の高さの半分ほどもある京観を築いた。


うず高く積まれた死体の櫓の前には、三ッ首の蛇の首級が並べられ、城壁の上の兵士達の間では、それらに向かって石礫を投げ当てる遊びが流行っているようであった。


空には、死肉を啄もうと伺っているカラスの群れが、騒ぎながら飛び回っている。


「まだ、掃除は終わっちゃいない。」


次は、お前らの番だ。城壁に近い楼閣の上からそれらを眺めながら、アールンはぼそりと呟いた。



サンダ語の「命令形」には、強調命令の接頭詞「ヴァ」が付いたものと、動詞だけを言うものの二種類が存在します。

基本的には前者のほうがより「上から」度が強いですが、稀に単なる強調のために使われることもあり、必ずしも「ヴァ」を使う奴が全員上から目線とは限りません。


今回のアールンさんの「ヴァ・ドー(撃て)」はオーソドックスな使い方です。

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