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青炎紀  作者: 二十二郎
〈1〉破魔之役:紅玉の従者
3/18

2 レーウィ〈同志〉

アールンたちがペルオシー入りした翌週のこと、ついにこの街に集結した、号して1万4千に登るというレーウィ(同志)たちはペルオシー中心部の閲兵場に召集された。


ヘイローダ(抵抗衆)の橙色地に濃い緑の模様の入った幟旗が風にそよぐ広場で、前に会ったハルマラン大尉とは似ても似つかないような高圧的な(なにがし)とか言うエブンフェーン(尉官)の訓示を一通り聞いた後、軍団編成が始まった。


幾らそれぞれに多少の戦闘経験があるとはいえ、全体の命令系統が整っていなければ単なる烏合の衆である。

それはレーウィ部隊としても同じことで、出征前には多少なりとも部隊を編成し、指揮系統を整理しなければならない。


彼らは1軍団につき3千名強程で構成される4つの軍団、次いでその軍団内で7〜8個の五百人隊、最後にその部隊内で4〜5個の百人隊の三段階に編成された。


騎兵や弓兵、後方支援など、各軍団に予定された職掌は事前に明らかになっていたので、馬を持つアールンは騎馬軍団であるタックエンディーケン(騎兵部隊)、コアルたち3人組は後方支援軍団であるトナーケン(予備部隊)に分かれ、それぞれの軍団毎に整列した。


(こっからは、彼らを信じるしか無いな。)


いざ整列してみると、4軍団の中で一番少数なのはアールンの居る騎兵部隊であるのがよく分かった。


(そりゃそうだ、馬も高いからなあ...。)


アールンは周囲をきょろきょろと見回しながらそう思う。

馬は、金がかかる。

値段もそうだし、飼育のための餌代だって馬鹿にならない。

そもそも馬は戦争の主戦力、貴重な軍事物資であり、余ったから安く市場に出回るなんていうことはまず無いといっていい。

普通は村で1頭、都市でも近隣住民間で共有するために皆で金を出し合って買うものであり、個人所有で好き勝手できる類のものではないのだ。


それでも彼の場合は幼い頃に、普段は柔和な母が「あなたは馬に乗れるようになっておいたほうがいい。」と頑なに言って、どこから出てきたのか分からない大金をその場で支払って購入したのだった。

当時でも、そんな金があるのなら少しでも生活の足しにしたほうがいいのにとも思ったが、ともあれ彼は貰った栗毛の馬にクルキャス(光る目)と名付け大事に世話をし、時々近くの山野を駆け巡って騎乗の練習もしていた。

賊がガーテローに攻め寄せたときは、貴重な騎兵戦力としてありがたがられたので、母の言っていたことも少し理解できたような気がした。


しかし、彼の周りに居るのは、金銀の留め具付きの豪華な外套や汚れの少ない長衣を纏う、いかにも金持ちそうな者ばかりだ。この場においてはレーウィ(同志)として皆平等だが、彼らの出自はアールンのそれとは比べ物にならないくらい裕福な、豪族や商家か何かで、個人用の馬を購入することぐらい造作もないのだろう。


だが、金持ちのボンボンと侮るなかれ。


ヘイローダ(抵抗衆)の正規軍に入っていないとはいえ、彼らのような者たちは幼い頃から武芸や馬術などを含む多くの家庭教師をつけられ、戦技をその身に染みつけている者も多い。

暖衣飽食の恵まれた暮らしではあるが、見方を変えれば、良いものを食い、幼い頃からしっかり鍛錬を積んできている連中というわけだ。


だから、いくら彼らとは違い、厳しい下々の世界を生きてきた者であっても意外と彼らに勝てないことも多い。なんとも世知辛い話だが。

実際、アールンの周りの者達は彼よりも体格が良い者ばかりだ。


(まあ、彼らにとっては今まで鍛えた成果を示す絶好の機会なんだろうなぁ...。)


自信たっぷりな様子の戦場の花形たちを見ながら、心の中で彼はそう独り言ちた。


「あー、我はこのタックエンディーケン(騎兵部隊)の指揮を執ることとなったぁ、オンクアネシェラエン(左面監軍)のウルエン=タルエールである。君たちはぁ、えー、先程右尉殿からもあった通りぃ、全身全霊をもって事にあたりぃ、且つ命令はきちんと守ること。以上。」


なんだなんだ、こんどはえらくやる気のないやつが来たな。

レーウィたちは声を静めてそう言い合う。

アールンも眉を顰める。


(本音は後ろの方だけだろ。)


この若い男、正確な位階は知らないが監軍(シェラエン)ということはそれなりに軍内では高位の者なのだろう。


大方、総大将麾下のルムオロクエンダ(側護軍)の本軍で活躍して将軍たちの目に留まり、功績評判共に十分でさらなる高みへ昇りたかったに違いない。それが、主力の騎兵とはいえ徴募兵部隊の指揮に回されてしまったのだ。

貧乏くじを引かされた、という忸怩たる思いと、別にこの忌々しい寄せ集め共に特段期待してはいないので、命令違反だけしてくれなければ良いという消極的な思いとがひしひしと伝わってくる。

舐められていると感じて、アールンの心に小さな火が着いた。


(戦でこいつより軍功を上げて、それで側護軍に売り込んでやろうか。こっちはあのハルマランさんっていう強い縁故があるんだから、うまくいきゃ結構上まで行けるんじゃないか?)


まあ、あの人が具体的にどんな地位なのかはよく分かっていないが。

彼は小さくため息をついた。



数時の後、1万4千名のレーウィ(同志)の4軍団はペルオシーを発ち、一路ワンデミードの南の出入り口であるチロン関に向かって進軍を始めた。


「進軍」とはいってもあくまで徴募兵の集団を関所に移動させるだけであり、街中や道中の小村の中を通るときだけは整列させられたが、それ以外の場所では列を崩し喋りながら歩いても何も言われなかった。軍団の垣根を越えてコアル達に会いに行くことは流石に許されなかったが。


磯の香りの混じった海からの風を頬に受けながら、兵列は海沿いに造られた街道を進む。

他の多くの者は友人と共に志願しているらしく、彼らは仲間内で話しながら馬を進めているが、アールンはタックエンディーケン(騎兵部隊)内には特に知り合いもいないので、クルキャスの上でぼーっと西のかた黒みがかった青色の波立つ海を眺めていた。


北の海は暗いが、南の海は目が覚めるように明るいらしい。


とはいっても、その「明るい」というのは母から教わっただけで、実際それがどういうものなのかは彼はよく知らない。


(あー...そういえば例の、誰だっけ、デインだ。その知り合い探すの忘れてたなあ...。申し訳ねえ...。)


唐突に、彼はその大事な約束を思い出した。

騎兵部隊内にいれば良いのだが。チロン関に着いた後に探しても良いが、できれば戦いの始まる前には伝えておきたい。

今になって、もっと外見とか色々聞いておけばよかったと、彼は後悔し始めた。言わないデインも大概だとは思うが、この1万4千名のレーウィ全員に「あなたはカートさんですか??」などと聞いて回る羽目になるかもしれないのだ。


(...まあいっか。)


しょうがない。裏切るのも忍びないが、無理なものは無理だ。

そう諦めようとした瞬間に、背後から呼び声がした。


「おーい、そこな人。」


声のした方へ振り返ると、その主は坊主頭で背中に剣と、何やら珍妙な仕掛けのついた弓を背負った奇妙な男だった。


「...?」


無言で自分に向かって指を指し、(俺のこと?)と確認を取る仕草をすると、その男はブンブンと勢いよく首肯した。


「えっと...どうかしました?」


訝しげにそう問うと、男は慌てて


「あっ、そんな大した話はねえんだけどよ、周りがみんな話してっから、俺もその...誰かと話してえなって...。あんたも何と言うか...暇そうだったから。」


と、もじもじしながら言った。


「はあ、話...。」


確かに、アールンも男と同じ、所謂「ぼっち」である。

だからといって、初対面で急に来られてできる話などそう多くない。


(困ったな...とりあえず名前でも聞いてみるか。)


「あんた、名前は?」

「え?お、おう、俺はカートってんだ。カート=エスウェル。よろしくな!」

「カート...え、カート!?お前、もしかしてデイン=クーレンの知り合いのカートか!?」

「えっ?確かにそうだけどよ...なんであんたがデインの兄貴知ってんだ...?」


なんという僥倖。これで恥を忍んで1万4千のレーウィ(同志)達一人ひとりに聞いて回る必要がなくなったのだ。


「ペルオシーに着く前にそいつと会ったんだ。そしたら、あんたに伝えて欲しいことがあるって言われてさ。」

「まじで?兄貴が...?」


アールンはカートの隣まで馬を寄せ、あの時のデインを思い出しながら言った。


「『落ち着いて、頑張ってこいよ。』と。あいつ、あんたのこと気にかけてるんだな。」


それを聞くと、カートは途端に目を潤ませ、それを隠すように右手で目をこすりながら鼻をすすって笑った。


「くっそお、そんな事言われたら、やるしかねえじゃんか...!」

「戦が始まる前に伝えられて良かった。あんたの見た目とかデインに聞くの忘れてたから。」

「おう、ありがとよ...。あんたは、なんていうんだ?」

「俺はアールンだ。姓は知らない。」

「そう、アールンか。兄貴の知り合いに、悪いやつはあんまり居ねえ。まともなやつもあんまり居ねえけどな。改めて、これから一緒に頑張ろうぜっ!」


そう言って、カートは馬上からアールンと肩を組もうとした。


「うおっととと。」


案の定体勢を崩すカートに、アールンは呆れつつもその体を支えようとした。

しかし、腐ってもデインの仕事仲間だ。がっしりずっしりとした体格は、とても馬上からではアールンの持ち上げきれるものでもなく、ふたりはもつれ合って馬から落ちた。


「ぐえ。」

「ぎゃあ。」


ドシンという音を立てて落馬し、情けない声を上げる二人。周囲の他のレーウィたちの何事かとこちらを見る視線が痛かった。



もうすぐチロン関に着くかというところで日没となり、軍団は街道上で野営を行った。


支給された飼葉と桶に汲んだ水をクルキャスに与えた後、同じく支給されたトレイギャド(甘じょっぱい蒸しパンのようなもの)を頬張りながら、アールンは相変わらずカートと小さな焚き火を前に話していた。


「そういえば、今更だがその背中の弓...なんだか面白い形してるよな。」


ふと、彼はカートの持つ珍妙なしかけの付いた弓が気になった。


「ああ、これかぁ...。」


丸刈り頭の青年は何故か微妙そうな顔をして弓をとる。


「これ、”巻狩の弓”つって、遥か南方の大陸の、ゆうぼくみん?って人たちが使ってるやつらしいんだけどな。実はこれ...市場を歩いてたときに変な商人に掴まされちゃってさ。」

「ああ、悪徳商人に掴まされたクチか。まあ、災難だが...変な壺とか買わされるよりはマシなんじゃないか?一応武器だし。」

「でもさ〜、この弓引きやすくて威力も高いのは良いんだけど、こうも複雑な構造してると整備が大変なんだよな...。」


なるほど確かに、弓弦が2本交差してるのと一番外側に1本の計3本もあり、弓の両端に付いている滑車も妙な形をしているので、壊れたら直すのは大変そうだ。


「そのせいか、売れ残ってたらしくて。在庫処分に躍起になってなりふり構わなくなった商人のおっさんにすごい勢いで迫られて、仕方なくな。矢と矢筒も併せて買ったからかなりの出費になっちったよ。」


カートは苦笑いする。もともとのレーウィ(同志)としての俸給だけでなく、戦で功を立てれば報奨金も出るから多少は出費の元も取れるかもしれないが、本当に大丈夫なのだろうか。


「ちょっとその弓引かせてもらってもいいか?」

「良いけどよお、壊すんじゃねえぜ?やったら徹夜で直すの手伝ってもらうからな。」

「分かってるって。」


異なる素材を組み合わせて造られている”巻狩の弓”を手に取り、矢はつがえずに一番外側の弦を引いてみた。


「おお。へえ、最初は強く引かなきゃだけど、途中から一気に軽くなるな。不思議だ。」


弦から手を離さずにゆっくりと戻し、カートに弓を返しつつそう感想を述べた。


「こいつを使う民は、5歳の頃からこれを引けるようになるらしいぜ。」

「へえ、確かにこれなら膂力が足りない幼子でも何とかなりそうだ。」


そんなことを話している内に、目の前の焚き火のパチパチという音に混じって、辺りからは徐々に寝息が聞こえてくるようになった。


「そろそろ寝ねえと、明日が辛くなるな。」

「そうだなぁ。明日はチロン関か。」


戦がどうなるのかは分からない。まだ見ぬ総大将はどんなやつなのかも分からない。

しかしアールンの心の中にはさほどの不安感は無かった。



南から吹いてくる夜風の中には、行軍中に感じた磯の香りはしない。


代わりに、峠の坂道を覆うように造られたセラン(台郭)の縁に立ち、柵にもたれかかって感じられるその風は、死の匂いがするようであった。


(この向こうは、魔物の地...。)


今、彼はワンデミード半島の出入り口を守護するチロン関に居た。

この城塞の先、”エーダ半島”と呼ばれる大サンダ半島の北半分は、混沌とした魔の世界となっているそうだ。


かつてのサンダ王国軍の要塞は魔物の根城となり、その他にも複数の都市では有力者が軍閥を形成し、とても一致団結して魔物の脅威に対処することは叶わないらしい。

かく言うヘイローダもその軍閥のひとつではあるのだが。


彼は1つため息をつく。


このチロン関は、そうした南の混乱がこのワンデミード半島に波及するのを防ぐ防波堤として築かれた要塞だ。


この関所は、関所とはいっても、峠を塞ぐようにして造られた土盛りの高台を外側に張り出した白亜の壁で覆ったセラン(台郭)を持つ、楼閣付きの立派な城である。


伝統的なサンダ様式の城郭の外壁は大きく二層に分かれる構造になっている。

彼の居る、外側に張り出した屋上部のひとつ下は列柱廊のような空間になっていて、多くの警備兵はそちらを巡回している。そのためか屋上部には篝火こそ焚かれているものの警備兵は10ラール(約60メートル)間隔に一人ぐらいしかおらず、落ち着いた雰囲気なので、彼のお気に入りの場所だった。


早めの夕食の配給の後、眠気覚ましに冷たい夜風に吹かれていたとき、関の中心部の方から何やら騒がしい声がやおら聞こえてきた。

喧嘩の騒ぎかとも考えたが、囃し立てるような声は聞こえてこないので、彼はざわめきの正体が気になり、声のする方へ歩いていった。



兵糧庫の脇の狭い道は兵たちでごった返していた。その混雑を抜けると、ざわめきの正体である人垣が現れた。


人垣はどうやら関の北門から中央の楼閣へ向かう大道の両側を埋め尽くすようにできているらしい。

しかし、誰も道の真ん中に出ようとはしない。


(誰か通るのか...?)


運のいいことに近くにコアルたちの姿を見つけ、彼は3人の方に駆け寄った。


「誰か来るのか。」

「アールンは聞いてないの?いよいよ本軍、総大将とヘイローダの(抵抗衆)のお偉方がお出ましになるんだよ。」

「なるほど、それでこの野次馬か。」



程なくして、橙地に深緑文様の幟旗二組を先頭に、レーウィ(同志)のそれとは比べ物にならないほど整然として、軍装も統一された軍団が行進してきた。

先ず長槍を携えた歩兵軍団の隊列。次に頭まで流線型の金属製の鎧兜で覆い、短槍や長剣を携えた重装騎兵軍団が続く。そして...。


「だんだん装備が豪華になってきたな。お!あの人は...!」


騎馬軍団の遥か後方に、アールンは見知った初老の武人を見つけた。


「え?あの人が...。」

「ええ?冗談だろ。」

「へえ...。」


隣のコアル達も何かに気づいたようだが、アールンの見てるものとはなにか違うようだった。

老武人はどんどん近づいてくる。もしかしたらと思って手を振ってみると、意外にもカイローは彼の前で隊列を抜け、馬を降りた。

老人が止まったことで、兵の列の進む速度もゆっくりになる。

突然の出来事にコアルたち含めた左右がざわつくが、老武人は気にせず気さくに話しかけてきた。


「また会ったな、若人よ。」

「ええ...?まさかそこまでしてくれずとも...。お久しぶりです。大尉殿。」


兵営で会ったときも十分立派な格好をしていたが、いまは銀と名前はわからないが青い宝石が嵌め込まれた鎧を着込み、一段と立派な印象である。


「いやいや、恩人相手に馬上から話しかけるほど、儂も腐ってはおらんのでの。我が孫の命の恩人の活躍、期待しておるぞ?」


そう言って、老人は笑った。


「はは、とんでもないことで...。」


アールンもそれにつられるが、周りからの視線も痛く、引き攣った笑いしか出なかった。


「何をしているのですか?ハルマラン。」


そのとき、老将の背後からそう、澄んだ声が飛んできた。

声の主の方をみると、それは何と...。


女の子であった。


いや、多分ミーカよりは歳上だろうから、女性と言うべきか。それでも、アールンよりは年下であろう。

雲のない漆黒の夜空を写し取ったかよのうな黒髪のなかには、端正な顔が覗いている。

一瞬、美貌が優れ声が高いだけの少年の筋を疑ったが、違う。あれは確かに女子だ。


「ああ、ソーラ様、いや大将殿。申し訳ありません。旧知の友と会ったもので。」


そう鷹揚に返したカイローの発言に、アールンは更に驚いた。


(今、大将って言ったか!?こいつが!?)


「参謀のあなたが軍律を乱してどうするのですか?要件が終わったら早く隊列に戻りなさい。」


氷のような雰囲気の一喝に、アールンは息を呑む。


「では、健闘を祈るぞ。」


そう言って、老将は自らの位置に戻っていった。


兵の列は再び進んでゆく。


「えーと、アールン?色々聞きたいんだけど、まずあの高官様とはどういう関係なの...?」


コアル達は恐る恐るアールンに尋ねる。それに対し、彼は魔物に襲われていた少女のこと、そしてあの老将はその祖父であり、兵営に砥石を借りに行ったときに会って少し話をしたことなどをかいつまんで話した。


「すげえじゃん!ここで手柄を立ててあのじーちゃんの伝手を使えば、一気にあの大将様の側近ぐらいまで出世できるかもしれねえんだろ?」


クレールが興奮してそういうのに、ミーカははぁとため息を付いて、


「でも、あの大将様、綺麗だけど私は苦手...。」

「はは、まあ、手柄を取る前からあまり考えすぎるのも良くないけどな。」


閲兵場で自身も同じ想像をしたことは棚に上げ、アールンは彼らをたしなめた。


「おいおい、噂に聞いてたが、今度の大将殿はマジで首長様の一人娘なのかよ。流石にあの御老体じゃ新たな男の子は望むべくもねえけど、まさか女子を初陣に出すとはなぁ。あの爺さん、何が何でも首長の座を自分の子供に譲りてえみたいだな。」

「滅多なこと言うんじゃねえよ、上の耳に入ったらどうする。」


他の兵たちの方は、あの総大将の女子、確か”ソーラ”と呼ばれてたか、そちらの方が関心事のようだった。

口々に噂し合いながら、人垣は徐々にはけていく。

それに流さえるようにアールン達も解散したが、彼の心のうちに湧き上がった漠然とした不安の靄は、その後も晴れることはなかった。


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