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青炎紀  作者: 二十二郎
〈1〉破魔之役:紅玉の従者
28/57

27 混乱からの出迎え

”前哨基地”の母屋の内部の間取りは、ちょうどエーダのレーミー宅と同じような一般農家のそれであった。

こんな辺鄙な所にポツンとあったのでは農作業で色々と苦労するだろうに...と思いつつ、アールンは内部の探索を続けた。


「あ、お前ら。」


母屋の押入れの床に怪しいほど真新しい取手と蝶番を見つけ、それを持ち上げてみると、その中にはなんと奴隷狩りをしていた二人の男が隠れていた。


「ひいい、お助けを...!」

「何でもします!何でも!」


”ウノオシャヤ”と呼ばれるらしいヌアチャルテ集落で見た威勢とは打って変わり、男達は極めてへりくだった口調で、頭を守るように抱えながら必死に命乞いをした。


(むむ...殺すか...?)


これがソーラならば、まず間違いなく誅殺しようとするだろう。

だが、彼にはそれを躊躇する理由があった。


(こいつら、ヌアチャルテ語が結構上手かったよな...。)


もしかすると、彼らは蛮族達に対する外交要員として有用かもしれない。もちろん、最低限の倫理観は再教育する必要があるだろうが。

アールンは少し辺りを見回して今後の方策を練った後、男達にこう言った。


「なあ、あんたら奴隷狩りなんて悪趣味な商売やめて、俺のもとで真っ当に稼ぐ気はねえか?」

「!?」


男達は細い目を開き、意外そうにアールンを見上げた。


「真っ当に稼ぐ...?」

「そう。官僚として、な。前に”ウノオシャヤ”で見たが、あんたらは流暢な現地語でヌアチャルテ達と意思疎通を図ってたな。その技能は、彼らが森の奥に引き籠もって近隣の住民が消え失せた現状では、希少かつ大いに役に立つものだ。」


彼は笑って、押し入れの外をちらりと見た。

その様子を、2人の男達は黙って見守っている。


「まあ...他の奴らは怒りそうだが、俺としてはあんたらに”エレデーンヤーディ(輔統制使)”、或いは”リスフーグクローディ(辺境鎮撫督)”辺りの官職を与えて、現状戦乱状態にあるヌアチャルテの鎮撫・統制のためのパイプ役になってもらいたいって思っててな。奴らにそれなりに顔も通ってるあんたらなら適役だろ?」

「そ...それは願ってもないことで...しっしかし、宜しいのですか?」

「何が。」

「いえ...仮にもその...俺達はあなた様に弓引く真似したんですぜ。」


確かに、最大の懸念点...というか脛のキズはそこだろう。ソーラ達は言わずもがな。給金にしても現状はタナオードの税収のみに拠っているだけに、勝手な登用はコート達も受け入れるかどうか。


アールンはひとつ息を吐いて、口を開いた。


「平時、秩序の安定とその維持が何にも増して重要な時は、確かにあんたらの登用なんて言語道断だろうな。だが、今はそうなのか?」

「と...おっしゃいますと?」

「今の世は平時か、それとも乱世か、どっちだと思う?」

「...乱れております。」

「同感だ。そして、そういう時は使えるもんはなんでも使って”平時”を取り戻さなきゃならん訳だ。例えあんたらみたいな傷物だろうとな。」


その言葉に対し、男達はぼーっと彼の顔を見ていた。


「で、どうするんだ。受けるのか、受けないのか?どっちでも構わんが、一応言っとくと奴隷制や取引はいずれ禁止するからな。」

「じ、じゃあ、謹んでお受け致します!!」


押し入れの下の狭い空間の中で、男達は精一杯頭を下げた。


「じゃ、一先ずは一緒にハニスカについてきてもらうぞ。奴隷云々についても色々話してもらうからな。」

「は、はい!」

「あ、そうだ、あんたら名前は?」

「な、名前ですか。えーっと、オルレン、オルレン=クローシャと申します!」

「自分は...ナリャン=トーウォンと申します。」

「オルレンとナリャンだな。ラディン達にも色々謝っとくんだぞ。」

「「はい...。」」



2人を押し入れから出し、アールンは彼らを家屋の二階で「長距離霊信設備」をいじるラディン達4人に引き合わせ、彼の考えを説明した。


「ええ...?」

「まあ、何と言うか、君らしいね。」


奴隷の扱いを受けていたはずのラディンとヤートルは、意外にもすんなりとアールンの推挙を受け入れた。

ラディンは特に、出発前に檻を挟んであれだけの侮辱を受けたというのに。


「まあ...そりゃあ思うところはあるけどさ。建設的な策は嫌いじゃないから。それに、『タダ飯喰らいの専任研究者』は半分事実みたいなところあるしね。」

「あの、その件は本当に申し訳ございませんでした...。」


2人はそう言ってラディンに頭を下げた。


(こいつら本当に前のクソ野郎共と同一人物か?...それに、ラディンの方も割としっかり根に持ってはいるんだな。)


だが、それに対して...。


「まさか、冗談ですよね??」とソーラ、そして

「言語道断。今すぐ捕縛の上”ターネクタ(去頭肢)”の刑(死刑の上頭と四肢を切断して市場で晒し者にする、反逆者に対する極刑)に処すのが妥当かと。」とアルアータが、断固拒否の姿勢を見せた。


2人の剣幕に、オルレンとナリャンは恐れ慄き後ずさった。


「あんたらのその気持ちも分かるし、怒ってくれるのは本当に有り難いとも思ってる。だがな...先のことを考えると、この人材を失うのは惜しいんだ。頼む分かってくれ。」

「...本ッ当に、つくづく甘い人ですね...。」

「必罰も大事ですぞ!...ッ。」


アルアータのその先の言葉は、アールンの厳しい視線に遮られた。

あまり古傷を利用するような真似はしたくないが、彼女とてアールンの差配により、実父が同じような辱めを受けるのを免れた身である。


(すまんが、あんたはそれを言える立場には無いはずだ。)


その意を含めた視線であった。


「いずれにせよ、奴隷問題の対処には、内情を知る者の協力が不可欠だ。そういう意味でも、生かしておかなきゃならんのはそうだろ?」

「...分かりました。」

「御意。」

「分かってくれて良かったよ。それでラディン、その...”霊信”の方はどうだ?」


アールンは、目に青白い光を灯して右腕に小さな帯状の機械を巻き付け、底から伸びる管を霊信機に接続したまま黙っているラディンに遠慮がちに尋ねた。


「順調だよ。既に”調律”と”照準”の作業は終わってる。すぐにでもハニスカに霊信をかけられるよ。基本的には僕が話すけど、一応君が来るのを待ってたんだからね。」

「お、おう。すまん、じゃあ宜しく。」

「りょーかい。」


ラディンは機械に向き直り、操作を始めた。


ハーチェンフェン(専任殿)、その腕の機器は...?」


その作業の様子を覗き込んだオルレンが、ラディンの右腕の帯を見ながらそう尋ねた。


「これかい?これは”接続帯”さ。こいつで霊体に直接接続し、霊体内から霊信機に指令を送ってるんだ。」

「でも、そんな事しなくとも普通に連絡取れますが...。」

「いやいや。これ、操作規格からして二世代は前の型だろう?それじゃあ”調律”が面倒くさいし、何回も照射方向修正しなきゃいけない筈。今回は時間がないので一回の照射で通信確立したい。よって、この中の最新型で指令を出してるって訳。」


ラディンはそう言って、目元をトントンと叩いた。


「一回で確立出来るんですか!?」

「それに、頭の中に入ってる...?」


ナリャンも話に加わり、ハニスカ組の3人はワイワイと機械の前で話している。

人数的には多いはずなのに、それ以外の4人は置いていかれているような感じがした。


「これ以上はちょっと言えないかなー。まだ実証実験中だからね。ちょっと危なめの技術だし、出回るのは数カ月、場合によっては数年先かな。」

「いやー...やっぱし専任級が関わってる研究ってスゲェんですね...。」

「まあ、そこの人が援助してくれれば、もっと面白いモノを色々作れると思うんだけどな。」


ラディンはそう、これ見よがしにアールンの方を見た。


「んあ?」


耳半分で彼らの話を聞いていたアールンは、そこで唐突に自身が話題に登った事に気づき、間の抜けた返事をした。


「何でもないよ〜。じゃ、上層部に繋ぐからね。」

「おう。」

「......あ!どうも!...聞こえます?...ああ、お久しぶりですウルム卿!はい、ラディンです!はいはい生きてますって...え?年末までの報告書ですか?大丈夫ですよ、既に材料は粗方手に入れましたから、ひと月もあれば終わりますって!」


ラディンは再び黙りこくったかと思うと、次の瞬間には虚空に向かって明るく喋りだした。


相手の声が聞こえないため、アールン達”霊信見慣れない組”にとってその様子は大層不気味なものに思われた。


「......それはそうと、出先でちょっとした...いや、それどころじゃないか、結構な大事(おおごと)に巻き込まれちゃいましてね...というのも...あ、そうだ、ウルム卿は王都の高位学官だったんでしたっけ。じゃあ”アールン”という名前に聞き覚えあります?」


(...来た。)


アールンは息を呑んだ。


「......ええ、ええ。そうです。その...方が、今僕の横にいるんですよ。」


そこで、唐突にラディンは頭を仰け反らせた。聞こえないが、大声でも出されたのだろうか。


「ちょっとちょっと、そんなに驚いたら寿命来ちゃいますよ......はい、マジです。ここに来るまでにタナオードの協力を取り付け、ハニスカとの仲介としてここに来てるんです。......ああ、軍隊は居ませんから、安心して下さい。少数で来たんですよ。......今は僕が長距離設備経由で掛けてるんで彼とは話せませんが、ここは一つ信じてお迎え送ってくれません?...はい!ありがとうございます!場所は...。」


そう言った後、ラディンは暫し黙りこくり虚空を手で掻きはじめた。何か彼にしか見えていないものを操作しているらしい。


「今送ったところです。......え、危ない?まあ、位置的にはそうですね。多分ヤイダの近くですしここ。とにかく、宜しくお願いしま〜す。」


霊信を終わらせたラディンは機械の前で立ち上がり、ウンと背伸びをした。


「いや〜、長距離通信の設備って便利だねぇ。重くて嵩張るし、通信は声に出さないといけないのが厄介だけど。」

「相手は誰なんだ?」

「ウルム卿かい?あー...彼はハニスカ技研政務部のスコールナーディ(総長)...要は街のまとめ役の、温和なお爺さんさ。」

「話からすると、アールンさんの昔をご存じの方なんです?」


ソーラの問いに、ラディンは”接続帯”を外しながら頷いた。


「うん。あの人は王城に居たからね。君のお母さんや、赤子の君とは何度か顔を合わせてたらしいよ。」

「へえ...。」


遠い親戚のようで、アールンはその老人と会うのが少し楽しみになった。


「いきなり総長に直で連絡かぁ。僕なんて庁舎の入口で立ち止まっただけでも門の兵に睨まれたのに。相変わらず凄い世界だよ。」

「...あの人らは愛想がないからねぇ。」


ヤートルが感慨深げに言うのに、ラディンも苦笑いしながら答えた。




既に日は落ちたようで、うんざりするような曇天の外は霧混じりの薄闇に覆われていた。


アールンは一人母屋を出て、前庭にてススキの野原を眺めていた。

月明かりもないので、風に葉や穂を擦るススキの音が少々不気味であるが、頬を打つ冷たい風は心地よかった。


もう”タン=サーク(収穫ノ下)の月(11月)”も半ばを過ぎ、もはや秋というよりも冬である。もう数刻もすれば、この風も身を刺すような寒さになっていくだろう。


「んん、あの光は...?」


母屋から少し離れた街道上で、アールンは南の空に白い光が数個浮かんでいるのに気付いた。


「来たか...。」




その少し後、”前哨基地”の母屋の前、前庭の更に前のススキの野原を押し倒すようにして、大きくずんぐりとしたフォルムの二機の”浮艇”が着陸した。


その下部から吐き出される青白い光に、アルアータは不機嫌そうに顔を少し逸らした。

ケルパの誘拐問題。

正直に言って、アールンにとって一番危急かつ解決困難な問題はそれであった。


(これに関しては、情報を上手く流して民を懐柔するしか無いんだろうな...。)


民を謀るようで、彼はあまりその方策が好きではなかった。




”浮艇”の一機からは、長身で灰色の短髪刈り上げの男が出てきた。背後には霊気銃を装備した兵士達を従えている。


兵士達は、前庭の景色を見るや否や驚愕に目を見開いてざわつきはじめた。


前庭は例の”荒野の魔王”が荒らしたままとなっていた。つまり、奴隷商の頭目の男が使役していた、同胞であるハニスカ兵達の死体の山がそのままとなっているのだから、その反応も無理もない。


「どうも、いや...お初にお目にかかります。私はハニスカ霊力技術研究所・防衛部長のディエル=オルケールと申します。」

「初めまして。アールン=エルドーレンだ。此度の急な訪問、お許し願いたい。あとは...このような場での出迎えとなったことも。」

「いえいえ...。」


ディエルと名乗った男は、つかつかと死体の山の前まで歩いていった。


「この腕帯の紋章...やはり、第六軍団のものですか。おお、ローイまで。」

「何かあるのか?」


アールンの問いに、ディエルはある死体――奴隷商の頭目であった長衣の男のそれを乱暴に持ち上げた。


「この男が、ここの指揮をとっていましたよね?」

「そうだな。兵に射撃の号令を掛けていた。」

「...この男、ローイ=オフテル指揮下の第六軍団”レンルーン(鉄壁)”は、我々にとっても目の上のたん(こぶ)でしたが、これだけ壊滅すれば再起は無いでしょう。粛清していただき感謝致します。」


話が読めず、アールンは眉間にしわを寄せた。


「味方の壊滅を喜ぶのは、いい趣味とは言えなくないか?」

「味方...ですか。そうならばどれほど良かったか。」

「こいつらレンルーンか!道理でアコギな商売に加担してた訳だ!」


そこでラディンが納得がいったように声を上げ、元奴隷商のオルレンとナリャンは居にくそうに目を逸らした。


それに対しアールンをはじめソーラやアルアータ、内情にまではあまり詳しくないヤートルなどは、全く話についていけていなかった。


「お初にお目にかかります。私は”紅玉の従者”ソーラ=ベルハールと申します。して、レンルーン、とは?正規軍が奴隷取引を行っていたのですか?」

「ええと...話すと長くなるのですが...。」

「まあまあ、こんな所で立ち話も何だからさ、浮艇の中で僕から説明するよ。」


ラディンの提案に皆が賛成し、一行はディエル達の乗ってきた”浮艇”に乗り込んだ。

ただ、オルレンとナリャンは一行との同乗は許されず、隣の兵士用の浮艇の方に乗り込んでいった。


「おお、中はこうなってるんだな。」


”浮艇”...もとい、ラディンによれば”輸送用浮艇”というらしいその内部は、入口付近を除いて広い畳敷きの小上がりとなっており、一端の家屋の居間のような風体であった。


「これは高級仕様だけどね。向こうの一般兵向けのはもっと寒々としてるよ。」

「ふうん...。」


一行は畳に上がり、一息ついた。

暫くして、彼らの乗る浮艇はクククク...クククククククク...という聞き覚えのある音を上げ始め、じわじわと宙に浮かんだ。


「おお、凄い!飛んでますよ私達!!」

「落ちないか心配ですな...。」


ソーラとアルアータは小窓の外を覗き込んでいる。この2人も随分と打ち解けたものだ。


「こんなデカブツが空を飛ぶなんて、信じられんな。うおっ!?」

「僕も初めて見た時は同じ気持ちだったよ。うわ加速した。」

寝っ転がったヤートルと立ったまま話していたアールンは、突然の横方向への加速に思わず尻餅をついた。


「ああ、離陸時は座って手摺か何かに掴まっといた方が良いよ〜。」

「それはもっと早く言ってくれよ...!」



浮艇が安定飛行に移行すると、ラディンは満を持して現下の情勢についての説明を始めた。


先ずは前提として、ハニスカの軍制について。


”大災禍”後に王都の学官などの頭脳集団や近隣の避難民が寄り集まって形成されたハニスカに於いては、タナオードや”ヘイローダ(抵抗衆)”などのような強大な中央権力なるものは存在しなかった。

そのため、政体は政事、財務、防衛、農業、資源管理、調査など複数の職能集団「部」のトップによる弱体な寄合形式であり、徴税はギリギリ可能であるが、徴兵ともなると構成員からの反発は凄まじいものがあったそうだ。


そのため、この街では志願型ではあるが常備軍、つまるところ旧王国における三兵種(常備軍・臨時の募兵・辺境の歩哨)の内の最上級の兵士のみが存在し、”防衛部”の指揮下で国防の全てを担う...()()()はその形式となっているのだ。


しかし、そうして存在する「軍団」は実質的には有力者の私兵と化しているのが現状である。


「そもそも、この街には”()()()()()()()()()()()()()()”みたいなのしか居ないからね...。軍制はどこもかしこも穴だらけだよ。」


今のところ、防衛部長ディエルに直接従っているのは第二軍団”タルダーガ(大力)”のみである。

他の軍団はというと...。


・第一軍団”クヤッルアータ(光の鷹)

  :ディエルの従兄弟であるマイエン=オルケール防衛部副長。


・第三軍団”ファカルホルン(熱き盾)

  :農業部の害獣担当、オラン=セノール。


・第四軍団”ヘイエン(抵抗する戦士)

  :防衛部のハニスカ南辺防衛担当、フォーレ=スロマーン。


・第五軍団”カイラン・ヴォンム(カイラン山脈)

  :調査部長、ルンディ=テル。


・第六軍団”レンルーン(鉄壁)

  :防衛部のハニスカ北辺監視担当、ローイ=オフテル。


・第七軍団”エグラ・シェラーダ(財産の番人たち)

  :資源管理部長、ハング=シェロール。


一軍団につき平均約3千名の、合計約2万1千名の常備軍戦力。


比較すると、タナオードでは常備の職業軍人だけを見れば一万を少し超える位。

ヘイローダのルムオロクエンダ(側護軍)も同じ程。その二倍は居ることになる。

無論募兵も含めれば前二者の方が多いのだが、軍質は言うまでもない。


「軍団毎に固有の名前があるのは面白いな。兵の帰属意識とか士気も高められそうだ。」

「でも、指揮の立場からすると、各軍団の独立性が高すぎてちょっと扱いにくそうですよね...。あと、単純に平素からそれだけの軍団を抱えるとなると、()()が...。」


ソーラはそう言って、右手の親指と人差指で輪っかを作った。

そう、金だ。


「そうそう、実際軍団は基本的に金欠で、だから”ルンレーン”みたいなのが出てくるってこと。」

「成程、”内職”って訳か...。」


軍団を私兵化しているのなら、兵士達は忽ちに自由に使える”人手”になる。

あのローイとか言う男は、その人手を使って奴隷売買をしていたのだろう。


「まあ、あそこまで酷いことやってるのは他には居ないけど。特に防衛部以外の部が持ってる軍団なんかは、いつもは各部の仕事を手伝ってる、屯田兵みたいな感じになってるね。」

「へえ...そんならわざわざ武装する意味無くないか?」

「昔はハニスカの周辺にもよく魔物が出現してたらしいからね。防衛部だけじゃ各部の作業場を全部守るのは厳しくて、結果各部も自前の軍団を用意したらしいよ。」



そして、大切なのはここからである。


「今、ハニスカは真っ二つに割れてるんだ。」

「...というと?」

「対外協調か、強硬路線か。」


前者はタナオードにしっかりとした謝罪と償いを行い、共に手を携えてこのエーダ半島を解放していこうと主張する穏健の一派であり、政務部、資源管理部、農業部の一部などが当てはまる。


またの名を「講和派」ともいうその派閥の頭目は、先に霊信で話していた”政務部長”のゲルト=ウルムという人物であるらしい。


対して、後者はタナオード含め半島諸勢力との迎合は認めず、あくまでハニスカの手で半島を「復興」していこうと主張する過激な一派であり、防衛部の大半、調査部などが当てはまる。


「強硬路線の...僕らは”主戦派”って呼んでるけど、それを主導してるのは第一軍団のマイエン=オルケールなんだ。彼は特に先鋭的で...”ツェレシャーダイン(征夷将軍)”なんて自称して、エーダ半島の「再征服・再啓蒙」を掲げる始末さ。」

「なんだそれ...。」

「将軍号を自称とは、烏滸がましいにも程がありますな。」

「大・中・小を付け忘れている辺り、ニワカ感もいい感じに香ってますね。」


教養豊かな女性陣からの辛辣な評価を聞きつつ、アールンはその後ろの言葉に引っ掛かった。


「再征服...つまり、そいつを止めなきゃタナオードとの衝突は必至なわけだな。」

「そういうことになるね。まあ、彼らに言わせれば、”大災禍”を挟んでエーダ半島は一旦”化外の地”になっちゃった...らしいから。」


無茶苦茶だ、確かに霊力技術こそだいぶ失われたが、人々は普通に生活しているというのに。

百歩譲って霊力技術による高度な文明を半島中に復活させなければならないとしても、武力で領土を広げるだけがそのやり方では無いはずだ。


「ま、首魁はそんな感じだけど、大半の主戦派の意見としては、『聖獣殺しちゃったし、もう多分タナオードとの和解は無理だろ。』みたいな、ある種の諦念的なものが多いね。」

「ははあ...つまり、そこはタナオードの態度の軟化を示せれば崩せるかもしれんわけだな。」

「そういう事。」


その話を、アルアータは不機嫌そうに聞いていた。

その様子に気づき、アールンは立ち上がって彼女の前に腰を下ろした。


「まあ...あんたには我慢を強いてばっかりで本当に申し訳ないんだが、ここは抑えてくれ。そうすれば戦は避けられるんだ。」

「勿論、私の感情ひとつで大計を無に帰するようなことはしますまい...しかし、これは純粋な疑問なのですが、タナオードの民は果たして納得するのでしょうか?これで民が納得しなければ、その怒りの矛先は殿下に...。」

「そうならないための方策もちゃんと考えてるから。ここは信じてくれ。頼む!」

「...分かりました。」


黒装束の少女はそう言って、溜息をついた。


「それで、ここからさっきの話に繋がってくるんだけど、”講和派”の戦力は”主戦派”のそれよりも少ない、つまり劣勢なんだ。」


それまでの主戦派の軍団とは、第一軍団、第四軍団、第五軍団、第六軍団の計4つ。


それに対し、講和派側なのは主に、資源管理部の第七軍団のみである。



「ディエルの第二軍団タルダーガはあくまで中立を決め込んでる。農業部の第三軍団...は、上層部こそ講和派だけど、末端は主戦派側と繋がってる疑惑があったから、戦力としては数えにくくてね。」


農業...辺部で奴隷を使役していたなら、第六軍団とはどこかで繋がっている。主戦派疑惑もほぼ正しいと言えるだろう。


「実力が劣ってるってのはちょっと痛いな。」

「反乱を起こされたら一巻の終わりですね...。」

「第六軍団が壊滅した今でも、第二軍団と第三軍団をこちら側に引き込めてようやく五分だからねぇ...。」


これは思ったよりも先が長そうだ。

夜闇の中を飛ぶ”浮艇”の中で、アールンは畳の上に寝っ転がり、唸り声を上げた。


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