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今日もアクアオッジ家は平和です②このウェーブに乗るしかない!

 こうして二人がトウモロコシ畑を抜け領主館に戻ると、仁王立ちになっている母アドリアナが待ち構えていた。

「ウィルフレッド……貴方という子は……」


 これあかんやつや。ウィルフレッドが小さくなって、と、とにかく何か言い訳を……と考えていると、


「アンドリュー第三王子殿下。恐れながらそちらは少々立て込んでおります。こちらに茶席を設けましたので……」


 執事のソルの困ったような声がだんだん大きくなった。

 二人は『助けの声!』と思ったが、メリルは呼ばれているのが誰だか分かってぎょっとする。


 王子?今王子って言った??


光:"ソルが困ってる"

雷:"腹黒王子だ"

火:"あいつここに来すぎだろ"

水:"しょうがないのよ。ああなんだから"

風:"色気より食い気ー!"

土:"コイバナにはまだまだじゃのう"


 精霊たちがメリルを一斉に見つめた。皆が皆、心なしかジト目である。



「僕のメリル。六日ぶりだね。元気にしていたかい?」


 アンドリュー第三王子がまっすぐメリルに近づいて恭しく手を取り、甲に口づける。


 なんとこの王子、メリルやウィルフレッドと同い年だった。

 キラキラの金髪、エメラルドのような緑の目で、白馬に乗ったらバッチリハマるだろう。初めて出会った十歳から五年経ち、いわゆる『王子様』という風格と美貌がこの上なく育っている。


 学園に入学したら、さぞやおモテになるだろう。

 それくらいはメリルでも分かる。

 だって、この頃ものすごく王子のことを眩しく感じるんだ。


風:"ほらほら、そろそろ思春期なんだから、誰かを好きになっても不思議じゃないのよ?"


光:"あの殿方ステキ!って思わない?ソルだと最高よね!" 


雷:"世の中食い物ばかりじゃないんだぞ。よく見てみ"


 精霊がまた好き勝手なこと言ってるなあ。

 人って、素晴らしいものと平凡なものだけは、わりと正確に分かるものなの!


 自分の容姿は一番自分が知ってるもの。

 髪の毛はよくある地味な茶色だしね……

 子供のころのアーサー兄さまなら、『茶色だ!肉だひゃっほう!』って言ってそうだ。


 ……考えたら負けだ。もっと綺麗で華麗なご令嬢がワンサカ集まる学園だからこそ、コンヤクは解消してもらいたいのに。

 注目を浴びたくない。いじめられたくない。

 それでなくても、アクアオッジ家は農業一家、とか成金一家、とか陰口を叩かれてるのにぃ~……


 メリルは背筋がぞわぞわ~っとなりながらも、礼を取り王子に質問する。

「今日はどのようなご用件でいらっしゃいましたの?」


 失礼極まりない質問だが、メリルの直球に慣れているのか王子は至って普通に答えた。

 

 ……この言葉が、普通かどうかはともかく──


「今日学園の制服の最終仕立てだと聞いてね。スカートがほんの少しでも短かったら仕立て直させないといけないし──メリルが制服を身に着けている姿を、とにかく一番に目に焼き付けたいから来てしまったよ……それと、スタンフォード子爵夫人の店に、あらかじめ王都で評判の茶菓子を届けておいたからね」


(お菓子!こういうところが好きかも!)

 メリルはさっきまで、闇を感じてちょっと怖かったのをコロっと忘れた。

「オンドレ王子ありがとう!」


 名前間違ってるだろ!王子はメリルの肩を揺さぶりたくなったが我慢する。

(いつかきっちり分からせてやるから……)


「……アンディって呼んでね……でないとお菓子抜きだよ?」

「分かった。アンディ殿下」


 王子は何故かちらっとソルのほうを見ながら答える。

 ソルはといえば、その視線の熱量に優越感が混じっているのを感じ、小さくため息をついた。


 ……が、ソルも無言の応酬で応える。

(私は執事兼護衛なのだから、ずっとメリルお嬢様とは一緒に行動するのですがね……)

 


 王子様ってそんなに暇な職業なのかな?メリルは思ったが黙っておく。


 それよりも言わなければならないことがある。


「母さま!アンドリュー王子殿下!言わなきゃいけないことがあるんです!とっても大事なことなので」


「あらあら。どうしたの?」


 母がのんびり言った。


 あ、アンドリュー王子が来たから機嫌が直っている。最初は雷の権化だったが、今は大いなる慈悲を与える女神様のような急転直下ぶりだった。

 コンヤク直後はあれだけ、『どうせメリルの破天荒ぶりに婚約を解消してくるに違いないわ』と言ってたのに、今では意地でも婚約続行しそうなくらい王子のことを気に入っちゃってる。


 礼儀正しく、王都の珍しい品物の差し入れを欠かさない王子は母の大のお気に入りになっていた。

 これがいわゆる外堀を埋めるというやつではあるまいか。それ以上にご丁寧に橋まで架かってる気がしなくもない。


 だけど、お土産を持ってきてくれるなら、まあいっか?

 いつも食べ物だから楽しみなんだ。

 

 メリルが物に釣られる性格の起源は確実に母だった。


 ラッキー!ともかく、このウェーブに乗るしかない!

 母さまの機嫌がいい今なら!


 ウィルフレッドが、メリルが何を言おうとしてるのか分かってゴクリと喉を鳴らした。

 この双子、性格は全く似ていないけれど考えることは以心伝心というか、そっくり瓜二つだったからだ。


 今しかない!学園を避けるためには!

(いけいけメリル―!)



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