今日もアクアオッジ家は平和です①トウモロコシ畑からボイコット運動始まるよ
初めまして&お久しぶりです。
楽しんで頂けたら嬉しいです。よろしくお願い致します。
前々作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』第一章:【魔法スキル?】で挑む!辺境伯家の末っ子奮闘記
単品でもお楽しみいただけますが、両方読むと更にお楽しみいただけます。
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なく──
ウィルフレッドは悩んでいた。
誰も来ないであろう、ジャングルのようになったトウモロコシ畑の中で。
アクアオッジ家のトウモロコシは大人の身長を優に超え、規則正しく植えられ実っている。風が吹くとまるで緑の海のようにさわさわと揺らめいて美しい光景だと評判だし、かくれんぼにはもってこいだ。
いや、そうじゃない。
ウィルフレッドはかくれんぼをしているわけではなかった。
秋になったら学園に入学しなければならない。
貴族の子息令嬢は十五歳から学園に通うのがごくごく一般的だった。
辺境伯といえばれっきとした上位貴族である。
農業で有名になっていたとしても、だ。
ウィルフレッドは学園には行きたくなくてボイコット運動を起こしていた。
現在トウモロコシ畑の中にいるのは絶賛運動中だから。
元々彼はひと気のない場所で、精霊たちがおしゃべりするのを聞きながら、ぼーっとするのが好きだった。
メリル以外、他の人には精霊たちが見えないし、声も聞こえない。
学園で同じことをしたら、たちまち虚空に向かって話しかけているヤバい奴の出来上がりだと、ウィルフレッドも理解している。
王都にある学園のため、この北の辺境の地から通うという選択肢はなかった。遠すぎるので寮に入るしかない。そんな場所で、今まで通り精霊たちが満足に過ごせるんだろうか。
集団生活にうまくなじめる気がしない。
勉強なら父さまが教えてくれるし、このままでいいんじゃないのかなあ。
今も精霊たちが不思議そうにしながらもおしゃべりを止めない。
ウィンディーネ(水):"ウィル、アドリアナが呼んでたのに"
ライトネス(光):"そうよぉ。どうしたの?分かった!コドクを愛するってやつ?"
アドリアナとは母の名前だ。
今日は学園に通うための制服を仕立てに王都に行く日なので、ボイコット運動を行うことに決めていた。『制服がなければ学園に通わなくてもいいんじゃないか』そんな虫のいい考えだった。
トウモロコシ畑の中で悶々としながらうずくまっていると、
シルフィード(風):"あっ!見つかった"
サラマンダー(火):"かくれんぼはおわり、だな"
「みーつけた」
ガサゴソと葉っぱをかき分けて双子の妹メリルがやってくる。
いつでもどこでもこの妹にだけは居場所がバレてしまう。
「この裏切り者め」ウィルは毒づいた。
「なーに言ってんの。母さまが早く来いって!」
「……何で買収されたんだよ」
「王都に着いたら、評判になってるっていう焼き串の買い食い……おっとと」
メリルだって毎日のように学園には行きたくないって言ってたくせに。
ウィルフレッドは頭を抱えたくなった。
買い食いで僕売られたのか。安いなー……
相変わらずこの妹は買収に弱すぎる。特に食べ物関係は防御力0じゃんか。
「わたしだって学園なんてほんとは行きたくないんだよ。リディア姉さまだって行ってないのに」
二つ上の姉のことを持ち出すメリル。
そりゃ、リディア姉さまはとんでもない【スキルツリー】の持ち主だから、学園になんて通わせてる場合じゃないだろ。ウィルフレッドは思った。
いや、待てよ。僕のスキルが学園に向かないってみんなが思えば学園に行かなくて済むんじゃないか!?
メリルにも一応聞いてみよう。
「……メリル。学園に通いたくないよね?僕と気持ちは一緒だよね?」
「うん。勉強は父さまので充分だし=(勉強したくないし)、何より学園にはあの腹黒王子……とっ、ともかく!とりあえず王都にだけは行こう!メイベルにも会えるし。アーサー兄さまを袖にした理由をとうとう教えてもらえるんだよ!」
むう。それは僕もちょっと興味がある。
兄さまを振るなんて、それだけですごい女性だもの。
どんな理由だったのか、聞かせてもらえるなら王都に行く価値はある……
ライトニング(雷):"アドリアナが雷落とす前に顔出したほうがいいだろ"
(うへ……)
ウィルフレッドは、角の生えた母の幻影が見えたような気がした……