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簡易的な自己紹介

 早朝。

 日が昇り始める中、刹亜ら三人は仮拠点を出発した。

 真珠蜘蛛の調査を行っている者たちは、もう少し海に近い別の場所を拠点としているとのこと。まずはそことの合流を目指し、光足がうろつく地上を慎重に進んでいく。

 怪獣の中には聴覚や視覚、嗅覚が尋常でなく優れている種も多い。またトラップ形式で近づくと急に襲い掛かってくるタイプも一定数いる。それらに比べると光足は生物を認識する能力が低く、身を隠しながら動くという点でも比較的楽であった。

 怪獣が多い場所を移動する必要があると考えれば不運だが、対処のしやすい怪獣であるという点では幸運。

 ひとまずポジティブ精神を発揮し、愚痴は最小限に拠点へと向かう。

 流石はシルバースターというべきか。二宮は恐ろしい程の勘の良さで、死角に潜む光足の存在を見抜き、一度も認識されることなく拠点までたどり着いた。

 第二の拠点は海からすぐ近くの建物の地下。

 地上からは目視で十分に真珠蜘蛛を視認できる距離だ。

 これからあの中に入ることを考え刹亜の気が滅入る。それに反するように、首に巻いた白マフラーはぶるりと武者震いをした。

 地下への階段を下りる中、怪獣からの脅威が減り気楽になった刹亜は二宮に尋ねた。


「なあ。戦艦亀の時に一緒だった一倉って隊員はめちゃくちゃ耳が良かったけど、あんたも何か特殊な力があんのか?」

「ない、つもりだ」

「つもり?」

「ああ。俺は普通のつもりだが、仲間からは冷静過ぎると言われる。それが特殊かどうかは知らないが」

「ふーん」


 思い返せば、戦艦亀の時も二宮が取り乱すことは一度もなかった。第四の隊員ならそんなものかと思っていたが、仲間が死に、得体のしれない怪獣がいるかもしれないという環境下であったことを考えると、あの落ち着きようは十分すぎるほど異常だったかもしれない。


「どんな状況、状態下でも常に百パーセントの実力を発揮できる傑物、って評判だよ」


 宗吾がこっそり耳打ちしてくる。

 いまいちそれが凄いことなのか、具体的に他の隊員と何が違うのか分からず、刹亜は考えるのを止めた。

 階段を下り終え、拠点にいる隊員と対面していく。

 人数は五人+一人。

 この中に、真珠蜘蛛の調査を邪魔する裏切者がいる――らしい。

 おそらく何かしらの根拠があって残されたメンバーなのだろうが、ひどいことに指示書には何も書かれていなかった。現地にてそれぞれの動きを観察し特定しろとだけ。丸投げにもほどがあると破り捨てそうになったのを覚えている。

 しかし組織に属している以上、上からの命令は絶対。

 自分たちの居場所を守るため、どれだけ理不尽だろうが成し遂げねばならない。

 ここに来て刹亜はようやく腹をくくり、任務へと集中した。


「第六部隊カラーグリーン所属の折原刹亜だ」

「同じく第六部隊カラーグリーン所属の石神宗吾です。よろしくお願いします」


 刹亜と宗吾が揃って頭を下げる。

 二宮がそれに続いて自身の所属と簡単な来訪理由を説明。

 シルバースターが援軍に来たことで、隊員たちの雰囲気が僅かに明るくなる。そして一人ずつ、簡単な自己紹介が始まった。


「第一部隊カラーイエロー所属、伏見春馬です。よろしくお願いします!」


 爽やかな好青年を体現したような男。髪は茶色に染めており、特務隊の隊員というよりは居酒屋の看板男子という雰囲気だ。


「第四部隊カラーレッド所属、大石尊だ」


 日向と同じかそれ以上に背の高い(推定百九十センチ)女性。全身隙間なく鍛えられていることが一目でわかるプロポーションであり、自尊心の高さを感じさせる強気な表情でこちらを見下ろしていた。


「第四部隊カラーグリーン所属、高倉仁」


 背は低いが、足や手など各部位が太く、いかついという表現がぴったりな男性。全身太いのだが、特に眉が並外れ濃く太く、こち亀の両さんを彷彿とさせた。


「第五部隊カラーゴールド所属、佐々木凛だよー。よろしくねー」


 明らかにサイズの合っていないぶかぶかの白衣を着た女性。隣にいる第四の隊員がどちらもガタイが良いこともあり、かなり細く不健康に見える。手を完全に覆ってしまっている白衣の袖をふらふらと振っているさまは、幽霊じみて見えた。


「第六部隊、カラーピンク所属の、斎藤…洋司です。その、どうも……」


 前髪で目元が完全に隠れた男。声や体が常にびくびくと震えており、町を歩いていれば職質待ったなしの不審者に見える。

 この五人が、現在真珠蜘蛛の調査を任せられている特務隊のメンバー。上からは、真珠蜘蛛の素材採取を邪魔した裏切者疑惑をかけられている容疑者達。

 そしてこの場にはもう一人。本来いるはずのない、完全に予定外の人物もいた。


「ハジメマシテ。チュウゴクカラキタ、林杏ホンファデス。ナカヨクシテクダサイ」


 片言ではあるものの、過不足ない日本語を話す、中国からの来訪者。

 怪獣が溢れ、陸、海、空の全てが致死性の危険地帯となったこの世界で、中国からやって来たという、存在自体が異常な女。

 小柄というほどではないが、筋肉質という感じでもなく、全体的にしなやかさを纏っている。表情や口調は大人びているが、顔自体はかなり童顔であり、年齢を全く悟らせない不気味さも兼ね備えていた。

 正直、色々と怪しすぎる人物。しかし彼女だけはほぼ確定で裏切者でないことが判明している。ゆえにあまり気にかけても意味はないのだが、さりとて無視できるほど刹亜は大人ではなかった。


「ええと、ホンファさん? たぶん何度も聞かれてることだとは思うが、あんたどうやって日本にまで来た、いや、来れたんだ?」


 ホンファは妖艶な笑みを浮かべると、言葉でなく身体で、理由を説明した。


「コレガコタエ。リカイデキタ?」

「……ああ。そういうことな」


 彼女の背中から、立派な鷹の羽が生える。さらに全身が羽毛で覆われ、顔には禍々しい黄色い嘴と鋭い角が見られた。

 怪獣『一角鷹』をベースにした怪獣人間。

 中国でも既にこの技術が完成されていた。その事実に驚きと恐怖が込み上げてくる。

 刹亜が何も言えず固まっていると、宗吾がにこやかな笑みを浮かべながら右手を差し出した。


「ホンファさんは怪獣化できるんですね。それも日本海を渡って来れるなんて凄いです。頼りにさせていただいてもいいですか?」


 ホンファはすぐに宗吾の手を取らず、じっと顔を見つめてくる。しかし宗吾が一切表情を崩さないことから、ふっと吹き出すと握手に応じた。怪獣化したままの手で。


「モチロンタヨッテクレテカマワナイ。ワタシヲシンジラレルナラ」

「有難うございます。これからよろしくお願いしますね」


 人の手など一瞬で壊せる怪獣の手を、宗吾は一切臆することなく優しく握り返す。

 ホンファは少し目を細めてから、ほうっと息を吐きだした。

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