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進捗状況

 車が停車したのは真珠蜘蛛から少し離れた旧住宅街の一角であり、ここからはもうしばらく歩く必要があった。またその道中には仮拠点が作られているとのことであり、ひとまずそこによることに。


「拠点があるんなら、そこまで送ってもらえばよかったんじゃねえか」


 建物の影をこそこそ移動しながら、刹亜が小声で不満を垂れる。

 二宮が無表情で、「それはリスクが高いという判断だ」と返した。


「リスクっつうなら、こうして徒歩で移動してる方がリスク高いだろ」

「万一にも怪獣を引き連れてったら最悪だからね。車よりも徒歩の方が音も立てないし、近距離なら安全って言う判断だよ」

「それ、俺らの安全を引き換えにしてんだよな……」


 頭を抱えため息をついた直後、二宮が右手を上げた。

 刹亜と宗吾は口を閉じ、二宮の背後にぴたりとつきしゃがみ込む。

 二宮の視線の先。

 建物の影から日光とも電灯とも違う異様な光が覗いていた。


「……これはまた、珍しいもんが出たな」


 アスファルトを踏む、人の足音。

 しかし三人はそれが人でないことを知っている。

 建物から出てきたのは、光り輝く人間の足――『光足』と呼ばれる足だけの怪獣だった。

 光足は名前の通り光り輝く足の怪獣。目が眩むほどの発光体であり、その中心には人間の足が存在する。通常時はただ光り輝きながらペタペタと歩くだけであるが、生物を認識すると急に走り出し、最高速は文字通り光速となって蹴りを放ってくる。しかし光速での蹴りは光足自身にも非常に負荷がかかるらしく、一度放つとその場で消滅してしまう。そのため、怪獣の中でも捕獲も拘束もできない希少種とされていた。


「あれ捕まえて飾れりゃ貴重な電力を節約できんだけどなあ」

「捕獲しようとか考えないでよ」

「分かってるっての。ただ、あれはそこまで怖い怪獣でもないだろ」


 光足が発見された当初は例によって甚大な被害を被った。

 光速の蹴りは避けることも防ぐこともできず、一度視認(?)されてしまえば死ぬしかない恐怖の対象であった。だが、光足には明確な弱点が存在した。鏡である。

 光の性質を持つ光足は鏡に反射する。そのため鏡さえ用意しておけば光速の蹴りを繰り出されても容易く防ぐことが可能だった。とはいえ反射する方向を間違えると被害は甚大になるため、対処の仕方には十分注意が必要とされるが。

 光足を含め、対処に鏡が必要となる怪獣は複数存在するため、第四隊員の通常装備には手鏡が含まれている。ゆえに光足を討伐することは可能であったが、三人はリスクを考え姿が見えなくなるまで建物の影で待機した。

 それからもにょこにょこ歩いている光足の群れから逃げ回りながらなんとか拠点に到着。

 地上での移動でへとへとの中、折原たちとすれ違うようにして一台の車が出発した。


「ここまで来てる車もあるじゃねえか……」

「それはその隊の判断だからね。なくはないでしょ」

「だったら俺らも――ん?」

「どうかした?」

「いや、なんか見たことある奴が乗ってた気がして」


 車の窓ガラス越しにちらりと見えた横顔。陰気そうな顔つきで、座っていても分かるほどの長身。

 その人物が戦艦亀の事件で一緒だった第六の隊員、水瀬であることを思い出したのは、数日後のことであった。



 拠点は数名の隊員と少量の物資が置かれているだけの非常に質素な環境だった。

 少し大きめのテーブルが一台あるだけで椅子も二脚のみ。ベッドすら存在せず、まさしく仮拠点といった様相。

 例によって地下空間であり、光源は大型のランプのみでありとても薄暗い。

 ひとまず無事に到着したことを歓迎された三人は、真珠蜘蛛調査の進捗状況について聞かされた。

 原因不明の機械トラブルにより素材採取は完全に中断。今は少数の隊員を送り込み、内部の調査を慎重に進めているとのこと。成果は、聞くまでもないようだ。

 また機械や人員を集中させた影響か、元々この付近で確認されていなかった怪獣が集まるようになった。それに伴う縄張り争い(?)の結果、今は光足がここら一帯を占領しているらしい。

 それからもう一点。想像もしていなかった事態が発生しているとのことで――。

 


「硬い」


 真珠蜘蛛での調査は明日からとなり、半日の休憩が与えられた。休憩と言っても娯楽用品は何もなく、特にやることもない。食事と洗身後はすぐ支給された寝袋にくるまり眠ることにした。

 しかし――


「硬い」

「うるさいよ刹亜」


 耳ざとく聞きつけた宗吾が、もぞもぞ寝袋を動かし寄りかかってくる。

 まな板の上のコイのように体を動かし、刹亜は小声で抗議した。


「硬いもんは硬いんだから仕方ないだろ。床の硬さがじかに伝わるこの感じ分かるだろ」

「分かるけど、文句言っても無駄なんだから。ちょっとは我慢しようよ」

「ちょっとで済むか分かんねえんだぞ。最悪数週間寝袋生活もあり得るんだ」

「だからそれ言われても辛くなるだけなんだから。ほら、二宮さんを見習おうよ。ピクリともせず熟睡してるよ」

「シルバースターの化け物と一緒にすんなよ……」


 怪獣と戦う第四部隊では、一瞬の判断が生死を分けるため、常にベストな体調を求められる。その為、異常な環境下でもゆっくり休むことができるよう訓練を積まされる。

 シルバースターとして三年以上訓練を積んだ猛者ともなると、寝袋がある時点で天国に感じるらしい(とある第四隊員談)。

 そこそこ体を鍛えてはいるものの、普段ベッドという甘えた生活を送っている刹亜は、しっかりダメージを受けていた。

 逐一体勢を変えることで対応しようとするも、それが余計に快眠を遠ざける。

 見兼ねた宗吾は寝袋から片腕を解放すると、就寝時も肌身離さず付けている刹亜の白マフラー――もといリュウを撫でた。

 阿吽の呼吸で宗吾の意図を察したリュウは、脳内で溜息を吐いてから、ゆっくりと自身の体を伸ばし、平らに変形させていった。

 寝袋の中で、リュウは白いカーペット状態になり、刹亜の体を覆う。一見するとかなり薄くあまり効果がないように見えるが、さにあらず。ふわふわの毛並みと絶妙な弾力の体はまさしく至福の敷布団であり、刹亜はあっさり夢の中に誘われていった。

 次の日。

 誰よりも元気に目を覚ました刹亜に対し、駐留していた隊員たちから驚嘆の目が向けられた。


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