指令
「というわけで、お前たちには真珠蜘蛛の調査に出向いてもらいたい」
「は? いきなり何言ってんすか」
特務隊第六部隊、カラーグリーンの隊長室。
呼び出されて早々怪獣調査を命じられた刹亜は、不遜にも言い返した。
「なんで俺たちが怪獣調査なんか行かなきゃいけねえんだよ。どう考えても業務外だろ」
いつも通り敬語なしの無礼な態度をとる刹亜に眉を顰めつつ、カラーグリーンの隊長こと灰崎は「この前は志願して向かっただろう」とぼやいた。
「呼ばれもしない戦艦亀の調査に付いていったんだ。本当はそういう仕事がしたいんだろ」
「あれはまだ安全そうだったし手当が魅力的だったから志願しただけだ。今回のとはわけが違えよ」
「はあ。そう言う反論は得意なんだよなお前は」
灰崎は面倒そうに頭を振る。指示を聞かない部下を持ったせいか、まだ四十代の彼の髪は白髪が多く混ざっている。全体的にくたびれた印象だが、体つきはがっしりとしており、少し身だしなみを整えれば第四の隊員と名乗っても一切違和感がないだろう。
しかし今の灰崎は背中を丸め、ザ・中年と言った様子で両手を組み、大きなため息を吐いていた。
「正直な、これはお前らが悪いんだよ。さんざん英雄にはなるなって忠告したよな? にもかかわらず、まあド派手な活躍をしてくれて」
「別に俺らは大した活躍してないだろ。戦艦亀を討伐したのは御園生だ」
納得いかないと刹亜は口をとがらせる。
戦艦亀討伐の一件は、全て御園生の手柄として特務隊に報告されていた。
金剛鶴へと変身し、戦艦亀を蘇らせようとしていた裏切者の隊員。その力で御園生以外の全員が戦闘不能となる中、彼女は『篝猫』の力を駆使し見事裏切者を討ち取り戦艦亀復活を阻止した――というシナリオ。
実際リュウの存在を知らない者からすれば、むしろそれ以外に納得のいく説明などあるはずもなく。このシナリオはあっさりと受け入れられ、御園生は大怪獣復活を阻止した英雄として祭り上げられることになった。
そのおかげで、刹亜や宗吾は巻き込まれたただの一隊員的扱いになったはずなのだが――
「名探偵さながらに犯人の正体を見破ったのはお前たちなんだろ。そのおかげで戦艦亀が復活するのを阻止できたと聞いてるぞ」
「それは間違ってねえけどよ……」
「はいじゃあそういうこと。二人には真珠蜘蛛の調査に行ってもらいます。これ決定」
「質問宜しいですか」
強引に刹亜を押し切ったと思った直後、 今まで黙ってやり取りを眺めていた宗吾が口を開いた。
灰崎はいかにも嫌だという風に眉間に皺をよせ、「だめだ」と首を振った。
「まず聞きたいのは、具体的な調査内容です。真珠蜘蛛の調査なんて任されても何もできませんし、僕らに適した別の任務があるんですよね」
「はあ、お前も真面目なようで話聞かないよなあ……。しかも勘がめちゃくちゃいいし」
「ぼやいてないでさっさと説明しろよ」
「分かった分かった。今話すよ」
まるで敬意を払ってくれない部下に涙しつつ、灰崎は用意していた書類に目を落とした。
「一週間前、中国で討伐された真珠蜘蛛が、海を渡って日本まで漂流してきた件は知ってるよな」
「知ってます」
「知らねえ」
「よし、なら大筋は省いていいな。漂着した真珠蜘蛛の死骸に対し、当然うちから調査のための人員が派遣された。本当に真珠蜘蛛は死んでいるのか。何か有用な素材が採取できないか。中国はどんな毒を用いたのか。
大怪獣の死骸なんて有用資源、戦艦亀以来のことだからな。うちも張り切って、ここ数年で最大規模の人員と機械を派遣しての調査が始まったわけだが、現状進捗はゼロに近い。というのも、調査のために送られた大型機械がことごとく配線トラブルや転倒などで壊れ、ろくに調査ができなかったからだ」
「それって単に怪獣に妨害されたからじゃねえのか?」
「違う。怪獣による襲撃は勿論受けているが、今のところそっちはしっかり対処できている。それに人でなく、機械だけが被害を受けているんだ」
「偶然というにはあまりに不自然。何者かが意図的に妨害をしているのではないかと疑っているわけですね。そして僕らには、その犯人を見つけ出してほしいと考えている」
「……察し良すぎて気持ち悪いな。もしかしてここに来る前に誰から聞いてたのか?」
「いえ。単に察しがいいだけです」
「そうか……」
灰崎は眉間をつまみながら溜息を吐く。
気の付く部下は助かるはずだが、ここまでくると純粋に扱いづらい。
これ以上の対話は面倒だと思い、灰崎は指示書を二人に投げつけた。
「いずれにしろ、そこまで分かってるなら説明は不要だろ。詳細はそこに書いてある通り。表向きは真珠蜘蛛の調査補助だから、変に絡んで足並みを乱さないよう気を付けろ。さっきも言ったが拒否権はない。明日出発だから今日はもう仕事を切り上げて休んで良し。以上だ」