真珠の正体
次々と真珠――もとい卵から巨大蜘蛛が飛び出してくる。
勝ちを確信した伏見が嗤い声を大きくする。
大石や佐々木が冷汗を垂らしながら近づいてきた蜘蛛に銃口を向ける。
しかし、発砲するよりも早く、床に降りた巨大蜘蛛たちが発火し始めた。
「は……」
伏見は嗤うのをやめ、呆気にとられた表情に変わる。
ここまで黙っていた宗吾が、冷たい視線を伏見に向けた。
「真珠が蜘蛛の卵だなんてこと、とっくに気づいてました」
「な、なんで……」
「最奥にいた真珠蜘蛛の本体。資料で記載されていたサイズよりも明らかに大きかった。怪獣は人を食べなくても餓死することはありませんが、食べなければ大きくなることもない。では、この人が地下に隠れてしまった世界で、なぜ真珠蜘蛛は成長できたのか」
「し、真珠蜘蛛は怪獣を食べる怪獣だから――」
「真珠蜘蛛は怪獣を蜘蛛の糸で包み真珠に変換できる。しかし変換であって食べているわけではありません。もし蜘蛛の糸に包むだけで食べれるのなら、真珠に変換する必要もないわけですから。では真珠蜘蛛はいったい何を食べ、どうやって成長したのか。
答えは簡単――共食いです」
燃え盛る巨大蜘蛛の群れを背に、宗吾は手と手を重ね合わせる。
「真珠蜘蛛の本当の能力は、蜘蛛の糸で包んだ人や怪獣を、自らの分身――子供に作り替える力。そして生まれた、自身と同じ反発しない血を持つ子供を食べることでより成長する、成長型怪獣だった。
怪獣が自身にとって何のメリットもない真珠を作るなんて最初からおかしいと思ってたんです。怪獣の行為には必ず意味がある。そう考えれば、この結論にたどりつくのに時間はかかりませんでした」
実際にはリュウから教えられた、『食べることで成長する』という能力から思いついたことだったが、当然そこは伏せておく。
「真珠が全て卵であるとすれば、この場での戦力差は歴然です。怪獣人間であるホンファさんはともかく、一隊員である僕たちに逃げるすべはない。なので、先に罠を仕掛けさせてもらいました」
宗吾はポケットから、透明の液体が入った小瓶を取り出した。
「これ、怪獣『火炎蝦蟇』の油です。ご存じないかもしれないので説明すると、この油は酸素+強い衝撃で発火する特殊な油です。真珠蜘蛛の糸が火で溶かせるとの報告は上がっていましたから、役に立つかと思って、第五部隊の友人から借りてきてたんです。それで、この油をホンファさんに片っ端から塗りに行ってもらいました」
「……」
真珠蜘蛛についての対策などまるでしていなかった刹亜は気まずい顔を浮かべる。
それはともかく、次々と火が燃え広がる状況に、大石が「おい、私たちもこのままじゃ危険なんじゃないか」と焦った声を上げた。
宗吾は涼しい顔で振り返ると、「ホンファさんがいるから大丈夫ですよ」と呑気に返した。
「僕たち五人程度、まとめて外に連れ出せますよね?」
「カノウダガ……ムチャクチャダナ、オマエ」
自分だけでなく、仲間の命までも勝手に預けてくる身勝手ぶりに、さすがのホンファも少し引き気味に宗吾を見る。
宗吾はそれらの視線を気にも留めず、伏見に声をかけた。
「それじゃあ伏見さん。そろそろ僕らは脱出しますので、燃え死なないよう頑張ってくださいね」
「な、俺だけ置いてくつもりっすか!」
「ええ勿論。僕らを皆殺しにしようとした裏切者を助ける義理はありませんから」
「……」
伏見は顔面蒼白で口をぱくつかせる。
一瞬同情しかけるも、彼のやってきた行為を思い返せば妥当過ぎる結末。
宗吾の考えに反対の隊員もおらず、全員が哀れんだ目を伏見に向けた。
「デハ、ダッシュツスルゾ」
トラップにかからず近づいてくる蜘蛛も現れており、こちらもうかうかしていられない状況。皆が急いでホンファに近づき、適当に体の一部を掴む。
全員が掴まったのを確認後、ホンファは足に力を入れ、空へと飛びあがる――その直後。意識を刈り取る激しい衝撃波が襲ってきた。




