漂着
『大怪獣ファイル№14:真珠蜘蛛
見た目はアコヤガイを彷彿とさせる巨大な貝の形をした怪獣。直径約六百メートル。貝の硬度は非常に高く、かの戦艦亀の甲羅と並ぶほどの硬度とされる。また、貝の中には巨大な蜘蛛が生息している。
巨大蜘蛛は太く伸縮性のある白い糸を吐き出し、近づいてきた獲物を無差別に捕獲、中に引きずり込む習性を持つ。捕獲した獲物は蜘蛛の糸に包まれ真珠に変えられるとされる。原理は不明。
真珠蜘蛛には他の怪獣とは明確に違う点があり、人や動物だけでなく他の怪獣も襲う。理由は不明。
~~以上より、真珠蜘蛛は『掃除屋』とも呼ばれ、大怪獣でありながら討伐優先順位は低く設定されている』
「おい、あれじゃないか」
双眼鏡を用い海を見張っていた特務隊――日本唯一の怪獣討伐機関――の隊員の一人が声を上げる。
周りにいた隊員は彼が指さす方に目を向け、「あれか?」と呟いた。
海からゆっくりと、こちらに近づいてくる、巨大な影――否、巨大な貝。
中国からの緊急連絡で知ることとなった、大怪獣『真珠蜘蛛』の死骸。
かの国曰く、「対怪獣用の毒ガスを貝の中で大量にばらまいて殺した」とのこと。死骸を回収しようとしたところ、他の怪獣と遭遇し取り逃した。進行方向からして○○日後に日本近海に到着すると考えられるため、処分の方をお願いしたいとの話だった。
真珠蜘蛛は怪獣出現初期から観測されている大怪獣の一体。見た目はアコヤガイを彷彿とさせる巨大な貝の形をしており、直径約六百メートルと言われる。貝の硬度は尋常でなく、かの戦艦亀の甲羅と並ぶほどの硬度を持っている。しかし真珠蜘蛛の脅威はそこではない。真の脅威は、貝の中に飼われている巨大な蜘蛛であった。
巨大蜘蛛は太く伸縮性のある白い糸を吐き出し、近づいてきた獲物を片っ端から捕獲、中に引きずり込んでいく習性を持っていた。貝を盾にした蜘蛛の攻撃は一方的かつ強力で、数千の兵士が中に引きずり込まれ殺された。
糸による攻撃を避け貝内部まで侵入に成功した部隊もあったが、貝の中は巨大な糸の巣塗れであり、ろくに動くこともできず動画と音声のみを託し全滅した。またこの際、巣の中には糸に包まれた巨大な塊が点在しているのが確認されていた。これは中に取り込まれた兵士の成れの果てであったが、いくつかの中身は大きな真珠であった。
以上のことから、真珠蜘蛛は中に取り込んだ兵士を核とし真珠を作ると考えられた。
また、真珠蜘蛛には他の怪獣とは明確に違う点が一つあった。それは、人だけでなく他の怪獣も襲うこと。
多くの怪獣は血の反発からか、基本的に怪獣同士での殺し合い、共食いを行わない。しかし真珠蜘蛛は怪獣も真珠を作るための核として利用できるらしく、人・怪獣問わず無差別に捕縛する動きを見せていた。
攻略難度としては戦艦亀よりも低いとされていたにもかかわらず、総攻撃の対象とされなかった理由でもある。
『掃除屋』の異名もつけられていた真珠蜘蛛は、大怪獣ながら一定の有用性を見込まれ、大規模な討伐作戦が行われてこなかった――今日までは。
隊員たちに見張られる中、真珠蜘蛛は陸地に接着する。
接着した陸地の近くには怪獣がちらほらうろついている。しかし真珠蜘蛛から糸が射出されることは無い。
疑わしくはあったが、中国の言葉通り既に真珠蜘蛛は息絶えているようだ。
先遣隊として、数名の隊員が武装したまま真珠蜘蛛に近づく。周囲の怪獣を討伐した彼らは、貝に触れられるところまで接近した。
貝は完全には閉まっておらず少しだけ開いている。少しとはいえ、人が入るには十分すぎるほどの隙間。彼らは顔を見合わせた。
「……本当に、死んでるんだよな?」
怖気づく隊員に対し、別の隊員が叱咤する。
「どうせ誰かは調べなきゃならねえんだ。ごちゃごちゃ言ってないでさっさと行くぞ」
「それにもし生きてるなら、この距離まで近づいた時点で殺されてるはずだ。死んでるかはともかく、少なくとも弱ってるのは間違いないんじゃないか」
さらに別の隊員も、緊張した面持ちながら背中を押す。
それでも前に進もうとしないため、痺れを切らした一人が単独で中に潜入した。