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 明らかにここでの事件の話をしている刹亜らに、伏見から複雑な視線が飛んでくる。どういうわけか二宮が止めようとしないことにもやきもきしているようだ。

 大変そうだなと他人事のように思いながら、刹亜は宗吾と二人、高倉の死体の近くで密談を始めた。


「んじゃま、ちゃちゃっと解決すんぞ名探偵」

「……刹亜がそんなテンションなの珍しいね。もしかしてかなり焦ってる?」

「まあな。俺らの敵は怪獣だけじゃねえからよ」


 縦横無尽に張り巡らされた蜘蛛の糸。

 糸の隙間から見える範囲に、ホンファの姿はない。


「……どうやら僕がいない間にいろいろあったみたいだね。まずはそこから聞かせてもらえる?」

「ああ。取り敢えずホンファの正体なんだが――」


 先ほどは話せなかった、ホンファとの一連のやり取りについて説明する。

 ホンファが特務隊の隊員であること。

 刹亜と宗吾は戦艦亀の件で特務隊上層部に疑われており、ホンファに監視の命が下っていたこと。

 白マフラーが原因だと判断され、奪われ調べられたこと。

 何とかリュウの存在には気づかれなかったこと。

 宗吾は聞き終えると、眉間を指で押さえ息を吐き出した。


「やっぱり疑われてたか。監視されるのは想定してたけど、まさか理性のある怪獣人間が監視者とは。想像以上に危険視されてるみたいだね」

「まあ俺らが戦艦亀を倒したんだと考えてんなら、妥当っちゃ妥当な判断だけどな」

「何事もそう都合よくはいかないね。むしろ今までがうまくいきすぎてたともいえるし」

「だな。ただ、その反省会と対策はまた今度だ。今はここから無事に脱出する方法考えっぞ。さっき高倉の死体調べてたけど、なんかわかったか?」


 一応自分でも確認しておこうかと死体に目を向ける。

 しかし苦悶に満ちた顔を見て、すぐに目をそらした。

 対して宗吾は表情筋一つ動かさず、「ここ見て」と死体の口を指さした。


「……ここって、口か? なんか変か?」

「うん。かなり変だよ。高倉さんの舌、蜘蛛の糸で固定されてる」

「あ?」


 距離を取りながら薄目で見る。言われてみれば、うっすらと白い糸のようなものが確認できた。

 刹亜は呆れ交じりに感嘆の息をこぼす。


「よくあの短時間でそんなもん見つけたな。やっぱすげえわお前」


 宗吾は淡々と首を振る。


「凄くないよ。刹亜の話だと高倉さんは何も言葉を話さなかったらしいけど、それって明らかにおかしいから。喋れなくなってたんじゃないかなって疑うのは普通だよ」

「普通か? あの状況で何も喋んねえのはちょい変に感じたけど、喋れなくされてるとまでは思わねえだろ」

「そんなことないよ。高倉さんが銃を向けてきた時点で、彼が僕らのうちの誰かを殺そうとしていたのは間違いない。なのに、姿を見せたうえですぐに発砲しなかったのはなぜ? 決まってる。誰を撃てばいいか分からなかったからだ」

「……?」


 宗吾の言いたいことがわからず、刹亜は首をひねる。殺す気でいたのに、誰を殺すか決められていなかったなんて、そんなことあるだろうか。誰を殺すか決まっていなかったのなら、そもそも姿を現さないはずだ。


「いや、それで蜘蛛か……」


 巨大蜘蛛の死体に目を向ける。

 高倉の後ろで従者のように控えていた三体の巨大蜘蛛。一見従えているかのようだったが、舌を蜘蛛の糸で固定されていたことを考えれば、真逆の関係であったことが思い浮かぶ。


「裏切者は巨大蜘蛛を使って高倉さんを喋れなくした。さらに彼を追い立て、僕らの元へ誘導。裏切者が僕らの中にいると考えていた高倉さんは、頭を振り絞ってその裏切者を殺そうとしたが、結局大石さんに殺されてしまった」

「いや、待てよ。高倉は何で巨大蜘蛛を殺さなかった。裏切者の前にまずは巨大蜘蛛を殺すはずだろ」


 高倉のすぐ近くに落ちている銃を見ながら刹亜が言う。

 宗吾は意味深に頷いた。


「そうだね。巨大蜘蛛の数が三体であればそうしただろうね」

「三体であればって……、おいおいまさか」


 考えるだけで背筋の凍る情景が脳裏をめぐる。

 頬を引きつらせる刹亜に対し、宗吾は容赦なく断言した。


「高倉さんは、数十、数百の巨大蜘蛛に包囲されていた。だから抵抗を諦め、せめて裏切者だけでも殺そうとしたんだよ」

「……んなもん、詰みじゃねえか」


 先ほどまでは深く考えず辺りを見回していた。しかし今は、僅かに顔を動かすことさえ拒否反応が出そうになる。

 焦りから、刹亜は無意識に白マフラーを撫で始める。

 一方宗吾は焦った様子もなく、「問題は、結局誰が裏切者なのかってことなんだよなあ」と、クイズを解くかのような余裕を見せていた。


 ――やっぱりこいつのメンタルは狂ってる。


 刹亜はそうドン引きながらも、白マフラーから手を離す。それからそっと宗吾の耳元に顔を近づけ、


「誰が裏切者かなら、俺が知ってる」


 と囁いた。


今回は読者への挑戦はありません。

実力不足で大変申し訳ない。

ただ、刹亜が断定できる程度の怪しさは醸し出している――はずです。

裏切者はこいつだという推理、良ければお聞かせください。

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