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裏切り

「ようやく二人きりになれたな」

「でも油断しちゃだめだよ。誰かに見られたら終わりなんだから」


 結果として言えば、宗吾の提案は半分受け入れられた。

 ホンファが姿を消してから異常事態が起き始めたと考えていた伏見と大石は宗吾の提案を拒否。一方、彼女の正体を知っている刹亜と、泣いていて思考する気力のない佐々木は賛同した。

 刹亜はてっきり、二宮がホンファの正体を明かし、伏見と大石を説得するかと考えていた。が、何か意図があるのか、二宮はそのことについて言及せず、賛同者だけ送ってもらえればよいとの見解を示した。

 ただ、運搬の前にホンファには単独で真珠蜘蛛の入口を見てくるよう指示が出された。

 可能性の一つとして、入口に無数の巨大蜘蛛が巣を張り待ち構えている可能性がある。また脱出するにしても、最適なルートを先に見つけておいた方が良いとの判断だった。

 ホンファはあっさりそれを受け入れ、今は一人で出口へと向かっている。

 彼女が戻るまで再びの待機を命じられたため、刹亜と宗吾は二人で真珠蜘蛛の死体を見に動いていた。

 真珠蜘蛛の死体の裏に回り、他隊員の視線がないことを確認。

 刹亜は白マフラーを優しく撫でた。

 ピクリと一度振動。それから徐々に全身がうねり始め、間もなく「ポン」と二本の長いひげとマロ眉のついたリュウの顔が飛び出した。

 ようやくお目当ての真珠蜘蛛と対面することができ、明らかにリュウの目が輝いている。待ちきれないといった様子でするする体を伸ばすと、大きく口を開け、がぶりと噛みついた。

 いつものことだが、高級料理でも味わうかのように、ゆっくりと、何度も咀嚼してから、静かに呑み込む。

 刹亜と宗吾の視線が集まる中、リュウはマフラーの形に戻りながら、真珠蜘蛛について説明を始めた。


「真珠蜘蛛。主な能力は次の通りじゃ。

 粘着性の糸を吐き出すことができる。

 糸に包んだ生物・怪獣を真珠に変えることができる。

 食べることで成長する。

 以上じゃ」

「……なんか、そのまんまだな」


 特務隊で得ている情報とほぼ同じ内容。

 刹亜はややがっかりした声を漏らす。

 しかし宗吾は眉間にしわを寄せると、深刻な声でリュウに尋ねた。


「食べることで成長するっていうのは、どういう意味ですか」

「なんだその質問。そりゃそのまんまの意味だろ。食えば食うほど大きくなるっつう」


 リュウは口元だけマフラーから出した状態で、「うぬ」と頷く。


「刹亜の言う通り食べるほど大きくなり、力が強くなるという意味であろう。とはいえ我も、この言葉の意味を真に理解できているとは言えぬからの。成長とは具体的に何がどう変化するのかまでは断言できぬ」

「相変わらず中途半端な解析能力だな。前に宗吾が言ってたように、やっぱ能力を知るってか、設定を思い出すってのがしっくりくるよな」


 リュウは怪獣を食べることで、その怪獣の能力を知ることができる。ただ、この知るという力だが、感覚としては頭の中に怪獣の情報が文章として思い浮かぶ、というものらしい。

 そのため思い浮かんだ文章以上の情報を得ることはできず、肝心な部分が分からないことも多い。解析する力、知る力というわけでなく、怪獣を食べることで記憶の一部が刺激され、その能力を単に思い出しているだけではないか、というような仮説が立てられていた。

 この場合、リュウは世界中の怪獣の能力を知る存在だったということになり、いよいよその特異性に拍車がかかるわけだが――今大事なのはそこではない。

 宗吾は脱線した話を戻すように、再度リュウに質問した。


「これまで多くの怪獣を食べてきた中で、今みたいに成長すると言われたことは一度もなかったと記憶してます。間違ってないですよね?」

「うむ。確かにこれまでの怪獣にはおらなかったの」

「となると怪獣は基本的に成長しないか、真珠蜘蛛が特別な成長の仕方をするかのどちらかということ。これって、無視できない重要な点じゃないでしょうか」

「うぬ、そうかもしれぬが……」

「今の状況となんか関係あんのか?」


 リュウと刹亜が揃って首を傾げる。

 宗吾はすぐには答えず、俯いてぶつぶつと呟き始める。

 またいつものが始まったと、刹亜は小さく嘆息した。

 しばらく暇だなと腕を思い切り伸ばして数秒後、「動くな!」という二宮の声が聞こえてきた。

 もしや今の一連のやり取りを見られたかと緊張するも、周りに二宮の姿はない。あちらで何か起きたのだと理解し、刹亜は急いで真珠蜘蛛の正面に移動すべく走り出した。

 正面に回ると、銃を構えた二宮、大石の姿が真っ先に目に飛び込んでくる。

 そして彼らの銃口の先に目をやれば、血走った目でこちらに銃を向ける高倉の姿があった。

 本来なら無事を祝うところだが、状況がそれを許さない。

 銃口をこちらに向けているだけで大問題だが、それよりもヤバイことに、彼の後ろには数体の巨大蜘蛛が控えていた。

 巨大蜘蛛は高倉の指示を待つかのように、動かずじっとしている。


「高倉が、裏切者だった?」


 思ったことが口をついて出る。

 しかし彼の表情――懸命さと悔しさをブレンドしたような、鬼気迫る顔を見ると、どうにもそうは見えなかった。

 訳が分からず刹亜が動けずにいる中、二宮の鋭い声が場を貫いた。


「高倉、今すぐ銃を捨ててこちらに来い。銃を捨ててだ」

「……」


 二宮の声が届いていないのか、高倉が銃を下ろす気配はない。

 ただ銃を乱射する気もないようで、血走った目で刹亜ら特務隊メンバーを交互に見まわしていた。

 このままでは埒が明かないと思ったのか、二宮は再度命令した。


「銃を置け、高倉。さもなくば撃つ」

「ぁ……」


 脅しでない、二宮の殺気に気づいたのか、高倉は怯えた様子で肩を震わす。そして何かを伝えたいのか、口を何度か開閉するも、結局言葉にはならず。

 いずれにしろ銃を下ろす気配のない彼の姿を見て、二宮の指に力が込められる。


「ちっ」


 だが、二宮が引き金を引くより早く、高倉の背後に控えていた巨大蜘蛛が糸を吐き出し始めた。

 どの隊員も間一髪で避けたものの、次々と糸が飛んでくる。

 それぞれ逃げながら反撃を行う中、高倉は変わらず、思い悩んだ様子で動かない。

 しかし覚悟を決めたのか、不意にある人物に銃口を合わせると――『パン』という乾いた音が響き渡った。

 まるで時間が止まったかのように、真珠蜘蛛を含めた全員が動かなくなる。

 もちろんそれは気のせい。そう感じただけのこと。

 ただ刹亜の目には、その止まって見える世界の中で、ゆっくりと、高倉の体が崩れ落ちる姿が映っていた。


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