シュレーディンガーの箱の中の猫
ある日突然、僕は箱に閉じ込められた。
理由はもうよく覚えていない。
ただ一つ、明確な事実は僕は実験台だという事だ。
こんな実験が昔どこかの国で行われたことがあったと記憶している。
何不自由ない環境を与えて孤立させる。そんな感じだったはず。
僕が箱に詰められてからもう何年経っただろう。
この生活は何一つ不自由は無いが、如何せん時間が把握出来ない。ずっと部屋の中は明るいまま。これじゃあ、寝るに寝られないじゃないかとずっと僕は怒っている。きっと誰かが僕の事を見ているだろうから、いつか気付いてくれるだろう。
***
ある日突然箱のドアが開いて、壮年の男が現れた。
「…驚いた、まだ生きていたのか」
心底驚いたような口調で男は言う。
口ぶりから僕を箱に閉じ込めた側人間だろうと予想できた。しかし「まだ生きていたのか」とはどういう了見だろう。監視していたんじゃないのか。
僕は怒って問い詰める。
「…」
男は何も言わない。黙って険しい表情で僕を睨みつけるだけだった。
そんなに僕は悪い事を言ってしまっただろうか。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。今度、彼が現れたら謝ろうと思う。
***
せめて、話し相手が欲しいと思った。唐突だが。
何せ寂しいのだ。独りで居続けるのは。僕の事を見ている人は存在しない。生きているのか、死んでいるのか外の人間には分からない。それがこの上なく寂しい。
まるで僕がこの世界にいないみたいじゃないか。僕は確かにここに居る。なのに僕の存在を知る人間は外にはいない。まるで死人のようだ。
いつか顔を見せた彼が愛おしく思えた。
ドアが開くのをジッと待つことにした。
***
入ってきたのは知らない若い女だった。
けれど、人との会話は僕が渇望していたものだ。誰でもいい。僕の話を聞いてくれ。
彼女は最初に入ってきた彼と違って一歩も近づいて来てはくれなかった。
一体何が良くなかったのか。果たして僕には分からなかった。
***
分からない事ばっかりだ。一体どうすれば良いんだろう。僕はただ話がしたいだけなのに。僕の事を知って欲しいだけなのに。どうして誰も彼も、僕の話を聞いてくれない。悲しい。どうしようもなく悲しい。
***
死んでしまえれば、楽だろうか。
不意にそう思った。今までに何度か考えたことはある。その度に怖気づいてやめた。
生きる理由は特にないけれど、死ぬ理由も特にない。なら大差ない。
でも、僕が死んでも明日は来て社会は回る。僕という存在は別に必要ない。なら、死んだって…。
***
ドアを開けて、部屋に入る。男はそこにあったモノを見て眉根を寄せる。辺りには酷い腐臭が充満して、男は思わず鼻をつまんだ。
「何だい、こりゃあ…」
「五十年前に発見された新人類の変異種ですよ」
一緒に入ってきた白衣の男が答える。
「人類ってコレ、ほとんどバケモノじゃないの…」
男の見下ろした先には、およそ人とは呼べない「何か」の死体が打ち捨てられていた。