【1-7.魔法適正診断】
二時間目の授業で適正属性と魔力量を測定するため、俺達は魔法訓練場に訪れていた。
「二時間目始まりの時間になったね。この時間は一年生全員を測定するから、測定が終わった人は長い間暇になってしまう。そこで、僕は思いついたんだ!その間、君たちには魔法に親しんで貰おうと思う!」
魔法に親しむってなんのことなのだろう、と疑問に思っていると、すぐに先生が説明してくれた。
「まずは君たちに基礎的な魔法を教える。それを使って色々遊んで待っていてほしい」
(とうとう魔法が使えるのか……!)
沢山魔法に親しみたいし、なるべく速い時間で終わるといいなあ、とカイは思う。
「まず、火属性の基礎魔法を紹介するよ。
《火よ・この手に灯り・辺りを照らせ》」
ボワァッと音を立てて、ピーター先生の右手人差し指の先に橙色の魔法陣が浮かび上がり、微弱ながらも明るい火が灯った。
「どうだい?明るいよね!これが火属性魔法《フレイムトーチ》だ。この魔法は基礎の基礎だから、どんな魔法よりも簡単に使うことができる。だから、詠唱を短縮して使うことが多いんだ。短縮詠唱は無詠唱よりリスクが低く、詠唱を短く済ませることができる便利な技だから、魔法を習得したら、短縮詠唱をまず練習してみるといい。それじゃあ、この魔法の短縮詠唱を教えるから、この火は一回消すね」
先生がそう言うと、指先の火が音もなく消え去り——
「《灯れ》」
一言発するだけで、再び指先に火が灯った。
「これが短縮詠唱だ!三節に分けて詠唱していたのが、一言で済むようになっているよね。短縮詠唱も、オリジナルの魔法以外は決まったものがあるから、それぞれ教えていくよ」
***
ピーター先生は《フレイムトーチ》を含めて、六つの基礎魔法を教えてくれた。それぞれ、水属性魔法《アクアショット》、風属性魔法《フィードブリーズ》、雷属性魔法《ボルティア》、地属性魔法《グランデ》、光属性魔法《ホーリールース》というみたいだ。
まだ実践は出来てないから、測定が終わるのが楽しみで仕方ない。
魔法にはもう一つ、闇属性の魔法があるらしいが、危険だからということで教えてはくれなかった。
測定は出席番号順で、魔法訓練場に隣接する施設の中で行われる。
俺は二十番目ぐらいだから、割と早く終わりそうだ。
しばらくして、俺の番が来た。
「はい次、カイ=ウォールトくんだね。さあ、測定を始めるから、この水晶に触れてくれ」
言われるままに水晶に触れる。すると、身体の中でなにかが流れるような感覚がして、俺の触れた水晶が蒼く発光し、次の瞬間には紫に変色してバチバチと音を立てて電気を纏った。
「うん、君は雷属性の適性が強いみたいだね。君にはこれから、雷属性魔法を中心に学んでもらうことになる。」
「わかりました。雷属性ですね」
「うん。雷属性は、火属性と並んで高出力の魔法を発動することができる強力な属性なんだ」
なるほど。かなり良い属性を引き当てたみたいだな。
「それと、適正があるから向いてるってだけで、他の属性の魔法も普通に行使することはできるからね。まあ向き不向きはあるんだけど」
まあ一つの属性しか使えなかったら何かと大変だろうからな。向いてない属性とかないといいなあ……。
「それじゃ魔力量測定をしようか。次はこちらの水晶に触れて、魔力を流してみてくれ。」
「えーっと……魔力ってどうやって流すんですか?」
「あー、ごめんごめん、言い忘れてたね。さっきの水晶を触った時に身体の中をなにかが流れるような感覚がしただろう?あれが魔力の流動なのさ。あの感覚を、自分から外に出すようにしてみてほしい」
「なるほど——やってみます!」
「うん。いい心意気だ」
(魔力を外に出す——だから、ふっ!ふんっー!)
本当にこんな感じで合ってるのだろうか。
「ははは、ちょっと力み過ぎだね。リラックスしてやってみるといいよ。さっき君は魔力に一度触れている。だから、もう君の中では未知の『第七感』が目覚めているはずだ。未来を察知せんとする『第六感』と違って、意図して行使することが可能だからね、一度深呼吸をして、自分の体に流れる魔力を感じてみるんだ」
俺の中に目覚めた未知の「第七感」を感じるべく、深く息を吸う。
「すぅぅぅ———はああぁぁ———」
体中に酸素が巡る。それだけじゃない、酸素以外のなにかが、体内に取り入れられた気がする。
「感じたみたいだね。君が取り込んだのは大気に含まれる魔素だ。魔素の感覚を感じられたなら、後一歩だよ」
魔素の感覚を思い出しながら、体内を意識する。血液、リンパ、神経など、体を巡る全てを感じる。
そして掴んだ。未知なる「第七感」を。
掴んでからはすぐにコツを理解した。俺は水晶に触れ、魔力を流す。水晶は紫電を纏い、付与されたエネルギーが増長していく。
「おお!君もすごいね!優秀な魔力量だよ。君の魔力量、すなわちMPは4000だ。普通は2000ぐらいなんだけどね。君には魔法の才能があるよ!うん、今年の一年生は凄いなあ」
嘘だろ!?普通の倍も多いなんて!
それに、魔力量が多いってことは、より強い魔法を使えたり、沢山魔法を使えるってことだよな。
でも先生は、君もって言ってたし、他にも凄い人がいたってことなんだろう。その人はどれぐらいなのか聞いてみようかな。
「他にも凄い魔力量の生徒がいたんですか?」
「ああ、そうなんだよ。あの子は別格だったね。僕の人生でも、あんなに膨大な魔力量の子は見たことがないよ。そうだ、これを見てみて」
そう言って先生はバラバラに割れた水晶を取り出して、俺に見せた。
「これ、どうして割れてるんですか?」
「これはね、測定するために水晶に流れた魔力が膨大すぎて、内側から破裂してしまったんだよ」
「えっ、そんなことあるんですか!?」
「ああ、僕もびっくりだよ。それに、もっと驚いたのがね、水晶の破裂による推定魔力量が、なんと、20000なんだよ」
「に、20000!?そ、それって普通の10倍じゃないですか!」
「そうなんだよ、あの子はとんでもない魔力量の持ち主だと考えられる」
「そ、そんな子がいるんですね……あの、その子が誰なのか教えていただけませんか?」
「仕方ないなあ、本当はダメなんだけどね?特別に教えてあげよう。魔法科と剣術科を受講している、アルス=ハル=ウォルティリアくんだよ」
「あー!アーサーの幼馴染の人ですね」
「そうなんだね、それは知らなかったよ」
あの王女様、魔力量が二万もあるのか……凄まじいな。
家系だけでなく王女本人も選ばれし才能の持ち主ってことか。
測定が終わり、先生とも話し終えた俺は施設を後にし、この先の自由時間を過ごすために魔法訓練場に向かった。
魔法の解説は難しい。