【1-6.初授業】
説明難しい……
アーサーと楽しい会話をしているうちに、午前の授業が始まる時間が近づいていた。
「そろそろ時間だな。行くか」
「そうだな、行こう」
授業を受けるため、寮とは別の棟である教育棟へと俺とアーサーは向かう。
魔法科は二階だから、棟同士を繋ぐ外廊下を通れば一直線だな。無言で行くのも寂しいし、何か話そう。
「なあアーサー、魔法科初の授業楽しみだなっ」
「ああ、そうだな。俺にとって魔法は剣の次に興味のあるものだし、初めての学びだからな。どんなことが学べるのか楽しみだ」
「にしても、俺達の寮の階から直通できるなんてラッキーだよな」
「全然時間かかんないし、余裕もって過ごせそうでよかった」
「疲れた日に少しでも休む時間が作れるのは心の支えだよなー」
話していて思ったけど、俺らめっちゃ気合うな。ポンポン言葉が浮かんできて、それをお互い返すことでキャッチボールが成功しまくってる。やっぱアーサーとは上手くやっていけそうだな。
そうこうしているうちに教室に着いた。でも、前回来た時とは何かが違うような違和感がする。なんだろうか。俺が違和感の正体を探っていると——
「ん、なんか、この教室広くねえか?」
「あ、それか。なんか違和感すると思ってさー」
アーサーもこの教室の違和感に気づいていたようで、俺の気づかなかった答えにまで辿り着いていたようだ。
「やあ君たち!よく来てくれたね!ようこそ、魔法科へ!」
カイとアーサーが教室の違和感について話しているうちに、ピーター先生がやってきた。
「さあさあみんな、授業の時間だ!好きな席に着くといい」
そう言われて俺らは、知人のいる席を探した。目的の人物はすぐに見つかったのだが、予想外の連れがいた。
「あっ、かい!こっちこっち〜」
「なんだリナ、アリスと知り合いなのか」
予想外の連れとはアリスのことで、アリスととなが一緒にいることに驚きつつ、新しい名前でとなのことを呼ぶことに気をつけて喋った。
「そうそう!私達寮の部屋が一緒でさ〜。仲良くなりました」
ニコッと眩しい笑顔にピースを添えて、アリスとの出会いを教えてくれた。
「あ、あの……カイくんとリナさんは……知り合いなんですか?」
「えっと、知り合いっていうか、幼馴染だね」
「そうなんですか。通りで、昨日の夜、リナさんが話していた男の子の特徴がカイ君に似ていたわけ——」
「わーーーーーっ!!あーあー!」
「うわっ、なんだよ急に、アリスがなんて言ったか聞こえなかったじゃん」
「き、聞こえなくて大丈夫だから!」
慌てた様子で否定すると、急に振り向いてアリスに小声で耳打ちした。
(あ、アリスちゃん……?そーゆーことはあんまり本人に言わないでほしいな……)
(ご、ごめんなさい……やっぱりリナさんはカイ君のことがす——)
(アリスちゃん?)
ゴゴゴゴゴと無言の圧力がものすごい重量で襲いかかってきたことで、か弱いアリスは耐えきれず、途中で言葉が途切れてしまった。
困惑した雰囲気を入れ替えるようにアーサーが口を開く。
「ほーん、君、カイの幼馴染なのか。俺はアーサー=クルセイド。よろしくな」
「私はリナ=サンフォード。よろしくね!」
「おーよろしく。てことはカイはこの二人と授業受けるんだよな?」
「そうしようと思う。アーサーはどうするつもりなんだ?」
「俺はアルスのとこに行ってくるよ。それじゃ授業後ー」
そう告げると、アーサーはすぐにアルス王女のところへ向かっていった。
それからすぐに記念すべき第一回の授業が幕を上げた。
「まず初めに、僕の自己紹介をしよう。僕はマルコ=ピーターという。ピーター先生と呼んでくれると嬉しいな。ところで、君たちの中には、この教室の違和感に気づいた人もいると思うんだ。そう、この教室は、元の大きさよりも数倍大きくなっている。より沢山の生徒を詰め込めるようにね。さて、最初の問題だ。この教室はどうして、元の教室より大きくなっているのか、答えられる人はいるかい?」
みんなが先生の出した問題の答えに悩んでいる中、無言で挙手する生徒がいた。
真面目そうな雰囲気の顔に丸メガネをつけた男子だ。
「はいそこのメガネくん、どうぞ」
「メガネくんではなく、クリストファー・セイルズです。答えは、この部屋に拡張の魔法がかけられているから。言葉にするまでもないことですね」
「うん。大正解だね、素晴らしいよセイルズくん。皮肉はちょっと勘弁だけどね」
あーゆー皮肉ばっかいうメガネってよくいるよね。序盤はうざいけど、後半はところどころいいやつになっていくタイプの。
皮肉メガネのことは置いといて、拡張の魔法が施されたことによって教室が広くなったことが、先程感じた違和感の正体だったらしい。魔法ってだけあって凄いな。
「セイルズくんの言うとおり、この教室には拡張の魔法がかけられている。この話をしといてなんだけど、拡張の魔法はまだ教えることができないんだ。代わりに、最初の授業らしく、魔法について説明してあげよう。まず第一に魔法とは、詠唱をすることで『神』や精霊に願いを届け、超常的な効果を発することなんだ。でも、精霊達に頼りきらなければ魔法を使えない、なんてことはなくて、我々人間が宿す魔力だけで行使することもできる。そして詠唱とは、自分が想い描く事象を発現させるための、言霊の役割を果たす。詠唱は、魔法ごとに違っていて、自分が行使したい属性の魔法によって用いるフレーズも変わってくる。大半の魔法は、先代の魔法使い達が残した呪文を詠唱することで行使できるけど、自分が創り出したオリジナルの魔法は、オリジナルの呪文を詠唱しなければならない。オリジナルとまではいかなくても、魔法の性質や効果を変えて発動したい時は、詠唱を即興改変しなくてはいけない。そして詠唱において一番の肝は、言葉に魔力を通すことなんだ。ただ呪文と同じことを喋ったところで魔法は発動してくれない。魔力を呪文に通すことで、精霊達や体内の魔力を使い、魔法を発動させるんだ」
ラノベでよく聞くような説明だな。やっぱり魔法ってのはどの世界でも同じような感じなのかな。
「だけど、詠唱をしなくても魔法を発動することもできるんだよ」
「えっ?それじゃあ、詠唱必要なくないですか?」
驚いて、つい頭に浮かんだ疑問を口にしてしまった。
でも詠唱の説明をしたってことは、詠唱が必要な理由があるんだろうな。
「うん、いい質問だね。君の名前は?」
「カイ=ウォールトです」
「ウォールトくんだね、うん。覚えておくよ。というか、授業前に生徒の名前ぐらいは覚えておかないとね。明日までにはみんなの名前を覚えてくることにしよう。話が逸れてしまったけど、詠唱が必要か必要じゃないかについてだね。なぜ詠唱が必要なのかというと、無詠唱では、魔力操作が難しかったり、一気に様々なことを並行思考しなくてはいけないから、魔法が不発しやすいんだ。だから、基本的に無詠唱で魔法を使う時は、初歩的な魔法や、付着系の魔法ぐらいじゃないと危険なんだよね。それこそ、凄腕の魔法使いなんかは、戦闘中に無詠唱で高等魔法を連発なんてしてしまえるけど、それはリスクをかなり伴っているんだ。詠唱をすることによるメリットは、魔力をコントロールしやすくて、確実に魔法を発動できるところだね。これで無詠唱の危険さと、詠唱の必要性を理解してもらえたかな?」
「はい、わかりました」
要約すると、無詠唱は速いけど危険で、詠唱ありは時間がかかるけど安全ってことだな。
「ざっと魔法について説明をしたところで、次の時間は君たちの適正属性と魔力量を測定するから、15分以内に魔法訓練場に来てね。それじゃあまた後で!」
座学は終わりで、健康診断的な感じで適正属性と魔力量を計るっぽいな。適正属性は何属性になるんだろう。そう考えると、凄くワクワクしてきた。
15分以内に移動しないといけないみたいだし、早めに行って損はないからな。もう移動しよう。
俺はリナとアリスと一緒に、魔法訓練場に転移するために転移室へと向かった。
転移室は相変わらず昼でも暗くて、幻想的な青い魔法陣が刻まれている。
何度来ても綺麗だなここは。時間に間に合わないといけないから、今日は眺めている時間がないのが残念だ。
「「「転移」」」
三人は揃って呪文を口にし、魔法訓練場へと転移した。
前回投稿から1週間も……