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ラノベ好きは本の中  作者: ゆかり
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【1-5.波乱万丈な初回授業、の前】

授業内容まで入りたかった……

 寮生活初日の夜はなんてこともなく過ごすことができた。

 寮の起床時間は朝6時で、睡魔に勝った初授業への高揚が、俺の体を起こしてくれていた。

 今日からは授業が始まるから、気合い入れてかないとな。でも授業まではまだ時間があるし、することもないから、同室の住民にでも話しかけようか。

「なあ、アーサー。君は何科を受講するんだ?」

「俺は剣術科と魔法科を受講する。剣術は我が家の誇りみたいなものだからな、俺にとっても大切なことなんだ。ところで、お前は何科を受けるんだ?」

「俺もアーサーと同じだよ!剣術科と魔法科を受けるつもりなんだ。」

「そうか、奇遇だな。お互い頑張っていこう」

「そうだな。あのさ、俺、こことは遠いところから来たからここら辺のことが全くわかんないんだ」

「なるほどな。それで、何が聞きたいんだ?」

「嫌だったら無理に教えてくれなくていいんだけどさ、アーサーって、あの、王女様?の幼馴染らしいじゃん。だから、アーサーも有名な家系の生まれなのかなあって。剣が誇りとも言ってたし」

「プッ……あっははははは——」

「え?なんか俺変なこと言った?」

「変なこともなにも、俺の家系はこの国で二番目に有名な家なんだぜ?それを知らないとか、どんな田舎から来たんだよ」

 あー、面白い。と、目に溜まった笑い涙を拭きながらアーサーは言った。

 てか、クルセイド家ってそんな有名だったのか……。流石は王女の幼馴染だな。

「知らないようだし、折角の機会だからうちのことを詳しく教えてやるよ」

「本当か?ありがとう!」

「俺は自分の家のことを誇りに思ってるからな。つい、自慢したくなっちまったんだよ。嫌だったら言ってくれよな?」

「全然大丈夫!俺が頼んで聞いてるんだしな」

「まずはうちの家の始まりから教えよう」


* * *

 魔法歴450年、大陸では、発展を繰り替えした魔法の技術が応用され、戦争が勃発していた。

 20もある国のなか、大陸西部の一国であるランベルト王国は、戦争をやめるよう周辺諸国に呼びかけていた。

 各国の領土的野心が、魔法によって活性化されたことで、ランベルト王国の呼びかけは全くと言っていいほど効果がなかった。

 時の国王、ロラン=ランベルトは、戦争の防止ではなく、戦争の起きない世界を作ることに思考を切り替えた。

 一国にしては強大な戦力を持っていたランベルト王国は、周辺国を従えるのもそう難しい話ではなかった。

 ランベルト王国は、10年間の間周辺国に勝ち続け、領土を広げてきた。

 だが、そんな王国に最大の危機が訪れた。かの東の大帝国が宣戦布告してきたのだ。ランベルト王国は帝国相手にも善戦できる戦力を持っていたが、ここ100年負けなしであり、「不敗の帝国」という異名を持つ帝国からの宣戦布告をうけ、国内は大混乱に陥った。

 それから一ヶ月後、大した準備もできぬままに、戦争が始まってしまった。

 帝国の前にランベルト王国善戦したと言えるだろう。だが、結果は火を見るより明らかで、王国国王その人、ロラン=ランベルトが、帝国の幹部に殺されてしまったのだ。

 戦争に負けたランベルト王国は、帝国の属国となり、帝国の大陸統一は後一歩のところまで迫っていた。

 だが戦争が終わってから三ヶ月後、旧ランベルト領で、反乱が起きた。反乱の中心人物は、ロラン王の絶対的信頼を受けていた国王補佐であるアラン=ウォルティリアと、国軍最強の騎士とされたランス=クルセイドだった。

 この二人は帝国からも危険視されていた程の人物で、二人を中心とした反乱は、帝国にとって只事ではなかった。

 国王の補佐をしていただけあって、アランの指揮は素晴らしきものだった。旧ランベルト領を奪還するべく、尽くしていた。ランスは最強騎士たる実力を発揮し、単騎で帝国軍2万人を押し退けるほどに強かった。

 反乱は後に鎮まったが、帝国にとっては鎮まったなどという言葉で片付けていいようなことではなかった。そう、旧ランベルト領が奪還されたのだ。それに、ランベルト領だけでなく、その周辺地域の帝国国領の一部までもが反乱で失われ、その土地では新しく、ウォルティリア王国という新興の国家が出来上がってしまった。

 帝国にとっては損失どころではない。敵対する強大な国家がまた一つ増えてしまったのだ。帝国の皇帝の覇道が、後一歩のところから、大きく後退してしまったのだ。

 それからウォルティリア王国は更に勢いをつけ、魔法歴1575年に至るまで、その国を守り続けてきた。

 そうした歴史から、国王ロラン=ウォルティリアの直径の子孫である現国王の娘、アルス=ハル=ウォルティリアと、ウォルティリア王国創設に最も貢献した偉大なる騎士であるランス=クルセイドの子孫、アーサー=クルセイドは、古くからの家系の付き合いもあり、小さい頃からずっと一緒の幼馴染なのだそうだ。


* * *

 とんでもなくすごい話だった。ラノベの一作品にできるスケールだろ……。単行本五冊ぐらいはあるって。

「神話レベルで凄い話だったな。実際に伝記とかになってたりする?」

「ああ、そうだよ。ウォルティリア王国ではこの話は有名だし、児童学校の教科書に載るほどだぞ?」

「なんか俺が常識ないのバレたな……」

「ははっなんだそれ」

「てかアーサー、お前はそんなに凄い家系なのに、俺なんかが対等に話していいのか?」

「そんなこと気にしてんのか。別に大丈夫だよ。それに俺は、お前とは生涯の親友になりたいと思ってるしな。仲良くしよーぜルームメイト」

(なんだこいつ……最強騎士の子孫で、イケメンとか、最強かよ)

「お前がいいなら俺も普通に接することにするよルームメイト」

「おっ、ノリいいな!やるじゃんか」

「別に地方から来たからってノリが分からないとかないからな?」

 ははっ、とアーサーが笑う。アーサーは凄い家系の生まれだということが分かった。 

 だから考えてしまったのだ。大変じゃないのかな、と。歴史ある名家なんだし、その身に降り掛かる圧は重圧どころじゃないはずだ。でも、アーサーは剣に夢見ていて、家に誇りを持っているから、きっと大丈夫なんだろうな。

それから俺は、もう一つ気になったことについて、聞いてみることにした。

「なあアーサー、その、アルス王女?とお前は幼馴染なんだよな?」

「ああ、そうだよ」

「てことは、長い間一緒にいるってことだよな?」

「ん?そうだけど、それがどうかしたのかよ」

 俺は何個か質問を挟み、必殺の一撃を繰り出す。

「だからアルス王女のことが好きなのか」

「なっ———ッ!なっ、な……いやどーゆーことだよ!」

 フッ、これが、俺の異世界最初の必殺技だ。

 俺がすかしていたせいで気づかなかったが、アーサーは茹で蛸のように真っ赤になって、「なっ、なっ……な——」とか言ってぴくぴく痙攣している。まじおもしろい。

「いやなんか、昨日の朝からいちゃいちゃしてたなー?って思って」

「いちゃいちゃなんてしてねーし!てか、アルスのことはそんなふうに思ってねーし!」

「じゃあアルス王女以外には思ってる人がいるんだ?」

「いないわ!」

「あははっ」

「くっそぅ……」

 顔を真っ赤にしてまで抗議するアーサーが面白くて、俺は幸せな気持ちで授業を迎えることになった。


 


アーサーはツンデレなのかな。

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