【1-4.ドキドキ☆ワクワク♡入学式✨】
入学します。
とうとう入学式の朝になった。
昨日、校長に言われた通りに、俺達は校長室を訪れていた。
「朝早くからすまないねえ、二人とも。ここに君たちを呼んだ理由はずばり、名前じゃ」
「名前、ですか?」
「そうじゃ。君たちの名前はこの大陸では聞いたことのないような名前でな。そこで、偽名を考えてもらいたいのじゃ」
偽名かあ——異世界っぽい名前がいいよな。
俺の名前は「渡世界飛」で「わたるせかいと」だから、名前はカイでいいとして、苗字は……「わたるせかいと」の真ん中をとってせかい……ワールド、わーるど——。
「俺決めました!俺のこの世界での名前は——俺は、
『カイ=ウォールト」です!」
「いい響きじゃのお。それではウォールト君、よろしく頼むよ?」
「はい、よろしくお願いします!」
「次はとなり君じゃが、決まったかの?」
「はい!決まりました。私は、『リナ=サンフォード」です!」
となりを反対からよんでリナか。サンフォードってなんだ?
「サンフォード君も、よろしく頼む」
「ところで、サンフォードってなんだ?」
「えっとね、太陽のように輝けるようになりたいなって」
「なるほどね。いいじゃん」
「でしょでしょ?私も気に入ってるの」
「二人ともいい名前がつけられたところで、そろそろ入学式の時間になる。教室に案内したいところなんじゃが、その前に、君たちに渡したいものがある」
「渡したいもの?なんですか?」
「制服じゃよ」
確かに俺達私服のままだったな。制服かっこいいといいなあ。そんなことを考えていると、校長がクローゼットから何かを取り出した。
「制服は男女で分かれておっての、これがそうじゃ。二人とも、着替えてくるといい」
* * *
制服に着替えた俺達は、校長に案内され、剣術科一年の教室に入ろうとしている。
(どんな出会いがあるんだろうな……沢山の友達ができるといいなあ)
教室に足を踏みいれると、ほんわかとした雰囲気の男教師が席に案内してくれた。
教室はいわゆる大学みたいな感じで、長机に何人かの生徒が横並びに座る形式になっている。
(沢山友達を作るためにも、勇気を出して話しかけてみないとな……)
話しかけようと隣を見ると、そこには、くりっとした丸い目、幼さを感じさせる童顔に、桃色の頭髪をショートカットにした女の子がいた。背丈は小さく、おどおどしている様から小動物のようだ。
「こんにちは。入学式、緊張するね?」
「こっこここ、こ……こんにちは……」
挨拶というより鶏の鳴き声のような返事が返ってきた。かなり動揺しているらしい。
「急に話しかけてごめんね。俺はカイ=ウォールトって言うんだ。遠くの地方から来たから、よく分からないことが多いんだけど、よろしくね」
「か、カイ君……よろしく。わたしは、アリス=フィーリス。アリスでいいよ」
「それじゃ、アリス、よろしく」
アリスはもじもじしながらもちゃんと受け答えしてくれた。緊張してるだけみたいだな。
「アリスはもう、何科を受講するか決めた?」
「わ、わたしは…魔法科と、錬金科を受講するつもりなんだ」
「そうなんだ!俺も魔法科は受講するつもりだから、これからよろしくね!」
「う、うん……よろしく。」
そんな風にアリスとなにげない会話を交わしていると、クラスの前の方が騒がしくなっている。
「なあ、なんか騒がしくないか?」
「そ、そうだね。あれはきっと……」
アリスがなにか思い出そうとしているように前を向く。数秒後、アリスがハッと顔を上げた。思い出せたみたいだ。
「あ、あれは王女様と、その幼馴染様だ……!?凄い人が同じ教室に……」
「え、王女!?ちょっと詳しく教えてくれる?」
アリスの口から出てきた言葉があまりに予想外すぎて、つい大声を出してしまった。
「えっと、この国、ウォルティリア王国の国王様には、一人娘がいて、その御方が、わたし達と同い年なんだ。」
「それで、この学校に通うことになったと」
「うん、そうだね。普通王族は、貴族学園に通うはずなんだけど、王女様は魔法が好きらしくて……魔法に優れたこの学校に通うことになったんだって」
「へえ、そうなのか。ありがとう」
自分の進みたい道を進める王様ってかっこいいな。王女様だって分かれば騒がしくなるのだって頷ける。けど、その幼馴染と王女が騒がしくしてるみたいだし、何があったのだろうか。
気になって俺も騒ぎの声に耳を傾ける。
「だから、この学校で1番になるのは私だって言ってるでしょ!」
「いーや、俺だね!そこは絶対に譲れないな!」
なんか凄いしょうもないことで喧嘩してるみたいだ……。でも、幼馴染ってだけあって凄い仲良さそうだ。
二人はどんな見た目なんだろうと気になって目を向けてみると、純金を溶かしたような金髪に、青空をそのまま映したかのような碧眼、ととのった鼻筋、大人の女性のようで、どこかあどけなさを残す唇を備えた尊顔は、まさに絶世の美人と呼べるほど美しく、王女の威厳を放っている女の子と、元気で、まさに年頃の少年のような雰囲気にギャップをつけるようにイケメンな顔面を持つ男の子がいた。
特に王女様の方に、俺はつい見惚れてしまっていた。しばらく周りの音も聞こえなくなるほどだったが、だんだんと声が聞こえるようになると、またしてもしょうもない喧嘩が繰り広げられていた。
「絶対に私の方が強く剣を振れるようになるから!
「俺は将来お前の騎士になる男だから、お前に越されることはないな」
「なっ——ッ」
なんかプロポーズみたいなことを言われた王女は瞬く間に顔を赤くする。
「え、えっと……その……」
期待するように目を潤ませて少年に上目遣いする王女。少年は今になって自分の言ったことの意味に気づき、こちらもひどく赤面していた。
(おい、なに朝からいちゃいちゃ繰り広げてんだ!)
心の中でツッコミを入れずにはいられないほどに微笑ましい光景だった。
「な、なんか、面白い人たちだね……」
「そ、そうだね。本当に大物なのか疑っちゃうよ」
「あはは、確かに」
そんなこんなで時間は過ぎ、とうとう式が始まった。
* * *
入学式は何事もなく終わった。強いていうなら校長先生の話がよかった。でも、今回も校長先生の若い頃の話は遮られてしまったから残念だ。校長の話がもっと聞きたくなるなんてこの世界だけかもな……。
式が終わって、俺達は教室に戻ってきた。今日は式の後、先生から指示があるらしく、ほんわかとした男教師が話し始めた。
「まずは君達、入学式おめでとう。僕は魔法科一年生担当の、マルコ=ピーターという。ピーター先生と呼んでくれると嬉しいな。さて、自己紹介も済んだところで、今日は君達の寮を案内するよ。うちの寮は、二人一部屋だから、相部屋の人と仲良く過ごしてほしい」
二人一組か、いったいどんな人と一緒になるんだろう。
「男子は僕のところに、女子は一階中央フロアにいるノエル=メルセデス先生のところに行ってくれ」
それからは、明日の連絡が告げられた。各々受講する科に向かい、第一回の授業を受けることになるらしい。
俺は午前中が魔法科で、午後は剣術科を受けることになるな。
「じゃあアリス、また明日魔法科で」
「う、うん……!また明日ね」
隣人に挨拶を済ませたところで、俺はピーター先生の所へ向かう。
* * *
「さて、男子全員集まったね。では、案内しよう」
男子寮は三階まであって、一階から順に案内されていった。二階まできて、半分くらいの生徒が案内されたところで、俺の名前が呼ばれた。
「部屋番号215、カイ=ウォールト君と、アーサー=クルセイド君だね。それでは.仲良く過ごしてくれたまえ」
アーサー=ランベルト君が同室か。それにしても、アーサー……?なんかどっかで聞いたことあるような——
「よっ、お前が俺と同室のカイ=ウォールトか。聞いた通り、俺はアーサー=クルセイドだ。よろしくな」
(え……!?え?あ、あの、王女様の幼馴染じゃん!)
どうやら、とんでもない人と同室になってしまったらしい。
「どうも、これから仲良くしてこう。俺のことはカイでいいよ」
「じゃあ改めて、よろしくな、カイ!俺はアーサーでいいぞ」
「うん、アーサー、改めましてよろしく」
かくして、俺の王立レマリア高校初日は無事、終わったのだった.
* * *
男子が部屋を案内されているのと同時刻、女子も案内が行われていた。
「女子も全員そろったようだな。私がノエルだ。よろしく頼むよ」
長い髪をポニーテールに結った、男らしい口調のこの女性がノエル先生みたいだ。
女子も着々と寮に案内され、二階の生徒が案内され始めた頃、とうとう私の名前が呼ばれた。
「203号室、リナ=サンフォード、アリス=フィーリス中に入れ」
私と相部屋の子は——な、なんと……
(桃色の小動物じゃないか!か、かわいい……)
この日アリスは、異世界から来たラノベ好きの幼馴染二人と出会うのだった。
アリスちゃんは結構おどおどしてるけど、話す時は話します。
入学しました。