第4話 地球平和ファミリー教会
「オイ!なんで、俺の身体が女の子になってんだよぉ―――!?」
俺は、ベッドから立ち上がってホモ野郎の胸倉を掴みながら叫んだ。
ホモ野郎はスーツの上から白衣を着ていた。
もしかして、こいつは医者なのか?
「リリアン様は、女性ですから身体が女の子なのは当たり前じゃないですか?」
ホモ野郎は、下着(女物)しか身に纏っていない俺の身体を一瞬見ただけで顔を赤く染め、どぎまぎしながら俺の身体から視線を逸らした。
「だから!俺は、リリアン様じゃねぇーよ!!!」
「リリアン様…!とっ、とにかく何かお召し物を…!!」
ホモ野郎は、ベッドのサイドテーブルに置いてある真っ赤な服を俺に差し出した。
ホモ野郎が差し出した服は、ふわふわの素材で出来た白と赤のサンタみたいなワンピースで……
んんッ!?
なんか、この服どっかで見たような……
まさか……!?
「おっ、オイ!お前、鏡持ってないか?」
俺は、サンタ風のワンピースを着てから、ホモ野郎に言った。
「鏡でしたら、こちらに洗面台が…」
ホモ野郎が部屋の隅にある簡易式の洗面台を指さした。
個室にベッドと洗面台…ここは、どっかの病院の病室なのか…。
いや、今はそんなことどうでもいいわ!!
俺は、ズカズカと大股歩きで洗面台に向かった。
「リリアン様…!そのような歩き方は、お行儀が…」
俺は、ホモ野郎を無視して洗面台の鏡の前に立った。
鏡に映っている俺の顔は……艶のある明るい茶色の長い髪に、まつ毛の長いぱっちりとした二重の大きな瞳、ツンと上を向いた小さな可愛い鼻と薄いピンク色の小さな唇―――
鏡に映っていたのは、空き地でコンサートをしていたあのアイドル風の美少女だった!!!!
たしか、俺はあの美少女が高い天井から真っ逆さまに落ちて来るのを助けようとして……
落ちて来る美少女と目が合った瞬間、何かがぶつかったような大きな音がして……
大きな音と共に、額に激痛が走って、ものすごい眩暈に襲われてそのまま意識が無くなって……
まっ、まさか…!?
あの美少女とおでこをごっつんこして、俺とあの美少女の魂が入れ替わっちゃったとか……?
そんな馬鹿な…!!
そんな漫画みたいなこと現実に起こるわけないだろぉ……?
「――いや、現実に起きてしまったんだよ。」
ファッ!?
俺が脳内で思考をめぐらせている間に、部屋にホモ野郎以外にもうひとり白衣姿の40~50代くらいの仙人みたいに長い髭と髪を生やしたオッサンが入って来ていた!
しかも、まるで俺の思考を呼んだみたいなこと言いやがるし…!
なんだこのオッサンは!?
「尊師!大変です!リリアン様がようやく意識を取り戻したと思ったら…まるで別人のようになってしまったのですよッ!」
ホモ野郎は、オッサンの前で恭しく跪きながら叫んだ。
そっ…尊師ィ…?
「透君。そこにいるのは、私の愛娘であるリリアンではないよ。肉体はリリアン本人のものだが、リリアンの肉体には別の人間の魂が宿ってしまったようだ。」
「まさか…!?あの転落事故の時に、リリアン様とおでこをごっつんこしたあの汚らしい男とリリアン様の魂が入れ替わってしまったというのですか!?そんな、馬鹿な…ッ!そんな漫画みたいなこと現実に起こるわけが…!!」
「あぁっ!?汚らしくて悪かったなぁッ!このホモ野郎!」
「クッ…!たしかに、この知性を全く感じられない下劣で下品で下衆な口調を私の敬愛するリリアン様がするわけがない!――貴様、一体何者だ!?」
「人に名前を聞くなら、てめぇから名乗るのが先だろぉ!?」
「貴様ァッ!!」
「透君、落ち着きたまえ。彼も突然のことで困惑して気が立っているのだろう…。初めまして、紺野壊君。私は、白雪総合病院の院長、白雪晃明。」
「なっ、なんで、俺の名前を!?」
「貴様をここへ搬送する時に所持していた持ち物の中から、身分証を確認したからに決まっているだろう?そんなこともわからんのか…。」
ホモ野郎は、俺が愛しのリリアン様ではないと分かったとたんに、さっきまでの恭しい口調をやめて俺を汚物を見るような目で睨みながら言った。
「こらこら、透君。君もきちんと自己紹介しなさい。」
「…研修医の美澄透だ。」
「紺野君。透君は、リリアンの婚約者なんだ。彼は、普段は冷静沈着で誰に対しても温厚で誠実な青年なんだが、婚約者が不慮の事故に遭って気が動転しているんだ。私の顔に免じて、数々の非礼を許してくれたまえ。」
病院長の白雪は、頭を深く下げながら言った。
えぇーっ!?
透とかいう、このいけ好かないホモ野郎が美少女のリリアンちゃんの婚約者なのかよ…!
「尊師ィーッ!?おやめくださいッ!!謝罪なら、この私めが土下座でも何でもしますからッ!!!私のせいでこのような低俗な男に、我が『地球平和ファミリー教会』の偉大な総裁であらせられる貴方様が頭を下げるなんて…!!」
「地球なんたらかんたら教会って…あの胡散臭い怪しいカルト宗教のことか?洗脳した信者に高額な壺だの本を買わせたり、とんでもない額を献金させて破産まで追い込んだりするって…」
前にネットのニュースかなんかで見た気がする…。
「貴様ァ!!地球の平和と繁栄を願う崇高な精神の我が教団をどっかの学会とかなんとかの科学とかと一緒にするなァッ!!」