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第2話 あわてんぼうのサンタクロース

 08:10 p.m.

 

 2時間の残業を経て、俺はようやく一日の労働から解放された。


 俺は、タイムカードを打ち終えると、誰よりも早く作業着から私服(着古した上下のジャージ)に着替えて職場を後にする。


 ここから、俺の住んでるアパートまでは徒歩で約40分。


 40分後には、うちで夕飯を食いながら片手でスマホを操作し、ありったけの夢をかき集め捜し物を探しに行くのさ~♪


 いかん、想像しただけで俺の股間の羅針盤の針が偉大なる航路(グランドライン)を差し始めた。


 アパートまでは、それなりに賑わっている繁華街を通って行かなければならない。


 この時間だと人通りも結構あるから、俺はうつむきがちに速足でここを抜けて行く。


 人混みは、苦手だ。


 俺は、通り過ぎていく人々と視線を合わせないように俯きながら、自分の気配を消して速足で進んで行く。


 もうすぐクリスマスのせいか、どこもかしこもクリスマスツリーやらサンタの置物やらが飾られている。


 流れてくる音楽も全て定番のクリスマスソングだ。



 俺は、クリスマスが嫌いだ。


 クリスマスには、ろくな思い出がない。


 

「ジングルベール♪ジングルベール♪すずがなるぅ~~♪」


 俺の背後からも、どこかの子どもがご機嫌にクリスマスソングを口ずさんでいる。

 

「ふふっ。遥斗は、お歌が上手ねー。」


 子どもの母親と思われる女性の優しい声が聞こえる。


「えへへ♡ ママ、幼稚園のクリスマス会ぜったい来てね!ぼく、ママのためにいっぱいお歌の練習してるんだよー。」



 どこにでもいる母と子の仲睦まじいワンシーン。



 今の俺には、全く縁のない世界。


 過去の俺にも……。



 



 俺は、クリスマスも誕生日も家族で祝ったことは一度もなかった。



 

 俺は、親の愛とか温もりを感じたことがない。

 



 俺のハハオヤは、俺のチチオヤに命じられるままに俺に暴力を振るった。


 俺のチチオヤに洗脳されていた俺のハハオヤは、その自らの手で実の両親と実の姉とその夫と息子を殺して、死体をバラバラに解体して遺棄した。


 親族の他にも、チチオヤと金銭トラブルになった男とその娘も監禁して虐待して男は死んで、生き残った娘が監禁部屋から自力で逃げ出して、警察に保護されたことで俺の両親が行ったおぞましい凶行が世間に明るみに出た。


 裁判で俺のチチオヤは詐欺・恐喝・殺人教唆で死刑に、ハハオヤは傷害・殺人で無期懲役になった。





 



 

☆☆☆





 繁華街を抜けると、閑静な住宅街に入る。

 

 俺の住んでるアパートまで、あと少し。



 冬の風は冷たい。


 早く家の中に入って、あったまりたい。


 あったかいこたつに入って、夕飯を食べながらスマホで今晩のオカズをさがして……



「――まよなか0時 君の泣き声がするぅー♪」


 ん?


 どこからか、歌?みたいなものが聞こえる。



「四角い箱に閉じ込めらた 君はチョコレーィト♪」



 歌声のする方を見ると、住宅街にある大きな空き地に人だかりができていた。


 今朝は、何もなかった殺伐とした空き地には音楽フェスとかにあるような大きな特設ステージができていた。 

 

 こんな住宅街の真ん中で音楽コンサートか?



「――ママに焼かれた 君は焼きチョコレーィト♪ 甘くて苦くて 口にしたら消えてしーまう♪」



 チョコレートの歌?


 歌声は、甲高くて伸びやかな女の子の声だ。


 歌の歌詞は、よくわからないがその歌声はなんだか心地よくて…



「君のあつい熱も痛みも なにもかも 全てぼくが受けとめーたーい―――♪」



 俺は、無意識に歌声がする人だかりの方へ吸い寄せられていった。


 人混みをかき分けステージの前に進んで行くと、ステージの上で赤と白のサンタ風の胸元が大胆に開いたオフショルのワンピースに身を包んだ美少女が華麗にステップを踏みながら歌っていた。



「とけ(あい)たい 交わりたい 君はチョコレーィト♪」



 その美少女は、艶のある柔らかそうな茶色い長い髪のツインテールを振りながら、まつ毛の長い大きな可愛い瞳で天を見上げ、両手を天に向かって伸ばした。



「――まよなか3時 少女よ走れ メロスのようにー♪」



 美少女が手を伸ばしたところに天井からブランコのようなものが降りて来た。


 美少女は、そのブランコを両手で掴んだ。



「自由のために 未来のために 少女は走るー♪」



 美少女は、歌いながらサーカスの芸のように空中ブランコを両手に掴んで宙を舞う。


 腕も脚も胴もかなり細身の女の子が、こんなアクロバティックなことして大丈夫なのか?


 見てるこっちがハラハラしてしまう!


 観客たちからも「ひゃーっ!」とか「気をつけて!」とか心配そうな声が上がる。



「暴かれたふた 泣いてる君はチョコレーィト♪ 甘くて苦くて…ちょっぴり辛いチョコレーィト♪」



 天井からもうひとつブランコが降りて来た。


 美少女は勢いをつけて、もうひとつのブランコに飛び移ろうとしている!



「とけ愛たい 交わりたい 君はチョコレ―ィと、ぅわぁあああああああ――――!?」



 歌っている途中で、美少女はブランコに飛び移るのに失敗して、高い天井から真っ逆さまに落ちていく!!


 観客から悲鳴が上がる。



 俺は、無我夢中でステージの上に飛び乗った。


 考えるよりも先に身体が動いていた。


 

 俺は、天から落ちて来る美少女を抱き留めようと天を見上げて手を伸ばした。


 

 美少女が落ちて来るスピードは、俺が思っていたよりもずっと早くて…


 

 天から落ちて来る美少女の瞳と、俺の瞳合った瞬間―――――




ゴ ッ チ ン コ ッ !!!!



 美少女と俺の額が大きな音を立てて、ぶつかった。


 痛っってぇぇぇ―――――!!!



 


 強烈な額の痛みと眩暈に襲われ、俺の意識は遠のいていった……


 

 



 


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