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第1話 元首相銃撃

この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

 そのニュースは、昼休憩の食堂の空気を一変させた。



『――繰り返し、お伝えいたします。今日午前10時頃、沖田(オキタ)元首相が街頭演説中に何者かに銃撃され、病院に緊急搬送されました。』



 テレビ画面に映る男性アナウンサーは、落ち着いた声でこの衝撃的なニュースを読み上げる。


「えぇーっ!?銃撃って…!どういうことよー!?」


「どうもこうも、沖田さん撃たれちゃったんでしょう?やっぱ、犯人は右翼とかヤクザとかそっちな感じかしらねぇ…。」 


「犯人よりも!沖田総理は、大丈夫なのー!?」


「元総理でしょ?ほんと、心配よね~。銃で撃たれたってことは、撃ちどころが悪けりゃ…」


「嫌よッ!沖田さんが今死んじゃったら、この国はどうなるのよー!?他にろくな政治家いないし!」


 パートのおばちゃん達は、弁当を食べる手を止めて、テレビ画面を食い入るように見つめながら、このニュースに対するそれぞれの見解を言い合っている。



『――たった今、続報が入ってきました。沖田元首相を銃撃した男の身柄が判明しました。男は、都内に住む海下(ウミシタ)和也(カズヤ)容疑者、41歳、無職。海下容疑者は、警察の調べに対し「ある宗教団体に恨みがあり、沖田元首相がその宗教団体と深い繋がりがあるため狙った」などと供述しています。』



「はぁ?沖田さんが宗教団体と繋がってる…?」


「どうせ、でたらめ言ってんのよ!40代で無職でお察しの通りよー。どーせ、自分の怠惰を社会のせいにして、その鬱憤を晴らすために元総理の沖田さんを狙っただけよっ!」


「いい迷惑よねー。最近も、若い男が電車で無差別に人を襲った事件あったばっかだもんねー!今、不景気だからああいう、ろくでもない人間が増えてんのよ…。あぁー怖い!」


「あ~ん、沖田さん!どうか、ご無事で…!神様、どうか沖田元首相の命を助けてください!」



 おばちゃんがどんなに拝んでもニュースで沖田元首相は、緊急搬送される前に心肺停止って言ってたから、もう死んでんだろうな…。 


 沖田元首相が生きようが死のうが俺には、どうでもよかった。


 俺は、この国の政治に対してなんの興味も関心もないから、今の首相が誰かと聞かれても答えられないレベルだ。


 俺は、昼飯のカップ焼きそばを食べ終えると、空いたカップ容器と割りばしと空き缶をゴミ箱に捨てて、作業着に着替えるために食堂を出て男子ロッカーに向かった。





☆☆☆

   



 昼休憩が終って、作業場に戻るとここでもパートのおばちゃん達の話題は元首相銃撃事件でもちきりだった。


「――田所さん。犯人はやっぱ、世代的に就職氷河期かしらね?」


「まぁ、お気の毒な世代だけど…。だからって沖田さんを標的にしなくったっていいじゃない!あんな立派な総理を狙わないで、もっと無能な税金泥棒の議員がいっぱいいるじゃない!」


「とにかく、その海下容疑者だっけ?いい歳こいて無職な時点で男として終わってるわー。うちの子なんて、まだ30代だけど会社でそこそこの役職についてるし、結婚して家庭も持ってるし!」


「はいはい、出ましたー。木村さんちのご立派な息子ちゃん自慢~。」


「ふふん!だってうちの直樹は、このあたしが女手一つで育て上げたのよ!」


「その話ももう、耳にたこができるくらい聞いたわよー。ねぇ、三浦さん。」 


「そうだよ。この人隙あらば、自分語り始めるもんねー。あぁー、無職の糞野郎なんかのせいで沖田さんどうか死なないで…!」


「だいたい、真っ当に働いてない人間にロクな奴いないわよー。

――ねぇ!紺野(コンノ)君もそう思うでしょう?」



「――あっ…!?えっ……?」


 突然、自分に話題を振られて俺、紺野(コンノ)(カイ)は、きょどってしまった。


 ずっと無言で黙々と作業してたから、急に話かけられると言葉が出てこない…。


「紺野君は真面目で働き者だもんねー。いっつも黙って黙々と作業しててほんと感心しちゃうわ~。」


 俺の沈黙を破るように田所さんが言葉を続けた。


「紺野君、ここに勤めて長いもんね。あれ?今年で何年目だっけ?」


「あっ…!えっ……えぇっ…と……」


 三浦さんに尋ねられて、俺は、またしどろもどろになってしまう。


 人と会話をするのは、苦手だ…。


「たしか、10年近くになるんじゃない?私と同じくらいに入ったから。紺野君、中卒でここに入ったのよねー。あの頃の紺野君、初々しくて可愛かったわぁ~。」


 俺の代わりに田所さんが答えてくれた。


「へぇ!あたし、最近入ったばっかだから全然知らなかったわ~。紺野君、今いくつ?」


 木村さんが興味深げに俺を見つめながら言った。


 この会話まだ続けるのかよ…。


「に……25です…。」


「あらぁっ!うちの直樹とそんな変わらないじゃない~。うん!紺野君、まだまだ若いんだし、もっと頑張んな!顔もそんな悪くないし、背も高くないけどチビってわけじゃないし、真面目で働き者なんだからきっと、良いお嫁さんが見つかるわよ!」


 木村さんは、バンバンっと力強く俺の背中を叩きながら豪快な声で言った。


「は、はぁ……。」


「あははっ!ちょっと、木村さん、それセクハラよ~。今は、生涯結婚しない人だって、結構いるんだからねぇー。」


「三浦さん!何言ってんの~!!男ってのはねぇー、働いて結婚して自分の家庭を持って初めて一人前の男として認められんのよっ!」


「いやだぁ~。木村さん、そりゃあ時代錯誤よー。」


「だいたい、今の若者は我儘なのよー!そうやって、若者が結婚しないで子どもも作らないから、国がどんどん廃れていくのよー。」


 


 あ゛ぁ゛―――――!!


 早く家に帰りてぇ……!!!


 俺は作業場の時計を見た。


 定時まで、あと3時間25分…ッ!!!



 がんばれ、俺。


 あと3時間25分耐えれば、家に帰れるんだ。


 

 それに、今日から俺がご贔屓にしているアダルト動画サイトの大幅割引キャンペーンが始まるんだ。


 よし!


 今日は、うちに帰ったら、良作動画を発掘してオナニー三昧だ。



【登場人物紹介】


紺野(コンノ) (カイ)(25歳)

・中学卒業後、食品工場で働いている(非正規)

・趣味は読書(漫画)とAV鑑賞

・コミュ障

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