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「フローライト!」

「カーネリアン」

 スターライト王国の王都、その王城に着いた私は馬車から降りるや否や、声を掛けてきた人物に目を向けた。

 スターライト王国に行くには、馬車を使えば三日の行程だ。

 世の中には転移魔法というものもあるが、それはかなり高度な魔法で使える人は限られているし、そもそも他国への公式訪問で使うものでもない。

 規定通り三日掛けて、リリステリア王国の大使が管理している館へまずは赴き、そこで改めて支度をしてからやってきたのだ。

 私が着ているのは、紫色のドレスだ。

 紫はリリステリア王国では貴色とされていて、王族は盛装時にこの色を纏うことが多い。

 ちらりとカーネリアンの反応を窺う。ドレスアップした私を見て、どういう表情をしているのか気になったのだ。

 私と視線が合ったことに気づくと、彼はにっこりと笑った。

「会えて嬉しいよ。そのドレス、リリステリアの色だね。とてもよく似合っているよ」

 嘘がないと分かる言葉に、ホッとする。私も自然と笑顔になった。

「ありがとう。やっぱり国を代表する色だから、気が引き締まるわ」

 お気に入りポイントを告げると、彼は頷きつつ、少し残念そうに言った。

「……本当は君にドレスを贈りたかったんだけどな。さすがに国の代表として来るのにそんなことはできないから我慢したけど……次の機会があれば、私の贈ったドレスを着てくれる?」

「カーネリアンが贈ってくれるの!? ええ、喜んで!」

 好きな人からドレスを贈って貰えるなんて、まさに乙女の夢だ。

 彼はどんなドレスを用意してくれるのだろう。次がいつかも分からないのに、もう楽しみになってくる。

「楽しみだわ……」

「そう言ってくれると嬉しいな。……君には私の目の色を意識したドレスを贈りたくて……その……格好悪いと思われるかもしれないけど、君は私のものだって皆に示したいんだよ」

「えっ……」

 照れくさそうに添えられた言葉に、カーッと顔が赤くなっていく。

 まさか彼がそんな風に考えてくれていたとは思わなかったのだ。

 分かりやすく独占欲を見せられたのが嬉しくてもじもじしていると、カーネリアンが私の手を握りながら言った。

「君は綺麗で格好良い人だから、少しでも牽制したくて。今日だってすごく綺麗だから焦ってしまうんだ。誰かに取られないかって。……ごめん、余裕がなくて格好悪いよね」

「そんなこと思うわけない。それにカーネリアンが心配する必要なんてないわ。だって私、国ではお転婆姫、なんて言われているのよ?」

「だから何? 君が綺麗な人であることに変わりはないよね?」

「……」

 恥ずかしげもなく真っ直ぐに告げられた言葉が嬉しい。

 カーネリアンが本気で言ってくれているのが分かるから、余計に心に響くのだ。

 照れながらも彼を見つめると、カーネリアンは笑って私の額にキスをくれた。

 唇でないのは、周囲に人がいることを考慮してくれたのだろう。

 幸せな気持ちで彼を見る。

 彼もまた、今日の夜会に合わせて煌びやかな格好をしていた。

 黒を基調とした丈の長い上着が、彼の銀色の髪をより素敵に見せているような気がする。

 十五歳という年になり、カーネリアンは私が知っている二十歳の頃の彼の姿へとまた一歩近づいた。

 身長が伸び、顔立ちからは子供っぽさが少しずつ抜けていく。

 元々カーネリアンは整った容貌をしていたが、最近では更に磨きが掛かったように思える。体つきも細身ながらがっしりとしてきており、ひ弱さのようなものは感じなかった。

 そして何より彼の姿はハッとするほど美しく、色香があるのだ。

 十五歳の少年が醸し出すとは思えない色気。大人でも子供でもない今の彼だけが出せる独特の雰囲気はきっと皆の視線を奪っていると確信できた。

 間違いなく彼はモテるのだろう。

 誰だってこんな美少年、放っておくはずがないと思うからだ。

 正直、私なんかより、余程彼の方が心配だ。そう気づいた私は眉を中央に寄せ、呟いた。

「……やっぱり、今日の夜会、参加して良かったわ」

「フローライト?」

「私より、あなたの方が心配だって思ったの。あなたは私の婚約者なのに、他の女性がきっと黙っていないだろうなって……すごく嫌だなって」

「え、まさか」

 私の心配を彼は笑い飛ばした。

「君と違って私はモテないから、そんな心配する必要ないよ」

「嘘。絶対にいっぱいいるわ。だってカーネリアンってとっても素敵な人だもの。私がちゃんと見張っていないと、婚約者から奪ってやれ、なんて考える不届き者がいないとも限らないし」

 私としては本気も本気だったのだが、カーネリアンは何がおかしいのか、ずっと笑っている。

「あはは……! 君がそう言ってくれるのは嬉しいけどね、あり得ないよ。私は軟弱者の王子だからね」

「は? 誰がカーネリアンのことを軟弱者なんて言ったの! 教えて! 私、今すぐそいつを叩きのめしてくるから!」

 大切な婚約者のことを馬鹿にされるのは許せない。

 眦を釣り上げると「私は気にしてないから」と宥められた。だが、素直に「はい、そうですか」とは言いたくない。

「気にしてないから良いってものでもないわ。カーネリアンは優しすぎるのよ」

「そうでもないし、本当に良いんだよ。だってこうして君が怒ってくれるんだからね」

 クスクスと笑うカーネリアンはとても嬉しそうだ。

 どうして喜んでいるのかと思いながらも口を開いた。

「怒るに決まっているでしょ。大事なあなたを馬鹿にされて黙っているほど薄情ではないつもりよ」

「薄情どころか、君はかなりの情熱家だよね。ふふ、私はね、君にモテているのならそれで十分なんだ」

「あなたがそう思っても、周りは放っておいてくれないのよ。だってカーネリアンってすごく綺麗な人だもの」

 改めて彼を見て、頷く。カーネリアンは「そうかな」と本気にしていない様子だ。

 これはますます私が彼を女性たちの魔の手から守らなければと決意していると、カーネリアンが軽い口調で言った。

「心配しすぎだと思うけどなあ。だって、モテるといえば、兄上がいらっしゃるし」

「アレクサンダー殿下? 確かにあの方がモテるという噂は私も知っているけど……」

 兄という言葉に思わず相槌を打つ。

 第一王子アレクサンダーは、私たちの二つ上。今年、十七歳になる王太子だ。

 カーネリアンは第二妃の子供だが、アレクサンダーは正妃の息子。

 今の私は一度も会ったことがないが、以前の生では何度か会ったし会話もしている。

 性格は自信家で、眩しい太陽のような雰囲気を持っている。

 その能力も高く、帝王学に魔法と、できないことはないと言われる万能の王子。

 容姿は中性的で女顔よりのカーネリアンとは違い、雄味のある精悍な顔つき。

 金髪碧眼の華やかな色合いだったことを覚えている。

 特に欠点らしい欠点のない次代の国王。

 彼がモテるのはまあ……当たり前だし、うちの国でも噂になっているくらいだから相当なものなのだろうが、そもそもアレクサンダー王子とカーネリアンは全くタイプが違うのだ。

 彼と比べるのは間違っていると思うし、カーネリアンの容姿は十二分に女性を引きつけるものだと確信できる。

 どうにもカーネリアンは分かってくれていないみたいだけれど。


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