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「そんなもの……なの?」

「うん。少なくとも私はそうだよ」

 キッパリと言い、カーネリアンが私を見た。

「……まあ、そういうことだから、入学試験の時も君を城に招くと言っても断られなかったし、学園の専攻も好きなものを選んで良いと言って貰えたんだけどね」

「……そうだったのね」

 カーネリアンから話を聞き、なるほどなと納得する。

 確かに思い出してみれば、入学試験のために城にお邪魔した時、皆のカーネリアンに対する態度が変わっているなと感じていたのだ。

 カーネリアンが侮られることがなくなったのなら良かったと、それ以上気にもしていなかったけれど、それは彼が自身の力をすでに示していたかららしい。

 そして、私にはもうひとつ気になることがあった。

 ここまで来たら聞いてしまおう。そう決め、口を開く。

「ね、ねえ、あの時、あなたは仕事で数時間留守にすると言っていたわよね。あの時言っていた仕事って――」

 入学試験のためにスターライト王国の王城を訪ねた私を、カーネリアンは部屋まで案内してくれていた。でも、侍従が駆け寄ってきて、例の案件がどうとか言いにきたのだ。カーネリアンはそれを聞き、数時間留守にすると言ったのだけれど、もしかしてその仕事とやらも――。

 どうなのだろうとカーネリアンに尋ねる。彼はあっさり頷いた。

「ああうん。アレね。王都近くに魔物が巣を作っていたらしく、結構な緊急案件だったんだ。先に部下たちに行かせたんだけど、大きいのが巣穴にいるとかで、私が呼び出されたってわけ。彼らだけでは倒せないからさ」

「……そう」

 なんだか今まで不可解だなと思っていた謎が次々と解き明かされていく心地だ。

 私が知らない間にカーネリアンはすっかり強くなっていて、自身の力で居場所を作り上げていたなんて考えもしなかった。

 ただ、彼を守らなければと盲目的に思い続けてきたのに。

「……」

 なんとも言えない気持ちになる。カーネリアンが申し訳なさそうに言った。

「……ごめん。君が、私を戦いから遠ざけたいと頑張ってくれていたことは分かっていた。でも、どうしても、何かせずにはいられなかったんだ。私のためにと立ち上がってくれた君を、私だって守りたい。好きな人を自分の手で守りたかったんだ。そのためなら剣だって取るし、強くなって見せる。そう思ったから」

「……」

「今まで何度も君には言おうとしたんだけどね。君は何故かその話になると、異常なまでに頑なになる。話をしようにもできなくて……。それに君が私を思い遣ってくれていることは理解していたから強くも出られなくて、結局今まで言えなかったんだ」

「……そう、ね」

 小さく頷く。

 彼の言うとおり、カーネリアンが何度も「自分も戦う」と私に言ってくれたことも、その度「とんでもない」と私が反対してきたことも紛れもない事実だ。

 私は彼を戦わせたくなくて、あの未来に近づきそうなことはさせたくなくて、その話を出されるたびに過敏なほどに反応し、嫌がってきた。

 そんな私に、今、話したようなことが言えるだろうか。

 言えるわけがない。いや、言わせてもらえないが正解か。

 カーネリアンが今まで何も言わなかった……いや、言えなかったのも当然だった。

「ずっと、言おう言おうと機会を窺っていたんだけど」

「……」

 黙って首を横に振る。

 さすがに怒ろうとは思わなかった。彼が何度も話そうとしていたのは知っているからだ。

 私が言わせなかった。ただ、それだけ。

 ふうっと息を吐き出す。

 記憶を取り戻して八年弱。ある意味今日が一番驚いたし、ショックだったかもしれない。

 カーネリアンが剣を取り、しかも心身共に強くなっていたなんて、考えもしなかった。

「……カーネリアン、強くなったのね」

 今の彼をしっかりと受け入れ、言葉を紡ぐ。彼は私の目を見て、笑ってくれた。

「ありがとう。うん、君のお陰でね」

「さっきのあなたの攻撃、全然見えなかった。びっくりしたわ」

「速さはある方だからね。それに、魔王に反撃する隙を与えたくなかったんだ。大規模範囲攻撃なんてされた日には、学園がめちゃくちゃになってしまうし」

「そうね」

 尤もなことを言い、笑うカーネリアン。その笑みには今まで気づかなかった強さがあった。

 私が今まで気づくことのなかった強さ。多分、本当はあったのだろう。だけどきっと気づかない振りをしていたのだと、さすがに分かっていた。

 彼の力強い笑みを見て、自然と感じる。

 ――ああ、彼はもう大丈夫なんだ。

 私が守る必要なんてない。そんなことをしなくても彼は自分一人の力で立って、進んでいける。

 あの、儚く優しいだけの彼はもういないのだ。

 彼の心を壊さないためにはその方が良いのだろうけれど、どこまでも優しい彼を失いたくなかった私には少し寂しいことのように思えた。

「? どうしたの?」

「なんでもないわ」

「そう? でも顔色があまり優れないようだから無理はしないようにね」

「……ええ」

「君はすぐ無理をするから心配なんだ」

 ありがとうと返事をし、同時に気がついた。

 優しい眼差しを向けられていることを。優しく甘い声が、私を案じていることを。

 ――ああ、そうか。

 カーネリアンは何も変わってなどいないのだ。

 彼は以前と同じで、今も優しいまま。

 私の好きな彼は何も失われていない。強さを身につけても、彼の根本は失われていなかった。

 強くなり、魔王の前に立ちはだかったカーネリアン。その根底には何があったのか。

 考えなくても答えはすぐに出る。

 私のため。彼は私のために強くなってくれたのだ。

 それを優しさだと、愛だと言わずに何と呼ぼう。

 死に戻る前も今も、いつだって彼は私のために剣を握った。

 そんな彼を変わっただなんて言えるはずがない。

 彼は何も変わってなどいないのだ。

「カーネリアン……」

 涙が溢れてくる。彼が何を思いここまで来たのかを考えると胸が熱くなって、どうしようもなく泣きたくなった。

「私……ごめ……ごめんなさい」

 いつだって彼は私のために立ち上がってくれた。

 私が守った気になっていた今だって、気づけば私は守られていて、こうして情けなくも目を潤ませている。


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