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◇◇◇
入学から数ヶ月経ち、学園生活にもすっかり慣れてきた。私とカーネリアンは学食で昼食を済ませたあと、食後の散歩を楽しんでいた。
午後の授業が始まるまでまだ時間はあるし、座学で、カーネリアンのクラスと合同授業なのだ。
楽しく話しながら歩いていると、他の生徒たちとすれ違う。
私たちが婚約者同士だということは皆知っているので、一緒にいても何か言われるようなこともない。
そもそも私とカーネリアンは王族なのだ。皆、私たちのことが気にはなるけど話し掛けられない。仕方なく遠巻きに様子を窺っているというのが正解のように思えた。
「別に話し掛けてくれても良いのに」
ポツリと呟く。
独り言を聞き逃さなかったカーネリアンが苦笑した。
「仕方ないよ。私たちは王族なのだから」
「それはそうだけど、同じ学生であることも事実なのに。カーネリアンのクラスではどうなの? 魔法学科でひとりでいる時って、誰か話し掛けてくれる?」
「うーん、今のところは特にないかな。ま、別に困っていないし気にしていないんだけどね」
「そうなの?」
意外だ。
てっきり私のいないところでは皆に囲まれて大人気……とかでもおかしくないと思っていた。
「フローライトは?」
「私の方はほら、戦いが基本だから、わりと脳筋タイプが多いというか……授業中なんかは結構話し掛けてくれるんだけど」
「へえ」
「たぶん、二学年上にアレクサンダー殿下がいらっしゃるのも大きいんだと思う。魔体科の皆は、王族に多少慣れがあるのよ」
「……そういえば、君は兄上のパートナーだったよね」
ジトッとした目で見られる。私はさっと目を逸らした。
「し、仕方ないじゃない。カーネリアンとは学科が違うし、私とまともにペアを組めるのはアレクサンダー殿下しかいないというか。カーネリアンも納得してくれたと思ったけど?」
「納得はしたけど、嫌な気持ちになるのは仕方なくない?」
「……ねえ、それ嫉妬よね? 私とアレクサンダー殿下のどっちに嫉妬してるの?」
一度聞いてみたかったので、ちょうどいいと尋ねてみる。
カーネリアンからは呆れた目を向けられた。
「兄上に嫉妬しているに決まっているじゃないか。どうして君に嫉妬しないといけないの」
「えっ……だって、カーネリアンってアレクサンダー殿下のこと、好きでしょう?」
「それは……そうだけど。でも、君を奪う、なんて話になったらいくら兄上でも許さないよ。フローライトは私の婚約者なんだ。兄上にだって譲れない」
「アレクサンダー殿下は私のことを友人と思って下さっているだけだから、カーネリアンが気にするようなことは何もないのに」
「……それは、君も?」
「もちろん。私が好きなのはカーネリアンだけよ」
キッパリと告げる。即答したのが良かったのか、カーネリアンは「そっか」と言ってホッとしたように笑った。
それで一応は納得してくれたのか、話題が変わる。来週の学食には珍しいデザートが出るみたいだという話になったところで、カーネリアンが「あ」と声を上げた。
「そうだ、フローライト」
「何?」
首を傾げ彼を見ると、カーネリアンは私にだけ聞こえるくらいの小声で言った。
「聞こう聞こうと思ってたんだ。ね、あの話、いつにする?」
「? あの話って?」
指示語で言われても分からない。本気で思い当たらず首を傾げていると、カーネリアンが怪しく笑った。
「もう忘れちゃったの? 私はずっと楽しみにしていたし、いつ話そうかなって機会を窺っていたんだけど」
「??」
「フローライトをちょうだいって話」
「っ!」
一瞬で顔は赤くなったし、何の話か思い出した。
セレスタイト学園の入学試験を受けるという話になった時に、カーネリアンと約束したのだ。
無事入学できたら彼と――そういう関係になろう、と。
試験に合格してからも色々あったし、入学したあとも学園に慣れるのに必死でそこまで思い至れてなかったが、確かにそろそろタイミングとしてはいいのかもしれない。
「わ、私はいい、けど……その……いつにする?」
顔を赤くしたままカーネリアンを見る。
素直に了承を返したことに彼は驚いたようだった。
「え……良いの?」
「ん? そういう話だったでしょ」
「いや、それはそうだけど……いや、てっきりもう少し待って欲しいとでも言われるかなって思っていたから意外だった」
言いながらカーネリアンもジワジワと顔を赤くしていく。
その表情は目尻が下がっているし、口元が緩んでいて、いつものキリッとしたカーネリアンとは別人のようだ。
どうやら相当喜んでくれているらしい。この反応が見られただけでも私としてはOKを出した意味があると思える。
「……約束したもの。入学してバタバタしていたけど、そろそろ落ち着いてきたし、その……私はいつでも……」
さすがに目を見て言うのは恥ずかしかったので彼からそっと目を逸らす。
幸いにも同じ屋敷で暮らしているので、どこで、とかそういう問題は気にしなくて良いのが助かった。
カーネリアンも動揺したように「ええと……」と何度も言っていたが、やがて唾を呑み込み、気持ちを落ち着かせるように息を吐いた。
「……フローライト」
「はい」
なんとなく立ち止まり、かしこまった返事をする。カーネリアンも同じように足を止め、小さく、だけど私にだけは聞こえるように言った。
「その……君がいいっていってくれるのなら、三ヶ月後の私の誕生日とか……どう、かな」
「っ!」
カーネリアンから告げられた言葉に息を呑んだ。
三ヶ月後の誕生日。それは彼が十八歳になる日で、前回の生でも私が彼に処女を捧げた日であった。
偶然の一致と分かっていても、ドキッとする。
カーネリアンが顔を赤くしたまま言う。
「そ、その……誕生日プレゼントに君が欲しいなって。せっかくなら何でもない日なんかじゃなく、記憶に残りやすい日を選びたいって思っていたから。その……私たちの初めての日なんだし」
「そ、そうよね。お、思い出に残りやすい日が、い、いいわよね」
私まで釣られて更に赤くなってしまった。
だってカーネリアンが初めての日、なんて言うから。




