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◇◇◇
「ここが私の部屋ね」
続いて案内された私の部屋はカーネリアンとは反対側にあった。
中に入ってみると、かなり広い。
隣の部屋と繋がっていて、そちらが寝室だった。寝室は廊下側の扉からも入れるようになっている。普段は内側から鍵を掛けておけばいいのだ。
家財道具は、新しいものが取り揃えられていたが、甘くなりすぎていない部屋の雰囲気は悪くない。
女官たちは私の趣味を知っているから、色々考えてくれたのだろう。
勉強机も使い勝手が良さそうで、不満に感じるようなものはなかった。
「良いわね」
部屋を確認し、頷く。一緒についてきていたカーネリアンも頷いた。
「フローライトの部屋って感じがするね」
「確かに、リリステリア城内にある私の部屋と雰囲気は似ているかも」
これなら落ち着いて五年間を過ごすことができるだろう。
先ほどカーネリアンの部屋も見せて貰ったが、彼の部屋はシックな雰囲気でまとまっていたし、彼も満足していたように見えた。
ステラが笑顔で声を掛けてくる。
「お茶をお淹れいたしましょうか?」
その言葉に頷こうとしたが、カーネリアンが「私はいいよ」と断った。
「カーネリアン?」
「さっき言ったでしょ。ちょっと抜け出して来ただけだって。そろそろ戻らないとまずいから私は行くよ。あ、あと私の引っ越し予定は入学前日。それまでに城の用事を色々と片付けておきたいから、君には会いに行けないと思うけど……待っててくれる?」
「ええ、もちろん」
快く頷いた。
入学式まであと一週間。彼としばらく会えないのは残念だけど、来週からは一緒に過ごせるのだ。それに引っ越してきたばかりでやることは山のようにある。彼が引っ越してくるまでの間にこちらも色々片付けておきたいと思うので、時間の余裕があるのは有り難かった。
「待っているわね」
「うん。先に荷物だけ送るかもしれないけど、そっちの対応はお願いして構わないかな」
「分かったわ。侍従や女官は連れてくるの?」
彼にもそういう世話をする人は必要だろうと思ったが、彼は首を横に振った。
「ううん。良ければ君が連れてきた子たちにお願いしたいんだけど。何せ卒業したら私は君の国に婿入りするんだからね。今から君の国の使用人たちともコミュニケーションをしっかりとっておこうと思って。あ、負担になるっていうのなら話は別だよ。ちゃんと連れてくるけど――」
窺うように見つめられ、私はステラに目を向けた。
「ステラ、大丈夫? 人手は足りているかしら」
「大丈夫です、姫様。陛下からは出発前に、カーネリアン殿下のお世話もするよう、命じられておりますから。侍従もそれに合わせた人数を連れてきております。何も問題ありません」
「……そ、そう」
――だから父よ。そういうことは私にも教えてくれ。
ハキハキと返してくるステラの答えを聞き、乾いた笑いが出た。
リリステリアの使用人たちに慣れてもらおうというのは、どうやら父の意図でもあったらしい。
お父様……と小さく息を吐いていると、これはカーネリアンも聞いていなかったようで目を丸くしていた。
「え、良いの? 本当に? 言い出しておいてなんだけど、申し訳ないかなって思っていたんだけど」
「お父様が良いって仰ってるんだもの、気にしないでおきましょう。それに確かにこれはいい練習にもなると思うもの。リリステリアとスターライトでは違うことも多いだろうし、今から慣れてくれたら、こちらに来た時に戸惑わないで済むと思うわ」
「うん、そうだね。それじゃあ有り難く」
カーネリアンが嬉しげに頷く。
多分だけれど、分かりやすくリリステリアから歓迎されているのが理解できて嬉しいのだろう。
カーネリアンが喜んでくれるのなら、良かったと思うし、父も良い仕事をしてくれたと思う。
「じゃあ、ごめんね。一週間後、戻ってくるよ」
「ええ、待っているわ」
部屋の扉に向かって歩いて行く彼のあとをついていく。カーネリアンは振り返ると、笑って言った。
「ここまででいいよ。君もリリステリアから移動してきたばかりで疲れているでしょう?」
「えっ、外まで送るけど……」
「いいよ、本当に。ゆっくりしてて。じゃ――行ってきます」
身体を軽く折り曲げ、カーネリアンがキスをしてくる。行ってらっしゃいのキスだと気づき、カッと顔が熱くなった。
キスしたのが恥ずかしかったのではない。まるで今のやり取りが新婚カップルのようだと思ったのだ。
唇を離し、にっこりと笑うカーネリアンに顔を赤くしたまま「行ってらっしゃい」と告げる。
彼は笑顔で手を振り出て行ったが、私はその場で「うわああああ!」と叫び、寝室に飛び込むと、ベッドの上でジタバタとのたうち回ったのだった。




