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「……実践ね」

 まあ予想の範囲内だ。魔体科に所属しようというからには、戦えなくては意味がない。

 そう考えると、前回のカーネリアンはよく合格したなと思うのだけれど、彼の潜在能力は計り知れないから、嫌がっていてもさくっと受かっただろうことは容易に想像がついた。

 アレクサンダー王子が青い瞳を煌めかせながら告げる。

「これはお前のためではない。実力が足りなくて不合格になれば、恥を掻くのは婚約者であるカーネリアンだ。合格できない程度の実力であれば最初から受けない方がいい。それを判断してやると言っている。お前にこれを断る権利はない」

「……へえ」

 挑発されていると分かってはいたが、聞き逃せなかった。

 不合格になれば、恥を掻くのはカーネリアン。そんなことは分かっていたし、だからこそこの半年もの間、私はひたすら真面目に試験勉強に取り組んでいたのだから。

 ここで頷かなければ、きっとアレクサンダー王子は、合格する自信がないのだと判断するだろう。

 そして言うわけだ。

 見損なった。今すぐ荷物を纏めて帰るが良い――と。

 ――なるほど、なるほどね。

「ふざけないで」

 思わず声が出た。

 だって、私がどれほどの決意を持って、ここにいると思っているのだ。

 カーネリアンと一緒にいたいのも本音ではあるけれど、何より彼との未来を掴むため。

 学校に通おうと決めたのも、更なる強さを得る為だ。だから私は、魔体科一択。他の科を受けようなんて思ってもいない。

 魔体科に通い、来る日までに魔王をも凌ぐ力を手に入れる。それしか、未来を切り開く道はないと分かっていたし、意地でもその未来をたぐり寄せてやると決めている。

 だから、事情を知らないと分かっていても、まるで私が真剣ではないかのように言うアレクサンダー王子が許せなかったし、見定めたいと言うのなら、見定めてみろと思った。

「良いわ。相手をしてあげる」

 胸を借りるのはこちらの方であることは重々承知していたが、あえてそう言った。

「女に負けたって後悔しないようにね。――私、その辺の男なんかより、よっぽど強いから」

「それは楽しみだ」

 乗ってきたと嬉しそうに笑う男を、睨み付ける。

 絶対に完膚なきまでに叩きのめしてやるという気分でいっぱいだった。


◇◇◇


 アレクサンダー王子との手合わせは、スターライト王国の城内にある、騎士たちの練習場で行われた。

 練習着を持ってきていたので、それに着替えてから、アレクサンダー王子に向き合う。

 彼もまた、着ていた豪奢な上着を脱ぎ捨て、シャツ一枚の格好になった。

「手は抜かないぞ」

「もちろん、要らないわ。あとで、負けた言い訳にされても困るもの」

「……強気なことだ」

 呆れたように言うアレクサンダー王子を無視し、練習場を見回す。

 この練習場には城に所属する魔法師たちが結界を張っていて、攻撃魔法を使っても、壁や床が吸収してくれるのだとか。

「……」

 アレクサンダー王子が持っているのは槍だ。濃い紫色の派手な槍からは強い魔力を感じる。

 そういえば彼は魔槍の使い手だと聞いたことがある。自らの魔力を槍に吸わせ、戦うスタイルなのだ。

「――氷弓」

 右手を翳す。次の瞬間、私の手には慣れた獲物が現れた。

 己の魔力で編み上げた氷の弓。

 これは、魔力量が膨大な私だからこそ使える特別な武器だった。

「ほう、魔力で作った氷の弓か」

「ええ、これならどんな時でも武器を使えるでしょう?」

 不測の事態が起こったとき、もし武器が手元になかったら。

 その考えから私はこの氷の弓を使うことを決めたのだ。弓を顕現し続けるのはかなりの魔力がいるが、私には問題ないし、慣れてしまえば、この方法がベストだと断言できる。

「――かかっていらっしゃい」

「どうやら口先だけではないようだ。それでは、お前の実力を試させてもらおう。――行くぞ!」

「っ!」

 そこから先は、熾烈な戦いが繰り広げられたと言えば良いだろうか。

 私が弦を弾き、氷の矢を飛ばすと、彼はそれを全て魔槍で打ち破った。

 魔槍は炎属性で、相性で言えば私の方が有利だ。私は遠慮なく休みなく攻撃を仕掛け続けた。

「くそっ! お前、遠距離から連続攻撃とは汚いぞ!」

「どこが? 私は私の武器の強みを生かしているだけよ」

 360度、どこからでも氷の矢が彼を襲う。それを彼はなんとか払い落としていたが、数が多いので、やはり何本かは食らってしまった。

「ちっ」

 その隙を見逃さず、弓を消して突進する。

 私は体術も自信があるのだ。急に距離を詰めてきた私にアレクサンダー王子は驚いたようだが、さすがに彼も実力者。遠慮なく放った回し蹴りを腕で受け止められてしまった。

 それでも文句が口から零れる。

「くそっ、女とは思えない重さの蹴りだ」

「お褒めの言葉ありがとう。私はこれで、うちの騎士団長を沈めたの。私は強くなる。もっと強くならなくてはならないの。そのために、あなたなんかに躓いている暇はないわ!」

「ぐっ……!」

 体勢を立て直す暇を与えず、更なる攻撃を仕掛ける。

 防戦一方だったアレクサンダー王子は、なんとか反撃する隙を探していたようだが、そんな隙、見せるはずもない。

 ――ははっ……はははっ……楽しいっ……!

 さすがに音に聞こえた王太子なだけ、彼はとても強かった。

 久々に会えた強者の存在に嬉しくなり、どんどんテンションが上がっていく。

「くっ……お前……まだ速くなるのか……」

「あは、あはははははは!! もっと、もっとよ!」

 一種のトランス状態になった私は、今までよりも速い動きでアレクサンダー王子に迫った。先ほどから頭痛が酷くなっていたが、それすらどうでもいいと思えるほどに楽しい。

「ほら、ほら、ほら、ほら!」

 連続攻撃を仕掛ける。

 彼はなんとか私の攻撃をいなそうとしたが失敗し、私はそれを見逃さず、氷の弓を召喚すると、彼の目の前で矢を放った。

「――これで終わりよ」

「っ!」

 氷の矢が直撃する。轟音と共に白い煙が上がった。これでもまだ彼は戦意を失っていないだろう。分かっていたのでとどめを刺そうとしたが、その前に制止が入った。

「何してるの! フローライト! 兄上!!」

「……カーネリアン」

 大好きな人の焦り声を聞いた瞬間、完全にトランスしていた私はあっという間に我に返った。弓を消し、オロオロとする。

「え、あ、え……カーネリアン。どうして」

「どうしてって……二、三時間で戻るって言ったでしょう! もう、君の部屋に行ってみても君はいないし、女官たちに聞いたら兄上が連れて行ったって言うから……!」

 こちらに駆け寄ってきたカーネリアンが私を抱きしめる。

「なんでこんな危ないことするの! 君は女の子なんだよ!? どうせ兄上に唆されたんだろうけど、そういうのは止めなよ。心配するじゃないか!」


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