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「……とても残念だけどその通りよね」
ため息を吐きつつ同意する。カーネリアンが私の方へ身を乗り出した。
「そこで提案なんだ。来年から私が王立セレスタイト学園に通うことになるのは君も知ってるよね?」
「ええ。スターライト王国にある有名な学校よね。もちろん知っているわ」
スターライト王立セレスタイト学園。
各国から優秀な人材を集めるため、試験こそ超難関だが授業料を無料としているこの学園には、スターライト王家の人間も通うことが義務づけられている。
期間は十七歳~二十二歳の五年間。
学科は、言語学科、数学科、経済学科、魔法学科、魔法・体術戦闘学科の五つに分かれており、それぞれの専門分野と一般教養を学ぶことができる。
優秀な成績で卒業できれば、就職先の心配はないとまで言われるほどの学校。
それがセレスタイト学園で、前の生でもカーネリアンはこの学園に所属していた。
戦うことが好きではない彼は、経済学科か、魔法全般について学ぶ魔法学科を選びたかったらしいが、王家の強い意向で魔法・体術戦闘学科――略して魔体科に入学することとなったとか。
ちなみにアレクサンダー王子は確か、言語学科に所属していたことを覚えている。
彼は戦闘能力に何の不安もなかったので、好きな学科を選ばせて貰えたのだ。
その話を聞いた時、どうしてカーネリアンばかりが辛い目に遭わなければならないのかと思っていたのだけれど――。
以前のことを思い出し、苦い気持ちになる。きっと今回も彼は魔体科に入学させられるのだろう。可能であればどうにか阻止したいところだけれど。
如何にして、カーネリアンの所属学科を変更させるか考えていると、カーネリアンが「それでね」と期待するような目で私を見てきた。
首を傾げる。
「カーネリアン?」
「その学園に、君も来ないかと思って」
「えっ……私、が?」
予想だにしていなかった話に目を瞬かせる。
驚いていると、カーネリアンは楽しそうに言った。
「君の実力は知っている。だから間違いなく入学試験に受かると思うし、あの学園には色々な国から有望株が集まってくる。彼らと繋ぎを作ることができれば、将来、リリステリアの力になる人材を集めることだって可能だと思うんだよ。……どう? 悪くないと思うんだけど」
「それは確かにそう……だけど」
まさか他国の学校に通うなんて思ってもいなかったので、咄嗟に返事ができない。
どう答えれば良いのか困っていると、カーネリアンが更に言った。
「それに何より、毎日君と一緒にいることができるんだ。その……私の自分勝手な考えで申し訳ないんだけど、良かったら一度検討してくれないかな」
「!」
告げられた言葉にハッとした。
そうだ。私がセレスタイト学園に通えれば、カーネリアンと過ごす時間は飛躍的に増える。
それに、それにだ。
カーネリアンには絶対に魔体科に行って欲しくないが、私には悪くないと思うのだ。
何せ、魔体科の教師陣は粒ぞろいだと聞いたことがあるから。
――もっと強くなるにはいいかもしれない。
更なる飛躍には新しい環境は悪くない。しかもカーネリアンと一緒に過ごせるとくれば、学校に通うことは利点しかないように思えてくる。
「……お父様さえ説得できれば」
父がOKを出してくれれば、セレスタイト学園に通うことは可能だろう。
どうやって父を説得するべきか。
何か良い案がないかと思っていると、カーネリアンが言った。
「君の父上は、君さえ頷くなら構わないと言ってくれたよ。今日、ここに来ることを連絡した時に、そのことも一緒に聞いたんだ。君と一緒に学校に通いたいってね」
「……えっ」
用意周到なカーネリアンに目を丸くする。
まさかすでにお膳立てを整えられているとは思わなかった。
「お、お父様はいいって仰ったの?」
驚きつつも聞き返す。カーネリアンは大きく頷いた。
「うん。今言った通り、君さえ頷くのならって。フローライトの伸びしろはまだありそうだし、学校へ通えばもっと視野を広げることができるだろう、だそうだよ」
「……お父様」
私を思い遣ってくれているのが分かる父の言葉にジンときた。
伸びしろ云々も嘘ではないだろうが、多分私がカーネリアンと一緒にいたがると思い、許可してくれたのだろう。
カーネリアンが優しい声で言う。
「君の父上って、すごく君のことを想ってくれる素晴らしい方だよね」
「……ええ、自慢の父なの」
素直に返す。
父のくれたチャンスを逃す機はなかった。
私は頷き、カーネリアンに告げた。
「カーネリアン。私、あなたと一緒にセレスタイト学園に行くわ」
「嬉しいよ、フローライト。これで君と長く離れずにすむ。学園在学中は、それこそ今以上に君に会えないだろうと思っていたからね。それがずっと一緒にいられるんだ。こんなに嬉しいことはないよ」
「私も。でも、そうなるためにはまずは入学試験に合格しなくちゃね」




