儲ける人
「いらっしゃいませ。」BARダークブルー店主の沢北紺です。おかげさまでお店も順調です。
さて、今日のお客様は?
ん?ウチの店には珍しく大人っぽい客が入って来た。
大きなアタッシュケースを持って、ロングコートを着た、デキるサラリーマン風の、きちんと大人の人だ。
一人だが真ん中のテーブルにアタッシュケースを置いて座った。コートは前の席にさらっと置いた。
「いらっしゃいませ。」
店主はメニューの説明をして注文を待った。
大人の男はメニューを真剣に見ている。腕にはロレックスか何かの銀色の重そうな時計をはめている。
「ビール!」
大人の男が人差し指でメニュー指して注文した。
店主は「お待ちください。」と、用意にキッチンに戻った。最近は店主から伺い、説明して注文をとるスタイルが定番となった。
店主(ウチのビールは赤ビールってわかって注文したのか?単純に最初はビール!で注文したのか?)(ちょっと食とかに詳しそうな、こだわりそうな人に見える。)
「お待たせしました。」
赤ビールとピーナッツとおしぼりを、大人の男さんに運んだ。
大人の男「お、赤ビールだね。地ビール?」
と、やっぱり「オレ詳しいんだぞ」と言わんばかりの顔で店主を見る。
店主「はい。、そうです。山梨高原の赤ビールです。」
大人の男「珍しいね。こだわってるんだね?」
店主「まぁ。」
(ちょっと話しずらいなぁ)店主は、この手タイプの人は正直苦手だった。
イメージでは、食とか店を詳しく知っていて、不動産に詳しく、投資に詳しく、儲かる話しとか得する話しのネタを沢山持ってるような人。
きっと店員を「おにいさん!」と呼ぶような人だ。
「おにいさん!」
(ほら来た。やっぱりだ。)
「はい。」
大人の男「これ、ビールと、このピーナッツはお通しなの?セットに入ってるの?」
大人の男は、おでこに皺を寄せて聞いてきた。
店主「はい。スタートの1,000円にテーブルチャージとドリンクひとつとお通しがセットとなっております。」
大人の男「えー?これじゃ儲からないでしょ?」
店主「まぁ、大丈夫です。あまり儲けより自分の好きなものでやっているもので。」
大人の男「あ、そう。でもこれじゃ店つぶれちゃうんじゃない?もっと儲けなきゃ。」
店主は「すいません。」となぜ謝らなきゃならないんだ?と思いながら逃げるように、キッチンに戻った。
思った通りだ。読み取らなくても、当たってしまった。常に儲けや得を考えてる人ってなんかわかってしまう。会社勤めのときに、同じような人が沢山いたからわかってしまうのだ。
最初に入って来たときに、"大人の人”と言ったのは、オレにとっての大人の人とは、損なことはせず得すること、儲かることを熟知していて、それを得意に生きてる人。
反対に知らない人は子ども。よくこの系の先輩の人から「お前そんなの知らないの?」と子ども扱いされてた。(嫌だったなぁ。。)
勿論お金が増えることは嬉しいけど、何についても儲けるや得する話しばかりだと、嫌になる。
ましてオレは営業部に所属していたので、毎日儲けることばかり考えなくてはならなかったので、本当に嫌だった。きっと合わなかったんだろうな。
一度「儲けなくても、お客さんが喜んでくれたらいいじゃないですか!」とキレたら、
お前わかってないなと怒られた。
「おかわりくれる?」
大人の男さんがおかわりを注文に来た。
びっくりした。この大人の男さんの悪口を言ってたわけではないが、会社勤めの頃のあの先輩が出てきたようでビクッとしてしまった。
赤ビールを注ぎ、大人の男さんにお持ちする。
大人の男さんは、ウチの赤ビールが気に入ってくれたのか、グラスを斜めにビールの色を見てうなずいて、泡からゆっくりと喉に流し込んでいる。
結局、大人の男さんは、この赤ビールを3杯飲んで、「安いな。ここいいね!」とやけに気に入ってくれている様子だった。
最後に、勝手に名刺を差し出してきて、「また、よろしく!」と矢沢永吉?のように気取って帰って行った。
名刺を見ると、
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マタニティウェア・赤ちゃん用品・ベビー・子供服
西本屋 浜町店
店長 吉野 守
Tel:03-○○○-3333
e-mail:xxxxxxxxx
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ん??儲ける人じゃないか?
「いい土地あるよ。」とか誘ってくるような人かと思っていたが、
赤ちゃんのよだれ掛けを売ってる人だった。なんて、ちょっと笑ってしまった。
珍しく外れたな。でもなんだか嬉しかった。
実はいい人かも??
(勘違いしてすいません。また来てください。)
既に帰った大人の男さんに、気持ちを送った。