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BARダークブルー  作者: 松 宏幸
5/12

平凡でつまらない人

いらっしゃいませ。

BARダークブルー店主の沢北紺です。


今日のお客様は?


「いらっしゃいませ。」

おとなしそうな女性が一人入って来た。


店内を恐る恐る見回し、座る席を考えている。

女性は、この辺りにしようかと壁際の角の席に腰を下ろす。

持ち物の鞄と紙袋を置くと、キッチンに向かってきた。

「カクテルは無いんでしたよね?」


「すいません、ウイスキーか赤ワインになります。ソーダ割はできますが。」

と店主は申し訳なさそうに答える。(やはりカクテルもやったほうがいいかな?)

「なら大丈夫です。では、赤ワインで」と女性が注文した。

「承知しました。お席でお待ちください。」店主は丁寧に答える。


女性は席に戻り、何かパンフレットのようなものを見ている。


店主はワイングラスを取り、汚れがないか確認し、赤ワインを注ぐ。

当店の赤ワインは”キャンティクラシコ” バカのひとつ覚えのようにこれのみにしている。


赤ワインとクラッカーとおしぼりを用意し、席に運ぶ。

赤ワインのときのお通しは、クラッカーにしている。


店主「お待たせしました。」

女性「私、今日で2回目です。前に来たときに気に入りまして、また来ました。」

店主「それは嬉しいです。女性には殺風景な店ですが、ありがとうございます。」

女性「いえ、なんか私は落ち着きます。」

店主は「ではごゆっくり」と言って、引き上げた。

前から話しているが、なるべくお客さんとは話さないようにするのがこの店のコンセプトだ。


店主はキッチンに戻って、女性が以前に来たか思い出してみたが、残念ながらはっきり思い出せなかった。もしかして、開店したばかりの頃、興味本位の若者グループが何組か来たが、そのときに、一人客が数人来たが、その中の人だったかもしれない。

女性はすごくおとなしい感じの方で、質素なワンピースを着て、姿勢正しく座っている。


女性を見ると赤ワインのグラスを振り、顔を近づけ香りを少し嗅いだようにしてから、口に含んでいる。

その行動もいかにも真面目な性格の人に感じる。


読み取ってみる。

女性は独身で働いているようで、特段嫌なこともなく幸せに暮らしてはいるが、平凡な生活に飽きてきて、何か刺激が欲しいというか、面白いことを探しているようだ。

手に持つのはベトナムツアーのパンフレット。前には色々な旅行のパンフレットを広げている。カンボジアや韓国等の外国旅行のもの、京都、金沢の国内旅行のものも混ざって置いてある。


女性(やっぱりベトナムにしようかな。。。)

女性は刺激を求め、旅行に行くのを趣味にしていた。しかしそれは、まだ半年くらい前から始めて、伊勢と、香港に行ったところだ。


そのうち、他の客が数人入って来たので、店主はしばらくそっちの対応をした。


しばらくして女性を見てみたらさっきと全く同じ姿勢でパンフレットを見ていた。

店主は、ワインボトルを持っておかわりを窺いに向かった。

サービスにコンビーフを少し持っていった。

女性は、お礼を言い、ワイングラスを出した。

店主は、「店落ち着きますの言葉が嬉しかったのでお礼です」と言葉を添えて、赤ワインを注いだ。

店主は、女性のパンフレットを見ながら、「どこか行かれるんですか?」と尋ねた。

女性は「はい。私何も趣味もなく平凡でつまらない女なんで、せめて旅行くらいでもと思いまして。」

店主は尋ねて悪かったかな?と思いながら、「ボクも何もなく平凡でつまらない男です。」

と言った。

女性は、返す言葉に困ったのか、無言で愛想よくきれいな笑顔で答えてくれた。


しばらくは寛いでいただいたようだ。

やがて女性の紙袋の音で気づくと、女性はペコリと店主にお辞儀をして帰っていった。


店主は、女性が(ありがとうございます。)と心で言っていたのが聞こえた。


女性は、少しの時間だが、赤ワインに酔い旅行の妄想が出来たなら、良い時間を過ごせていただけたなら、それで良い。


店主もそれが一番嬉しい。



平凡と思う人

平凡だからこそ、楽しみを作れる。

平凡でバンザイなのだ。





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