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蒼山碧海番外編  作者: 望月かける
動乱始末
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龍と妖狐と魔法の小刀(8)熊震の進言

 フーニャンは寝台が一つしかない部屋を見て呆れた。

「わざとらしいったら」

 その「わざとらしいこと」を企んだのは芦楓ではなく比轍だが、それも分かっていてフーニャンは「仲良しふたり組め」と鼻を鳴らしてキツネに姿を戻す。

 芦楓はそれを見てからしばらく考え、自分の姿を小さな龍に変えて布団に潜り込んだ。

 フーニャンは布団に頭を突っ込んで小さな龍を鼻でつついてから、その隣に丸くなる。

「ヘビに似てるからうっかりすると食べちゃうかも」

「食べないで」

 芦楓はフーニャンの前足のあたりに顎を乗せた。


 *** *** *** *** ***


 その夜、芦楓が見た夢は最悪だった。

 金色の龍たちがギラギラと赤い目を光らせながら襲い掛かって来る。

 青金の鱗を光らせた芦楓は金色の龍が多く劣勢になっていることに焦りながら、二心の騎龍と、三心、四心の龍を集めるが、三心や四心の龍たちのなかには、金色の龍に射込まれる光の矢を避けようともせずむしろ前に出て金色の龍たちにすがろうとして行く。

 向かってくる金色の龍たちは、決して美しくはない。

 むしろ、古びて痛んだメッキのような、ガラクタ同然の金色の鱗で、鱗はほとんど輝きを持たない。

 ただ、目だけが爛々と赤く不気味に光っている。

 どれだけ足掻いても、金色の龍たちはこちらを狙ってくる。

 金色の龍たちに飲み込まれていくのは、本来、金色の龍の国に住む炎人えんひとたちではなく、蘇の、頴州えいしゅう人ばかり。

 その飲み込まれていく頴州人のなかに、史娘しじょうの姿があり、その史娘を追って胡娘こじょうが金色の龍たちに向かってキツネのままの姿で駆けていく。

 走る胡娘の口には、芦楓が比轍からもらって胡娘に渡した小刀が加えられていた。

 芦楓は身を金色の龍たちが身にまとう砂嵐の風に身を投じて胡娘を追う。

 追えど、追えど、芦楓は胡娘には追い付けない。

 焦り、青金の鱗を爪で引っかかれるのも構わず芦楓は砂嵐のなかを飛ぶ。

 砂が史娘と胡娘の姿を覆い隠し、砂嵐に首まで埋まったところで芦楓は目が覚めた。


 芦楓は布団に潜り込むために身を本来の龍の姿よりもずっと小さくしていたが、それでも全身が冷えて硬くなっているのを感じた。

 横でキツネの姿のフーニャンが眠っているのを見て、芦楓は冷え切った自分の体を温めるためにさらに身を縮めてフーニャンのふさふさとした尻尾と腹の毛の間に潜り込む。

 眠りの浅いフーニャンは、芦楓が前足の間、胸の毛のあたりに頭を突っ込もうとしているその動きに目を覚まし、息をついた。

「子供みたいな動きしてないで寝なさいよ」

 芦楓はフーニャンに言われてフーニャンの前足の間で「ぷ」と息を吐く。

「嫌な夢を見た」

「今日はよしとしてあげましょうとも」

 フーニャンは芦楓の全身を抱えるように体を丸くして、尻尾で覆った。

「子供扱いだ」

 芦楓の文句に、フーニャンが笑う。

「怖い夢を見て潜り込んでくるのは子供でしょ、芦少年」

「わかったよ子供でいいよ」

 そう言ってから、芦楓はフーニャンに「あの小刀」と声をかける。

「小刀がなに?」

「持ってる?」

 フーニャンは尻尾をふわりと動かしてから「ん」と言葉だけで頷いた。

「私は芦少年がせっかく大好きなお友達からもらった贈り物を捨てたり売ったりすると思われてる?」

崔郎さいろうはそんなことしない」

「あんたにとって私はいつまでも崔郎なんだね」

 芦楓は「ふふん」と笑う。

「フーニャンの崔郎は、これ以上は幸せになれないんだろうか」

「お芝居どころじゃなくなってしまったからね。次の幕があくまで、私と史姐姐の芝居小屋じゃ崔郎と玲玉れいぎょくの恋は封印されてる」

 フーニャンのふかふかとした毛に埋まって、芦楓は鼻を鳴らした。

「僕が、幸せな話を書いたら、あなたと史娘はそれを舞台にしてくれるだろうか」

「気に入ったらね」

 芦楓の鬣にふっと息を吹きかけて、フーニャンは尻尾をゆったりと振る。


 *** *** *** *** ***


 カナヘビを眷属にしてふたりの会話を聞いていた熊震ゆうしんは呆れた。

「史公殿、どうにも進まない話ですよこれは……」

 鳥を媒介にして、史公と呼ばれた比轍は「そっとしておこう」と返す。

「それよりも、熊殿はどうやって連絡を取ってきているんです? 王は他州から頴州えいしゅうを切り離したでしょう?」

「以前は頴州に眷属がいなかったせいで手出しできなかったものが、眷属を連れて州に入ることができたので、蘇王が頴州を切り離したところで我々地龍には無関係です。以前の頴州は地公廟も機能していなかったせいで、中を垣間見ることもできなかった」

 鳥が静かになり、比轍が沈黙したのが熊震に伝わる。

 熊震は慌てて弁解した。

「蘇王の力が足りないわけじゃなく、地龍には地龍の道があるというだけだ。あなたも梅香として地龍の眷属の姿でいるときに使える地公廟と繋がる道に繋がる部分が、この眷属たちに繋がっている」

 鳥が比轍の声で熊震に「それは」と小さく訊ねる。

「頴州が閉ざされていても、地龍の世界は頴州と繋がっているということ?」

「そう」

 頷いた熊震に、比轍の声が囁くように問う。

「そのことを、芦楓には伝えてある?」

「いや、伝えてない」

 比轍は熊震の答えに、一拍間を置いた。

「……地龍の通信手段が依然として繋がっていることを彼に伝えてください。彼は法の番人です。この状態が望ましいかどうか、芦楓が判断するでしょう」

 熊震は比轍の言い方を聴いて顔をしかめる。

(この状態が望ましいかどうかを、法の番人が判断する。地龍の情報網が生きていることが望ましいかどうかを天龍が判断するということか?)

「お言葉ですが地龍の世界には地龍のやり方がありますので、この状態が望ましいかどうかを天龍に判断されるのは少々……」

 言葉を返す熊震を比轍の声が遮った。

「ではすぐに頴州の地公廟に赴き、祭司官を通して地龍の王に状況を伝えてください。頴州に蔓延しているアヘンは、炎国から入ったヤンジェングルのケシから作られたものであろうというのが炎国から来た鑑定士の見立てです。ヤンジェングルのケシは、かつて炎の六心王龍の思考を止め、死を目前にしてなお抵抗力を失ったままにした薬です。六心王龍をむしばむような毒に、天龍王族よりもさらに稀少な地龍王族に属する螺珠らしゅ様と臥渓がけい様を触れさせるわけには行きません」

 比轍は静かな声で語気を強めつつ、熊震に告げる。

「地龍の守護者、熊一族が蘇地公をしっかりと守ってくださると信じています」

 熊震は頭を掻きながら、比轍の声に嘆息で応えた。

「今回は地公廟に行く前にフーニャンに逃げられましたが、やはり地公廟に彼女を連れて行って、間違いなく地龍であることを確かめたほうがよさそうですね。彼女がどのような属性の一族かを確かめねば」

 比轍は熊震に「ああ……そうですね」と小さく頷く。

「芦楓を変にたぶらかしたということでなければ、私は別に……」

「お友達思いなことで……」

 熊震は鼻を鳴らした。

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