カヴェイネン:異国から来た訪問者(55)スジェの末子は反抗したい
カヴェイネンらが水晶宮に到着する数日前。
朱塗りの壁で囲まれた水晶宮の一角では、本来すぐに蘇に来るはずではなかった炎王族を鴻盧寺になんの相談もなく連れて帰って来る泰俊、陸路ではなく空路を選んだ慶俊の暴挙に対する罵声が飛び交っていた。
主な罵声の出どころは、外交機関である鴻盧寺と、鴻盧寺から来賓を迎えるための饗応を打診された厨房である。
「時間がない! 鴻盧寺から螺珠様にご相談申し上げろ!」
厨房の者たちが「そうだ! おまえらが地公様に頼め!」と鴻盧寺の担当者に声を上げれば、鴻盧寺から来た饗応の担当者数名が「ふざけるな!」と怒声を返す。
「相談もなしに来賓を連れてくるのは桑州天公と蔡州天公だ! 菜譜も分からないのに地公様になにを頼めって言うんだ!」
「だから! 鴻盧寺から桑州天府と蔡州天府に相談してご協力の約束を取り付けてからこい! こっちは菜譜を考えなきゃならないんだよ! 炎王に出すなら九州百譜を出したいが、全土から食材を揃えるのに陸路じゃひと月は軽くかかるんだぞ!」
厨房の訴えに鴻盧寺の担当者たちが首を振る。
「菜譜を決めて必要な食材を一覧にしてくれ! 陸路で運ばずとも、騎龍を使えば数日でどうにかなるだろう!」
鴻盧寺の担当者たちが言い、厨房がまた「ふざけるな!」という怒号にまみれる。
「数日でどうにかなるだと! 数日でか! いいか! 鴻盧寺は外国ばかり気にして国内の九州百譜がどういうものか知らんらしいから教えてやる! 九州百譜ってのは、現在、今ある全ての州の特産品を四季の季節別に列挙して、各季節ごとに饗応で食材に一切重複なく百皿揃える! 食材が何百種類必要だと思うんだ! 鴻盧寺の連中ってのはどいつもこいつも理想論ばっかり並べやがる!」
厨師の怒号を前に、鴻盧寺の担当者たちを避けて厨房に入ってきた少女がピッタリと足を止めた。
厨師たちがぴったりと口をつぐむ。
鴻盧寺の担当者たちは黙りこんだ厨師たちを見て、ここぞとばかりに口を開く。
「菜譜は今日の夜までに頼むぞ! 食材の一覧を揃えて!」
厨房の様子がただならぬことを見て、少女は「あー」と小さく呆れた声を上げた。
鴻盧寺の担当者たちは少女を振り返って顔をしかめる。
「大事な話をしているんだ、後宮だか奥の宮だかどちらかから何を取りに来たか知らないが、後ろに控えて待つこともできないのか」
少女は鴻盧寺の担当者たちを見上げてから目をパチパチと瞬かせ、それからなんの躊躇いもなく厨房の厨師たちのなかにズカズカと入っていった。
「おい! 話を聞け!」
鴻盧寺の担当者が声を上げたのを振り返りもせず、少女は厨師たちに声をかける。
「今日もまだ、梅香は帰ってこない! だから夕飯の膳はひとり分でいい」
「ご要望は?」
厨師たちが少女に声をかけているのを鴻盧寺の者たちが「おい」と遮ったが、少女は気にせず要望を続ける。
「里芋の砂糖煮と白キクラゲと百合根の羹を付けてくれたら、あとはなんでもいい」
厨師たちが「ははは!」と笑う。
「おやつだけ催促しにいらしたんですか?」
「そう!」
「梅香様に怒られますよ」
「今日は梅香いないから大丈夫!」
少女は鴻盧寺の者たちが見えていないかのように振舞い、それから鴻盧寺の者に肩を掴まれて「放せ」とぴしゃりとその手を叩いた。
厨師たちが少女を見て苦笑する。
「芳児! 豆沙包温めようか!」
少女はそう言われて「いる!」と笑顔を浮かべた。
厨房で働く者たちの横に椅子を出してもらって豆沙包を齧りながら、少女は厨師長を呼び、鴻盧寺の者たちに目をやって手招きした。
「どこの宮の者だ、小娘」
「暁寧殿」
端的に言った少女に、鴻盧寺の者が「あとで苹州公に苦情を出すから名前を聞かせろ」と詰め寄り、少女の一瞥を食らう。
「名前が必要なら書き留めて」
少女は男に言う。
「暁寧殿、芳俊。ちゃんと書いた?」
鴻盧寺の男は筆を出したまま、動きを止めて少女を見つめたが、少女は気にせず豆沙包を手に厨師長を呼んでから鴻盧寺の男を見た。
「鴻盧寺の、名前と役目!」
男はハッとしたように頭を下げる。
「鴻盧寺、炎国饗応の担当官を務める莫狼と申します」
「莫狼、聞け。炎王のお出ましは偶然だが偶然ではない。いわゆる央原君が取り計らったことだと思え」
莫狼は芳俊の言葉に頷いたが、すぐに顔をしかめた。
「王龍は央原君と繋がると聞いたことがありますが、それは本当なのですね」
芳俊は首を振る。
「私が央原君の計らいを聞いたのは、地公候補と会ったときが最初で最後だった。あの野郎め、私が男の姿で席に臨んだら「男との婚姻なんか受け入れるか」と言って座布団投げてきたんだ。その一度だけ」
それでも莫狼は「はあ」と首を捻った。
「一度だけ、ですか」
芳俊は頷く。
「泰俊兄上と梅香が言うには、炎王は外交使者団を連れて公式な表敬訪問に来るわけではないから、饗応の膳は控えめでよいそうだ。鴻盧寺! 史公の比轍から饗応の間は東の陽莱山宮はどうかと意見が出ている。東の雲海は、砂の国から来る客人には珍しかろう、と」
鴻盧寺の者たちはサッと書き付けに筆を走らせる。
「炎王は私よりも少し年上で、とても気さくな方だという。それで厨師長」
厨師長は「はい」と答えて芳俊を見た。
「泰俊兄上が言うには、炎王はかなり雑食」
この芳俊の言葉には厨師長も莫狼も顔をしかめて首を捻る。
「雑食?」
「サソリはたぶん食べると言っていた」
厨師長と莫狼は「サソリ」と筆を取った。
「そのぐらい、たぶん、出せばなんでも召し上がる」
そう言ってから芳俊は自分で「サソリ」と繰り返す。
「梅香が言うには、カリカリしてるんだってさ、私は食べたことがないけど」
「サソリは砂漠の生き物ですから、炎王は食べ慣れておいでなのではありませんか?」
厨師長の意見を聞いて、芳俊は「そうだろうか」と首を傾げた。
「炎妃様に聞いてみようか?」
芳俊の提案には、莫狼が鴻盧寺の担当者として「いいえ」と首を振る。
「炎妃様にお訊ねしても、ひとまずご自分が食べたい物しか出てきませんでした」
「……もう聞いたの?」
莫狼に訊く芳俊の表情が明らかに「がっかりだ」と語っていた。
「炎妃様からの最終的なご要望は「とにかくイブレイムは食べたことがなさそうなもの」でした」
芳俊は顔をしかめる。
「伊歩……誰?」
莫狼は「コホン」と咳払いする。
「炎王のお父上です」
「……」
芳俊と厨師長は怪訝な表情で莫狼を見つめた。
「お父上?」
「泰俊殿下からお伺いではございませんか? 炎王と一緒においでになるそうです」
莫狼の問いに、芳俊は首を振る。
「ぜんぜん聞いてない」
「炎人として同席なさるのは、炎王、お父上のイブレイム様、それにイェジンという商人だそうです」
「イェジン?」
芳俊は豆沙包をひとつ食べ切って、蒸篭からまだ齧っていない豆沙包を掴みだそうとして手を止めた。
「……イェジン……」
豆沙包を掴んだ手をそのままに芳俊は困ったように唸り、懐から遠見鏡を手に取り出す。
「阿達!」
遠見鏡に声をかけた芳俊は、「あ、芳児だ」というあからさまに嬉しそうな阿達の返事を聞いて顔をしかめて見せた。
「芳児だけど芳俊の用事だ!」
「ああそう、逢瀬のお声掛けじゃないんだ」
「違う」
「それなに食べてるの?」
「豆沙包」
「美味しそう」
「厨師が蒸してくれたばかりだもの、美味しいに決まってる」
厨師長と莫狼は、子供の会話に首を振りながらそれぞれに額を押さえる。
「阿達、イェジン様の好物とか、嫌いなものとか、なにか聞いてる?」
遠見鏡の向こうで阿達が「さあ」と首を振る。
「兄上がどうかした?」
「炎王と一緒においでになるんだって」
芳俊の言葉に阿達が「え」と遠見鏡越しに目を見開く。
「炎から出てきていいのかな」
「さあ?」
阿達と芳俊の会話を聞きながら、莫狼がまた咳払いで芳俊の気を惹いた。
「恐れ入りますが、殿下はイェジン氏をご存じなのですか?」
芳俊は莫狼に遠見鏡を見せる。
「継蘇地公の阿達。イェジン氏は炎国地公のはずだから、イェジン氏が同席するなら、水晶宮に炎の天公地公が揃う」
片手に遠見鏡を持ち、片手で豆沙包を齧る芳俊を見て、莫狼は顔を引きつらせた。
「炎国天公と炎国地公ですか?」
遠見鏡越しに阿達が莫狼を見て「怖くないよ」と声をかける。
「見た目はただの異国のオジサンだし、優しいよ。水タバコがあったら喜ぶかも」
「水タバコ」
莫狼は急いで筆を走らせた。
「まあ、でも、欲しいものがあれば適当に作るだろうから、用意したいもの用意したらいいんじゃないの? だいたいほら、芳児と私だってそうだし、螺珠姉上と貞俊義兄上もそうだけど、天公と地公なんだもの、ふたり揃えば人間だろうが愛玩動物だろうが食用に太らせる肉だろうが好きに作れるんだから」
阿達の言葉に、莫狼も厨師長もゲンナリした。
「そうかもしれないけど、阿達、私と阿達で夕飯作ったときは散々だった。試しに作ってみた鶏は生きがよかったけど逃げられたし、粥を炊いたら味付けがとても微妙だった」
芳俊の主張に阿達が「そりゃだって」と苦い顔を見せた。
「生き物は作れるけどゴハンは命の残りを料理して味付けして食べるものだもの。生きとし生ける物すべては命を奪いながら自分の命を永らえるのデス」
「祭司官が言うとなんか宗教的で胡散臭い」
豆沙包を齧る芳俊に、阿達が「ふん」と鼻を鳴らす。
「よく言うよ、自分だって六心の神様のひとりなのに自覚がない」
「そんなことはないけど、神様の度合いで言ったら梅香のほうが強い」
阿達は芳俊の主張を聞いて、「うん……」と頷いた。
「それは否定しない……」
「梅香って、ひとりで三人分ぐらいの力を平然と使い熟すでしょ」
「あの人は特殊だと思ったほうがいいと思う」
芳俊と阿達が言う「梅香」について、莫狼は筆を止めた。
「おっしゃっている梅香殿とは、暁寧殿の比梅香殿のことですか?」
芳俊は莫狼を見る。
「比梅香でも常梅香でもいいけど、比轍のこと」
莫狼は目を瞬かせた。
「史公ですか?」
「そう」
芳俊は莫狼に向かって頷いた。
「比轍と比梅香は同じ」
「あの方は……比氏ですから、貴族……五心ですよね?」
遠見鏡越しに顔を見合わせて、芳俊と阿達は首を竦める。
「まあ、五心……」
芳俊はそう言いながら、息をついた。
「化け物級の」
そう付け加えて、芳俊は豆沙包を齧り、阿達に「ありがとう」と言って遠見鏡を伏せる。
「……比氏には、五心の人と六心の人がいて、比轍は六心の人。だから泰俊兄上が婚約者なわけで……螺珠義姉上は地公だから天公の貞俊兄上と番になるの分かる。というか男嫌いだから貞俊兄上は螺珠義姉上とはほぼ女友達にしかなれない。分かる」
そう言いながら芳俊は豆沙包を口に入れて咀嚼する。
「比轍は比轍だけど私の常梅香でエナ母上だから、泰俊兄上が比轍の一番になるとなんか悔しい。あと炎王がなんの目的で貞俊兄上に会いに来るのか分からなくて気持ち悪い。できればおもてなしの所々に嫌がらせを入れたい」
目が据わったような状態で豆沙包を食べながら言う芳俊を眺めて、莫狼が目を眇めた。
「殿下、不穏なことをおっしゃるのはやめてください、饗応失敗の未来しか想像できません」
「失敗すればいい。炎王が貞俊兄上に会いに来るのは危険だと思ったら私にとって成功」
「成功ではありませんよ、失敗です大失敗です」
莫狼は芳俊を宥める。
「せっかく遊んでくれる兄上ができたのに炎王に奪われるのは嫌だ」
「炎王には一族の方から……そういえば慶俊殿下は五心で王府をいただくことになりますから、六心で炎王に嫁げる王爺は芳俊殿下しかいませんね」
芳俊は莫狼を見つめてから「やだ」と首を振った。
「絶対に饗応失敗させて、炎王が「二度と蘇に関わりたくない」と思えるようにする」
莫狼は頭を抱えた。
「殿下、殿下がおっしゃった「思えるようにする」というご発言について申し上げると、文法上「可能補語」の使い方は適切ですが、鴻盧寺の官僚としては文意が極めて不適切であると申し上げるほかございません」
芳俊も厨師長も莫狼がなにを言いたいのか分からず、無言で莫狼を見つめる。
莫狼は、自分はなにか妙なことを言っただろうか、と鴻盧寺の同僚を振り返った。
鴻盧寺の担当者たちは、しばし考え込んでから莫狼を見て「たぶん」とひと言付けてから口を挟む。
「いま誰も文法が正しいかどうかということは問題にしていないし、文意が適切であったかどうかを議論する流れは特になかったからではないだろうか」
莫狼は同僚を見、同僚のひとりが困ったように小さく首を振りながら莫狼に向けて口を開いた。
「文意が適切であったかどうかを考えるのは鴻盧寺の者には日常だし、王子や王爺にもそうあっていただきたいが、芳俊殿下はまだ加冠して五年も経たない子供で、州公になってからの年数も朝議に参政できる資格を満たしておいででないから、文意を慎重に考えるクセがまだできてない」
芳俊は蒸篭に手を伸ばしてまだ齧っていない豆沙包を取り、また鴻盧寺の者たちを見つめた。
「いま、私はすごく小馬鹿にされた気がするので、鴻盧寺の者たちはとりあえず自分たちの発言についてブンイがテキセツだったかどうか考えたほうがいいと思う」
莫狼をはじめ鴻盧寺の者たちは、侍女の格好をして厨房の片隅で豆沙包を手に持って齧る子供を眺めながら、反論したいができないという表情を露わに「そうですね、反省いたします」と釈然としない様子で頷いた。
芳俊はその鴻盧寺の者たちに構わず、厨師たちを見て「梨も煮る?」と声をかけ、首を振られて「あ、そう」と豆沙包に目を戻す。
「たぶんサソリ食べるし雑食だと言っていたから、とりあえずサソリ出して、あとは……辛い物と辛くない物、それから……臭豆腐食べると思う?」
厨房の厨師たちが鍋や包丁を動かしながら芳俊を見て首を振る。
「お次はスズメの丸焼きですかね? 縁日の屋台じゃないんですからそんなものは炎王にお出ししませんよ」
「サンザシの水飴がけもリンゴ飴も出しません」
「羊の串焼きも」
「牛の甘辛煮がけうどんも」
芳俊は口々に言う厨師たちを見てしばらく沈黙してから「わかった」と小さく頷いた。
「じゃあ、牛を丸焼きにして出そう」
厨房の厨師たちと鴻盧寺の者たちがそれぞれに顔を見合わせ、ある者は筆を片付け、ある者は自分の食材に注意を戻すなか、厨師長がパチンと音を立てて筆筒の蓋を閉めて口を開いた。
「そういう短絡的なことでは厨房の出る幕がなくなりますので、普通に宮廷料理を揃えます、菜譜は後ほど暁寧殿にお持ちしますよ、殿下、それでよろしいですか?」
「しょうがないから、それで妥協する」
芳俊は豆沙包を咥えて頷く。
「では、半日時間をいただきます。食材については恐れ入りますが、螺珠様か段達様、それに比氏の皆さまと、どう調達するか早急にご相談ください。王と違い十暁殿から行きたい場所に行かれるわけではありません。急ぎの饗応ですから、厨師がそれぞれに担当する皿の食材を選びに行く「道」を準備していただく必要があります」
厨師長の言葉を聞いて「菜譜が決まったら鴻盧寺にも連絡を頼みます」と鴻盧寺の者たちは厨房に「今ここですぐに菜譜を決めろ」と言うのを諦めて妥協した。
それは、莫狼ら鴻盧寺の者たちとしては精いっぱいの妥協だった。
芳俊にできるのは、どのように「調達用の道」を用意するかという検討で、芳俊は「頑張ってみよう」と頷くしかできなかった。
*** *** *** *** ***
芳俊は暁寧殿で寝台に座り込み、螺珠に新しく着物を作ってもらった元足を横に座らせて不貞腐れた。
元足は身の丈が五寸ほどで背中に羽が生えている謎の生き物で、芳俊によって作られたその種の生き物としては元足しかいない孤独な存在だが、元は死体の足で、芳俊の目付け役でもある。
元足は芳俊を見上げて「それでは」と自分が芳俊から聞いたことを繰り返した。
「後ほど、厨師長が饗応の菜譜を提案に来る、そこには鴻盧寺の者たちが同席する、そういうことでよろしいですかな?」
芳俊が趣味で愛らしい見た目の妖精に作り上げた元足は、見た目に反してまったく年寄りそのものの口調で芳俊に理解が正しいかどうか訊ね、芳俊は「それで合ってる。たぶん」と頷く。
「炎王ってどんな人だと思う? 鴻盧寺の者は蘇から炎に嫁げる六心が私しか残っていないと言うのだけれど、私はやっと州をもらったばかりで、政に参加したこともないのに嫁にやられるとか、ちょっと納得したくないから、炎王が「こいつだけは嫁にしたくない」と思うようにしようと思うの。厨房と鴻盧寺が結託したからできることが減った」
不穏なことを言う芳俊を見上げたまま、元足は「ふむ」と唸った。
「まず、行儀よくなんてしない」
芳俊の計画に元足は渋い顔になる。
「蘇国の評判を貶める」
芳俊は元足を気にせず続ける。
「できるだけ炎王のほうを見ないで存在感を消す」
「暗い!」
元足は芳俊をペチンと叩いたが、芳俊になんの衝撃も与えないことは元足自身が分かっていてのことだった。
「ひたすらゴハンを食べる」
「それじゃあまったく空気が読めない子でしょうが!」
元足に怒られたが芳俊は「いいんだ!」と耳を塞ぐ。
「炎王が「こいつとは話が続かないし興味も持てない」と言われたら成功なんだ」
芳俊の言葉に元足は頭を抱えてゲンナリしてから膝を打った。
「よろしい、やり方は変えていただきましょう。蘇から妃を娶ったら面倒臭いと思わせる、いかがです」
元足の提案を聞いて芳俊は「聞くだけ聞く」と言って先を促す。
「殿下には、できる限りお行儀よくしていただく! よろしいですか? 炎王とイェジン氏がお揃いになることで、水晶宮には蘇国天地公だけでなく、炎国天地公という、二組の天公地公がそこに並ぶことになります。天公地公の祭祀としきたりに則ってお迎えさればよろしい」
芳俊はパンと手を叩いて「そうだ!」と頷いた。
「炎王は天公だから、嫁いだら炎王が来るたびに同じ儀礼で迎えると言えばいい」
「きっと面倒な相手だと思われるでしょう」
元足の提案に芳俊は「分かった」と元足に向かって親指をグッと立てた。




