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蒼山碧海番外編  作者: 望月かける
異国から来た訪問者
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カヴェイネン:異国から来た訪問者(45)砂上の空論

 カヴェイネンはピンを肩に乗せ、腕組みして仁王立ちでラクダの背に商品の箱を括りつけているタジャンを眺めた。

 タジャンはちらりとカヴェイネンを見る。

「ひとりで砂漠を戻る気はないですよ。ここまで来たんですからスジェの客人たちがどんなものを好むのかこの目で見て帰るぐらいはしないと」

 カヴェイネンは自分のラクダにアルタンとピンの指導を受けつつ支度を施すことに決めて動きながら、頷いた。

「二度とその箱を砂漠で開くなよ」

「分かってますよ、ダンナ。二度とやりません」

 そう言いながらタジャンはカヴェイネンに体を寄せた。

「ところで」

「うん?」

「ジャファがエルバハン領主の子だったってのは本当ですか?」

 声を落としたタジャンに問われ、カヴェイネンは「元エルバハン領主」と訂正する。

「先に知ってりゃもっとあの腕輪の値段を上げてたってのに」

「聞こえてるぞ、子供相手に吹っかけるんじゃない」

「そんなこと言ったってねダンナ、こっちも仕事なんですよ」

 そう言いながらカヴェイネンの後ろにジャファの姿を見つけて、タジャンが首を竦める。

 カヴェイネンは右肩に飛びついてきたジャファに「おい!」と声をかけた。

「左肩はピンの特等席! 右肩は俺の特等席!」

「思いやりをありがとうございます、お姫様」

 ピンの言い方にジャファは「お姫様だってさ」とカヴェイネンによじ登りながら言う。

「登るな、重い。登るなら落ちるな」

「落ちないよ」

「リゲル嬢とは重さも骨格も違うから気を付けろ」

「あい」

 ジャファはカヴェイネンの肩で前のめりになる。

「親父いっしょに来るって言ってる」

「スジェまで?」

「スジェ王見るって言ってる」

 タジャンが耳をぴくりとそばだて、顔を上げてカヴェイネンとジャファを振り返った。

「スジェ王? スジェ王に会う?」

 カヴェイネンはタジャンを振り返る。

「そもそも私がスジェに行くのはスジェ王に会うためだ。それにジャファもスジェ王に会う理由ができた」

 タジャンがさっとジャファに目を向ける。

「俺の手紙ちゃんと読んでくれた? って聞きに行くの」

 タジャンはジャファの腕を掴んだ。

「スジェ王に手紙を書いたのか? おまえが?」

「書いたよ」

 ジャファの返事に、タジャンは身を乗り出す。

「私のことは書いてくれたか? どうだ? 魔道具を扱う商人がいるとか、道具の質がいいとか、どうだ?」

「書いてない」

「くそぅ! あー……あれはないのか……思いやり! この……なんだ……大広間に呼ばれなかった商人への思いやりはないのか!」

「ない!」

 ジャファが笑った。

「いいこと教えてあげる」

「追い討ちかけて来るんじゃないだろうな」

「違う違う」

 軽快するタジャンにジャファが笑いかける。

「俺の親父いっしょに来るってさ」

「おまえの親父だ?」

 タジャンは呆れて肩を落とす。

「元エルバハン領主なんだってさ」

「元! 出たよ、元! なんなんだその元ってのは!」

「俺が盗賊カッコいいって言ったから領主やめて盗賊になったんだって」

 ジャファはカヴェイネンの右肩に乗っかったまま言う。

「あ?」

 タジャンがポカンとしたのを見て、ピンが「うひひ」と笑った。

「小僧、おまえ本当にそんなこと親父さんに言ったのか? 盗賊より領主のほうがずっとカッコいいだろうに」

 呆れたタジャンに、ジャファが「知らないけど」とムスッとする。

「そんなこと言ったのも覚えてないけど、言ったんだってさ」

 タジャンは頭を掻いた。

「そうか、言っちまったもんはそりゃ……仕方ないな。そんときゃ小僧、おまえなんでか知らんが盗賊がカッコいいと思ったんだろうな。親父さんそれで領主やめて盗賊か。溺愛されてんじゃないか」

 ジャファはタジャンを睨む。

「そうなのかなぁ」

「息子にカッコいいと思われるほうを選んだんだろ?」

 カヴェイネンは右肩からずり落ちそうになりながらタジャンと会話するジャファを抱え直し、その反対側で体勢を崩しそうになったピンを慌てて拾った。

「大丈夫か、ピン」

「大丈夫です」

 カヴェイネンはジャファを肩から下ろしてタジャンのほうへと押しやる。

「こちらはこちらで用意するからそっち行っておいで。タジャンの邪魔でもしてこい」

「ちょっと! ダンナ! 頼みますから邪魔させるのはやめてくださいよ!」

「はは!」

 笑ったカヴェイネンに「ゴホン」という咳払いが飛んだ。

 カヴェイネンが振り返ると、イブレイムがカヴェイネンを睨んでいた。

「ジャファ」

 ジャファはカヴェイネンに呼ばれて振り返る。

「お父さんが来たぞ」

 ジャファはイブレイムを見てからカヴェイネンに目を移し、また仕方なさそうにイブレイムに目を向けた。

「なんで来たの」

「タリヤの奴が輿を用意するから使え。おまえが熱射病で倒れたらバァドルもジャヒーアも心配する」

 ジャファは呆れて顔を逸らす。

「バァドル伯父さんも母さんもいないじゃん」

「ジャヒーアが深睡を選んだのは確かだが、バァドルはエルバハンでジャファールの体が全部集まるのを待ってる。おまえたちが無事に戻れば、ジャヒーアだって起きるに決まってる」

 イブレイムの言い分にジャファは肩を落とした。

「どっから来るかな、その自信……」

 カヴェイネンはイブレイムが苛立ちを抑えるために息を吸い込んだのを見た。

「スジェ王に会うのに日焼けした子ザルでいたいか?」

 イブレイムのあからさまな言い分に、ジャファはまたイブレイムを睨む。

「衣装を整えさせるから来い。黒かベージュのローブを羽織るほうがいい」

「……暑いのに……」

「だから日傘を付けた輿を使うと言ってるんだ。ただでさえスジェ王とチビ……おまえじゃずいぶん歳が違う。エニシャ王がスジェ王の前に出るのに、日焼けした顔に膝小僧が出そうな短いズボンで裸足ってわけには行かないのを理解しろ」

 カヴェイネンとピンが顔を見合わせる前でイブレイムはジャファを担ぎ上げ、リュヌ商会の商隊がラクダの支度をしている厩舎を離れていった。

 タジャンがカヴェイネンを見て、イブレイムが去って行った方向を指差す。

「エニシャ王?」

「そういうことになったらしい」

 カヴェイネンは苦笑した。


 *** *** *** *** ***


 ジャファはタリヤ公の邸の侍女たちの手で着飾られてから、デイジェンのいる客間に顔を覗かせる。

「お、馬子にも衣装」

 デイジェンが言い、ジャファは首を捻った。

「仔馬?」

「違う、着ているものを変えただけで格好よく見えるという意味だ」

 ジャファは自分の格好を見てからデイジェンを見る。

「……」

 無言で自分に着せられたローブの袖を広げ、ジャファはデイジェンに見せた。

 デイジェンはジャファを見てからビジューを振り返る。

「似合ってますよ」

 ビジューはジャファの主張をどう汲み取ったか、褒め、デイジェンはそのビジューを見て顔をしかめた。

 ビジューは少し言葉を探し、それから改めてジャファを見て言う。

「せっかく金に赤のきれいな耳飾りを付けているのですから、耳飾りが見えるように髪を耳にかけてごらんなさい」

「こう?」

「そう、似合いますよ。その薄い茶の外套に赤い石が映えます」

「ハエ」

「よりきれいに見えます」

 ジャファは満足げに鼻高々と言った風情でローブを整えて見せた。

 デイジェンはビジューに体を寄せる。

「なんだあれ」

「スジェ人から見ても似合うかどうか見せに来たのでしょう」

 デイジャンはビジューの答えを聞いてから「ん?」とジャファを振り返った。

「ジャファ、一日は一駅分しか移動しないぞ」

 ジャファはデイジェンを見る。

「え?」

「スジェの王宮に着くのは一週間後だから、その着物で会うわけじゃない」

 淡々と言ったデイジェンに、ジャファは目を瞬かせた。

「そうなんだ」

 ビジューは呆けたジャファを見て笑顔を見せてから立ち上がる。

「私は先に戻ります」

「一緒に戻ればよいのに」

 デイジェンが言うと、ビジューは苦笑した。

「これでも私、官僚なんですよ」

「知ってる」

 デイジェンはジャファを振り返って手招きし、耳元でこそこそと何事かを囁いた。

 耳打ちされたジャファはデイジェンをちらりと見て「しょうがないなあ」と言いながらビジューを見る。

「役人なんかやめちゃえって」

「やめてくださいよ、小銭稼ぎの仕事なんですから」

「小銭稼ぎの仕事が史官か」

 ジャファはビジューに「史官?」と訊ねる。

「王宮や各地の日記を書く仕事なんです」

「日記を書いてどうするの?」

「日記が溜まると国の歴史になっていきますから、私たちが書いたことがスジェの歴史として語り継がれていくことになるのです」

「……そうなんだ……それで」

 ジャファは理解したのかしないのか、話を変えた。

「一緒に輿乗る? 昨日の、模型作るようなのまた教えてもらえる?」

 ビジューはジャファを見つめ、デイジェンが「そうだ、それがあった」と手を打った。

「エニシャ王は自分の領地を持ったことがないままでヴェスタブールに放り込まれた。ビジュー、教えてやるといい」

「……まったくもう!」

 ジャファとデイジェンは「よし」と顔を見合わせて両手を打ち合わせた。


 *** *** *** *** ***


 リュヌ商会の商隊がタリヤを発つ。

 タリヤ公は兄のイブレイムとジャファを申し訳なさそうに見送りつつ、その表情に安堵が浮かんでいるのが誰の目にも見て取れた。

 カヴェイネンはラクダを並べているイブレイムが「仕方ない」とぶつぶつ繰り返しているのを聞く。

「移動の間、話ができると思ったのに」

 輿に押し込んだジャファの横には、イブレイムではなくビジューがいる。

「旅慣れない女性なのだから仕方ない。仕方ないが、チビのやつ無駄に頭使いやがって」

 カヴェイネンはイブレイムにミントとライムで風味を付けた水を入れた水筒を見せた。水筒とは言うが、実のところ筒ではなく皮だか内臓だかでできたものだ。

「いりませんか」

「ひと口もらう」

 イブレイムはひと口、水を飲んで口元を拭う。

 カヴェイネンはイブレイムから水筒を受け取って、デイジェンを見る。

 この行列のなかで、イブレイムのほかに機嫌が悪い男がいるとすればこの王弟だ。

「呼び寄せればビジューは喜ぶだろうと思ったのに、想像ほどは喜んでくれなかった」

 カヴェイネンとイブレイムはデイジェンを見る。

「目論見が外れたか」

 イブレイムがデイジェンを笑う。

「カヴェイネン殿、あいつはとても簡単そうに地図や模型を作って見せただろう?」

 デイジェンに問われ、カヴェイネンは「ええ」と頷いた。

「スジェであれができるのは、あいつの一族しかいない。王は、できるのだろうがやらないことだ。それができるから、本来は、あいつは王都から出ることを許されていない」

 カヴェイネンもイブレイムも、言ったデイジェンを見つめて言葉をなくした。

「スジェの先王には八人の王妃がいて、皇后は序列一位のケルグンの王子だった。それが私の母なのだが、ユネと言う。それから時間を置いて、ケルグンから一番下の王子エナがスジェに嫁いできた。エナは早くに亡くなったが、ユネはエナをその息子の宮に移した。いつか息子の魂魄でエナが生き返れるように、禁術を施した」

 デイジェンはイブレイムを見る。

「あんたが二番目の息子を一番目の息子に与えたのと同じ術だ」

 カヴェイネンはイブレイムが顔をしかめたのを見た。

「母として、息子の魂魄で生き返るつもりはなかったのだと思いたいが、エナが犠牲に選んだのは私の婚約者の、あのビジューだ」

 デイジェンは陽光に温められた砂漠の照り返しに辟易したように、手の上に水の球を浮かべて潰し、顔から首筋までを濡らす。

 ラクダの鞍には日の光を遮るように屋根と天蓋が付けられていたが、デイジェンは「せっかくの外国なんだ」と言って、天蓋の布を開けっぱなしていた。

「エナは自分の息子が幼い頃に一度死んでしまったせいか、子供の相手が好きだ」

 デイジェンの視線の先にはジャファとビジューがいる。

 イブレイムは「ふん」と鼻を鳴らした。

 カヴェイネンはふたりを見てから、前を行くジャファとビジューを見る。

「あー……あの羊、連れてきちゃったか……」

 呟いたのはピンだった。

「羊? あの踊る羊か?」

「そうです。輿の上でたくさん、昼寝してますよ」

 ピンは髭を動かした。

「だんなーぁ!」

 後ろからタジャンが悲鳴に近い声を上げてカヴェイネンを呼ぶ。

 カヴェイネンが振り返ったとき、ピンはさっと黒い目をきらめかせて中空に光の盾を展開していた。

 金色の龍が後を追ってきているのが見えた。

 タリヤまでの道中で見た龍たちとは数が違う。さらにそのなかには騎龍兵と呼ばれる空中戦を専門にする兵の姿が見え隠れしている。

「タリヤの連中か? それとも、俺にはエルバハンに戻ってほしくない連中か」

 イブレイムが目を眇める。

 デイジェンはジャファとビジューの輿を載せたラクダの横に、自分のラクダを走らせる。

「ジャファ、私に戦闘の代行権を寄越せ! その宝石に「戦闘権を与えろ」と指示すればそれでいいはずだ」

「これ? いいよ。エニシャの龍と戦うの? あんたが?」

「そう」

 ジャファはデイジェンに王権の宝石からこぼれた指輪をデイジェンに渡し、デイジェンは「終わり次第返す」と頷いて自分の指にその指輪を嵌めた。

「六心龍の戦い方を見せてやるから見ていろ」

 二ッと笑って、デイジェンはラクダから飛びあがる。

 飛んだデイジェンの後ろから、砂漠の砂が幾筋もの龍の形を成してデイジェンに従って飛翔した。

 カヴェイネンも、リュヌ商会の地龍たちも、デイジェンが砂漠の砂を従えたのを見て呆気に取られる。

 デイジェンが従える龍の数は、見る間に膨れ上がっていった。

 砂の龍はガラスの龍に姿を変えて、隊列を組む。

 ジャファはビジューの腕を掴んだ。

「デイジェン、大丈夫?」

「大丈夫ですよ、代行権をお借りしたでしょう?」

 ビジューのあっけらかんとした返事に、ジャファは「うん」と頷く。

「あの龍たちはこの羊たちと同じです。この子たちは人形ですから、簡単には死なないでしょう? デイジェン殿の龍も、簡単にはやられません」

 そう言ってからビジューは「たぶん」と付け加えた。

「戦闘の代行権ってなにができるの?」

「戦闘でしょうね」

 ジャファとビジューの間に沈黙が流れる。

「……代行権ってなに?」

「王の代わりに戦いますっていうことです」

「……あれ本当は俺がやる仕事なの?」

「……」

 また、ジャファとビジューの間に沈黙が流れる。

 ビジューはジャファを見た。

「いや、あの人は自分が扱ったことのない物質であれをやってみたいだけだと思いますから、無理に参考にしようと思わなくてもいいんですよ」

 ジャファは頷いた。


 カヴェイネンと、その肩にいるピンはデイジェンが率いるガラスの龍と、そこに姿を見せた騎龍兵を見上げて「はあ」と息をついた。

「私たちは地龍として天龍と戦いますが、天龍どうしの戦いを見るのは初めてです」

「えらく眩しい……」

「……ガラスの龍ですからね」


 ジャファはビジューが苛立っているのをちらりと見て首を捻る。

「どしたの?」

「無駄な戦闘に時間を使いたがるなあと思っただけです」

 ビジューはジャファを見た。

「六心龍と五心龍の違いを知りたいとおっしゃっていたでしょう?」

「ん」

 ジャファはビジューに頷く。

「ああいう、ガラスの龍の軍勢を作るのも六心龍にしかできませんが、あれができるなら違うこともできるのですよ」

 ビジューは笑顔でジャファに言った。

「少し試してみましょうか」

「俺が?」

「そうです。昨日やったみたいに光の柱と円を描いてみてください」

 ジャファはビジューに言われて光の柱と円を描いて、ビジューがタリヤ公の広間でやったように箱庭を作り上げる。

「これでいい?」

「けっこう。風でこの砂山を飛ばして砂嵐にしましょうか」

 ジャファは気軽に言うビジューを見つめ、それから、頷いて「風」と念じた。

 砂山を崩すほどの突風が砂嵐になって、追ってきた龍たちを直撃する。

 ビジューはパチパチと手を叩いた。

「それじゃジャファ殿、砂嵐の砂をガラスの針にしてしまいましょう。簡単ですよ、デイジェン殿が砂の龍をガラスにしたでしょう? 砂にはケイ素が含まれていますから、ガラスの材料には事欠きません」

 ジャファは有無を言わせぬビジューを見て目を瞬かせ、それから「ガラスの針」と呟く。

「小さい針?」

「龍は図体が大きいですからね、大きめの針にしてみましょうか」

「つららみたいなの?」

「……そうですね。私はつららを見たことがありませんが、ジャファ殿がそう思うならきっとそうなのだと思います」

 ジャファは目を丸くした。

「つらら見たことないの?」

「見たことがないのです」

 ビジューは笑った。

 それでもジャファは、ビジューに「ほら」と促されて慌てる。

「砂嵐の間、デイジェン殿の軍は動けませんから、今のうちです」

 ビジューの言葉に、ジャファは「ガラスのつらら」と繰り返して念じた。


 カヴェイネンとピン、それにイブレイムは、デイジェンが不機嫌に龍たちを解体して戻ってくるのを見た。

 砂嵐に軽く巻き込まれそうになったデイジェンは、「くそ」と悪態をつきながら自分のラクダに戻ってジャファとビジューの輿に向かう。


「ジャファル! ビジュー! あの連中の惨状を見ろ!」

「一網打尽になりましたでしょう?」

「生存者がひとりもいない!」

「追ってきたのですから、覚悟の上だったと思いますけれど」

「生存者がいなければどこの龍だったかもわからないだろうが! タリヤなのかエルバハンなのか、バラカなのか……そういう手がかりが一切なくなったじゃないか!」

 デイジェンの苦情にビジューが耳を塞いだ。

「あそこまで効くと思わなかったんですよ」

 ふてぶてしく言うビジューに呆れながらデイジェンは代行権の指輪をジャファに返す。

 指輪はジャファが首にかけている王権の宝石に吸収されて跡形もなくなった。

「ああいうことをやるならやると、先に言ってくれ」


 戻ってきたデイジェンを見たカヴェイネンとイブレイムは、デイジェンに「砂嵐はなんだったんだ」と口々に訊いた。

 デイジェンはカヴェイネンとイブレイムを見る。

「ジャファとビジューの仕業だ。あのふたりが砂山を崩して砂嵐を起こしたうえ、砂をガラスの剣に変えて雨のように降らせたものだから、生存者がひとりもいなくなってどこの連中かを誰何することができなくなった」

 カヴェイネンはイブレイムと顔を見合わせてからデイジェンを見た。

「それは、参りましたな」

「これだから!」

 デイジェンは悪態をつく。

「戦闘慣れしていないヤツが効率性だけで手を出して来るのは嫌いなんだ!」

 カヴェイネンは「お気持ち察します」と言ってデイジェンを宥めることにした。

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