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蒼山碧海番外編  作者: 望月かける
異国から来た訪問者
45/106

カヴェイネン:異国から来た訪問者(41)スタラーデの敗北

 タリヤ

 モザイクランプに照らされた幻想的な広間で、白髪のカヴェイネンは、デイジェンとビジューを見た。

「囲碁というのは、殿下に説明されても想像がつかなかったのですが、どういうゲームですか? スジェのおふたかたはご存じですか?」

 ビジューは楽し気に「簡単な陣取りゲームですよ」と答えた。

「スジェの王宮で肩書を持つ役職にいる者なら、誰でもたしなむ」

 デイジェンはビジューがひらりと手を動かして光る盤を広げたのを見て、石を見せる。

「動く駒はない。まっさらな盤の、自分が陣地にしたい場所に石を置いて行く」

 そう言いながらデイジェンは盤の端のほうにガラスのように光る石を置いた。

「殿下が先手ですか?」

「先手必勝」

 デイジェンの石に対し、ビジューは後手を受け入れ、カヴェイネンから見てまったく見当違いの場所に石を置いた。

 イェジンを振り返ったカヴェイネンは、イェジンに首を振られ、タリヤ公を見、タリヤ公にも首を振られた。ちらりと横を見れば、ピンとアルタンも首を捻っている。

 ビジューがカヴェイネンを振り返る。

「まだ序盤ですから、争いは起きていません」

 カヴェイネンは頷いた。

「そこを陣地にしていくわけですな」

 納得しかけたカヴェイネンは、デイジェンが最初の石とはまったく無関係の場所に三手目を置いたことに顔をしかめた。

 イェジンとタリヤ公も顔をしかめて碁盤を見つめる。

 見ている者は、誰もがだいたい展開が分からず沈黙した状態だった。

 ビジューはそれにふと気付いたのか四手目を打たずに手を止め、カヴェイネンを見た。

「碁盤に少々目立つ印がございますでしょう」

 ビジューの指は一手目、二手目、三手目、そして、その流れであれば四手目が置かれるであろう場所を示した。

「この印を「星」と呼びます。タリヤ公、ご子息の名前はスタル・アルデ、導きの星、ですね、美しい名前です。碁盤の石、一手目から三手目は星に導かれ、この四手目も」

 ビジューは「星」と呼んだ印に石を置く。

「星に置きます。ここが囲碁の、他のゲームと違うところですが、囲碁では石の数ではなく埋まっていない地の数で勝負が決まりますので、空き地を確保することが重要です」

 カヴェイネンが説明されているあいだに、デイジェンが五手目を置いているのを、カヴェイネンの視線を見て発見したビジューが「あ」と顔をしかめた。

 先手の黒石ではなく、後手の白石に寄った場所に置かれたデイジェンの石を指差し、ビジューはカヴェイネンを振り返る。

「囲碁では、こういうものを好戦的な手と申します」

 デイジェンはビジューを見た。

「見学者は争いが見たいのだろう? 局地戦で終わらせよう」

 ビジューは呆れた。

「局地戦ならそもそも十九路ではなく九路か十三路でよかった」

 そんな話をされながらだったが、カヴェイネンが見ている前で盤面は進んでいく。

 そして簡単に言えば、説明されたその最初以外、カヴェイネンにはデイジェンとビジューがどこで勝ち負けを見ているのかまったく分からなかった。

 盤面が随分と石で埋まった頃、広間には従者が駆け込んできた。

「公! イブレイム・エルバハンと名乗る方がおいでです!」

 タリヤ公は「ひっ」と小さく声を上げて、それから模型を見て「ああ」と半ば安堵が混じったため息をつく。

「スジェには送れなかったが、今あの子は王墓のためしを受けている最中だ、ここにはいない」

 それがスタラーデにとって救いかどうか、白髪のカヴェイネンは知っていた。

 口にはしない。

 ただ、知っていた。

 リゲルは魔女狩りで死んだ。

 それをしたのは、スタラーデだった。

「イェジン! うちのチビがリュヌ商会に小遣い稼ぎに雇われたと聞いた!」

「兄上、ああ……あのう、ご無沙汰しております」

 小さな声で言うタリヤ公を見て、イブレイムはまず誰が見ても侮蔑と分かる表情を浮かべた。

「息子を八つ裂きにされたくなければ、あいつのことは部屋に閉じ込めておけ」

 イェジンはイブレイムを見た。

「すまなんだ、胸に蓮華模様のアザがあると言ったものでな」

「蓮華模様のアザがなんだ!」

 イブレイムに向かって、イェジンは深く息をつく。

「十何年も前に、ヴェスタブールのお嬢さんがいただろう」

「ヴェスタブール? 一度行ったな。たしかヴェルタネンデでヤンジェングルのケシにやられた金髪娘だ」

 イェジンはイブレイムに自分の隣を示し、手招きして座らせた。

「あのお嬢さんに頼まれていた。胸に蓮華模様のアザがあるジャファールを見つけたら拾ってくれとさ」

 イブレイムは訝し気にイェジンを睨む。

「ふざけたことを言うな。あのお嬢さんはヴェスタブール人で、チビには会ったことがない」

「あのお嬢さんの魂魄があんたのところのチビさんの物だったらしい」

 イブレイムはイェジンに「は?」と言い返してからデイジェンとビジューの視線に気付いてふたりを睨んだ。

「誰だあいつらは」

 デイジェンは一度鏡越しに怒鳴られたせいか、姿勢を取り繕いもせずイブレイムを睨み返す。

「どうも、タリヤ公からスタラーデ殿をスジェの王妃にと打診を受けたものの、スタラーデ殿をお断りしてジャファール殿をスジェに頂きたいと思っているデイジェンと申します。母はケルグン出身ですから、ジャファール殿とは恐らく母方の従兄弟でしょう」

 そう告げたデイジェンを見て、ビジューは「あ、そうか」と頷いた。

「そういう関係がございましたね」

「そう。ジュジェン殿はジャファール殿の従兄弟で、私も母方だけ見ればジャファール殿の従兄弟」

 デイジェンはそう言ってから「まあ、エクセン・ドランの世界ではそういう関係がどこにもない相手のほうが珍しい」と付け加えた。

 イブレイムはデイジェンをもう一度睨んでからイェジンに目を向けた。

「うちのチビはどこだ」

「王墓です」

 答えたのはビジューだった。

「王墓のためしを受けているところです」

「王墓の験し?」

「スタラーデ殿とジャファール殿のどちらがエニシャの王権を獲るか」

 イブレイムに向かって顔を上げたのはカヴェイネンだった。

「十五年か、十六年ぶりにお目にかかります。リゲル嬢の治療のときには、ヴェルタネンデまでご足労いただきありがとうございました」

 カヴェイネンの言葉に目を眇めたイブレイムは、しばらく思案してから「ああ」と頷く。

「もう白髪か」

「白髪になるまで生きとります」

 カヴェイネンは笑った。

「あのお嬢さんはどうなった」

「亡くなりました」

 イブレイムはカヴェイネンを見つめる。

「ケシのせいか」

「いいえ、ケシの密輸人が魔女狩りを告発したせいです」

 カヴェイネンはイブレイムに向かって、スタラーデとジャファールを映し出している模型を指差した。

 イブレイムは要領を得ないと表情が訴えていたが、それでも模型を覗き込む。

 そこにはリゲルとカストールが映っていた。

「確かにあのときのお嬢さんだな」

 イブレイムは頷いた。

 そのなかでは、リゲルが施療院を出て侯爵家に戻り、カストールの部屋で、カストールと対峙している。

 模型からは、リゲルの声が響いた。

「私が第八環状で見つけた物を見せてあげる」

 イブレイムはリゲルを見て「ケシか?」と呟いたが、リゲルはカストールを前に、手を広げて風を起こした。

「ヴェスタブール人は力を持たないはずだ」

 イェジンがイブレイムに向かって首を振る。

「あの嬢さんは先祖返りだったらしい。どこかで天龍か地龍の血が混ざっていたんだろう」

 イブレイムは「ふん」と鼻を鳴らしてリゲルに目を向け、顔を蒼白にした。

「ジャファール!」

 リゲルの右手にはジャファール・エルバハンの頭が、左手には心臓が浮かべられている。

「なぜだ! どうしてあの娘がジャファールの頭と心臓を持ってる!」

 腰を浮かしたイブレイムを、イェジンが押さえつけて座らせた。

 リゲルは淡々と、カストールに向けて言葉を告げている。

「エニシャ中探しても見つかるわけがない、ヴェスタブールの市民街にあった」

「その頭と心臓は誰かが持ち去ったせいで私も行方を追えなくなっていたものだ。見つけてくれて嬉しいよ。返してくれないか?」

 カストールの言葉にイブレイムが苛立ったが、それより先にリゲルが首を振った。

「これは私の物」

「いい子だから言うことを聞いて。おまえだって二十タパカをふいにしたくはないだろう?」

 リゲルは「二十タパカ」と天井を仰ぎ見る。

「この首と心臓は二十タパカ程度の価値?」

「そうじゃない、元々、私が人に預けた物だ」

 リゲルはジャファール・エルバハンの首と心臓を手の上から消し去った。

「ああっ! 頭と心臓をどこに消しやがった!」

 また腰を浮かせて叫んだイブレイムを、イェジンとカヴェイネンが座らせる。

「落ち着いて」

「落ち着けるか! こっちはあの頭と心臓を五十年も探し続けてきたんだ!」

 イェジンはカヴェイネンに目を向け、カヴェイネンは雇い主の意を汲んで力ずくでイブレイムを座らせた。


 *** *** *** *** ***


 ジャファはスタラーデと話をしながら、時間を気にしていた。

 カルシュ・ヴァン・ゴージャンの再審は昼まで。

 それまでスタラーデを邸に留め、スタラーデが再審の場にカルシュ・ヴァン・ゴージャンに不利な情報を差し向けることがないようにするのが、リリアナと話して決めたジャファの役目だった。

「ジャファール、いい子だから兄さんにさっきの頭と心臓を渡してくれ」

 スタラーデはジャファールに手を差し出す。

 ジャファは首を振った。

「ヤダ」

「ヤダじゃない。頭と心臓を渡してくれたら、もう一本、薬を用意してやる」

 スタラーデの甘やかした声に、ジャファールは「薬をもう一本?」と訊き返す。

「そう、欲しいだろう?」

 スタラーデは机からカジュンガグラスの小瓶を出してジャファにちらりと見せた。

 ジャファはスタラーデに体を寄せて瓶に手を伸ばす。

「いい子だ」

 スタラーデの言葉を聞きながら、ジャファはスタラーデの首に手を伸ばして砂時計を下げている首飾りの鎖を引きちぎった。

「もらった! 薬はもう要らない!」

 スタラーデは引きちぎられた首飾りを見つめ、表情を変える。

「返せ!」

「砂時計の残りはあと少し、フォルクサン統治の首尾は?」

「フォルクサン統治の件はおまえが役に立たないせいで散々だ!」

 ジャファは目を細めた。

「私はフォルクサンの役に立たなかった? 本当に?」

 スタラーデはジャファの髪を掴んで引き寄せる。

「何ひとつ、役に立たなかったよ。救貧施療院は大公夫人を名誉顧問にして、おまえと母上の貢献になった。羊毛加工で産業化が始まった紡績業は父上をオーナーに、法律家たちが顧問になってこれも私の手柄は認められなかった。救貧施療院で実習を受ける医学生や法学生の奨学金も父上は最初の三年か四年はフォルクサンで実務をすることを条件にするというおまえの案を高く買った。チャリティバザーも母上とリリアナとの手柄だ。私の手柄になるものはひとつもなかった」

 ジャファはスタラーデの砂時計を隠し、手にハサミを出して掴まれた髪を切り落とした。

「どれも最初にスタラーデに案を言ったの忘れた? シャタンカルに救貧施療院を作る意味がない、貧民が医者にかかれないのは身分が低いから仕方ない、助ける義理はないと言って却下したのはスタラーデだ。羊毛加工は暑苦しい羊は貧乏くさい、少なくとも上流階級には受け入れられないと言って却下した。奨学金は、なぜわざわざ金を出してやる必要があると言って受け付けなかった。チャリティバザーは女子供の仕事だと手を出さなかった。どれもこれも、やればいいと言ったのに受け入れなかっただけだ」

 ジャファは切った髪を塵にして消し去り、髪を伸ばして整え直す。

 スタラーデは歯噛みしてジャファの腕に手を伸ばした。

「砂時計を返せ!」

「返さない! ワイン造りはスタラーデ自身の案だ! ワイン造りがフォルクサンの産業になるように努力したか!」

「それは農奴たちの仕事だろうが! 私は提案し、農奴に機会を与えた!」

「彼らの生活をよくするためでなければ労働の負担を増やしただけだ!」

 ジャファはスタラーデの砂時計を利き手に出して、力を入れて握りつぶした。

 指の間から絨毯に、金色の光の砂がこぼれ落ちて消える。

 スタラーデはジャファを見つめ、それから慌てて絨毯に這いつくばって砂を探したが、光の粒はひとつも見つかることなく消え去っていた。

「砂時計がなくなったら、私は、どうなる?」

「チビはそんなこと知らない。王墓に入ったときに切り離されていた記憶の心臓にも、その知識はない」

 ジャファはふいっとそっぽを向いてスタラーデとは目を合わせずに言う。

 それから、這いつくばるスタラーデを見下ろした。

「エニシャの法では、身内を殺された者にはその殺し方と同じ方法で復讐する権利が与えられる。父イブレイムにはジャファールを八つ裂きにしたスタラーデを八つ裂きにする権利がある。殺された私にも、きっとその権利がある。その法的な権利の元に復讐された側の親族に、その権利は与えられない。だからタリヤ公には、私がスタラーデにどのような復讐をしても、それが身体的に八つ裂きを超えるものでなければ、私や父イブレイムに対する復讐の権利は与えられない」

 ジャファは這いつくばるスタラーデの前にしゃがみ込む。

「砂時計が落ちるまでにフォルクサンを統治することには失敗した。統治とは何かを考えなかった。指図すれば人が動くことに慣れ過ぎて、自分が提案したワイン造りさえ、提案した後は他人任せ」

 スタラーデは淡々と自分に向かって説教するジャファを睨み付けた。

「おまえはどうだと言うんだ、ジャファール。施療院、紡績業、就学制度、思い付きでやりたいと言って勝手に動いて他人を巻き込んで……」

「スタラーデ、自分で動かないと人は進んで巻き込まれてくれない。人は、巻き込まれたくないことには近付かない。でも巻き込まれたいことには進んで巻き込まれる。スタラーデは自分で、農家の人たちが「これなら巻き込まれてもいい」と思うぐらい、説得した? 出来上がった物を批評するのではなく、フォルクサンの人々にはこれぐらいのワインが作れると信じて、彼らに話をした?」

 ジャファはスタラーデを抱きしめる。

「スタラーデ、商人たちに倫理観がなかったとしても、彼らには法があればいい。倫理観の代わりに法が彼らを倫理的に動かす。だからこそ統治者は、最底辺の者たちが人らしく生きるための倫理観を軸にしないと、大多数の人間が不幸になる」

 静かなジャファの言葉を掻き消すかのように、窓ガラス越しに邸の表に走り込んでくる馬のひづめと、馬車の車輪が砂利を踏むけたたましい音がふたりの耳に飛び込んできた。

 スタラーデとジャファはしばらく外に耳を傾けていたが、やがてスタラーデの部屋に侍従が早足で飛び込んできたのを見た。

「なんだ」

 ゆっくりと立ち上がって威厳を取り繕ったスタラーデは、侍従が青ざめているのを見て眉根を寄せる。

「どうした」

「急ぎの用事だというのですが、今、よろしいでしょうか」

「構わない」

 スタラーデは頷いて、侍従の後ろから男が顔を覗かせて部屋に入って来るのを待つ。

 男はおどおどしながら言葉を探していた。

「あの……カストール様……カルシュ・ヴァン・ゴージャンの贈収賄で再審が開かれて……」

 緊張したのか焦りがあるのか、男は息を切らして俯いたが、何度か深呼吸をしてから若い主に顔を向け直した。

「その……」

「再審が開かれて、なにがあったの?」

 ジャファは男に先を促し、侍従はその催促に恐々とした色を顔に滲ませて唇を咬む。

「私のことは気にしなくていいのよ」

 ジャファは「リゲル」として、もう一度にこやかに男に催促した。

「カルシュ・ヴァン・ゴージャンの贈収賄は第八環状の元警邏隊長バルナガラン・ガトゥーシュが宰相の要請で、宰相が後ろ盾になっていた金貸しに借金があった銀行員のサスタシャ・コーヴに対し、借金を帳消しにするという約束で証言させたという告訴により、再審が行われたそうです」

 スタラーデは「は」と安心したように笑った。

「それはよかった。カルシュ・ヴァン・ゴージャンは友人だし、婚約者のリリアナの叔父でもある。釈放されそうなのか?」

「告訴の証言で呼ばれたサスタシャ・コーヴが偽証を認め、コーヴが当時銀行で偽造した取引記録に対して、銀行が持っている正式な取引記録に食い違いがあることも確かめられたので、間違いなく偽証だと確認されたそうです」

「ではそのコーヴが偽証罪に問われることになるのだな」

 納得したスタラーデに一度は頷いたものの、男は「ただ」と言葉を濁す。

「どうした」

 男は視線を彷徨わせて躊躇ってからスタラーデを見た。

「そのバルナガラン・ガトゥーシュが告訴した理由が、自らの殺人罪に対する酌量を求める取引でしてその……」

「ならばそのガトゥーシュも殺人罪で裁かれて、その懲役に対して酌量を求める取引で相殺される年数ぶんだけ、懲役の年数が減るわけか」

 にこやかに頷いたスタラーデは男を見ていたが、タリヤ公の邸で「リゲルとカストール」を見ていた大人たちは、「リゲル」の笑みを見ていた。

「まだなにかあるなら続けてちょうだい」

 ジャファは先をさらに促した。

「は、はい……バルナガラン・ガトゥーシュの殺人は宰相が私的に行っていた密輸の、密輸品を護送していた男を殺害したというもので……今後は、宰相閣下が密輸と贈収賄の罪に問われることになるそうです」

 スタラーデの笑みから余裕が消え、その表情には侮蔑が浮かぶ。

「宰相閣下にはガッカリさせられることになったわけか」

 男はスタラーデの前で身を硬くした。

 宰相がスタラーデに罪を擦り付けることは容易に想像ができたが、同時にスタラーデが知らぬ存ぜぬを貫き通すこともまた想像できた。


 その半月後、宰相は法廷でヤンジェングルのケシを輸入するに至ったことはスタラーデの要求であったと訴えたが、スタラーデは明確に「自分が要求したのは妹の薬だ」と裁判官に訴えた。

「妹は熱に浮かされてから、妙な力を使うことがありました」

 スタラーデは声高に告げる。

「兄として、手を尽くして妹が魔女狩りなどに遭わないようにしてやりたい、そう願って薬を頼んだまでのことです。薬のことは出入りの商人から聞きました」

 侯爵家の「リゲル」を知らない者が多い場で、スタラーデが妹を魔女と告発したことは新聞の一面に書かれ、シャタンカル中に出回った。

 裁判は宰相の密輸に絞られ、ジャファの処分は司教たちが集まる教会の最高会議に委ねられる。その最高会議は、ドランと呼ばれる龍や、その血を引く、あるいはその血を引く者に取り憑かれた者たちのことを、悪魔や魔女として裁く機関としてヴェスタブール各地、各国に存在しているものだった。


 *** *** *** *** ***


 ジャファは魔女狩り、異端者狩りのなかで大聖堂の一角に作られた魔女を監禁する白い部屋に閉じ込められ、シャタンカルの司教の訪問を受けた。

 白い衣装に身を包んだ司教は、ジャファを見つめた。

 それからしばらくして、静かな問いがジャファに向けられる。

「明日、砂時計の砂がすべて下に落ちるでしょう」

 ジャファは司教を見た。

「王墓の案内人」

「さようです」

「魔女狩りをする側にいるなんて」

「その魔女狩りを通して、ジャファール殿下を王墓に戻します」

 ジャファは顔をしかめる。

「私が魔女狩りで殺されることでエニシャに戻れるなら、スタラーデは? どうなる?」

「スタラーデ殿下の砂時計は、殿下が壊しました」

 言われてジャファは頷いた。

「砂時計は、王墓の心臓の核と呼ばれるものの権利を象徴するものです。その半分を、殿下は手に入れて壊しました」

 司教はジャファの手に赤い宝玉を握らせる。

 首を捻り、ジャファは「王墓の心臓の核」と繰り返し、司教を見る。

「聞いたことがない」

「エニシャという世界を作り上げる力を持つ宝石です。その宝石は、エルバハン一国ではなく、エニシャ全土を支配します」

 司教を見つめたジャファは、宝石を司教の手に返して握らせた。

「無理、無理、その、エニシャ全土なんて、無理」

「方法はどうあれ、殿下はフォルクサンとシャタンカルの一部に政治的な関与を果たしました、素質は認められます」

 ジャファは「そうじゃない」と首を振ったが、司教はジャファに宝玉を渡し直して一歩離れる。

「拒否できるものではありません。王墓が認めた、ただそれだけです。あなたが逃げても宝石はあなたを追います」

「怖い!」

 ジャファの反応を笑い、司教は頭を下げて白い部屋を出て行ってしまった。

 呆然と、ジャファは宝玉を持たされたままで動きを止めるしかなかった。

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