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蒼山碧海番外編  作者: 望月かける
異国から来た訪問者
38/106

カヴェイネン:異国から来た訪問者(34)毒とイブレイム

 ティーキムは、ヴェルタネンデの諸侯を集めて防衛戦に備える必要があると話しているところで急なリゲルの来訪を聞いて目を丸くした。

「バルキア領のフォルクサン侯爵令嬢は、若いのに領地の統治に熱心だと伺っておりましたが、王子の影響でしたか」

「フォルクサンがバルキアからカタラタンに寝返るのも時間の問題かもしれませんな」

「年頃の令嬢なのだ、表に出て来ない地味なバルキアの王子より、うちの王子のほうが魅力的に決まっている」

 ヴェルタネンデの諸侯にからかわれながら、ティーキムはその日の議論をまっとうに終わらせ、応接間でリゲルを見て目を細めた。


「半月ほどでずいぶんやつれたな」

 ジャファはティーキムを見て安堵したように「そう?」と笑った。

「あなたにしか話せなくて」

 そう言いながら、ティーキムにカラスとカヴェイネンを下がらせるように視線で頼んでジャファは人がいなくなるのを待つ。

 人がいなくなったのを確かめてから、ジャファは泣き崩れ、ティーキムは何事かと訝しんで眉根を寄せた。

「誰かがヤンジェングルのケシを使うのを止められなかった!」

 泣くジャファの背を叩きながら慰めようとしつつも言葉が見つからない様子で、ティーキムはただジャファの言葉を聞く。

「なんで兄さんがヤンジェングルのケシを持ってるのか分からないの!」

 ティーキムの表情がはっきりと危機感を持った。

「カストール殿?」

「そう、兄さんからもらった薬! それとクッキー! なんで? なんでスタラーデがくれたものにヤンジェングルのケシが入ってるんだろう?」

 取り乱した様子のジャファをどうするかしばらく悩んだティーキムは、ひとまず侍医に鎮静剤を持って来させてジャファに与えてベッドに寝かせ、ジャファが口走った「スタラーデ」の名前を繰り返した。


 ティーキムはひとりでじっと考える。

「パルティカ模様のクッション、バラカの密輸品、ヤンジェングルのケシ、エルバハンのイブレイム」

 これまでにティーキムがリゲルと話をした中で、リゲルが異様に詳しいことといえば、どれもエニシャに縁があった。

「スタラーデ」

 リゲルの兄はカストールだが、リゲルは「スタラーデ」という名前を他に口にした。

「カストールの身辺に「スタラーデ」という者がいるのだろうか? それともエニシャに関係している者なのか?」

 首を捻ったティーキムは、エニシャ交易に携わっている男からイブレイムの到着を聞いて腰を上げた。

 先に対処法は文書でもらっていたが、どうやらバラカからヤンジェングルのケシがヴェスタブールに流れているらしいという話をしたところ、自分で確かめると言ってヴェルタネンデに赴いてきたところだった。

 イブレイムを応接で迎えてその姿を見たティーキムは目を細める。

 青い瞳孔は、金の粒を含む瑠璃に似た、そんな目だ。

 護衛に立った黒髪のカヴェイネンを少し遠ざけ、ティーキムはイブレイムを眺めていた。


 白髪のカヴェイネンはこの男を知っていた。

 思い出した。

 エニシャの医者だと言ってティーキムが探し、ヴェルタネンデで倒れたリゲルを看病した男だった。

「ジャファの父親だったのか……皮肉だな、ピンが言ったようにジャファが大人との縁が薄かったなら、王墓でリゲル嬢として放り出されて、初めて親に介抱してもらったと言うことになる」

 落ち込んだカヴェイネンの声を聞いて、ピンはカヴェイネンを慰めるように小さな手でカヴェイネンの耳に触れた。

「落ち込まないことです、旦那。帰ってきたらきっとジャファは真正面から父親に会う勇気が持てるでしょうよ」

「そうだろうか」

「そうですよ、だってこれまでは父は盗賊だっていうんで仲間外れにされたりしたから嫌いだったんであって、リゲル嬢として介抱されて父親に対する誤解が解けたら、それは少し良くなりますって」

 カヴェイネンは「そうだな」と頷いたが、ずっと流れ続けている過去のなかで、ティーキムはリゲルよりも前にそのイブレイムに言葉をかけていた。


 *** *** *** *** ***


「知人だ」

 ティーキムはリゲルを寝かせた部屋にイブレイムを通して、扉を閉めた。

「鎮静剤で寝かせているが、ヤンジェングルのケシがエニシャのバラカから密輸されていると言ったのはこの娘だ。彼女が持っていた薬が、こちらの瓶」

 ベッドの横に椅子を置いてイブレイムを座らせてから、ティーキムはリゲルが持っていた瓶をイブレイムに渡し、イブレイムの言葉を待った。

 イブレイムは薬の瓶を開けてにおいを確かめ、少し舐めてみてから「ふむ」と小さく鼻を鳴らした。

「どうしてこのお嬢さんがヤンジェングルのケシを知っているのかはわからんが、この瓶に入っているのは間違いなく、ケシだろうな」

 イブレイムは呆れたように言う。

「この娘は、あなたには治療法があると言った」

 ティーキムはイブレイムに告げた。

 イブレイムは瓶の中身をいくつかの小瓶に分けて薄める。

「少しずつ薬を薄くする。いきなり薬をやめるのは辛い目に遭わせるだけだ」

 ティーキムはしばらく思案してから、イブレイムに聞こえるように声を出した。

「スタラーデ」

 ティーキムはイブレイムの手が一瞬止まったのを確かめてから続ける。

「スタラーデがくれたものにヤンジェングルのケシが入っていたとリゲル嬢は言った」

 ベッドの横に置かれたサイドテーブルに薬を薄めた瓶を並べて紙と蝋で封をしてから、イブレイムはティーキムを振り返った。

「それが私の知っているスタラーデと同じ人物なら、ヤンジェングルのケシを持っていても不思議はない」

「そのスタラーデ殿は、バラカに縁が?」

「ある」

 イブレイムはなんの躊躇ためらいもなく断言した。

「私は息子をヤンジェングルのケシで失った。きっかけを作ったのはスタラーデだった」

 小さな、憎悪を押し隠した言葉を聞いてティーキムは唇を湿らせる。

「それは……お気の毒に」

 イブレイムはティーキムを振り返って息をついた。

「この薬がヤンジェングルのケシで、スタラーデからもらったと言っているというなら私はこの娘が自分とは無関係だと言いたくない。この娘はどこの誰で、なぜカタラタンの王子がこの娘を匿うのかなど、訊きたいことがいくらでもある」

 ティーキムはイブレイムを眺めて微笑を浮かべた。

「まさかそれでわざわざ、対処方法を手紙で寄越したにも関わらず、時間をかけてヴェルタネンデまでご自分でいらした?」

「気になることがあれば、どこにでも自分で赴く」

 しばらくイブレイムを眺めていたティーキムは大きく頷く。

「深くは聞かないことにします」

 ティーキムの言葉遣いが、それまでのぞんざいなものから多少の敬意を含んだものに変わった。

「まずこの娘は、リゲル・ヴァン・フォルクサン、隣国バルキアのフォルクサン侯爵令嬢です。ただ、純粋にそう言い切ってよいか、私には分かりません。この娘は恐らくエニシャとの縁がとても強いのでしょう。パルティカ模様、バラカ産のワイン、エルバハン産のガラス瓶、そういった、エニシャ産の物を特に好む」

 少しばかりイブレイムの反応を待ってからティーキムは瞬きをした。

 イブレイムにはなんの反応も見られなかった。

「私は彼女の交友関係をだいたい知っているつもりでしたが、スタラーデという名前は今日初めて聞きました」

 今度はイブレイムが小さく「なるほど」と返してきた。

「イブレイム殿、リゲルはあなたがヤンジェングルのケシで中毒患者になった者を治療していると言ったとき、それを見たことがあると言ったのです」

 イブレイムは首を振った。

「そんなところを見たことあるはずがない、見たことがあるとしたら、部下のほかにはチビだけだ」

「チビ?」

「息子だ、生きているほうの」

 ティーキムは「なるほど」と頷く。

「スタラーデがこの嬢さんを薬漬けにした犯人だったらまたリュヌ商会を経由して教えてくれ。王子様がスタラーデを同じ目に遭わせる手伝いぐらいはしてやる」

 イブレイムは鼻で嗤い、それからティーキムに薬を薄めた瓶を放って寄越した。

「濃いものから少しずつ薄いものにして、飲ませる間隔も少しずつ長くしていく。この嬢さんが飲まされていた薬は私が診てきた中で一番濃い」

 ティーキムはイブレイムを見つめてから、背筋を伸ばす。

「私には経験がないので、最初だけはお願いいたします、イブレイム殿」

「そのつもりがなけりゃヴェスタブールくんだりまで来たりはしない」

「さようですか」

 イブレイムの手は薬がもともと入っていた小瓶を矯めつ眇めつしていた。

「カジュンガグラスだな。かなり上質だ」

「エニシャ産ですね?」

「そうだが、ヴェスタブール向けの交易品として許可しているのは主にシャサグラスで、カジュンガグラスは量産に向いていないから出していない」

 ガラスの小瓶を横から覗き込んで、ティーキムは「なるほど」と頷く。

「それで、王子様はバルキアのお嬢さんを抱き込んで何をするつもりだ?」

 イブレイムの質問に、ティーキムは首を振った。

「特に何もいたしません。私は自分の領地に住む者たちが、平穏で、大きく見れば何一つ昨日と違わぬ世界で、心地良く安寧を謳歌できればそれでよい」

 イブレイムはガラス瓶を持ったまま、ティーキムを見て顔をしかめる。

「平穏で、大きく見れば何一つ変わらない安寧、か。壮大な夢だな」

「なに、別に壮大なんてことありませんよ。ただ、自分にできることを淡々とやる、それだけのことです」

「その王子様がやれることを淡々とやるっていう項目の中に、この娘を助けることも含まれるのか?」

「関わってしまったので」

 ティーキムはあっけらかんと言った。

「カタラタンの王子様は欲が深いな」

「お褒めの言葉と受け取っておきます」

「そして図太い」

 イブレイムはティーキムに呆れた。

「王宮なんていう場所は、図太くなければ生きていられないでしょう」

 そう言ってティーキムはリゲルを振り返る。

「これが現実だとするなら、バラカ王の孫娘はスジェ王の妃のひとりで、第二皇子の母」

 イブレイムは小さく眉を動かした。

「カタラタンの王子様はヴェスタブールとはほとんど縁のない国の姻戚関係も覚えなければならないのか?」

「いいえ、これはただの、家の事情です」

 ティーキムはイブレイムに小首を傾げて見せる。

「カヴィニン!」

 黒髪のカヴェイネンは、このティーキムのどうも舌の回り切らない呼び方にも慣れた様子で「はい?」と部屋の外から扉を開けて顔を覗かせた。

「バラカとの交易制限をかけようと思う」

「バラカワインなどを独占交易品にしている諸侯が抵抗するのではありませんか?」

「そうだとしても、バルキアを経由している品がヴェルタネンデの要求だという口実を潰さなくてはいけない」

 ティーキムはイブレイムを振り返って言う。

「ヤンジェングルのケシ……人を廃人にするような麻薬を持ち込む者がバルキアに出ている以上、それが本来はヴェルタネンデに流れるはずの物だ、麻薬をバルキア国内で広げたのはヴェルタネンデだという汚名が出回る危険性だけは避けたい。父上と第二王妃に、私に罪を着せる口実を作る隙を与えないためだ」

 イブレイムはティーキムに小さく頷いて見せた。

「ヤンジェングルのケシはエニシャ国内でも宗教行事に使うという理由で許可している一部のオアシスにしか出回らない。強い中毒性で人を支配する薬だと思えば、それが出回ったのはヴェルタネンデが秘密裡に使おうとしたからだと難癖を付けられる前に対処したほうがよいのは間違いない」

 ティーキムは黒髪のカヴェイネンを見た。

「王と第二王妃にヴェルタネンデを攻撃する口実を与えるわけにはいかん」


 *** *** *** *** ***


 ジャファは朦朧もうろうとした頭で喉の渇きにひくりと息を吸い込んだ。

 寝かされたベッドの脇に誰かが座っているのがぼんやりと見え、それから、輪郭がはっきりしてきてやっと、ジャファはその誰かがイブレイムだということに気付いた。

「父さんごめんなさい」

 口をついて出た自分の掠れ声を聞いて、ジャファは自分で笑い出してしまう。

「気が付いたのは結構だが、なにがおかしい。毒をきれいに抜いてバルキアに帰ってから、きちんと親御さんに謝れ」

 ぶっきらぼうなイブレイムの言葉に、ジャファはさらに笑ってしまった。

「変な夢」

 呟いてから、ジャファはガラスの小瓶を手に取って逆さにし、空になっているのを見て放り出す。

 イブレイムが薄めた薬をさらに薄めてジャファに手渡す。

「こっちだ」

「あい」

 頷いてから薄められた薬を飲みほして、落ち着いたところでジャファはイブレイムを見つめた。

「なんでいるの?」

 イブレイムはジャファの要領を得ない問いに、呆れたように鼻を鳴らす。

「ヤンジェングルのケシがバラカからバルキアに密輸されてるというのを聞いて、それを確かめに来ただけだ。ついでに中毒患者がいるから診ている」

 ジャファは小さく頷いた。

「……ジャファールって名前、なんでジャファールなの?」

「俺はイブレイムだ。ジャファールは息子」

「なんでジャファールにしたの?」

 イブレイムが鬱陶しそうにジャファを見る。

「ジャファールなんて、エルバハンじゃありきたりな名前だ」

「あ、そ」

 ジャファはイブレイムに背を向けて起き出し、両手で頬を押さえた。

「戻らないと。リリアナに言わなくちゃ」

 カストールに気を付けて。

 どうしてかは分からないが、スタラーデはヤンジェングルのケシを扱っている。

「宰相の紋章と、スタラーデがどう繋がるのかは分からないけど、きっとなにかの関係があって、ヤンジェングルのケシを譲ってもらってる」

 それからジャファは鏡に映ったリゲルを見た。

「……ドランの先祖返り」

 土を整える、水を整える。

 ティーキムに言われたことが脳内を目まぐるしく駆け巡る。

「あー! やってみる価値あるかもよ!」

 イブレイムは鏡に向かって叫んだ金髪の少女に驚いていたが、ジャファはそれを振り返って手を出した。

「薬ちょうだい!」

「ダメだ!」

 怒られて一瞬硬直し、それでもジャファはベッドに駆け上がって薬の瓶に手を伸ばす。

「こら!」

「飲まない! 飲まないから!」

 そう怒鳴り返して薬の瓶を奪い取り、ジャファはヤンジェングルのケシを含んだ薬の中身に集中し、しばらくしてベッドに突っ伏した。

「分からなかった……」

 イブレイムはジャファの手から薬の瓶を取り上げ、箱に入れて鍵をかける。

「嬢さんはなにをしようとしたんだ」

「薬の中身がわかったら、自分の血から分離できるかもと思ったの。ダメだった……複雑すぎてよくわかんない……」

 ジャファは突っ伏したまま毛布をかぶり込んで丸くなった。


 *** *** *** *** ***


 イブレイムがカラスが持ち込んだジャファのノートと日記を眺めて、いつ頃から薬を飲むようになったのかを確かめてからひと息ついたころ、しばらく丸まっていたジャファは、もそもそと毛布から頭を出して体を起こし、イブレイムに背を向けたまま口を開いた。

「エニシャの法律は、やられたら、やり返していいんだよね?」

 ぼそぼそと独り言でも呟くかのような訊き方だったが、イブレイムはそのジャファの言葉に嘆息した。

「エニシャではそうだが、ここやバルキアはエニシャではない」

「うん」

 ジャファはベッドから起き上がろうとして、ほどよく「薬の箱に手が届かない長さ」の鎖で足を繋がれていることに気付いた。

「クソ親父」

 イブレイムは訝し気にジャファを振り返る。

「なんだって?」

「ナンデモナイデス」

 しばらく日記に目を戻していたイブレイムは、ふと顔を上げて違和感に眉をひそめた。

「嬢さん、あんたエニシャ語を喋ってるな? それもエルバハン訛だ」

 ジャファはイブレイムの質問を無視して足の鎖を両手で持ち上げ、自慢げにニンマリと笑うと、鎖の素材を鋼から脆いクッキーに変えてイブレイムに見せつけるようにわざとらしく、もったいぶった仕草でバリバリと食いちぎる。

「あっ! なにしやがる!」

「食べてる」

「薬が効いてるから活動的な気分になってるだけだ! 薬が切れてきたら吐くぞ!」

 イブレイムに新しい鎖を付けられ、両手足に力を抑えるための封印を施されてジャファは自分の手足を眺めた。

「これ見たことある」

「あ?」

 ジャファはイブレイムを見ずに、イェジンに見せられた封印を思い出す。

「イェジンの爺さんが見せてくれた」

 小さく言ったジャファに、「ああ」とイブレイムは頷いた。

「リュヌ商会のイェジンはそう言えばティーキム王子を上得意だと言っていたな。信頼できる交易商は大切だ。治療用の薬草類を持ってきてもらえるように頼んである」

 ジャファは小さく「へえ」と答える。


 数日後、ジャファはイブレイムに頼まれた薬草を持ってきたイェジンをぼんやりとした頭で眺めた。

「イェジンのオジサン、初めて会ったときに胸に蓮華模様のアザあるかって言って、手首の封印見せてくれたじゃん?」

「うん?」

 普段自分ではヴェスタブールに来ることがなく、バルキアの娘に会うのも初めてだというのに、なにやら馴れ馴れしく話しかけられ、意味が分からないことを言われたイェジンは戸惑った。

「エルバハンの、ジャファールって知ってる?」

「いいや」

「そっかー。ジャファールはね、蓮華模様のアザがあるの。会ったら拾ってね」

 イェジンは首を捻る。

 薬湯を用意してきたイブレイムが部屋に戻ってきて、「おい」と声をかけて意図的にジャファとイェジンの会話を遮った。

「薬湯だ、飲め」

「イブレイム殿、この子が言っていることは、少々要領を得ん」

 困ったように言うイェジンに、イブレイムは鼻を鳴らした。

「薬で頭がぶっ飛んじまってるんだ。まだ子供だってのに可哀想に」

 ジャファは胸元から砂時計を出す。

「あとちょっと」

 半分以上の砂が落ちた砂時計を見つめて、ジャファはイブレイムに縋りついた。

「寝る前、気が狂いそうになる」

 イブレイムは呆れて頭を掻きながら、ジャファの肩を軽く叩く。

「薬湯を飲んで寝ろ」

 そう言ってから、イェジンは「リゲル」の状態を探った。

「なにしてるんです?」

 イェジンに問われ、イブレイムは薄く目を開く。

「ヤンジェングルのケシがどんなものか分かれば少しずつ毒を抜いて行くことができる。この子が自分で思い付いた」

「そりゃすごい」

 感心したイェジンは、幾度か頷いてから「ジャファ、ジャファール、蓮華のアザ」と頭に叩き込んだ。

 イブレイムにイェジンの呟きは聞こえていなかった。


 *** *** *** *** ***


 白髪のカヴェイネンと左肩のピン、それにアルタンは、自分たちの雇い主を振り返った。

 模型のなかの自分を見ていたイェジンは、カヴェイネンとピンとアルタンに顔を向ける。

「いやだってな、この子の中身があの子だとは思わなかった」

 カヴェイネンもピンもアルタンも、イェジンの言い訳に頷いた。

「イブレイム様がいらっしゃったときに主が無傷でいられることを祈っています」

 アルタンが右手を胸に当てて哀悼を示した。

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