カヴェイネン:異国から来た訪問者(9)蓮華のあざのジャファ
暗い部屋にモザイクランプが色とりどりの光を落としている。
ジャファはイェジンに「何者か知る覚悟」と言われて頷く。
カヴェイネンもピンも骨董屋も、じっとイェジンとジャファを見つめた。
イェジンはジャファに目を向ける。
「あんまり多いもんではないが、人間と龍の混血だ。魔力が封じられていなければ生粋の魔術師たちに嫌がられることになるだろう」
ジャファは青い目でイェジンを見た。
「嫌がられるってどういうこと?」
「魔力持ちの人間が生きるのはなかなか難しいということだ」
カヴェイネンはジャファに問う。
「ジャファ、おまえさんの腕輪の代金だが」
腕輪を見つめて、ジャファはカヴェイネンの言葉に返す。
「ごめんなさい。俺、二十タパカは持ってない」
「そんなこったろうと思ったよ」
骨董屋が「けっ」と吐き捨てながら言った。
カヴェイネンはジャファが自分を振り返るのを見た。
「どうすればいい? 封魔具としては、これは売り物にならないんでしょ?」
「いいよ、それは君が持っていればいい。私はもともと魔力なんていうものは持っていないし、骨董屋のような鑑定眼も持っていない」
カヴェイネンは肩を竦める。
「私はスジェまで無事に辿りつければそれでいいが、それには、魔力を封じてしまう封魔後の腕輪はきっと邪魔になる」
困ったようなジャファを見るカヴェイネンの隣で、骨董屋が「スジェ」とそわそわしていた。
「もしスジェに行くのであれば、スジェに売れそうな魔道具がいくらか」
カヴェイネンとピン、それにジャファは骨董屋を見て「ぷ」と笑い出した。
「商売熱心だな」
カヴェイネンの言葉に骨董屋は「いいえ」と指を振って否定する。
「ここからは、好奇心でございますよ。商隊というのは、ほとんどがスジェに行くわけではなく、スジェに一番近い交易点で、スジェ人の商人たちに魔道具を売るものです。しかし、スジェに行くという! スジェ! 龍が堂々と魔法で国を支配する神秘の国!」
骨董屋はイェジンに向かってコホンと咳払いした。
「出立はいつでしょう?」
イェジンは骨董屋に向かって「明日だが」と言うと、黒い髭をしごいた。
「もしや、同行したいのかね?」
イェジンの問いに骨董屋は大きく頷いた。
横でジャファが「俺も!」と手をあげる。
「君は親御さんが許さんだろう」
「親! あいつは盗賊だ。母さんはいつも盗賊にはなるなって言ってた。それにいなくなったって心配しやしないよ。ご近所さんが時々気にしてくれるから、近所のおっちゃんとおばちゃんには挨拶しないといけないかもしれないけど」
イェジンはカヴェイネンをちらりと見てからジャファの腕輪を見て、ジャファに問う。
「近所のおっちゃんとおばちゃんは、お父さんじゃなくお母さんの知り合いかね?」
「そう。母さんがエニシャに来るときに一緒に来たんだって」
クルンとイェジンが黒い瞳を愛嬌のあるネズミ、ピンと同じように回して天井のランプを見上げ、そうして「よかろ」と頷いた。
「そのおじさんとおばさんに話をして、もし、おじさんとおばさんも一緒に来ると言ったら、一緒に来るといい」
ジャファが「やったー」と両手をあげて喜ぶ。
カヴェイネンはそれを眺めてからイェジンを振り返った。
「よいのか?」
イェジンは頷いた。
「ジャヒーア姫の輿入れに従って来たおじさんとおばさんだ。少なくとも四心龍と呼ばれるクアンツ・ドラン、あるいは、ペクタ・ドラン」
カヴェイネンに向かってイェジンは説明する。
ピンがその続きを引き受けた。
「ジャヒーア姫はアーケリ王の従妹です。アーケリ王族は火の王。エニシャ王族は砂の王。火の龍と砂の龍は、火の王のほうが強いのです。ですから、もしそのおじさんとおばさんが火のクアンツ・ドランかペクタ・ドランであれば、エニシャのクアンツ・ドランやペクタ・ドランよりも強いはずなのです」
カヴェイネンは「なるほど」と頷いた。
「これから戦うことになるかもしれない相手は、砂のクアンツ・ドランかペクタ・ドランだと考えられるから、火のドランがいると心強いのだな」
カヴェイネンの言葉にピンが「さようです!」と頭の上で大きく小さな手を広げた。
「まあもっとも、地龍というのは基本的に木のドランなので、火のドランには弱いんですけども、それにしても砂のドランに狙われていると思えば、火のドランが同行してくれるのであれば頼もしいかぎりなのです!」
胸を反らして顎の裏しか見えなくなったピンの顎を見ながら、カヴェイネンは「木のドラン」と繰り返す。
「それは初めて聞いた」
「や、そうでしたか」
ピンは大きく張っていた胸をぐっと戻してカヴェイネンを見た。
「この世界には五種類のドランがいます。エニシャを統べる砂のドラン、アーケリを統べる火のドラン、ケルグンを統べる大地のドラン、スジェを統べる水のドラン。大元がそう呼ばれているというだけで、実際には王たちにできることは似ています。それに、木のドラン」
ピンは小さな体を大きく動かして説明する。
「物質を操るドランと違い、木のドランだけは命を操ります。その代わり、物質を生まないので国を作るには不向きです。ですから我々は」
もったいぶって言葉を止め、ピンはモザイクランプの灯りのなかに金の光を飛ばして霧を撒き、人間の形に姿を変えた。
「人や獣のなかに生きる。人は我々や王が作った命の塊、魂を、ジナと呼ぶ」
ピンの姿を見た骨董屋とジャファは、呆気に取られて言葉を失う。
カヴェイネンとイェジンが「おおー」と言いながら手を叩いてピンを褒めた。
それでもピンはまたカヤネズミの姿に戻ってカヴェイネンの左肩に駆け上がる。
「いまはここが私の定位置です」
そう言ったピンに、カヴェイネンは「よろしく頼むよ、パートナー」と朗らかに笑った。




