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蒼山碧海番外編  作者: 望月かける
動乱始末
103/106

龍と妖狐と魔法の小刀(42)講談師

 その講談師が富倉ふそう胡同こどうに来たのは、五年ほど前のことであった。

 富倉胡同というのは、柳州の城下にある小さな通りの名前であり、龍族ではなく人族がすむこの小さな区に、かつて五穀の倉が並んでいたことに由来するという。

 かつてあった倉は、今では別の地域に移され、この胡同には長屋が立ち並ぶようになった。伝承や記録によれば、通りから倉がなくなったのはもう五百年も前のことだが、それでもなおこの胡同は「富倉」という通りの名で呼ばれ続けて久しい。


 五百年前には倉に五穀を運ぶため広く整備されていたという道には、長い年月の間にその広さの分だけ長屋が立ち並び、富倉胡同に住む人々は、人がふたり、すれ違えればよい程度の細い道を挟んで、隣近所の喧噪、それに生活のなかであふれて来る様々なにおいと共に生きている。

 老いも若きも日々その日暮らしの小銭と家賃程度の稼ぎでなんとか暮らしている通りの名が「富倉」とは皮肉なことだと、長屋の者たちは泣き笑う。


 その長屋のひとつに住む、まだ幼い子供を連れた講談師は、それまでどこで何をしていたのかどこの生まれなのかといったことを、隣近所の人間に話さなかった。

 だがどうしたことか、富倉胡同に住みついて五年ほどになるこの講談師は、夢物語をまことしやかに語る。

 最初にその夢物語を語ったのは、講談師が連れていた子供だった。


「龍の宮殿には、何人もの皇子がいて、その中には神様がいるんだよ」


 龍の宮殿に住まう皇子たち

 神々に選ばれた若い龍神たち

 豪勢な食事の数々

 金糸銀糸の施された絹の衣で着飾った宮仕えの人々


 まるで見てきたかのように語る子供に、近所の子供たちは大人を呼んだ。

 囃し立てる裏では夢のような話を作り話だと嘲り、あの子供は嘘つきだと貶しながら、大人も子供も、彼の話を喜んだ。

 そして講談師は、子供の話を人々が喜ぶような物語に仕立て上げた。


 最初の話は、とても短いものだった。


 龍王と、王が愛した妃の物語である。

 王はひとりの妃を寵愛した、しかしその妃には本当に愛する相手がいたという。

 他国から姉と共に嫁いできた美しい妃は、王の弟を愛し、愛された。

 妃に龍王の寵愛がある限り、ふたりは決して結ばれることはない。

 人々は、妃と王弟の悲恋を憐れんだ。


 ふたつ目の物語は、父王に愛されすぎたことで、愛されることのない兄や弟たちに陥れられていく皇子の物語であった。

 おのが領土の繁栄を夢見ながらも、兄や弟たちに嫉妬されて理解も協力も得られないまま、領地に生きる民のため、勝ち目のない戦に臨んでいく悲愴な皇子の姿は、明日は今日よりもよい生活をと望む人々に英雄譚として受け入れられた。


 三つ目は、神羅万象を司る女神となったものの、領民を思う皇子を妬む兄たちに騙されたばかりに、民を救うことができなかった公主(ひめ)の物語であった。

 人々は騙された公主を憐れみつつも、女神でも騙されるのだという落胆と、女神は民を救わなかったという怨嗟、そして女神を騙した兄たちに怒りを抱いた。


 講談師は、次々と、龍王たちの物語を人々に披露していった。


 講談師が見てきたものは、龍王に支配される華やかな王宮、愛される妃のもとに貢がれてくる様々な宝物、父王に愛される皇子たちの幸福な生活、とりわけ、幼い弟皇子に注がれる愛情であった。

 そこには、男の政治も女の政治もない、兄皇子から弟皇子への嫉妬はあっても、幼い弟皇子には兄皇子への嫉妬もない。

 弟皇子は美しく飾られ、大好きな虫を追い、虫と戯れ、宦官たちにも、女官たちにも愛され、食事には国中から集められた美食と、間食には宮中の料理人が手間暇かけた見目のよい菓子が供される。


 講談を聞く者たちは、弟皇子が住まう浮世離れした世界に酔い痴れた。

 州公として己の領地を反映させたいと願う兄皇子には理想の君主を見出した。

 そして夢のような世界に嫉妬のような現実を持ち込む異腹の皇子たちに苛立った。


 講談師と、彼が連れている子供にとって、それはかつて目の前にあった事実であった。


   *** *** *** *** ***


「だからさ、陸旦那、どうにか貸本の小説にならんものかね」


 柳州の桂林胡同にある貸本屋で、その主人は店に来た男を前に言った。


 貸本屋の主人に陸旦那と呼ばれた男は、困ったように目を眇める。

「前にも断ったが、その講談は小説にはできない」

 貸本屋の主人は陸旦那の隣にいる男たちをちらりと見た。

「陸旦那がお友達を連れておいでになるのは初めてだね」

 お友達と言われた男二人は、ちらりと陸旦那に目を向ける。

「貸本屋に来るのは初めてです」

 陸旦那がお友達のひとりを見て呆れたが、貸本屋の主人はそのお友達を見て声を掛けた。

「ねえ旦那、旦那からも陸旦那に言ってやってくださいよ、龍王様たちの物語は特にご婦人たちへの語り聞かせにもってこいなんですよ。そいつを講談から貸本にできればご婦人たちに読ませるために旦那方がこぞって借りに来て、紙価を高めるはずでしょう?」

 貸本屋の主人は陸旦那のお友達に言い、それから陸旦那が持ってきた別の小説を検めるべく表紙を捲る。

「他の人にも頼んでみたんだが、その講談はなかなか小説にはならんと、そっちにも断られちまったんだ」

 貸本屋の主人が言うことに、そりゃそうだろうよと陸旦那が毒付いた。

「それを小説にできる者などそういないし、それに命が惜しければやらんほうがいい」

 陸旦那の言葉に貸本屋の主人は納品された本を検める手を止め、目を上げる。

「命が惜しければとは、どういうこってす?」

「言葉のとおりだ。語るだけならよいが、本にまですれば命の保障がない」

 貸本屋の主人は目を見開いた。

「そんなことがあるもんかい」

「あるんだ」

 陸旦那は首を振った。

「あの講談は、末の皇子に冷たくした兄皇子たちに、どうか因果応報の展開があってほしいと思ってしまう」

 貸本屋の主人は頷く。

「そうあってほしい、そうした物語で小説にしてもらいたいもんだね」

 陸旦那は貸本屋の主人が手渡してきた講談の本を手に取って、「お友達」に手渡した。

「いかがしましょう」

「その商談を二度としないように」

 陸旦那のお友達に言われ、貸本屋の主人は困ったように陸旦那を見上げる。

「そうは言いますがね、人気の講談なんですよ」

「兄上、一案なのですが」

 これまで黙っていた男が口を開いたことで、貸本屋の主人は陸旦那の連れが兄弟であることをやっと知った。

「この話とは別の話を小説にするのはいかがでしょう? 私は、愛されなかった皇子の話ならば語ることができますから、それをこの場で、陸先生に小説にしてもらえば、この貸本屋にしかない小説になります」

 弟の提案を聞いた兄が、ちらりと陸旦那に目を向け、陸旦那が貸本屋に顔を向ける。

 貸本屋の主人は小さく顔をしかめたが、弟のほうに手を向けて、話を促した。

 陸旦那の連れで貸本屋に来た兄弟の、弟のほうが貸本屋の前で指を鳴らす。

 貸本屋の一角がずるりと歪んで広がり、その広がった部屋に紫檀の机と椅子が形を現したのを、貸本屋の主人は見た。

「お茶でも飲みながら話してさしあげましょう。陸先生、書き留めてくださいね」

 紫檀の机には、まだなにも書かれていない竹簡が広げられてあり、その横に置かれた硯のうえで、誰の手もないのに墨が動いて筆を待っている。

 貸本屋の主人は背筋に悪寒を覚えた。


(いったい俺の店でなにが起きてるんだ)


 怖気を感じながらも、貸本屋の主人は兄弟に誘われるがまま、紫檀の机に向かう椅子に腰かける。

 兄弟は、陸旦那が筆を持ったのを確かめてから自分たちの手元にお茶を淹れた。

「よい香りでしょう? 今年の献上品です。去年改良した中でも特に果物のような香りが強い樹から収穫した茶葉なんです」

「あの……」

「緊張しないで、お茶をどうぞ」

 弟のほうに茶杯を勧められ、貸本屋の主人はその茶杯に手を伸ばす。

「ご主人、あなたの名前をまだお伺いしておりませんでしたね」

 お茶をひとくち飲んだところで問われ、貸本屋の主人は慌てた。

「李……李進といいます」

「では李進、私のことは芸梅香と呼んでもらえればけっこうです」

「芸様ですか」

 弟が芸梅香ということは、兄も芸ナントカなのだろうが、兄のほうは名乗らなかった。

「代わりの物語というのはいったい、どんな物語なのでしょうか」

「そうですねえ……」

 芸梅香が茶杯を揺らす。

「まず、相思相愛の寵妃と王弟の逢瀬が子供のままごとで終わるわけがないことぐらいは想像できるでしょう?」

 李進は茶杯を取り落とした。


(寵妃の皇子は、王弟の子供)


「王の寵愛を受けるということは、王が彼女とその子供たちの機嫌を取るということでもあります」

 芸梅香は続ける。

「それは……」

 李進は言いかけた言葉を飲み込んだ。

 陸旦那と、芸梅香の兄は、無言で李進の様子を眺めていた。

「……三番目の講談に出て来る、女神になった公主の話をしましょうか」

 芸梅香が告げ、陸旦那が筆を執る。


「昔、草原の国から幼い公主が蘇国の龍王に嫁いだ。公主は人で言えば十歳ぐらいの子供で、先に草原の国から嫁いでいた姉を頼ってこの国に来た。その公主が十五歳ぐらいになり、龍王と正式な婚儀を挙げて子を成したあと、病床に臥せって儚くなった」


 陸旦那がちらりと芸梅香を見た。

「思っていたよりも講談が下手ですね、草原から幼い公主が嫁いで来るのに、なんの心理描写もなしですか」

「私は講談師ではなく史官です。史官は記録を歴史に留めるのが務めですから、公主の心情は語りません」

 芸梅香に反論され、陸旦那は竹簡を削る。

「公主は草原の国から嫁いできた、なら草原の国と蘇の国の違いぐらい教えてください」

「草原の国は……そうですね、玄という国は……国土面積は蘇と同じぐらいでしょう。言語体系は」

「そんな話は聞いてないんです。国の広さも言語体系もどうでもいい」

「しかし国を知るということは」

「玄王と将軍の会話を記録に書くとき、そんなこと気にしますか?」

「……しませんね……」

「そういうことです」

 芸梅香の兄は、弟の茶杯に茶を注いだ。

「おまえは記録を書くのが仕事になってから、物語を作るのが下手になった。昔のおまえなら、玄の公主ならこう思っただろうとか、公主は蘇に来るのに不安はなかっただろうかとか、そういうことを気にしたと思うよ」

「そうでしょうか」

「兄としては、それは地に足が付いたということであり、良いことだと思うがね」

 弟は兄の言葉に頷き、陸旦那に目を向ける。

「草原の国というのは放牧の国です。龍も人も、馬や羊と共に、季節ごとに草花のある地に移動して生活をする。蘇のように奥まった宮殿を持たない。着物は毛織物と馬や羊の革で出来たものが多く、絹や綿の織物はあまりありません。土と共に生きる国で生まれた公主にとって、蘇の王宮は、暗い建物に囲まれ、共に生きるはずの家畜や草木がほとんどない……死んだ世界です」

 李進も、陸旦那も、芸梅香を見つめた。

「ならば蘇で生まれた公主は、玄から来た妃にとって、死んだ世界で生まれた子供か」

「そうですよ兄上。玄から嫁いできた公主は、死んだ世界で生まれた子供を、死んだ世界に残したまま死んでしまったんです」

 寒々しい言葉だった。

 貸本屋に来た客が、彼らの会話を耳にしてぽつぽつと集まって来る。

 四季折々、春には百花の彩り、夏には濃緑の涼しさ、秋には紅葉の賑わい、冬には雪の静けさ、そうした数々の生命力に囲まれた豊かな国だと信じていた貸本屋の常連客には、他国から嫁いできた公主にとって、この国の王宮が死んだ世界であったという評価は悲しいものに感じられた。


「それで、死んだ公主から生まれた公主はどうなるんです?」

 問うた陸旦那を見て、芸梅香は目を細めて笑みを浮かべた。

「玄の公主には、龍神になれるだけの力がありました。玄の王宮には、そうした皇子たちを生き返らせる秘術があります」

 誰もが息をのむ。

 陸旦那も、また息をのんだ。

 死人を生き返らせる、それを「反魂術はんごんじゅつ」という。

 大切な存在を失った人間が追い求め、その術を手に入れることを夢に見る、悪夢のような秘術である。

「反魂術には生贄が必要です。龍神になることができるだけの力を持つ魂魄こんぱくを死人の魂に食らわせて、生き返らせる禁忌の術ですが、生贄が持つ龍神の力が強すぎたときは、死人の側の魂魄が跡形もなく食われて消えてしまう。死者と生贄の力は、拮抗する必要があるのです」

 芸梅香はひとつ深呼吸して、続ける。

「龍神たちが、力の限り、互いの魂魄を食らい合い、生き返るか消滅するかを試される儀式です」

 血生臭い。

 しかし、誰かが芸梅香に向けて疑問を口にした。

「その死んじまった公主に、生贄が与えられたのか?」

「そうですよ」

 芸梅香はこともなげに答えた。

「死んだ妹を憐れんで、先に玄から嫁いでいた姉は、姪を妹の生贄にするために、姪の住まう宮に妹の亡骸を置きました。生まれた公主はそれ以来、いつ母の生贄として喰われ、母を生き返らせることができるのかと遠巻きに見守られていました」

 背筋が凍り付くような話である。

「あの……父親……龍王は……どうしたんです?」

 誰かが言う。

「龍王は家族を愛するのにお忙しくて、娘に会う時間はありませんでしたよ」

「公主も……母を亡くしたばかりの娘ではないのですか?」

「龍王にとって玄の公主は政治のために娶った妃であって妻ではなかった、そういうことです。彼にとって、妻とは、寵愛する妃ただひとり、子供とは、その寵妃の子供たちであるふたりの皇子のことです。龍王にとって公主は家族ではなかった」

 芸梅香は貸本屋に来ていた聴衆を見回した。

「それから、龍王は大臣たちから、公主にも彼女が治める州国があって然るべきであると言われ、州の名を与えました」

 話を聞く聴衆は、龍王から公主への仕打ちにじっと耳を傾ける。

「砂ひと粒すらない、影も形もない、存在しない州の、名前だけを公主に与え、龍神なのだから自分で世界を作ればよいと重臣たちに告げて反論も聞かずに話を終わらせたのです」


 愛される息子と、愛されない娘。


 そこまで書き終えた陸旦那が、つと手を挙げて芸梅香の話を止めた。

「寵愛される妃とその皇子たちはぜいを凝らした宮で、父である龍王も交えて季節を問わぬ花鳥風月や山海の珍味を楽しむ日々だと、他の講談には出て来るでしょう。公主の宮には母の亡骸が置かれて、それ以外はどのような宮だったか書きたいのですがどうです?」

 陸旦那に問われた芸梅香は、兄をちらりと見てから、兄が頷いたのを確かめて陸旦那に体を向けた。

「公主にも乳兄弟や躾役はおりました。彼らが言うには、公主は毎日、名前だけ与えられた州を、州として形にしようと努力し、州に住む生き物を作ろうとしたそうです。宮には侍女などもほとんどおらず、父である龍王も訪れることがない」

 芸梅香は陸旦那の手を見て、その筆が止まったことを確かめてからおもむろに口を開いた。

「大事なことがひとつあるのです」

 陸旦那が筆を止め、それから芸梅香に目を向ける。

「龍王が寵愛する妃は、龍神になれるだけの力を持っていない。それゆえに、龍王が家族として愛する皇子たちもまた、龍神になるだけの力を持たないことですか」

 陸旦那の言葉を聞いて、芸梅香が頷く。

「そうです。龍王が家族として愛する皇子たちは、龍神の力を持たない」

 芸梅香と陸旦那を見た聴衆が、顔をしかめた。

「龍神の力というのは、なんなんです?」

「無中生有、世界の形を作る力」

 芸梅香は聴衆に向けてそっと告げる。

「この世の万物は、天龍王と地龍王が作り上げる魂魄の対で保たれるので、天龍王の力を持つ公主は、生き物でも宝物でも食材でも、好きなように生み出す。ただしそれは形しか持たないために、そこに長くは存在できない。地龍王の力を持つ龍神は、万物の魂を生み出しますが、天龍王の力を持つ龍神が形を作らなければ、その魂も長くは生きられずに消えてしまいます。一対の天龍地龍の龍神が、ひとつの世界の龍王として存在するのがこの世の理」

 芸梅香はゆるりとした仕草で空の茶杯を傾けながら言う。

「公主の宮は……宮の周囲を朱塗りの壁で囲まれていました。これは、他の宮もみな同じです。黒い焼成煉瓦しょうせいれんがを並べて敷き詰めた道を歩いて簡素な門をくぐれば、手入れをする者もいないまま、草むらになった庭に入ることができます。焼成煉瓦の小径も、いたるところに小さな雑草が生えていて、枯れて茶色くなった笹などもそのまま放置されている宮です」

 陸旦那が息を飲んだのを見て、芸梅香は小さく悲しそうな笑みを浮かべた。

「躾役に選ばれた二名の大臣は、公主の宮を訪れて、ぞっとするような寒気を覚えたのだそうですよ」

 芸梅香が寂しそうに紡いだ言葉に、兄が顔をしかめる。

「寒気を覚えた? 比芦二氏の重鎮が?」

「ええ。聞けば公主はひとりでお友達を作ろうとしていたのだそうです。鼠、兎、小鳥、犬、猫……虫」

「しかし器だけしかないだろう」

「そうです、ですから、公主が夜ごと作るお友達は、朝には死んでしまいます。躾役たちは公主の宮を訪れるたびに公主が作ったお友達の死骸を見ることになる」

 朝には死んでしまう動物を作っては、その動物と過ごす。

 小さな公主の、まるで気が触れたような有様に李進も背筋がぞっとした。

 それは、貸本屋の李進も、その客たちも同じであったらしい。

 彼らには目もくれず、芸梅香はゆっくりと、外に顔を向けてふと笑う。


「ああ、ずいぶんと日が傾いてきましたね」


 誰もがぎょっとする。

 まだ日は高いはずの時間だと思っていた。

 それなのに、芸梅香が目を向けたほうを見てみれば、たしかに飾り窓の外は薄暗い。

「灯りを点けましょうか」

 芸梅香の指がすいと膝から胸元に上がると、飾り窓の前に吊り灯籠がふたつ吊るされた。

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