3)オスカーの愛剣
サラの話が終わってもしばらくは誰も声を発するものはなかった。
「ロバート、もしかしたらあなたがあの時の少年かもと思ったのは、随分と最初の頃なの」
サラは悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。
「あなた、私達の前で手合わせするのを避けていたでしょう。年頃の男の子なんて、自分を強く見せたいわ。何か変だと思ったの」
サラの言葉にロバートは天を仰いだ。
「それは、確かに避けました。そうでしたか、いらした頃からということになりますね」
サラが、夫だけでなく父親も騎士と知り、太刀筋などを見られないほうがいいと思ったのは事実だ。
「そのくせ、ロイのことを相談したら、あなたロイを脅しに行ったでしょう」
「あの時は驚きましたね」
サラとロイの二人をロバートは恨めしい思いで見た。
「脅すなどと、まぁ脅しましたね」
ロバートも若かったのだ。あと、出来ると思ったのでやってみたかったのもある。
「ロバート、お前、何をした」
アレキサンダーに訊かれてはロバートも立場上ごまかしようもない。その隣でグレースも興味津々の様子だ。
「忍び込んだって聞いたわ」
突然近くで聞こえたローズの声にロバートは驚いた。
「ローズには、教えたの」
サラには勝てない。ロバートは実感した。
ロバートは大きく息を吐いた。
「夜、宿舎に忍び込んだのです。刺客にできるのだから、自分にもできるだろうと思いました」
嘘ではない。ただし、単に刺客の真似をしてみたかったわけではない。だが、アレキサンダーが王位につくまでは、詳細を教えることはできない。
「ロバート、お前は本当に、時に大胆だな」
アレキサンダーの言葉に、ローズまでもが大袈裟に頷いている。今は誤解させておいた方がいい。
「私の部屋だけでなく騎士団長の寝室にも忍び込まれたのですよ」
告げ口までしてくれたロイを、ロバートは睨んだ。
「あら、でもそれであなたが一念発起して腕を上げたから、母は私との結婚を許可してくれたのよ」
普段は手厳しいミリアだが、ロバートに助け舟を出してくれたような気がした
「そうね。オスカーの剣をきちんと手入れして、剣帯をロイが使い易いように調節して、結婚式の朝、ロイの部屋に置いてくれたのですもの。ロバートに感謝しなくてはね」
サラが笑っている。
「ロバート、そんなことしたら、王太子宮にいる人だって、誰にでもわかると思うわ」
ローズの言う通りだ。当時もそのことが気がかりではあった。
「それはそうですが、私よりも、ロイが持っている方がよいと思ったのです」
オスカーと背を合わせて戦ったのは短い時間だ。顔を隠した見ず知らずのロバートに背を預け、共闘し、剣を預けてくれたオスカーに、親近感のようなものがあった。彼の義理の息子となるロイが、彼の剣を持つべきだと思ったのだ。
「その節はありがとうございました」
「ええ、本当にありがとう。私達はあなたに感謝しているのよ。王太子宮でこうしてお仕えしている今が幸せですもの」
アスティングス家を離れ、グレースと共に王太子宮にやってきた彼女らも最初は苦労しただろう。
「そうおっしゃっていただけますと幸いです」
サラとミリアが、アスティングス家でなく、王太子宮に仕えると言ってくれたことに、ロバートは安堵した。
第一章幕間 悪夢と添い寝と2
このときにローズは、サラに「とっておきのこと」を教えてもらっています
幕間にお付き合いいただきありがとうございました。