0)序章
王太子宮で侍女頭を務めるサラの夫は故人だ。サラが仕えるグレースの婚約も結婚も知らずに死んでしまった。それどころか、一人娘ミリアの結婚も知らず、義理の息子ロイと手を合わせたこともなく、孫のニールを抱いたこともない。
早すぎる死だった。唯一の救いは、オスカーの最期のときサラが傍にいてやることが出来たことだ。伯母は、戦地で散った夫の死を信じることができず、死ぬまで夫の帰りを待ち続けた。サラもあの日、あの場にいなければ、伯母と同じようにオスカーの帰りを待ち続けたかもしれない。
サラは、会いたい人がいた。
サラの亡き夫オスカーは、アスティングス侯爵家の騎士団に属し、副騎士団長を拝命していた。
夫が最期を迎えることとなった戦いで、夫と共に戦い、夫が愛剣を託したあの少年に会いたかった。夫が筋が良いといい、愛剣を託した少年が、どう成長したか知りたいのだ。
顔も名前も知らない少年だが、この王太子宮にいる一人の男が、あの少年ではないかとサラは疑っていた。
サラは父や夫だけでなく、親族の男性ほとんどが騎士だ。だから、太刀筋をみたらわかるはずだ。ある日、腕前をひたすら隠していた疑惑の人物が繰り広げた、死闘に近い手合わせを見て、サラは確信した。
「見つけた。やはりあの子だったわ」
第二部第六章9)10)
サラが探し人が誰かを、確信した手合わせです