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女の子を救うためにネットゲームをします

「吉田氏、これ、例の物」

「ほほう、これはこれは……」

「むむむ、久我殿、もしやこれに興味が?」

「いや、ちょっと聞きたいことがあって……親戚にアニメを勧められたんだけど、面白いのかなって」


 教室にいる男のオタク達を、陽の者でも陰の者でも無さそうな人達を眺めていると、それに気づいた彼等に声をかけられてしまう。折角だしと宇月さんと一緒に見たアニメや、彼女が推しているというアニメの話題を出して見ると、向こうも好きだったようで存分に魅力を語ってくれた。趣味嗜好で言えば宇月さんには彼らがぴったりなのだろうが、彼等を彼女に紹介しても拒絶する可能性が高い。彼女が孤立してしまった原因は趣味の合う人間を見つけられなかったことではない。趣味の合う人間を見つけることができても、変なところでプライドが高く、彼等のように似たような人間とつるめないという部分が大きいだろうから。


「とりあえず根暗は一発ヤっちまって、お前のモノにしてやれよ。そしたら学校来るだろ。お嬢様も、ツンツンしてるけど、意外と押しに弱いんじゃないか?」

「保崎さん。普段怒らない人間が怒ったらどうなるか教えてあげようか?」

「じ、冗談だって……ははは」


 保崎さんは相変わらずロクな解決策を提案しないし、


「彼氏になってあげればいいんじゃない?」

「弟君にも彼女が出来るし一石二鳥、いや、二人いるから一石三鳥なのかな」

「何で二股かける前提なのさ……」


 姉妹も不登校が二人とも女の子だと知るや否や、すぐに恋愛と絡めてくる。さっぱり頼りにならない協力者達に囲まれながら、今日も学校を休んで女の子に会いに行く日が始まる。


「宇月さーん、起きてるー?」


 もう宇月さんの家に向かうのも4回目だ。彼女の父親を見たことがないが母子家庭という訳でもなく母親より早くに家を出ているから鉢合わせをしないだけとのこと。今後は早く家に到着しないようにしようと心に刻む。週に1日、午前だけだとしても一人娘と一つ部屋の下に男を入れるなんて父親からしたら気が気でないはずだから。


「おーい、宇月さーん……もう予定時間より30分オーバーしてるんだよ……」


 彼女の部屋をノックして呼んでみるが一向に反応が無い。またお風呂にでも入っているのだろうかと、お風呂場の方へと向かってみるが特にシャワーの音もしない。彼女が下着姿で寝るタイプの人間であることを考えると勝手に部屋に入るわけにもいかない。人様の家だから乱暴にドアをノックするのもなんだしな、と扉の前で悩んでいると、ようやく彼女が起きたのか呑気な欠伸の音がする。


「……おはようございます」

「おはよう宇月さん。ほら、顔洗ってきて」


 学習したのかジャージ姿で扉を開けた彼女は、そのままふらふらと顔を洗いに向かう。しばらくして戻って来た彼女だが、まだ随分と眠そうでうとうとしている。


「夜更かし? 何時に寝たのさ」

「うーん、6時?」

「僕が起きる時間じゃないか……毎日が休日状態で夜更かしするのは仕方がないけど、僕が来る日くらいは真面目に寝て欲しいな。留年したくないでしょ?」

「はい……すみません……」


 夜更かしどころか徹夜状態だった彼女は、眠気でテンションが低いからか自分の発言に反発することなくコクコクと頷く。眠気で余計な事を考えることがないからか、皮肉にも先週よりも勉強のペースは上がっていた。うとうと状態で勉強して頭に入っているのかは疑問だが。無言で教科書を眺めたりノートに書いたりする彼女を見守る時間がしばらく流れていたのだが、


「……はっ、もう10時過ぎてる!」


 10時を少し過ぎたあたりで、彼女が突然比較的大声を出して部屋に置いてあったノートパソコンに向かい、カチャカチャとマウスやキーボードを操作する。ディスプレイを覗くと、どうやらゲームをしているようだった。


「宇月さん。休憩時間を取るなとは言わないけど、ゲームは僕が帰ってからにしてくれるかな。10分程度で終わるのそれ?」

「大丈夫です、ゲリライベントってやつですから、10分ちょっとイベントを消化するだけで終わります」

「ならいいか……いいか? うーん……」


 自分は毎日のようにゲームはしないが、それでもやる時は1時間、2時間とそれなりの時間がかかる。ちょっと気分転換に遊ぶ、程度で果たして終わるのか疑問だったが自分の不安は的中したようで、20分、30分経っても彼女は遊んでいるのか寝ているのかよくわからない状態でノートパソコンの画面を凝視していた。


「宇月さん」

「はひっ、すみません、勉強に戻ります」


 僕が声をかけるとゲームをしながら半分寝ていたのか間抜けな声をあげ、机に戻って勉強に戻る。僕は彼女が先ほどまで触っていたパソコンを触り始めた。


「……って、何やってるんですか! 女の子の検索履歴を見るなんて人でなしです! 久我さんだってエッチなサイト見まくってるでしょう!? それを妹に調べられたら嫌でしょう!?」

「見るのは検索履歴じゃなくてPCログだよ」


 それに気づいた彼女が声を荒げるが、お構いなしに彼女のここ1週間のPCの操作ログを眺める。案の定、深夜だろうがお構いなしにネットゲームらしきアプリが起動していた。


「ネットゲーム、辞めよっか」

「嫌です……私が輝ける数少ない場所なんです……課金も出来ないし他の人とパーティーを組んだりもできないから、その分時間をかけるしかないんです……」

「ネットでも友達作れないのか……というかそれ輝けてるの?」


 学校に行かずに時間を持て余している彼女にとっては生き甲斐のようなものなのだろう、僕の非情な提案に涙目になって反論してくる。しかし学校に行かずにネットゲームばかりやっているという状況が留年どころか退学まっしぐらな愚策であることは、詳しくない僕でもわかる。どうしたもんだかと悩んでいると、彼女が閃いたと言わんばかりに目を輝かせ始めた。


「そうだ! 久我さんも同じゲームをやればいいんです! そして私に定期的にアイテムとかを貢いでください! そうすれば私はそこまで時間をかける必要が無くなります!」

「僕の負担が多すぎない? ネットゲーム以外の趣味を探そうよ」

「それと学校の皆にもこの紹介コードと一緒に勧めてください、登録者が増えると私にボーナスが入るんです」

「マルチ商法は感心しないなぁ」

「安心してください、これスマートフォンでもできますから、パソコン持ってない人でも安心です!」


 そのまま僕に自分のやっているネットゲームを勧める彼女。全く人の話を聞かない彼女に押し切られてしまいスマートフォンでユーザー登録してしまい、説明とかを聞いているうちに結局午前が終わってしまう。遅れた分ちゃんと勉強してねと釘を刺した後、御堂さんの方へ向かうために電車に乗り、中でそのネットゲームをプレイする。


『早速来ましたね、さあ、パワーレベリングしてあげますから、パーティー組みましょう。大丈夫ですよ、簡単にレベル20まで上げさせますから』


 するとすぐに彼女からパーティー組みましょうとメッセージが届く。いいから勉強してなさいと突き放し、彼女の負担を下げるために僅かな時間をレベリングに費やすのだった。


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