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女の子を救うためにチョコを貰います

「部長! どういうことですかこれは! 皆で作った本の売り上げを自分が個人的に作った本の赤字の補填に使うなんて、横領ですよ横領!」

「横領ではないです個人的に作った本の利益の一部は部費として納めるつまり利益が出なかったら部費から赤字を補填するということです皆さんだって赤字が出ていれば部費から補填しても良かったんです!」

「赤字なのは需要の無い本をたくさん刷った部長だけです! 他の皆は身の丈に合った部数を発行したんですよ! どうして自爆した部長の尻拭いを我々がしなくてはならないのですか!」

「ワンフォーオールオールフォーワンです!」

「部長の座を降りろ!」


 年が明け、休みボケから解放された部員達が揉めている中、部屋に飾られている美少女のイラストが描かれたカレンダーを眺める。1ヵ月後には期末テストがあって、それが終われば春休み。高校二年生でいられる時間はもう長くない。


「バレンタインが待ち遠しいのか? モテる男は違うねえ」


 余った部長の本でトランプタワー?を作っている保崎さんがニヤニヤしながら話しかけてくる。特に意識はしていなかったが、確かに期末テストの前にはバレンタインという学生にとっての一大イベントが存在していた。


「別に。期末テストまでには二人とも学校に来させなきゃいけないなって。進級すればクラスだって分かれるから僕はもう面倒を見れないし、全員同じクラスにしたり引き続き僕が面倒を見るようになったとして、新しいクラスで心機一転するタイミングを逃せばそのままズルズルと来れなくなっちゃうだろうから」

「だから前にも言っただろ、女にしてしまえば学校に来るって。で、告白されたらどっちと付き合うつもりなんだ? 御堂は確かにスペック高いけど面倒臭そうだしなぁ、根暗は女としてはアレだけど彼氏には凄い尽くすだろうなぁ。ああ、最近は両方ってのも珍しい話じゃないか」

「僕達はそういうんじゃないんだよ」

「そう思ってるのはお前だけじゃねえの? 二人の心配より人生で初めて貰う本命チョコ2つの扱いの心配をしとけよ」


 元はと言えば彼女が役に立たないから僕がこの1年孤軍奮闘する羽目になったというのに、すぐに恋愛に繋げて茶化してくる彼女を睨みつけ、部員同士の争いも激しくなってきたので部室を出る。元々宇月さんの友達作りのために幽霊部員として入った部活だ、退部の時は近いだろう。数日後、いつものように学校を休んで宇月さんと御堂さんの下へ。


「……解けました!」

「大分学力が上がって来たね、中の下くらいにはなったと思うよ」


 途中から御堂さんが手伝ってくれたこともあり、宇月さんの学力は赤点は余裕で回避できるレベルにはなっていた。自分に自信がついたり、動画制作だったり自分の趣味を充実させるためにはある程度の知能が必要だと気付いたこともあり、自分一人でもある程度勉強をするようにもなっている。もう僕は必要無いのだ。


「はぁ……退屈ね。新作のメダルゲームはいつ導入されるのかしら」


 学校に行かずにゲームセンターで遊んでばかりいた御堂さんも、ゲームセンターを制覇しつつあり飽き始めていた。時間に物を言わせ大量に稼いだメダルを還元するようにプッシャーゲームにドバドバと投入するが、それで彼女の心のモヤモヤが取れることはない。人恋しいのか、大学生の集団がワイワイと遊んでいる光景を羨ましそうに見つめていた。彼女の隣にいるべきは僕では無く、仲の良いクラスメイト達なのだ。


「それじゃ、また来週」


 僕はそんな二人と他愛のないやりとりをして、いつものように別れる。学校への復帰を真面目に切り出すタイミングだとはわかっていても、どう切り出せばいいのかわからない。最適解を見つけられないまま無情にも時は過ぎて行き、気づけば2月7日と期末テストまで2週間を切っていた。宇月さんの家へ行く途中に見かけたコンビニ達は、もうすぐバレンタインだと悩んでいる僕を挑発するように浮かれたのぼりを出し続ける。イライラを抑えつつ宇月さんの親に挨拶して彼女の部屋へ向かい、イライラが残っていたからかノックをすることも忘れ彼女の部屋のドアを開けると、手作り用の割れチョコにかぶりつきながら、それを奪い取ろうとするバステトと格闘する彼女の姿。


「ひゃっ……ノックくらいしてくださいよ」

「ああ……ごめん。もうすぐテストだからね、色々考え事をしていたんだよ。それじゃあテスト勉強しようか」

「あの、勉強はもう大丈夫だと思うんです、プライベートでも割と真面目に勉強してますし、御堂さんにも教えて貰ってますし! だから、その、チョコの作り方を教えてください!」


 僕はチョコは毒だから食べちゃ駄目だよ、とこちらに甘えて来るバステトに忠告しながらカバンから教科書を取り出そうとするが、それを遮るように彼女は持っている割れチョコの袋をこちらに突き出す。


「宇月さん。そんなものは製菓会社の陰謀なんだよ」

「女の子にとっては一大イベントなんです! 御堂さんと友チョコ交換をするんですよ、それで昨日頑張って作ろうとしたんですけどチョコをフライパンで焼いたら変なのになっちゃいました」

「クッキー作りの時に湯煎を教えたはずなのに……」


 数学や英語の知識は覚えることが出来ても、料理の知識は忘れてしまったらしい。彼女の学力が上がり僕がお役御免となるにつれ若干の気まずさを感じていたこともあり、口ではしょうがないなと言いつつも乗り気で調理実習を行うことに。


「で、どんなのが作りたいの?」

「ちなみに久我さんはどんなのが好きなんですか?」

「僕はザッハトルテとかかな。そういえば御堂さんはいつもグレープシャーベットばかり食べていたよ、レーズン入りのブラウニーがいいんじゃないかな。レーズンは無いだろうから普通のブラウニーの作り方を教えるよ」

「あ、はい……」


 台所に向かい、彼女にエプロンを着させられ、スマホで撮影されながらチョコを溶かしたりバターや小麦粉を入れて混ぜたり型に入れてオーブンに入れたりと工程を説明しながらブラウニーを作っていく。


「本番では生地の中にレーズンを混ぜてね。自分一人で全部食べちゃダメだよ、家族と分けなさい」

「はい……その、ザッハ」

「それじゃ僕は御堂さんの方に行くから」


 オーブンで焼いたり後片付けをしたりしているうちに午後になってしまったので宇月家を後にし、御堂さんの待つゲームセンターへ。バレンタイン間近ということでUFOキャッチャー等の景品もチョコレートが目立つようになっており、棒を穴に入れると景品が貰えるタイプのゲームで高級チョコを狙っている彼女の姿。


「くっ……インチキだわこんなの……あら、いたの」

「確率機って言うんだよ。相当お金入れないと取れないと思うけど」

「ふん、獲得する権利は誰かに一足早いバレンタインのプレゼントとしてくれてやるわ。それより私の家に行くわよ」


 数千円は吸わせたであろう確率機を捨て、無言で高級アイスショップのグレープシャーベットを頬張りながら自宅へと向かう彼女の後に続く。グルルと吠えるティンダロスに出迎えられながら案内されたのはいつか見た台所で色んな種類のチョコレートやトッピングが自分を扱えない買い主に不満げな表情で置かれていた。誰を救済してやろうか。


「友チョコを作ることになってね。宇月さんには色々お世話になって……るのかしら?」

「あー……はいはい」

「ちなみに貴方はどんなのが好きなの?」

「僕はザッハトルテとかかな。宇月さんはクッキークリームが好きみたいだから、ホワイトチョコにクッキーを混ぜたものとかがいいんじゃないかな」

「その程度なら私でも作れるわよ。それよりもっと難易度の高いものに挑戦したいわ。そう、ザッハトルテとか」

「見栄を張らなくていいよ」


 ついさっき聞いた言葉に二人で付き合えばいいのにと苦笑いしながら、宇月さんがよく食べているクッキークリームのアイスを模倣したチョコレート作りに取り掛かる。溶かしたホワイトチョコレートに砕いたクッキーを混ぜて固めるだけで、高級そうなチョコレートの出来上がりだ。材料はたくさんあるんだからもっと色々作りなさいよとチョコのレシピ本を開いて見せてくる彼女に、自分で練習しなさいと使われた形跡の無い高そうなエプロンを指さして家を後にする。こういうイベントに男の僕が介入しすぎるのは良くないだろうから。



「え、もう姉妹にチョコ貰うような年齢でも無いでしょ」


 翌週、バレンタイン当日は彼女達の家に行く日なので学校には行けず、従って仮に僕にチョコをくれる人がいたとしても受け取ることはできない。去年までは流れでチョコをくれた姉と妹もいい加減家族に貰うのは卒業するべきだと言いながらホワイトデーのお返しだけは要求するというダブルスタンダードを発動させてきたので、モテない男子が学校でチョコを貰う男子を見るのが嫌で学校をサボっている気分になりながら宇月さんの家へ向かう。しばらく一緒にテスト勉強をした後、宇月さんが休憩しましょうとゲームの電源をつけた。いわゆる乙女ゲームなのだろう、学校を舞台にやたらと顎の長い男子が主人公に言い寄っている。明日は同級生とのデートの日らしく、服装をコーディネートする場面へ。


「どんな服がいいですかね?」

「この手のはショップで購入した服の方が好感度が上がりやすくなっていると思うよ」

「いやいや、本番を想定してくださいよ。フリルのワンピースとか、ジーンズとか、あるでしょ」

「うーん、あんまりゴチャゴチャしたのは好きじゃないけど、多分ほぼ初期アバターになるからポイントは低いよ」


 宇月さんにコントローラーを渡され自分なりに主人公の服装をコーディネートしてみるが、デートの当日に相手に地味だと言われてしまい好感度が上がらないという悲しい結果に終わってしまった。休憩を終え、テスト勉強を続けて午後になったのでちゃんとテストには来なよと釘を刺して部屋を出て、そのまま宇月家から出ようとするが、玄関でドタドタと階段を下りる音と共に彼女の待ってくださいという声が響く。


「こ、これ!」


 あの程度でも久々の運動だからか息を切らせ、赤面した表情で紙箱を渡して来る彼女。中を開けるとそこにあったのはぐちょぐちょの黒い塊で、これがザッハトルテだと理解するのに時間がかかってしまった。


「……あ、ありがとう。それじゃ」


 今まで貰ってきたのは小さな義理チョコや家族チョコばかりだったので、どう反応して良いのかわからず逃げるように家を出ようとするが、


「土曜日! お出かけしましょう! いいですね!」


 僕と違って彼女は逃げるつもりが無いようで、家を出てドアを閉めようとする僕に向かってそう叫ぶのだった。



「……」


 御堂さんの待つゲームセンターへ向かう電車の中、膝に紙箱を乗せて頭を抱える。今までも彼女に男として見られた事は何度かあったが、それは彼女が極端に人付き合いをしてないが故の暴走とも呼べるものだったし、少し時間をおけば元の関係に戻っていた。けれども紙箱の重さや彼女の声量が、今回は違うのだと僕に悟らせる。平静を装ってゲームセンターに向かい、内心上の空で御堂さんに付き合っていると、彼女はロッカーへ向かい中から紙箱を取り出した。


「はいこれ。それと、日曜日『は』私に付き合って貰うわよ。まあ、付き合えない事情が出来てしまったなら仕方ないけどね」

「えっ……」


 自分が上の空状態だったことに気づいていたのか不機嫌そうに紙箱を僕に渡してすぐにゲームセンターから去ってしまう彼女。中に何が入っているかなんて開けなくてもわかる。取り残された僕は、どうしてもっと強く忠告してくれなかったんだと今頃授業を終えて義理チョコを配っているであろう保崎さんに恨み節を吐くのだった。

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